ウラジミール・ヴェルテレッキー 第3部「リウネのポリーシャにおける先天性奇形とチェルノブイリ事故」 (講演資料 抜粋和訳)


(この記事は、2013年3月27日にFukushimVoiceオリジナルサイトに掲載されました。)
http://fukushimavoice.blogspot.com/2013/03/blog-post_27.html



ヴェルテレッキー博士からメールして頂いた講演資料より

(実際の講演内容よりも詳しい説明もあるが、これは完全和訳ではない。)



最初にこの資料に目を通した際にツイートした情報も含む。


注:ここで使用した画像や情報の引用元は、W. Wertelecki et al., 2013, OMNI-Net reportsである。



放射能とアルコールは、催奇形物質である。


放射能=突然変異誘発物質。故に催奇性物質であり発癌物質でもある。

アルコール=催奇性物質であるが、突然変異誘発物質ではない。


突然変異誘発物質⇒DNA変性、遺伝的疾患、先天性奇形と癌
発癌物質⇒癌
催奇形物質⇒先天性奇形



チェルノブイリ事故による妊娠と先天性奇形のリスクへの影響があまり注目されなかったのには、2種類の理由がある。まず最初に、当時旧ソ連が崩壊し、新しくウクライナが独立した事がある。緊迫感と混乱の中、集団規模のデータ収集がほぼ不可能となった。

もうひとつの理由は、チェルノブイリでの爆発によるウクライナとその近辺への急性の影響があまりにひどかったため、被ばく量とそれに関連する急性症状と発癌リスクに焦点が当てられたと言う事。人体における放射能の影響の研究は広島・長崎の原爆後に一番多く行なわれた。

原爆の爆発後に受精され、1948年から1954年に生まれた子供達は、人間遺伝子学の父であるニールのチームにより調査された。ABCCがスポンサーであるこの研究は、被爆した両親の生殖腺への影響においては、今でも「「ゴールド・スタンダード」」とみなされている。

この調査の目的は、瞬時の多大な放射能への急性外部被爆が、被爆後に受精された子供で先天性奇形を引き起こすかという事だった。調査によると、先天性奇形に増加が見られなかった。この調査結果は、現在IAEAなどの機関によって推奨されている対策に浸透している。

しかし、「チェルノブイリの子供達」の状況は明らかに違うというのは明確だ。現在、ポリーシャでは、多くの親と受精される子供達は、継続したセシウム137やストロンチウム90などの飲食と吸入により、絶え間ない低線量被ばくを受けている。

IAEA、WHOや他の国際機関は、ウクライナの放射能汚染は、好ましくない妊娠結果(先天性奇形を含む)の増加が分かるには不十分であるとしつこく断言する。しかし、これらの機関はその断言を証明しようともしない。ウクライナでは、この主張を検証する動きがある。

ちなみに、2013年2月には、福島原発事故の影響についても同じような主張が、IAEAの代弁者としてのWHOによってなされた。

ウクライナのキエフにある、非営利国際機関であるオムニネット・ウクライナ慈善基金は、継続的な調査を実施している。いくつかの州に先天性奇形モニタリングプログラムを設置しているが、ここではウクライナのリウネ州での結果だけに言及する。

オムニネットは、国際研究パートナーを得て、EUROCAT(EUによる先天性奇形モニタリングシステムのネットワーク)と ICBDSR(国際先天異常調査研究機構)のメンバーとなっており、集団をベースとしたモニタリング、データ収集、コード、分析、報告や倫理の国際基準に厳しく従っている。



オムニネットの各サイトは、医療機関内に設置されており、チームには英語が堪能な情報員が配置されている。オムニネットのウェブサイトは、英語、ウクライナ語とロシア語である。調査は、ヴォルィーニ州、リウネ州とフメリヌィーツィクィイ州で行なわれており、他の場所でも特別のプロジェクトが実施されている。

先天性奇形のモニタリングは能動的であり、新生児全てが訓練を受けた新生児専門医によって診察される。各ケースは、少なくとも2人の臨床医学遺伝子学者によって確かめられる。国際的な研究者はこのプロセスに統合される。

集団ベースの先天性奇形モニタリングのゴールは、原因に関わらず、全体的な先天性奇形の発現率を調べる事だ。2年間の集団ベースのデータ収集後、神経管閉鎖不全のサブカテゴリすべての発現率が高いことがわかった。

2010年に発表されたもっと大規模な追跡調査の結果によると、神経管閉鎖不全の高発症率が持続されているのが確認され、さらに、小頭症の発症率が高い事がわかった。また分析によると、これらの発症率は、ポリーシャにおいて、地域全体よりもさらに高い事が示唆された。




ポリーシャは、ウクライナで、チェルノブイリからの放射能汚染を最も多く受けた場所のひとつである。ポリーシャの生態系の独自性は、必然的に、 ポリスチュークスと呼ばれる原住民の生活様式と社会経済的環境に反映されている。この原住民の特徴は、普通よりも同族結婚の率が高い事である。

ポリーシャでは、セシウム137の土壌から食物への移行係数が、ウクライナ中で最も大きい方である。これに加え、地元の汚染水、乳製品、イモ、魚や森でとれる食べ物の摂取が生存に不可欠である。特に、薪を暖房と調理に使うため、体内の内部被ばく量が高い。

実質、ポリスチュークスは、持続的に低線量被ばくを受け、それがかなりの内部被ばく量に至っている、定着して隔離された大集団なのである。我々の調査によると、吸引を考慮せず飲食のみだけでも、ポリーシャの妊婦の被ばく量は当局が安全と認める量よりも多いことがわかっている。

2000-2009年のリウネ州での145,437の生産の分析では、72,379人がポリーシャ、73,058人がポリーシャ外で出生。神経管閉鎖不全が309人、小頭症が68人、口腔裂・口蓋裂が155人だった。(表は1万人における発症率) 


先天性奇形の理由は数多いが、ここではアルコールと放射能の2つの催奇形物質に焦点を当てる。 ポリーシャでの方が、リウネ州の残りの場所(ポリーシャ外)でよりも神経管閉鎖不全(NTD)と小頭症の発症率が統計学的に有意に大きかった。

アルコールは、ウクライナを含め、世界中での主要な催奇形物質である。 また、ウクライナと、最近では日本で、放射能は広範囲に拡散した催奇形物質である。 ウクライナでは胎児はこの2つの催奇形物質のどちらかひとつか両方に晒される。 実験では放射能は神経管閉鎖不全と小頭症を引き起こす。

人間では、アルコールと放射能のどちらもが小頭症の原因となる。 この2つの催奇形物質両方に同時に晒された場合に、成長過程にある胎児に相乗的効果があるかどうかは知られていない。 胎内でアルコールに晒された場合、ほんの少数が、胎児性アルコール症候群に診断される徴候を持っている。

胎児性アルコール症候群の徴候がない場合でも、頭のサイズが多範囲で小さくなっていて、中には小頭症とみなされる場合があることがわかっている。 しかし、頭のサイズの小ささの程度によっては、小頭症に含まれない場合も多くある。 同じことが、放射能被ばくの場合でも考慮される。

放射能被ばくに関連する先天性奇形で最も特徴があるのは、小頭症、小眼球症、出生前と出生後の成長阻害、後に起こるかもしれない白内障と短寿命である。 頭のサイズがそんなに小さくない場合の認知能力への影響は無症状かもしれなく、高校時代や成人期での平均以下の成績で明らかになるかもしれない。

胎児性アルコール症候群と胎児性アルコール・スペクトラム障害に関しては、国際的な協力の下に調査が実施されており、リウネ州ではカリフォルニア大学サンディエゴ校の催奇形専門医によってコーディネートされ、カリフォルニア大学デイビス校、エモリー大学とインディアナ大学の研究者との共同研究によって実施されている。この共同研究により、リウネ州での胎児性アルコール・スペクトラム障害の発症率がヨーロッパで一番高いと言う事が認識されている。

しかしながら、この結果はまた、ポリーシャでの小頭症の発症率が高い原因は、アルコールが主な催奇形物質であるのではなさそうだと言う事も示している。ポリーシャでの小頭症の発症率はポリーシャ外でのよりも統計学的に有意に高い反面、妊婦によるアルコール摂取率は統計学的に有意に低い。



その上、胎児性アルコール・スペクトラム障害の頻度は、ポリーシャで多いわけでもない。






ポリーシャでのひどい放射能汚染と、小頭症の発症率増加の同時発生は無視できない。最低でも、ポリーシャでの小頭症発症率のモニタリングは続けられなければいけない。


ホールボディーカウント(WBC)の結果分析からは、ポリーシャの北の地域と、ポリーシャの他の地域およびポリーシャ外との違いが明らかに分かる。


WBCは、体内に取り込まれたセシウム137のみを測定し、ストロンチウム90は測定しない。この2000年から2011年の間のデータの分析は、25,059人が対象であった。ポリーシャの北の3群の住民でのWBC測定値は、ポリーシャ外の住民よりはるかに高かった。





ポリーシャの妊婦1,156人で、標準値の14,800 Bqを超えたのは48.2%の557人。

ポリーシャの15歳以下の小児1,338人で、標準値の3,700 Bqを超えたのは12.1%の162人。

ポリーシャの成人男性2,117人で、標準値の14,800 Bqを超えたのは6.4%の136人。


このWBC標準値は、ウクライナ政府が国際機関と相談して設定した上限であり、これを超えた人々は、保健所員からセシウム137やストロンチウム90の吸入や飲食を減らすための助けを受けることになる。


地元で栽培されたイモの測定では、セシウム137とストロンチウム90の比率は大体2:1である。地元で作られるイモや乳製品は、ポリーシャにおける食生活で大きな比率を占めている。


        


ウクライナの放射能対策においての放射線量は、セシウム137だけに基づいている。体内でセシウム137と異なった結合をするストロンチウム90の影響は、特に成長しつつある胎児において重要である。カリウムに似ているセシウム137とカルシウムに似ているストロンチウム90の胎児への影響の違いは一般的に知られていないが、似ていないと思われる。ポリーシャ産の乳製品のようにカルシウムが豊富な食品は、ほぼ確実にセシウム137とストロンチウム90両方を含む。出生前の迅速な成長と言う視点から見ると、これは特に重要な事項である。


慢性放射能被ばくにおいての神経管閉鎖不全に関しては、3つの調査が興味深い。

最初の2つは、米国疾病対策センターの疫学研究者により、米国ワシントン州のハンフォード核施設に最も近い2つの群で行なわれた。この2調査の目的は、先天性奇形の発症率を調べる事だった。2調査両方で、先天性奇形の発症率が統計学的に有意に増加したことが見つかったが、どちらの結果も偽造であるとみなされた。研究者達は、ハンフォード核施設からの地元の住民への放射能の放出はがこの結果の説明とならず、その上、この結果が、ABCCによる過去の広島・長崎の調査結果と矛盾していると指摘した。

3つ目の調査は、英国北部のセラフィールド核施設の作業員が父親である集団が対象であった。結果は、先天性異常を伴う死産のリスクが統計学的に有意に高いことを示し、その中でも神経管閉鎖不全のリスクが最も高かった。

EUROCATがチェルノブイリ事故後に比較的早くに行なった調査は、西ヨーロッパとスカンジナビアに限られていたが、先天性奇形の頻度の報告に大きな変化を見つけなかった。

リウネ州での調査結果を国際的な視点から見るために、神経管閉鎖不全、小頭症、結合双生児と口腔裂・口蓋裂の発症率を、ヨーロッパの他の地域からEUROCATに報告された発症率と比較した。同じ方法を用いていても、交絡因子の可能性を考慮せずに直接的な統計学的比較をするのは不適切であるかもしれないが、隣接した地域での特定の先天性奇形の発症率の増加が持続して報告されているのが目に留まる。英国北部とウェールズにおいての神経管閉鎖不全、小頭症と結合双生児の発症率は、ポリーシャの次に高い。



ウェールズと英国北部は、チェルノブイリ事故による放射能汚染がひどい区域である。
チェルノブイリ事故による羊の出荷制限は2012年に解除されたが、まだウェールズの334牧場とカンブリアの8牧場では出荷制限されている。

 

スカンジナビアではチェルノブイリのフォールアウトは主に中部に影響を与えたが、そこでの調査も興味深い。独立した2調査が、チェルノブイリのフォールアウト時に胎内にいた集団の認知機能に焦点を当てた。スウェーデンでの大規模調査によると、胎内での被ばく量が最も多かった生徒の成績が悪いのがわかった。ノルウェーでの小規模だが同様の調査は、あまり決定的ではなかったが、認知機能に対して否定的な影響をみつけた。






チェルノブイリの影響についての研究文献の総括的なレビューを行なうと、これらの多くはロシア語であるが、精神衛生への影響の重要さが明らかになる。精神発達と精神衛生の指標を、先天性奇形の調査に加える事ができる。


例えば、頭囲、話し始めた年齢や自殺率などは客観的指標であるし、また、無脳症、二部脊髄、口腔裂や小頭症のような誕生時に視覚的に明らかな先天性奇形も客観的指標である。これを念頭において、我々は分析を広げ、出生時体重と出生時の後頭前頭の頭囲を計算した。


まず、出生時体重の分析では、リウネ市の新生児男女とポリーシャのZarichne群の新生児男女での出生児体重には統計学的に有意な差はみられなかった。


次に、同グループの後頭前頭の頭囲の分析を、全ての出生児で比較した。次にその中で、最低妊娠38週間後の出生児で比較した。その中で、新生児検診で異常がみられなかった出生児で比較した。結果としては、リフネ市の男児は一貫してZarichne群の男児よりも後頭前頭の頭囲が大きく、女児でも同様であり、この違いは統計学的に非常に有意であった。

 
 

結論

リウネ州で見られることの意味。

まず、観察された事象が偽造であることを考慮しなければいけないが、3つ目の分析が最初の2つを確かめているから、これは有り得ない。

次に、先天性奇形の発症率は、放射能被ばくだけでなく、さまざまな催奇形物質の影響を反映しているかもしれない。この可能性は、受け入れられる前に検証されなければいけない。

3番目の可能性は、次のようである。
先天性奇形の発症率の増加がみられたが、これは放射能のせいではない。
あるいは、
胎児の放射能への感受性は、公式な仮定よりもはるかに高い。
あるいは、
胎児の実際の被ばく量は、公式な推定よりも高い。


一般的に、神経管閉鎖不全や小頭症のような先天性奇形は、他の因子に調整された催奇形リスクによる複数の影響の結果であることが多く、先天性奇形は、損傷と修復の相互作用のバランスの崩れを反映する。この供述的な疫学調査は、因果関係を調べるためにデザインされてはいないが、将来的な因果関係の調査を加速する土台となるものである。

この調査の結論は、「疫学の前に予防」という原理の影を薄くすることはできない。ポリーシャにおける放射能被ばくをただちに低減することが必要であり、また同時に、神経管閉鎖不全の発症率を下げることも必要である。そのような対策は、保健所によって速やかに実施できる。モニタリングの持続は、そのような対策の効果をみることができる。しかし、そのようなプロセスから学ぶ事を目的とした新規の国際的パートナーシップは実行可能性と結果を多大に高めるであろう。放射能被ばくの軽減と同時の微量栄養素の摂取の増加によって、リウネ州における先天性奇形の発症率とパターンがどう変化するかを見ることができる。その上、予防的措置の影響の評価は、リウネ州に隣接するヴォルィーニ州とフメリヌィーツィクィイ州で続行中の先天性奇形モニタリングシステムの結果を取り入れることによって、さらに高めることができる。












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