メモ:2023年11月24日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、および1〜4巡目の評価部会まとめについて


 *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。

 2023年11月24日に第49回「県民健康調査」検討委員会(以下、検討委員会)が、 新たに任命された第7期(2023年8月1日〜2025年7月31日)の委員構成で開催された。今回も会場とオンラインのハイブリッド形式で、第6期の委員の任期終了直前の委員会だった前回から4ヶ月ぶりの開催となった。

 今回公表されたのは、5巡目の3ヶ月分のデータに加え、2023年度から始まった6巡目の一次検査のデータである。また、甲状腺検査評価部会(以下、評価部会)による「甲状腺検査先行検査から本格検査(検査4回目)までの結果に対する部会まとめ」(以下、「1〜4巡目の部会まとめ」)と、第5期の部会員名簿も公表された。第3・4期と同じ顔ぶれだった部会員に入れ替えがあったが、特筆すべきは、大阪大学の祖父江友孝氏が部会員から外されたことである。祖父江氏は、2巡目の部会まとめ作成時には、任期最後の第20回評価部会で公表された部会まとめ案の記述の一部に不賛同を表明し、「異なる意見のある委員がいたと記述して欲しい」と強調していたが、今回公表された部会まとめの一部は、祖父江氏の意見を反映して大幅に加筆されていた。(第20回評価部会での議論の詳細については前記事を参照のこと。)

 このブログでは、事故後12年が経過して膨大かつ複雑となった甲状腺検査関連の情報を、議事録などの公式情報のみでは察することが困難な「その時」のリアルな印象を備忘録的にまとめている。今回の記事では、今期の検討委員・部会員構成を紹介し、「1〜4巡目の部会まとめ」の加筆・変更箇所に言及後、新たに公表されたデータとこれまでのデータをまとめる。

 なお、記者会見を含まない会議自体の公式動画へのリンクは、配布資料ページの「動画配信」セクションに掲載されている。この公式動画は、2〜3ヶ月後に議事録が公表されると削除され、同セクションは「議事録について」に置き換えられる。なお、会議および記者会見は、Ourplanet-TVのアーカイブ動画で視聴できる。

検討委員および評価部会員名簿

 2023年8月1日から2025年7月31日の二年間の任期に選任された第7期検討委員第5期評価部会員の名簿を貼っておく。検討委員は5人、評価部会員は3人が入れ替えとなった。

「県民健康調査」検討委員会 委員名簿

 新たに検討委員に選任されたのは、今井常夫氏、熊谷敦史氏、菅原明氏、杉浦弘一氏、前川貴伸氏で、それぞれの所属と推薦団体については委員名簿に記されている。注目すべき交代が2例あるが、1例は第3〜4期の評価部会員を務めた今井氏で、今回、第2期の評価部会員から前期の検討委員に移動していた吉田明氏の後任となる。もう1例は、2017年10月の第28回検討委員会から第4期の検討委員に選任され、3期にわたって委員を務めてきた福島大学の富田哲氏で、今期は福島大学からの定年退職に伴い委員も退任となり、同じく福島大学の杉浦氏が後任となった。吉田氏は甲状腺外科医の立場から臨床的視点を持って過剰診断論に反論し、富田氏は医学は門外漢ながらも法律家として法的・倫理的側面から県民への利益を最優先に考慮するなど、いずれも貴重な意見を提供した。この2人と同じ期間、委員・部会員を任命されてきた高村昇氏や室月淳氏が再選任され続ける一方、これまでの甲状腺検査をめぐる問題や議論に精通しつつ患者や県民の利益を護ろうとする、吉田氏や富田氏のような人たちが外されて行くのは遺憾としか言えない。

 なお、第7期の検討委員会で座長に選出されたのは、双葉郡医師会副会長の重富秀一氏だった。どうせまた持ち越しで高村氏が座長になるのだろうと予想していたので、その高村氏が「座長には福島の人が良いと思う」と発言した時は驚いた。重富座長のもと、どのように流れが変わって行くのか未知であるが、前々座長の星北斗氏のように県民よりも省庁に寄りそうようなことはないだろうと期待される。

「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」部会員名簿

 評価部会員として新たに選任されたのは、岡本高宏氏、筒井英光氏、山本精一郎氏の3人である。岡本氏は、検討委員に選任された今井氏の後任で、日本内分泌外科学会の推薦である。筒井氏は日本甲状腺学会の推薦で村上司氏の後任、山本氏は日本疫学会の推薦で祖父江氏の後任となる。

 祖父江氏の交代については、「意外」と「やっぱり」が入り混じった印象である。背景状況を少し説明しておく。初期の評価部会は検討委員との兼任であったが、2017年11月の第8回評価部会をもって、独立した部会員構成での最初の任期(ただし、大阪大学の髙野徹氏のみ異例の検討委員との兼任)となる第2期が発足した。祖父江氏は、日本疫学会の推薦で第2期から第4期まで部会員を務めた。2012年に大阪大学に教授として赴任するまでの18年間在籍していた国立がん研究センターではがん情報の収集と統計に携わり情報元リンク、2021年から同センターのがん対策研究所の副所長にも任命されている。(余談だが、IARC国際専門家グループ「TM-NUC」の日本人メンバーだったKayo Togawa氏は、2021年からがん対策研究所に所属しており、現在は、第5期も引き続き部会員に選出された片野田耕太氏が部長であるデータサイエンス研究部の室長である。)(これも余談だが、異例の兼任を務めた髙野氏は、過剰診断論を強く主張し、任期終了後に若年型甲状腺癌研究会を立ち上げており、祖父江氏もコアメンバーに名を連ねている。)

 祖父江氏は、第2期での2巡目結果の解析手法に疑問を呈する一方この記事を参照)、当時並行して行われていた甲状腺検査の同意書の改訂では、利益・不利益の記述を特に重要視し、「TM-NUC報告書1で過剰診断リスクのため不利益が利益を上回ると専門家が判断していた」と強く主張していた。(「TM-NUC」については、この記事を参照のこと。)それが、今回の部会まとめ案の結論については、「線量と関連がないことをきちんと示すことができたということではなく、大きな影響を持つ甲状腺検査の受診歴を正しく制御することができていないので、線量との関連について結論を記述することは難しいと書くべき」と不賛同の意見を譲らなかった。

「1〜4巡目の部会まとめ」について

 今回、検討委員会に提示された「1〜4巡目の部会まとめ」は、第21回評価部会に提示された部会まとめ案に、その部会での議論に基づいていくつかの小さな加筆修正がされているが、「2 疫学的解析の結果について (2)個人の推計被ばく線量を用いた解析」のパラグラフ4と5(以下のスクリーンショットの最初と2つめのパラグラフ)には大幅に加筆されており、パラグラフ6および「3 まとめ(1)疫学的解析の結果まとめ」のパラグラフ2にも、「一部の部会員」から賛同を得られなかったと付け足されている。その「1〜4巡目の部会まとめ」の加筆箇所をハイライトしたものが以下である。パラグラフ5以外の加筆内容は、第21回評価部会における祖父江氏の主張とほぼ同じである。



 また、3(1)のパラグラフ3では、部会まとめ案で「解析手法において一定の確立を見た」とされている箇所が、「現時点で考えられる最良の解析ができた」と訂正されている。

 なお、この「1〜4巡目の部会まとめ」は、今回の検討委員会で最終承認を受けたわけではないと思われる。

甲状腺検査の結果について

 今回報告されたのは5巡目6巡目の、2023年630日時点のデータである。5巡目は前回の第48回検討委員会2023年720日開催)で公表されたものから3ヶ月分のデータで、今年4月から開始された6巡目のデータは初出で、一次検査の結果のみである。

 5巡目では二次検査で5人が新たに悪性ないし悪性疑いと判定され、1人が手術で甲状腺乳頭がんと確定した。

 各検査回の一次・二次検査の結果概要、悪性ないし悪性疑いの人数、平均年齢と平均腫瘍径、および各年度ごとの手術症例の人数は参考資料 1 甲状腺検査結果の状況」にまとめられている。 

 全体的には、前回の公表データ(第 48回検討委員会で公表された参考資料 3 甲状腺検査結果の状況を参照)と比べると、悪性ないし悪性疑い例は5人増えて321人(良性1人含む)手術で甲状腺がんと確定された症例は1人増えて262人となっている。

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現時点での結果

 これまでに発表された集計外症例数を含む、現時点での結果をまとめた。

 註:がん登録データの43人は、2018年までの地域・全国がん登録データとの突合で見つかった人数第19回評価部会 資料2で、第16回評価部会で公表されてこの記事に収録された24人資料に、第18回評価部会で判明した3人資料と第19回評価部会で2018年データから追加された16人資料が加わっている。集計外症例35人(うち甲状腺がん19人)は、甲状腺外科医の鈴木眞一氏が2019年から国内外の学会などで報告し、「福島県立医科大学における手術症例の報告」として公表されている。データが突合されていないので実証は不可能ながら、これまで公式に集計外症例と公表されている11人(福島医大の横谷進氏らによる英語論文で報告されており、すべて甲状腺乳頭がん)も、この19人に含まれていると推定される。 

5巡目検査の結果

 2020年度から開始されている 5巡目検査は、COVID-19パンデミックによる遅延のため、通常の 2年間ではなく2022年度までの3年間で実施される予定であったが、例外に漏れず、まだ終了していない。参考として、2019年度までの実施予定だった4巡目結果の確定版は、2022年6月末時点での集計データとして、2022年度終了間際の2023年3月20日に公表された。

 2023年6月30日時点での一次検査受診者は113,937人(うち 7,960人が県外受診)と、前回から85人しか増えておらず、その半数が県外受診者であるが、結果判定率が100%とされており一次検査はほぼ終了に近いと思われる。受診率は変わらず45.0%で、4巡目の7割ほどで落ち着きそうである。年齢階級別受診率にも変動はなく、8〜11歳で74.0%、12〜17歳で 57.8%、18歳以上で11.2%である。

 二次査対象者は 47人増えて 1,346人となり、うち新たに84人が二次検査を受診し、12人が細胞診を受診した結果、5人が新たに悪性ないし悪性疑いと診断され、5巡目での悪性ないし悪性疑いは39人となった。この 5人のうち2人は男性(事故当時年齢4歳と10歳)、3人が女性(事故当時年齢2歳、4歳と6歳)で、男性1人と女性1人が2020年度対象市町村、男性1人と女性2人が2021年度対象市町村の住民だった。5人の4巡目での判定は、1人がA1、3人がA2のう胞、1人が未受診だった。

 地域別の二次検査実施状況および結果によると、1人が避難区域等13市町村、3人が中通り、1人が浜通りの住民だった。悪性ないし悪性疑い39人のうち、6人が避難区域等13市町村、24人が中通り、6人が浜通り、3人が会津地方の住民で、一次検査受診者に対する割合はそれぞれ 0.04%、0.04%、 0.02%、0.03%だった。

 まとめると、5巡目の悪性ないし悪性疑いは39人(4巡目と同じ)となり、4巡目での結果は、A判定が27人(A1が9人、A2のう胞が17人、A2結節&のう胞が1人)、B判定が6人、未受診が6人だった。

 2020年度対象市町村から1人が新たに手術を受け、5巡目では27人が甲状腺がんと確定し、27人すべてが甲状腺乳頭がんだった。

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1〜5巡目と25歳時および30歳時節目検査の結果のまとめ

同情報は、「参考資料 1  甲状腺検査結果の状況」の9ページ目にもまとめられている。

先行検査(1巡目)(結果確定版の2016年度追補版はこちら
悪性ないし悪性疑い 116人(前回から変化なし)
手術症例      102人(良性結節 1人、甲状腺がん 101人:乳頭がん100人、低分化がん1人)
未手術症例      14人


本格検査(2巡目)(結果確定版の2020年度更新版はこちら、手術症例更新版はこちら
悪性ないし悪性疑い 71(前回から変化なし)
手術症例      56人
(前回から 1人増)甲状腺がん 56人:乳頭がん 55人、その他の甲状腺がん**1人)                                   未手術症例     15人 


本格検査(3巡目)(結果確定版の2020年度追補版はこちら
悪性ないし悪性疑い 31(前回から変化なし)
手術症例      29人(前回から変化なし)(甲状腺がん 29人:乳頭がん 29人)
未手術症例       2人


本格検査(4巡目)(結果確定版はこちら
悪性ないし悪性疑い 39(前回から 変化なし)
手術症例      34人(前回から 変化なし)(甲状腺がん 34人:乳頭がん 34人)
未手術症例     5人

本格検査(5巡目)(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 39(前回から 5人増)
手術症例      27人(前回から1人増)(甲状腺がん 27人:乳頭がん 27人)
未手術症例     12人

本格検査(6巡目)(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 0
手術症例      0
未手術症例     0人

25歳時の節目検査(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 22
手術症例      14人甲状腺がん 14人:乳頭がん 13人、濾胞がん 1人)
未手術症例     8人

30歳時の節目検査(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 3人
手術症例      1人甲状腺がん 1人:乳頭がん 1人)
未手術症例     2人


合計
悪性ないし悪性疑い 321人(良性結節を除くと320人
手術症例      263人(良性結節 1人と甲状腺がん 262人:乳頭がん 259 
人、低分化がん 1人、濾胞がん1人、その他の甲状腺がん**1人)

未手術症例***      58人(4人増)

注**「その他の甲状腺がん」とは、2015年 11月に出版された甲状腺癌取り扱い規約第 7 版    内で、「その他の甲状腺がん」と分類されている甲状腺がんのひとつであり、福島県立医科大学の大津留氏の検討委員会中の発言によると、低分化がんでも未分化がんでもなく、分化がんではあり、放射線の影響が考えられるタイプの甲状腺がんではない、とのこと。
注*** 未手術症例の中には、福島県立医科大学付属病院以外での、いわゆる「他施設手術症例」が含まれている可能性があるため、実際の未手術症例数は不明である。

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前回検査の結果

2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 71人の 1巡目での判定結果
A1判定:33人(エコー検査で何も見つからなかった)
A2判定:32人(結節 7人、のう胞 25人)
B判定: 5人(すべて結節、とのこと。先行検査では最低 2人が細胞診をしている)
先行検査未受診:1人


3巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 31人の 2巡目での判定結果 
A1判定:7人
A2判定:14人(結節 4人、のう胞 10人)
B判定:7人
2巡目未受診:3人


4巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 39人の 3巡目での判定結果  
A1判定:6人
A2判定:20人(結節 6人、のう胞 13人、結節&のう胞 1人)
B判定:9人
3巡目未受診:4人

5巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 39人の 4巡目での判定結果  
A1判定:9人
A2判定:18人(のう胞 17人、結節&のう胞 1人)
B判定:6人
4巡目未受診:6人

25歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 22人の前回検査での判定結果  

A1判定:1人
A2判定:4人(結節 1人、のう胞 3人)
B判定:4人
未受診:13人

30歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 3人の前回検査での判定結果  (現時点で未公表)

A1判定:0人
A2判定:0人(結節 0人、のう胞 0人)
B判定:0人
未受診:0人

メモ:2024年2月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、およびアンケート調査について

  *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。  2024年2月22日に 第50回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会) が、 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。  ...