*末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。
2023年7月20日に第48回「県民健康調査」検討委員会(以下、検討委員会)が、その8日後の7月28日には第21回「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」(以下、評価部会)が、会場とオンラインのハイブリッド形式で、いずれも4ヶ月ぶりに開催された。会議自体の公式動画(検討委員会はこちら、評価部会はこちら)は福島県ホームページからアクセスできるが、議事録公表後は削除される。会議および記者会見は、Ourplanet-TVのアーカイブ動画(検討委員会はこちら、評価部会はこちら)で視聴できる。
2023年7月末で第6期の検討委員および第4期の評価部会員の2年間の任期が終了するため、今回は現行のメンバーによる最後の会議となった。備忘録のために時系列に言及しておくと、前回は3月20日に評価部会、その2日後に検討委員会という過密スケジュールでの開催であったが、その後、今までいずれも開催される気配もなく、任期終了ぎりぎりに両方が開催されたという形になる。いずれも今後のメンバーは現時点で未公表であるが、評価部会は第3・4期の計4年間の任期を通して変わらなかったので、次回は部会員の入れ替えがあっても不思議ではない。以下、まず今回の評価部会での経緯を簡単にまとめてから、検討委員会で公表されたデータをまとめる。
評価部会での経緯
第21回評価部会では、様々な解析資料(一覧)についての口頭発表後、1巡目から4巡目までを総括した部会まとめ案が鈴木元部会長により読み上げられた。解析資料は評価部会の公式ページから閲覧できる。
この部会まとめ案は、前回の3月の開催以降は何の音沙汰もなく任期終了3日前に提示されたことになる。ちなみに、2巡目の結果についての部会まとめ案は、第2期評価部会の最後の開催となった2019年6月3日の第13回評価部会で公表された。第2期の評価部会は、「過剰診断 vs 早期発見・治療」をめぐる部会員同士の意見の対立が激しく、部会の主たる目的である2巡目の結果についての議論に費やす時間がなくなってしまい、やむなく鈴木部会長が部会まとめ案を作成することになったという経緯がある。そして部会中の議論およびその後の部会員らと鈴木部会長とのメールでのやり取りを経て、7月8日に任期終了前に開催された第4期の第35回検討委員会で、同じ文面のものが部会まとめとして報告された。この時、部会まとめの内容に賛同しなかった部会員らの意見をまとめた文書も提出され、部会まとめと共に公式資料として第35回検討委員会の資料ページに残されている。
今回の部会まとめ案の公表についての状況は、2巡目の部会まとめの時よりも異常と言える。親委員会である検討委員会への報告も、現行の委員ではなく新規の委員にされることになるが、毎回、新規の委員は時を経るにつれ膨大となる情報を消化するのに精一杯と思われる。もとより甲状腺検査に関しては、この数年の検討委員会も評価部会も、議論の場を提供しているようでありながらも肝心な臨床情報は考慮すらされず、単に「開催した」という事実を記録するためのものではないかとすら思われることが多い。
特に評価部会は、実質、福島医大の独自解析の発表の場とされて来た。それが解析を専門とする部会員らによって「添削」され、また次の段階に進むという具合で、部会員らが検証しようにも実数も提示されないというお粗末さが目立っていた。今回の部会まとめ案の、「被ばく線量と悪性ないし悪性疑い発見率との関連の解析において、被ばく線量の増加に応じて発見率が上昇するといった一貫した関係(線量・効果関係)は認められなかった」との記述に、大阪大学の祖父江友孝部会員が不賛同を表明し、解析によってはオッズ比が上がっていないとは言えず、関連を示唆する結果と捉えた方が自然であると述べた。
祖父江委員の意見は、「マッチングしている最大の交絡因子である受診歴がきちんとコントロールされていないため、地域を限定しない解析では関連があるように見られ、地域を限定すると関連がないように見られる。線量と関連がないことをきちんと示すことができたということではなく、大きな影響を持つ甲状腺検査の受診歴を正しく制御することができていないなので、線量との関連について結論を記述することは難しいと書くべきだ」ということである。
部会末尾で鈴木元部会長が、その意見を「言葉が足りないという指摘」と表現した際には、祖父江部会員が、「言葉が足りないじゃなくて、ここに書いてあることに自分は賛同できない。このまま(の文面)で行くのであれば、異なる意見のある委員がいた、と記述して欲しい」と強く反論した。
第20回評価部会で鈴木部会長は、任期終了前に部会まとめ案を確定するのは難しいだろうと発言してはいる。実質、「案」のまま次の任期の評価部会に持ち越しという形になりそうではあるが、その「案」ですら、統計を専門とする祖父江委員が賛同しない部分を含む可能性があるということになる。
甲状腺検査の結果について
今回報告されたのは5巡目および25歳時と30歳時節目検査の、2023年3月31日時点のデータである。5巡目は前回の第47回検討委員会(2023年3月22日開催)で公表されたものから6ヶ月分のデータとなり、2022年12月31日時点の3ヶ月分のデータが参考資料として公表されている。節目検査は6ヶ月ごとに集計・報告されるが、25歳時節目検査は前回以降 6ヶ月分、2022年4月から開始されている30歳時節目検査のデータは初出である。
5巡目では8人が新たに悪性ないし悪性疑いと判定され、10人が手術で甲状腺乳頭がんと確定した。25歳時と30歳時の節目検査では新たに3人ずつが悪性ないし悪性疑いと判定され、手術で甲状腺乳頭がんと確定されたのは25歳時で3人、30歳時で1人だった。
各検査回の一次・二次検査の結果概要、悪性ないし悪性疑いの人数、平均年齢と平均腫瘍径、および各年度ごとの手術症例の人数は「参考資料 3 甲状腺検査結果の状況」にまとめられている。
全体的には、前回の公表データ(第 47回検討委員会で公表された「参考資料 5 甲状腺検査結果の状況」を参照)と比べると、悪性ないし悪性疑い例は14人増えて316人(良性1人含む)に、手術で甲状腺がんと確定された症例は14人増えて261人となっている。
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現時点での結果
これまでに発表された集計外症例数を含む、現時点での結果をまとめた。がん登録データの43人は、2018年までの地域・全国がん登録データとの突合で見つかった人数(第19回評価部会 資料2)で、第16回評価部会で公表されてこの記事に収録された24人(資料)に、第18回評価部会で判明した3人(資料)と第19回評価部会で2018年データから追加された16人(資料)が加わっている。集計外症例35人(うち甲状腺がん19人)は、甲状腺外科医の鈴木眞一氏が2019年から国内外の学会などで報告し、「福島県立医科大学における手術症例の報告」として公表されている。データが突合されていないので実証は不可能ながら、これまで公式に集計外症例と公表されている11人(福島医大の横谷進氏らによる英語論文で報告されており、すべて甲状腺乳頭がん)も、この19人に含まれていると推定される。
5巡目検査の結果
2020年度から開始されている 5巡目検査は、COVID-19パンデミックによる遅延のために通常の 2年間ではなく2022年度までの3年間で実施されている。今回報告されたのは2022年度末時点での結果であるが、まだ数字に動きがあり、これまでと同様に結果が確定するのにもう少し時間がかかりそうである。参考として、2019年度までの実施予定だった4巡目結果の確定版は、2022年6月末時点での集計データとして2023年3月20日に公表された。なお、6巡目検査は、2023年度から開始されており、従来の2年間で実施される予定である。
2023年3月31日時点での一次検査受診者は、前回から24,758人増えて113,852人(うち 7,919人が県外受診)、受診率は前回から9.8%増えて45.0%となった。年齢階級別受診率は、8〜11歳で前回の 58.4%から74.0%、12〜17歳で 43.3%から57.8%と大きく増え、学校検査の進捗度合いが分かるが、18歳以上では 10.8%から11.2%とわずかしか増えておらず、相変わらず受診率は低い。
二次査対象者は 298人増えて 1,299人となり、うち新たに217人が二次検査を受診し、14人が細胞診を受診した結果、8人が新たに悪性ないし悪性疑いと診断され、5巡目での悪性ないし悪性疑いは34人となった。この 8人のうち3人は男性(事故当時年齢7歳、8歳と9歳)、5人が女性(事故当時年齢4歳、6歳、9歳、11歳と12歳)で、性別は不明だが5人が2020年度対象市町村、3人が2021年度対象市町村の住民だった。8人の4巡目の判定は、3人がA2のう胞、2人がB、3人が未受診だった。
また今回、初めて、地域別の二次検査実施状況および結果が公表され、悪性ないし悪性疑い34人のうち、5人が避難区域等13市町村、21人が中通り、5人が浜通り、3人が会津地方の住民であることが判明したが、一次検査受診者に対する割合は各地域で 0.02〜0.03%とほぼ同等だった。
まとめると、5巡目の悪性ないし悪性疑いは34人となり、4巡目での結果は、A判定が23人(A1が8人、A2のう胞が14人、A2結節&のう胞が1人)、B判定が6人、未受診が5人だった。
2020年度対象市町村から8人、2021年度対象市町村から2人の計9人が新たに手術を受け、5巡目では26人が甲状腺がんと確定し、26人すべてが甲状腺乳頭がんだった。
25歳時の節目検査の結果
2017年度から開始されている25歳時の節目検査の結果は、通常の甲状腺検査とは別に、6ヶ月ごとに公表されている。今回の報告データは2023年3月31日時点のもので、1992〜7年度生まれの対象者におけるものである。(受診は対象年度にとどまらず、次回の30歳時節目検査の前年まで可能で、追加の受診データも随時報告されていくことになっている。)
今回は、2022年度に25歳となる1997年度生まれの20,296人が新たに加わり、対象者が129,007人となった。1,541人が新たに一次検査を受診し、受診率は分母の拡大により前回の9.4%から9.1%に下がった。県外受診者は4,262人である。なお、2022年度から30歳時節目検査の対象となる1992年度生まれからの受診者数は一次検査でも二次検査でも増えていない。B判定は85人増えて635人となったが、85人中74人は1997年度生まれである。新たに87人(うち1997年度生まれが53人、1996年度生まれが22人)が二次検査を受診し、計523人の受診者中 500人で結果が確定している。7人が細胞診を新たに受診し、細胞診受診者は43人となった。うち、女性3人(事故当時年齢12歳、13歳と14歳)が新たに悪性ないし悪性疑いと診断され、 3人とも前回検査は未受診だった。
まとめると、25歳時節目検査における悪性ないし悪性疑い例は22人となり、前回検査は、A1が1人、A2結節が1人、A2のう胞が3人、Bが4人、未受診が13人となる。
新たに3人で手術が施行され、甲状腺乳頭がんと確定診断された。25歳時節目検査の手術症例は14人となり、うち13人は甲状腺乳頭がん、1人は濾胞がんである。
30歳時の節目検査の結果
2022年度からは、1992年生まれの22,626人を対象として、二度目の節目検査となる30歳時の節目検査が開始されており、今回、2023年3月31日時点での結果が報告された。一次検査の受診者は1,524人(うち県外受診者は562人)で受診率は6.7%だった。126人がB判定とされ、二次検査の対象となり、うち75人が二次検査を受診し、58人で結果が確定、うち5人で穿刺吸引細胞診を受診し、3人が悪性ないし悪性疑いと診断された。この3人については、性別が女性であること以外、公表されておらず、前回検査の結果も不明である。3人のうち1人で手術が施行され、甲状腺乳頭がんの診断が確定している。
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1〜5巡目と25歳時および30歳時節目検査の結果のまとめ
同情報は、「参考資料 3 甲状腺検査結果の状況」の7ページ目にもまとめられている。
先行検査(1巡目)(結果確定版の2016年度追補版はこちら)
悪性ないし悪性疑い 116人(前回から変化なし)
手術症例 102人(良性結節 1人、甲状腺がん 101人:乳頭がん100人、低分化がん1人)
未手術症例 14人
本格検査(2巡目)(結果確定版の2020年度更新版はこちら、手術症例更新版はこちら)
悪性ないし悪性疑い 71人(前回から変化なし)
手術症例 56人(前回から 1人増)(甲状腺がん 56人:乳頭がん 55人、その他の甲状腺がん**1人) 未手術症例 15人
本格検査(3巡目)(結果確定版の2020年度追補版はこちら)
悪性ないし悪性疑い 31人(前回から変化なし)
手術症例 29人(前回から変化なし)(甲状腺がん 29人:乳頭がん 29人)
未手術症例 2人
本格検査(4巡目)(結果確定版はこちら)
悪性ないし悪性疑い 39人(前回から 変化なし)
手術症例 34人(前回から 変化なし)(甲状腺がん 34人:乳頭がん 34人)
未手術症例 5人
本格検査(5巡目)(実施状況はこちら)
悪性ないし悪性疑い 34人(前回から 8人増)
手術症例 26人(前回から10人増)(甲状腺がん 26人:乳頭がん 26人)
未手術症例 8人
25歳時の節目検査(実施状況はこちら)
悪性ないし悪性疑い 22人(前回から3人増)
手術症例 14人(前回から3人増)(甲状腺がん 14人:乳頭がん 13人、濾胞がん 1人)
未手術症例 8人
30歳時の節目検査(実施状況はこちら)
悪性ないし悪性疑い 3人(初出)
手術症例 1人(初出)(甲状腺がん 1人:乳頭がん 1人)
未手術症例 2人
合計
悪性ないし悪性疑い 316人(良性結節を除くと315人)
手術症例 262人(良性結節 1人と甲状腺がん 261人:乳頭がん 258 人、低分化がん 1人、濾胞がん1人、その他の甲状腺がん**1人)
未手術症例*** 54人(変化なし)
注**「その他の甲状腺がん」とは、2015年 11月に出版された甲状腺癌取り扱い規約第 7 版 内で、「その他の甲状腺がん」と分類されている甲状腺がんのひとつであり、福島県立医科大学の大津留氏の検討委員会中の発言によると、低分化がんでも未分化がんでもなく、分化がんではあり、放射線の影響が考えられるタイプの甲状腺がんではない、とのこと。
注*** 未手術症例の中には、福島県立医科大学付属病院以外での、いわゆる「他施設手術症例」が含まれている可能性があるため、実際の未手術症例数は不明である。
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前回検査の結果
2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 71人の 1巡目での判定結果
A1判定:33人(エコー検査で何も見つからなかった)
A2判定:32人(結節 7人、のう胞 25人)
B判定: 5人(すべて結節、とのこと。先行検査では最低 2人が細胞診をしている)
先行検査未受診:1人
3巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 31人の 2巡目での判定結果
A1判定:7人
A2判定:14人(結節 4人、のう胞 10人)
B判定:7人
2巡目未受診:3人
4巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 39人の 3巡目での判定結果
A1判定:6人
A2判定:20人(結節 6人、のう胞 13人、結節&のう胞 1人)
B判定:9人
3巡目未受診:4人
5巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 34人の 4巡目での判定結果
A1判定:8人
A2判定:15人(のう胞 14人、結節&のう胞 1人)
B判定:6人
4巡目未受診:5人
25歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 22人の前回検査での判定結果
A1判定:1人
A2判定:4人(結節 1人、のう胞 3人)
B判定:4人
未受診:13人
30歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 3人の前回検査での判定結果 (現時点で未公表)
A1判定:0人
A2判定:0人(結節 0人、のう胞 0人)
B判定:0人
未受診:0人
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