メモ:2022年12月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理など

 

 *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。

 2022年12月2日に、第46回「県民健康調査」検討委員会(以下、検討委員会)が、会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。

 今回報告されたのは4巡目5巡目2022年6月30日時点のデータで、前回(2022年9月1日開催)から3ヶ月分のデータだった。前回、6ヶ月分のデータが公開され、開催日とデータ集計日の乖離が3ヶ月に縮まったのだが、今回、また6ヶ月の差となり、「最新データ」は依然として5ヶ月前のデータである。前回の記事で想定されたように、5巡目の地域別の一次検査結果が初公開された。

 4巡目の数字の動きはほとんどなく、悪性ないし悪性疑いも手術症例も出なかった。5巡目では12人が新たに悪性ないし悪性疑いと判定され、1人が手術で甲状腺乳頭がんと確定した。

 各検査回の一次・二次検査の結果概要、悪性ないし悪性疑いの人数、平均年齢と平均腫瘍径、および各年度ごとの手術症例の人数は参考資料 3 甲状腺検査結果の状況」にまとめられている。 

 全体的には、前回の公表データ(第 44回検討委員会で公表された参考資料 3 甲状腺検査結果の状況を参照)と比べると、悪性ないし悪性疑い例は12人増えて296人(良性1人含む)手術で甲状腺がんと確定された症例は1人増えて237人となっている。

 今回は、甲状腺検査結果についての報告内容は少なかったが、資料2-12-2の、甲状腺検査に関するアンケート調査の実施概要(案)と調査票(案)についての議論に時間が費やされた。調査票の送付先は甲状腺検査の同意書にサインをした人から選出され、送付数は、38万人強の対象者を、中学生以下(64,000人)、中学卒業〜18歳以下未満(52,000人)、18歳以上(266,000人)の3グループに分け、2つ目のグループの保護者52,000人を加えた4グループから一律してそれぞれ4000人となるということで、代表性が担保されているのかという疑問が示された。(中学生以下では保護者が回答することになる。)また、環境省の環境保健部長の神ノ田昌博委員は、甲状腺検査のメリット・デメリットの認知度や検査自体の認識についてであるはずのアンケート調査に、放射線被ばくによる将来的な健康影響はない」と言うUNSCEARの評価を周知徹底して欲しいと言う要望を出したが、これには複数の反対意見が提示された。

 神ノ田委員が前回の検討委員会で、UNSCEAR報告書を鵜呑みにした同様の発言をしたことは記憶に新しい。今回はさらに、これまで見つかった甲状腺がんは事故由来の放射線の影響ではないと検討委員会でまとめており、アンケート調査以前の問題だとさえ言い出した。甲状腺検査評価部会が2巡目結果についてまとめたのは3年前の2019年7月だが、そこに至る紆余曲折の中で、2018年9月末に公開されたIARCの国際専門家グループ『TM-NUC』の報告書と提言については、甲状腺検査評価部会でも検討委員会でも意見が対立し、部会まとめと同時に、部会まとめについての文書も公開されている。その経緯を知っている人たちにとって、神ノ田委員の認識は驚愕に値するが、3年も経つと、当時の詳細な状況が見えなくなってしまうのだと実感する。

 この関連記事に記録してあるように、『TM-NUC』設立を御膳立てしたのは環境省、全額拠出したのも環境省であるので、その国際機関のお墨付きを最大限に活用しようとする気持ちは分からなくもない。しかし、環境省がここまであからさまに検討委員会に介入して来ることには、別の思惑があるのだろう。

 福島医大からは、12月5日に、日本疫学会の学会誌『Journal of Epidemiology』特集号に、県民健康調査関連の英語論文11本が掲載される旨、報告された。

国内外の多くの方々に「県民健康調査」に対する理解を深めていただくために、ウェブ上で無料公開(オープンアクセス)とし、誰でも閲覧できるようにします。

などと書かれているが、この学会誌はもともとオープンアクセスである。 これらの英語論文は、こちらからアクセスできる。また、放射線医学県民健康管理センターのホームページには、これらの論文の日本語要約が掲載されてはいるが、当事者である県民らがさらなる詳細を理解したいと思っても、依然として言葉の壁が立ちはだかることになり、単にオープンアクセスにすることで解決するものではない。

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現時点での結果

 これまでに発表された集計外症例数を含む、現時点での結果をまとめた。がん登録データの43人は、2018年までの地域・全国がん登録データとの突合で見つかった人数第19回評価部会 資料2で、第16回評価部会で公表されて前回の記事に収録された24人資料に、第18回評価部会で判明した3人資料と第19回評価部会で2018年データから追加された16人資料が加わっている。集計外症例35人(うち甲状腺がん19人)は、甲状腺外科医の鈴木眞一氏が2019年から国内外の学会などで報告し、福島県立医科大学における手術症例の報告として公表されている。データが突合されていないので実証は不可能ながら、これまで公式に集計外症例と公表されている11人(福島医大の横谷進氏らによる英語論文で報告されており、すべて甲状腺乳頭がん)も、この19人に含まれていると推定される。


4巡目検査の結果

 2018年4月1日から開始されている4巡目(25歳時の節目検査対象者は除外)では、前述の通り数字にほとんど動きがなく、一次検査は受診者が3人増え、結果判定数が12人増えたのみで、二次検査は対象者が2人増えたが新たな受診者はなく、結果確定数が3人増えたが細胞診受診者はおらず、悪性ないし悪性疑いと診断された人もいなかった。受診率は変わらず62.3%である。

 4巡目の悪性ないし悪性疑いは 39人のままで、前回結果は、A1が 6人、A2結節が 6人、A2のう胞が 13人、A2のう胞&結節が1人、Bが 9人、未検査が 4人となる。

 新たに手術を受けた人もおらず、4巡目で甲状腺がんと確定されたのは合計 34人のままである。この 34人全員が甲状腺乳頭がんだった。

 
5巡目検査の結果

 2020年度から開始されている 5巡目検査は、COVID-19パンデミックのために県内学校での検査が一部延期、医療機関での検査も一部制限されたことから、通常の 2年間での実施が困難となり、小学校、中学校と特別支援学校では 3年間(2020年度分を 2年間、2021年度分を 2022年に繰り越し)、高等学校では 2021〜2年度の 2年間(2020年度実施校を除く)実施されている。なお、6巡目検査は、2023年4月から、従来の2年間で開催される予定である。

 2022年6月30日時点での一次検査受診者は、前回から5,241人増えて80,205人(うち 7,597人が県外受診)で、受診率は前回から2.1%増えて31.7%となったが、依然として低いままである。年齢階級別受診率の変化も小さく、8〜11歳で前回の 48.1%から52.7%、12〜17歳で 36.0%から38.1%、18歳以上で 10.3%から10.6%となった。

 二次査対象者は 70人増えて 939人となり、うち新たに66人が二次検査を受診し、16人が細胞診を受診した結果、12人が新たに悪性ないし悪性疑いと診断され、5巡目での悪性ないし悪性疑いは23人となった。この 12人のうち4人は男性(事故当時年齢2歳、4歳、7歳、10歳)で8人は女性(事故当時年齢2歳、3歳、5歳、6歳が4人、12歳)だった。女性8人すべてと男性2人が2020年度対象市町村の住民で、残りの男性2人は2021年度対象市町村の住民だった。4巡目の判定は、4人がA1、6人がA2のう胞、1人がB、1人が未受診だった。

 今回、細胞診の結果で腫瘍径の最大値が 46.7 mmと、前回より32.0 mm増大している。これは必ずしも過去3ヶ月での変化ではなく、個別の症例についての情報提供はできないながら、過去に未受診の人もいるという言及に留められた。

 5巡目の悪性ないし悪性疑いは23人となり、4巡目での結果は、A判定が18人(A1が7人、A2のう胞が10人、A2結節&のう胞が1人)、B判定が3人、未受診が2人だった。

 2020年度対象市町村から1人が新たに手術を受け、5巡目では7人が甲状腺がんと確定し、7人とも甲状腺乳頭がんだった。

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1〜5巡目と25歳時節目検査の結果のまとめ

同情報は、「参考資料 3  甲状腺検査結果の状況」の7ページ目にもまとめられている。

先行検査(1巡目)(結果確定版の2016年度追補版はこちら
悪性ないし悪性疑い 116人(前回から変化なし)
手術症例      102人(良性結節 1人、甲状腺がん 101人:乳頭がん100人、低分化がん1人)
未手術症例      14人


本格検査(2巡目)(結果確定版の2020年度更新版はこちら、手術症例更新版はこちら
悪性ないし悪性疑い 71(前回から変化なし)
手術症例      56人
(前回から 1人増)甲状腺がん 56人:乳頭がん 55人、その他の甲状腺がん**1人)                                   未手術症例     15人 


本格検査(3巡目)(結果確定版の2020年度追補版はこちら
悪性ないし悪性疑い 31(前回から変化なし)
手術症例      29人(前回から変化なし)(甲状腺がん 29人:乳頭がん 29人)
未手術症例       2人


本格検査(4巡目)(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 39(前回から 変化なし)
手術症例      34人(前回から 変化なし)(甲状腺がん 34人:乳頭がん 34人)
未手術症例     5人

本格検査(5巡目)(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 23(前回から 11人増)
手術症例      7人(前回から1人増)(甲状腺がん 7人:乳頭がん 7人)
未手術症例     16人

25歳時の節目検査(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 16(前回から3人増)
手術症例      10人(前回から4人増)甲状腺がん 10人:乳頭がん 9人、濾胞がん 1人)
未手術症例     6人


合計
悪性ないし悪性疑い 296人(良性結節を除くと295人
手術症例      238人(良性結節 1人と甲状腺がん 237人:乳頭がん 234 
人、低分化がん 1人、濾胞がん1人、その他の甲状腺がん**1人)

未手術症例***      58人

注**「その他の甲状腺がん」とは、2015年 11月に出版された甲状腺癌取り扱い規約第 7 版    内で、「その他の甲状腺がん」と分類されている甲状腺がんのひとつであり、福島県立医科大学の大津留氏の検討委員会中の発言によると、低分化がんでも未分化がんでもなく、分化がんではあり、放射線の影響が考えられるタイプの甲状腺がんではない、とのこと。
注*** 未手術症例の中には、福島県立医科大学付属病院以外での、いわゆる「他施設手術症例」が含まれている可能性があるため、実際の未手術症例数は不明である。

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前回検査の結果

2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 71人の 1巡目での判定結果
A1判定:33人(エコー検査で何も見つからなかった)
A2判定:32人(結節 7人、のう胞 25人)
B判定: 5人(すべて結節、とのこと。先行検査では最低 2人が細胞診をしている)
先行検査未受診:1人


3巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 31人の 2巡目での判定結果 
A1判定:7人
A2判定:14人(結節 4人、のう胞 10人)
B判定:7人
2巡目未受診:3人


4巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 39人の 3巡目での判定結果  
A1判定:6人
A2判定:20人(結節 6人、のう胞 13人、結節&のう胞 1人)
B判定:9人
3巡目未受診:4人

5巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 23人の 4巡目での判定結果  
A1判定:7人
A2判定:11人(のう胞 10人、結節&のう胞 1人)
B判定:3人
4巡目未受診:2人

25歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 16人の前回検査での判定結果  

A1判定:0人
A2判定:4人(結節 1人、のう胞 3人)
B判定:3人
未受診:9人

メモ:2024年2月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、およびアンケート調査について

  *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。  2024年2月22日に 第50回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会) が、 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。  ...