メモ:2024年2月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、およびアンケート調査について


 *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。

 2024年2月22日に第50回「県民健康調査」検討委員会(以下、検討委員会)が、 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。

 今回公表されたのは、5巡目と6巡目の 3ヶ月分のデータおよび、25歳時と30歳時節目検査の6ヶ月分のデータである。また今回、甲状腺検査に関するアンケート調査の結果も報告された。事故後 13年が経過し、甲状腺検査関連の情報も膨大かつ複雑となっている。このブログでは、議事録などの公式情報のみでは察することが困難な「その時のリアルな印象」なども含め、備忘録的に記録している。今回の記事では、新たに公表されたデータをまとめた上で、更新情報のない1〜4巡目のデータも記載している。

 なお、記者会見を含まない会議自体の公式動画へのリンクは、配布資料ページの「動画配信」セクションに掲載されている。この公式動画は、2〜3ヶ月後に議事録が公表されると削除され、同セクションは「議事録について」に置き換えられる。なお、会議および記者会見は、Ourplanet-TVのアーカイブ動画で視聴できる。

甲状腺検査のアンケート調査について

 このアンケート調査は、対象者と保護者の甲状腺検査のメリット・デメリットの認知度および甲状腺検査についての認識を確認するために 2023年 8月に実施されたものである。背景状況を説明しておくと、もともと甲状腺検査は、原発事故後の甲状腺の状態を調べるために始まったものである。それゆえに同意書に伴うお知らせ文(こちら)はごく簡素なものだったが、多くの甲状腺がんが見つかるという想定外の展開となった。被ばくの影響が時期尚早に否定される一方、多数の甲状腺がんが発見された説明として過剰診断論が言及されるようになり、一部の検討委員や部会員(特に2017〜9年の任期)の間で強く支持されている。ちなみに福島医大としては、被ばくの影響は考えにくいが、診断ガイドラインを設定した上で手術適応例のみ手術しているので過剰診断でも過剰治療でもなく、潜在がんが年齢が上がるとともに検出されているというのが公式認識のようである。

最初のお知らせ文
 これと同時に、同意書にともなうお知らせ文では検査のメリット・デメリットが十分に説明されておらず、インフォームド・コンセントの体をなしていないとの指摘も出た。このため、県民にメリット・デメリットを周知すべく、お知らせ文が改訂された。そして、2020年度から 3年間実施された5巡目でお知らせ文改訂版が行き渡ったこともあり、メリット・デメリットがどう認識されているか調べてほしい、との評価部会の要望に応える形でアンケート調査が実施された。調査の際には、同意書とお知らせ文とともに郵送される冊子「検査のメリット・デメリット」も配布された。

お知らせ文改訂版(実際に対象者に郵送されるもの)

 アンケート調査の報告はこちらでダウンロードできる。回答率が 22.8%と低いためデータの有効性を疑う意見(論文などに使えるデータではないなど)も出ている。結果を大雑把にまとめると、対象者と保護者の 35〜58%がメリット・デメリットを認識しており、44〜70%が今後も受診するつもり、あるいは保護者が対象者に受診して欲しいと思っていることが示された。50〜54%がメリットが分かりやすいとする一方、やや低い割合の45〜48%が、デメリットが分かりやすいと答えた。メリット・デメリットが分かりにくい理由として、「書いてある単語や文章が難しい」「必要な情報が足りない」「文章が長い・量が多い」などが挙げられた。

 振り返ると、2017~9年の任期の評価部会では、過剰診断論者が学校検査の廃止を推しつつ、同時期に公表されたSHAMISEN勧告やIARC国際専門家グループ「TM-NUC」の提言の中身をメリット・デメリットに盛り込むべきと主張特に甲状腺の集団スクリーニングを不必要とみなし、デメリットの周知を強調)していた。その主張と、過剰診断でなく早期発見・早期治療だとする臨床医らとの意見の対立が平行線のまま、お知らせ文改訂案に対する意見や批判が飛び交い、2巡目のまとめについての議論に費やされるべき時間にも食い込んだ。(これらの経緯については、岩波『科学』電子版 2019年2月号と 2019年7月号で言及している。)この時の、”できるだけの事実を詰め込もうとする姿勢”から考えると、県民から「書いてある単語や文章が難しい」「文章が長い・量が多い」という意見が出るのも不思議ではない。

甲状腺検査の結果について

 今回報告されたのは5巡目6巡目25歳時節目検査、および30歳時節目検査の、2023年930日時点のデータである。5巡目と6巡目は前回の第 49回検討委員会2023年1124日開催)で公表されたものから3ヶ月分のデータで、6ヶ月ごとに公表される節目検査は、第48回検討委員会2023年720日開催)以降の 6ヶ月分のデータとなる

 結論から言うと、新たに悪性ないし悪性疑いと診断されたのは7人(5巡目で 4人、25歳時節目検査で 1人、30歳時節目検査で 2人)、新たに手術で甲状腺がんと確定したのは 12人(5巡目で 7人、25歳時節目検査で 3人、30歳時節目検査で 2人)である。これで、これまでの悪性ないし悪性疑いは 328人(うち良性結節 1人)、手術で甲状腺がんと確定したのは 274人となった。

 各検査回の一次・二次検査の結果概要、悪性ないし悪性疑いの人数、平均年齢と平均腫瘍径、および各年度ごとの手術症例の人数は参考資料 1 甲状腺検査結果の状況」にまとめられている。 

 全体的には、前回の公表データ(第 49回検討委員会で公表された参考資料 6 甲状腺検査結果の状況を参照)と比べると、悪性ないし悪性疑い例は 7人増えて 328人(良性 1人含む)手術で甲状腺がんと確定された症例は 12人増えて 274人となっている。

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現時点での結果

 これまでに発表された集計外症例数を含む、現時点での結果をまとめた。



 註:がん登録データの43人は、2018年までの地域・全国がん登録データとの突合で見つかった人数第19回評価部会 資料2で、第16回評価部会で公表されてこの記事に収録された24人資料に、第18回評価部会で判明した3人資料と第19回評価部会で2018年データから追加された16人資料が加わっている。集計外症例 35人(うち甲状腺がん 19人)は、甲状腺外科医の鈴木眞一氏が 2019年から国内外の学会などで報告し、「福島県立医科大学における手術症例の報告」として公表されている。データが突合されていないので実証は不可能ながら、これまで公式に集計外症例と公表されている11人(福島医大の横谷進氏らによる英語論文で報告されており、すべて甲状腺乳頭がん)も、この19人に含まれていると推定される。 

5巡目検査の結果

  5巡目検査は 2020年度から開始され、COVID-19パンデミックによる遅延のため、通常の 2年間ではなく2022年度までの 3年間で実施されているが、数字の動きからほぼ終了に近いと思われる。参考として、2019年度までの実施予定だった 4巡目結果の確定版は、2022年6月末時点での集計データとして、2022年度終了間際の2023年3月20日に公表された。

 2023年9月30日時点での一次検査受診者は 113,941人(うち 7,963人が県外受診)と、前回から 4人しか増えておらず、うち 3人が県外受診者である。結果判定数 113,941人、結果判定率 100%なので、一次検査は実質終了している。受診率は変わらず 45.0%で、4巡目の 7割ほどになる。年齢階級別受診率にも変動はなく、8〜11歳で74.0%、12〜17歳で 57.8%、18歳以上で11.2%である。

 二次査対象者は変わらず 1,346人で、うち新たに75人が二次検査を受診し、7人が細胞診を受診した結果、4人が新たに悪性ないし悪性疑いと診断され、5巡目での悪性ないし悪性疑いは 43人となった。この 4人のうち 1人は男性(事故当時年齢1歳)、3人が女性(事故当時年齢3歳、4歳と7歳)で、女性1人が 2020年度対象市町村、残りが 2021年度対象市町村の住民だった。4人の4巡目での判定は、1人が A1、3人が A2のう胞だった。ちなみに、悪性ないし悪性疑い数が 43人と、4巡目の 39人より 4人多くなった理由としては、対象者の年齢が上がるにつれ甲状腺がんが見つかることが多くなるため、と説明された。

 地域別の二次検査実施状況および結果によると、2人が中通り、2人が浜通りの住民だった。悪性ないし悪性疑い43人のうち、6人が避難区域等13市町村、26人が中通り、8人が浜通り、3人が会津地方の住民で、一次検査受診者に対する割合はそれぞれ 0.04%、0.04%、 0.04%、0.02%だった。

 まとめると、5巡目の悪性ないし悪性疑いは 43人(4巡目より4人増)となり、4巡目での結果は、A判定が31人(A1が 10人、A2のう胞が 20人、A2結節&のう胞が 1人)、B判定が 6人、未受診が 6人だった。

 2020年度対象市町村から4人、2021年度対象市町村から3人が新たに手術を受け、5巡目では34人が甲状腺がんと確定し、34人すべてが甲状腺乳頭がんだった。

6巡目検査の結果

 2023年度から始まった6巡目検査では、節目検査に移行する1998〜9年度生まれが外されたことで、 対象者は5巡目から 41063人少ない 211,875人となっている。2023年9月30日時点での受診者は 18,304人で受診率は 8.6%、うち 54.5%の 9,978人で結果が判定されている。その 1.2%となる118人がB判定とされているが、二次検査は、進捗していないため結果は未公表である。

 年齢階級別受診率は、11歳が 26.0%、12〜17歳が 14.4%、18〜24歳が 1.6%だった。

25歳時の節目検査の結果

 2017年度から開始されている25歳時の節目検査の結果は、通常の甲状腺検査とは別に、6ヶ月ごとに公表されている。今回の報告データは2023年9月30日時点のもので1992〜7年度生まれの対象者におけるものである。受診は対象年度にとどまらず、次回の30歳時節目検査の前年まで可能で、追加の受診データも随時報告されていくことになっている。)

 今回の対象者は前回より1人減った129,006人で、86人が新たに一次検査を受診し、受診者数は 11,867人となった。受診率は前回の9.1%から9.2%に上がった。新受診者の半数以上である49人が県外受診者(4,311人)である。結果判定数は前回から 184人増えて 11,858人となり、結果判定率は 0.8%増えて 99.9%となった。なお、2022年度から30歳時節目検査の対象となる1992年度生まれからの受診者数は、一次検査でも二次検査でも増えていない。B判定は 12人増え、二次検査対象者は 647人となった。

 新たに22人(受診率 84.2%)が二次検査を受診し、計 545人の受診者中 535人で結果が確定(確定率 98.2%)している。細胞診受診者は 6人増えて 49人となり、 前回検査未受診の女性1(事故当時年齢14歳)が新たに悪性ないし悪性疑いと診断された。6人の細胞診受診者のうち1人が1992年度生まれ、4人が1996年度生まれ、1人が1997年度生まれだった。

 まとめると、25歳時節目検査における悪性ないし悪性疑い例は23人となり、前回検査は、A1が1人、A2結節が1人、A2のう胞が3人、Bが4人、未受診が14人となる。

 新たに3人で手術が施行され甲状腺乳頭がんと確定診断された。25歳時節目検査の手術症例は17人となり、うち16人は甲状腺乳頭がん、1人は濾胞がんである。

30歳時の節目検査の結果

 2022年度からは、1992年生まれの22,625人を対象として、二度目の節目検査となる30歳時の節目検査が開始されており、今回、2023年9月30日時点での結果が報告された。一次検査の受診者は47人増えて1,571人となり、受診率は 0.2%増え、6.7%となった。県外受診者は 21人増えて583人となり、受診者47人の約半数が県外で受診していることが分かる。新たに88人で結果が判定しており、結果判定率は 2.7%増えて 99.4%となった。うち 8人がB判定とされ、二次検査の対象者は 134人となった。

 新たに32人が二次検査を受診し、二次検査受診者は 107人となり、受診率は 20.4%増えて 79.9%となった。このうち新たに 38人で結果が確定し、結果確定数は 96人、結果確定率は 12.4%増えて 89.7%となった。穿刺吸引細胞診の受診者は 8人増えて13人となり、この8人中 2人(女性)が新たに悪性ないし悪性疑いと診断された。30歳時の節目検査の悪性ないし悪性疑いは5人となり、すべて女性である。今回は、平均年齢と平均腫瘍径、および前回検査の結果が初公開された。

 前回検査の結果は、A2のう胞が1人、Bが1人、未受診が3人である。

 新たに1人で手術が施行され、30歳時の節目検査の手術症例数は3人となり、3人すべてで甲状腺乳頭がんの診断が確定している。

 

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1〜6巡目と25歳時および30歳時節目検査の結果のまとめ

同情報は、「参考資料 6 甲状腺検査結果の状況」の 9ページ目にもまとめられている。

先行検査(1巡目)(結果確定版の2016年度追補版はこちら
悪性ないし悪性疑い 116人(前回から変化なし)
手術症例      102人(良性結節 1人、甲状腺がん 101人:乳頭がん 100人、低分化がん1人)
未手術症例      14人


本格検査(2巡目)(結果確定版の2020年度更新版はこちら、手術症例更新版はこちら
悪性ないし悪性疑い 71(前回から変化なし)
手術症例      56人
(前回から 1人増)甲状腺がん 56人:乳頭がん 55人、その他の甲状腺がん**1人)                                   未手術症例     15人 


本格検査(3巡目)(結果確定版の2020年度追補版はこちら
悪性ないし悪性疑い 31(前回から変化なし)
手術症例      29人(前回から変化なし)(甲状腺がん 29人:乳頭がん 29人)
未手術症例       2人


本格検査(4巡目)(結果確定版はこちら
悪性ないし悪性疑い 39(前回から 変化なし)
手術症例      34人(前回から 変化なし)(甲状腺がん 34人:乳頭がん 34人)
未手術症例     5人

本格検査(5巡目)(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 43(前回から 4人増)
手術症例      34人(前回から 7人増)(甲状腺がん 34人:乳頭がん 34人)
未手術症例       9人

本格検査(6巡目)(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 0
手術症例      0
未手術症例     0人

25歳時の節目検査(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 23前回から 1人増)
手術症例      17人(
前回から 3人増)甲状腺がん 17人:乳頭がん 16人、濾胞がん 1人)

未手術症例       6人

30歳時の節目検査(実施状況はこちら
悪性ないし悪性疑い 5人前回から 2人増)
手術症例      3人
前回から 1人増)甲状腺がん 3人:乳頭がん 3人)

未手術症例     2人

合計
悪性ないし悪性疑い 328人(良性結節を除くと 327人
手術症例      275人(良性結節 1人と甲状腺がん 274人:乳頭がん 271 
人、低分化がん 1人、濾胞がん 1人、その他の甲状腺がん**1人)

未手術症例***    53人(5人減)

注**「その他の甲状腺がん」とは、2015年 11月に出版された甲状腺癌取り扱い規約第 7 版    内で、「その他の甲状腺がん」と分類されている甲状腺がんのひとつであり、福島県立医科大学の大津留氏の検討委員会中の発言によると、低分化がんでも未分化がんでもなく、分化がんではあり、放射線の影響が考えられるタイプの甲状腺がんではない、とのこと。
注*** 未手術症例の中には、福島県立医科大学付属病院以外での、いわゆる「他施設手術症例」が含まれている可能性があるため、実際の未手術症例数は不明である。

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前回検査の結果

2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 71人の 1巡目での判定結果
A1判定:33人(エコー検査で何も見つからなかった)
A2判定:32人(結節 7人、のう胞 25人)
B判定: 5人(すべて結節、とのこと。先行検査では最低 2人が細胞診をしている)
先行検査未受診:1人


3巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 31人の 2巡目での判定結果 
A1判定:7人
A2判定:14人(結節 4人、のう胞 10人)
B判定:7人
2巡目未受診:3人


4巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 39人の 3巡目での判定結果  
A1判定:6人
A2判定:20人(結節 6人、のう胞 13人、結節&のう胞 1人)
B判定:9人
3巡目未受診:4人

5巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された 43人の 4巡目での判定結果  
A1判定:10人
A2判定:21人(のう胞 20人、結節&のう胞 1人)
B判定:6人
4巡目未受診:6人

25歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 23人の前回検査での判定結果  

A1判定:1人
A2判定:4人(結節 1人、のう胞 3人)
B判定:4人
未受診:14人

30歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された 5人の前回検査での判定結果  (今回、初公表)

A1判定:0人
A2判定:1人(結節 0人、のう胞 1人)
B判定:1人
未受診:3人

メモ:2024年2月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、およびアンケート調査について

  *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。  2024年2月22日に 第50回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会) が、 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。  ...