福島第一原子力発電所の避難区域に置き去りにされた 牛における人工放射性核種の分布


(この記事は、 2013年2月7日にFukushima Voiceオリジナルバージョンに掲載されました。)
http://fukushimavoice.blogspot.ca/2013/02/blog-post.html


東北大加齢医学研究所の福本学教授らのチームによる、福島原発の20キロ圏内で置き去りにされた牛の内部被ばく研究の要点和訳です。


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福島原発事故後、2011年4月22日付けで20キロ圏内には3400頭の牛、31,500匹の豚と63万羽の鶏が残された。5月12日には政府から福島県に避難区域の家畜の安楽死の指示が出た。福島原発事故を受けての放射性セシウムによる慢性被ばくのリスク評価の重要さが研究者によって指摘されていたが、動物モデルの慢性的バイオアッセイが存在しない事も強調されていた。避難区域に残された家畜のほとんどは個別の識別番号によって見分ける事ができるため、放射性核種への慢性被ばくの評価のための動物モデルとして理想的だろうと考えた。放射性核種の生物動力学と内部被ばくの線量評価の基本的な情報を得るために、牛の複数の臓器におけるガンマ線放出体の人工放射性核種を測定し、臓器特異性と代謝を調べた。

2011年8月29日から11月15日の間に、合計79頭の牛を捕獲した。そのうち27頭は南相馬市で、52頭は川内村で捕獲した。63頭はメスの牛(3頭は妊娠中)、10頭はオスの子牛で3頭はメスの子牛だった。

ガンマ線スペクトル分析では、セシウム134と137、銀110m、テルル129mの光電ピークが見られた。(図S1)コントロールとして使われた北海道の牛からは、どのピークも見られなかった。

図S1 牛の臓器内で検出された体内放射性核種のγ線スペクトル分析 pic.twitter.com/cOLIXGPg




表1は各臓器のカウント数から計算された、この4つの放射性核種の濃度である。測定値は全て、大放出が起こった2011年3月15日に減衰補正された。ここではセシウム134とセシウム137を合わせてセシウム137と言及する。セシウム137は筋肉組織での濃度が一番高かった。胸最長筋、大腿2頭筋と咬筋でのセシウム137濃度には統計学的差がなかったので、この3つをまとめて「骨格筋」と分類した。

表1 牛の臓器と末梢血液内のセシウム134、セシウム137、銀110m、テルル129mの濃度




回帰分析によると、末梢血液と臓器のセシウム137濃度の間には線形相関が見られた(図1)ので、臓器内の放射性セシウム濃度は血中濃度から推定できる事が示された。

図1 区画毎の血中セシウム137濃度と臓器内セシウム137濃度の関係  pic.twitter.com/F8UW7S99

   

牛は捕獲された区画によって3つのグループに分けられた。区画1と3は福島原発から北に位置する南相馬市で、区画2は南西に位置する川内村だった。区画1の牛は原発事故後に畜舎の中に置かれ、放射性核種汚染がない牧草と放射性汚染がある雨水を与えられた。区画2と3の牛は、放牧され、事故後に汚染された草を自由に食べた。

表S2は、区画ごとの、牛の臓器内におかるセシウム134とセシウム137濃度を示した。区画1と3は同じ市内であったが、餌の条件が異なった。

 
表S2 牛の臓器内におけるセシウム134とセシウム137の濃度 pic.twitter.com/V03xQiTZ


区画2と3での土壌のセシウム137濃度はほぼ同じであった(表S3)。血中のセシウム137濃度は、区画3が最大で、区画1(汚染牧草を食べなかった)が最小であった。これは、体内に蓄積した放射性核種の濃度は、主に餌の状態と牧場の地理的状況に影響される事を示す。

表S3 土壌と牧草の放射能濃度 pic.twitter.com/jX7HB8cf


母体から胎児への放射性核種の移行は内部被ばくに関しての最大の懸念のひとつである。

捕獲された3頭の妊娠中の牛の、胎児と母牛の放射性セシウム濃度の比較は図2Aに示され、胎児の方が母牛の1.19倍であった。

図2A 胎児と母牛のセシウム137濃度の比較 pic.twitter.com/BtUNIEzo

 

セシウムは胎児と母牛の間を自由に移行し、胎児の全ての組織に均等に分布するとみなされている。すなわち、放射性セシウム濃度は、母牛よりも胎児の方で高かった。銀とテルルは経胎盤性を持つが、銀110mもテルル129mも胎児の臓器には見られなかったので、どちらも母体の臓器に蓄積され、胎児には移らなかった事を示す。

区画2で3組の母牛と子牛を捕獲し、子牛が原発事故後に生まれ、捕獲当時に断乳中であったのを確認した。

図2Bによると、子牛における放射性セシウム濃度は母牛の1.51倍であった。

図2B 子牛と母牛のセシウム137濃度の比較 pic.twitter.com/RQjZf5fq

 


子牛の臓器におけるセシウム137の蓄積は、母牛の該当臓器との相関関係にあるが、母牛よりも濃度が高いという結論に達した。新生児と成人における水と電解物質の代謝はかなり異なるはずであり、餌のカリウム配合量が放射性セシウム濃度に影響を与えるかもしれない。この子牛達が摂取していた母乳と牧草の割合についてのデータはない。

このデータでは、甲状腺のセシウム137蓄積濃度は他の内臓よりも低かった。バンダジェフスキーは、放射性セシウムの蓄積は内分泌器官、特に甲状腺に最大に見られたと報告している。人間と牛の種族間の違いを考慮しなくてはいけないが、放射性セシウムは甲状腺癌発生にあまり影響がないと思われる。

ウクライナの汚染区域の居住者では、膀胱の尿路上皮の慢性炎症と増殖的な異型細胞の発達が報告されている。この研究では、膀胱におけるセシウム137濃度が比較的高かった。肉眼で観察する限り、膀胱に異常は見られなかった。

銀110mは核分裂生成物でないが、安定同位体の銀109の中性子捕獲によって生成される。銀110mは、胎児以外の牛の肝臓で検出された。銀110mとセシウム137の比率は、土壌で0.5%以下、草で5%以下であった(表S3:既出)。

チェルノブイリ事故後の羊の肝臓での銀110m蓄積量と肝臓への移行係数は、セシウム137よりも大きかった。なので、銀110mの肝臓への移行係数は、セシウム137よりも高いことが示される。銀110mの血中濃度と肝臓での濃度に相関関係は見られなかった(論文内6ページ目の図3B)。ラットとネズミにおいては、銀は主にリソソームに関連した組織(リンパ節、肝臓、腎臓や中枢神経)に蓄積する。また銀は肝臓のクッパー細胞に集中して蓄積する。よって、肝臓は、銀110m蓄積の主要なターゲット臓器であると結論づけられる。

測定が原発事故の7ヶ月後だったにも関わらず、牛の腎臓内でテルル129mが明らかに検出された。テルル129mの半減期は33.6日と比較的短いので、腎臓は、テルル129m蓄積のターゲット臓器であると結論づけられる。

原発事故後、大量のテルル132が大気に放出された。最初はテルル129mよりも多くのテルル132が避難区域の土壌で見つかった。テルル129mが腎臓に蓄積されると言う事は、福島原発事故直後に、テルル132もまた腎臓に蓄積した事を示唆する。テルル132の半減期は3.2日で甲状腺に向性を持つ放射性ヨウ素132(半減期2.3時間)に崩壊する。別の研究では、牛に経口投与された放射性テルルが、どの組織よりも甲状腺に多く蓄積したと報告されている。これらの結果は、ヨウ素131と同じくテルル132も甲状腺への健康被害リスクの評価で考慮されるべきだと言う事を示唆する。

現在、様々な種族を代表する組織バンクを作るために、避難区域内での牛を含む動物の組織をさらに収集している。まず最初に、動物に蓄積された放射性核種の線量評価をするつもりである。電離性放射線の影響に直接関連づけられるであろう病巣を探すために、解剖された動物の顕微鏡検査も行われている。この研究は、福島原発事故後の牛における様々なγ線放出核種の臓器特異的蓄積についての最初の報告であり、公共衛生と放射線安全の改善に貢献するはずである。


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