桑原氏の自主的な除染活動と子供たちとの約束


桑原 豊氏(ツイッター上では「桑ちゃん」)は、東京電力福島第一発電所で、技術部技術科調査班や、使用済み燃料作業・PLR配管改造工事・タービン本格点検等の放射線管理者などの仕事に従事した経験を持つ。浪江町から埼玉県に避難中であるが、放射線に関する専門知識を活かし、福島県各地で自主的に放射能測定や除染活動を行なっている。

2013年6月22日に、たまたま福島県伊達市梁川町の「やながわ希望の森公園前駅」を訪れた際、空間線量が高いのが気になった。駅長に頼まれ駅構内を測定した所、空間で1 μSv/hを超えていたため 、早急に除染を開始。翌日の6月23日には、 駅構内およびロータリーを詳しく測定し、人の出入りの多いところから除染をした。

除染前のプラットフォーム(6月22日) 
1cmの地表面線量は最大で10.2 μSv/h、1m高さでの空間線量は最大で1.86 μSv/hだった。



除染後のプラットフォーム(6月23日)



 6月24日に測定された数値に基づいた、駅プラットフォーム付近の線量分布図



6月23日に玄関正面前を除染した後のモニタリング結果 (6月24日測定・撮影)





伊達市梁川町の学校は小中高ともこの「希望の森公園前駅」の近くに集中しており、隣駅「梁川駅」や「保原駅」等からも通って来る。駅前ロータリーの歩道で父兄の迎えを待つ生徒達も多く、コンクリートの縁石に座って待っている。

この線量分布図は、6月22−23日に除染した箇所を6月24日に測定した後に作成された。駅正面玄関の歩道で、生徒達が縁石に座って待っている場所の地表面線量は、γ線のみで0.93 μSv/hだった。




桑原氏は、子供たちに、7月半ばの三連休の最終日である7月15日までに座れる場所を除染しておくように頼まれ、「休み明けにはステーションの出入り口から電話ボックス前まではきれいにしておく。」 という約束を交わした。約束どおりに除染し、子供たちには電話ボックスの先の縁石に座らないように指示してある。やながわ希望の森公園前駅の駅長兼ステーション内の飲食店「八幡」経営者の女性が、子供たちと信頼関係を築いており、常に子供たちに気を配り、縁石に座らないように注意を促している。

大西 淳氏が7月14日に撮影した動画では、桑原氏の丁寧な除染作業の様子がうかがえる。(大西氏は浪江町の高線量の道路ダストを撮影・採取し、海外の分析機関へ送付した人物でもある。詳細はこちら




桑原氏によると、この動画が撮られた時は最後の仕上げをしていた。そして、汗をかくとタイベック防護スーツを通して汚染物がしみこんでしまうので、汗をかかないようにするために、作業着は着ずに下着一枚の上から羽織っていたと言う。ちなみに、タイベック防護スーツ、防災面、マスク、除染用具や線量計などは、すべて自腹で揃えた。除染した土壌は、個人の敷地内のドラム缶に破棄保存してある。

桑原氏は、作業していた期間中は、主に休みの日、もしくは朝4時から通勤時間帯まで、通行人が多い時間帯を避けて除染作業を行なった。休みの日でもクラブ活動のために通学して来た子どもたちに励まされた。小学6年生の女の子は桑原氏の作業を離れて見ていた。7月15日(海の日)は、午後7時半ごろまでかかって、約束どおり何とか終わらせたが、この女の子は最後まで見ていた。帰り際に、「おじちゃん、埼玉に帰っちゃうの?」と聞かれたので,「また来てほしい?」と聞くと、「うん」と頷いたかわいらしさが印象に残っている。

桑原氏は、こう言う。「私がやっていることはほんの少しの行為です。汚染地域から逃げれない子ども達が少しでも被ばく回避できれば、と言う思いでやりました。また、見せることによって、逃げられないならせめて除染方法や防御方法を身につけてほしかったのです。最終的には将来自分達でできるように。かつ、現実を知ってほしいという気持ちもありました。タイベックを着て防災面してマスクしてという姿は異様ですが、これが正式な姿なんだと言うことを強調したかったと言う思いがありました。」

また、「希望の森公園前駅」駅長がこの駅の汚染状況を管轄下である伊達市に報告した時の伊達市の対応は、駅ステーションそのものは伊達市のものだが、ロータリー及び駅構内は関係ないと突っぱねられた。桑原氏は、除染の際に除去した放射能汚染土壌保管用のドラム缶3本を伊達市に要請するように駅長に頼んでいたが、このドラム缶はもらえなかった。伊達市の市民生活部放射能対策課は、住民に放射能の安全性を説くのに忙しいというのが、地元民の印象だと聞く。

ちなみに、伊達市ではホットスポットが存在し、その中でもドキュメンタリー映画「A2-B-C」にも登場する小国小学校は、この動画でも示されているように、除染後でも学校の敷地のすぐ外に高線量スポットがあるのが知られている。

桑原氏は、「子ども達が一番被ばくする通学路の除染に力を注がず、学校構内や公園、ましてやもっと効果の薄い畑や山ばかり除染している。子供の行動を理解していない。この国は、子供が大事と言いながら、やっていることは真逆の行為。」と憤る。

国も行政も行なわない丁寧な除染を、一個人がコツコツと続けている。

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この除染作業には、続きがある。桑原氏は、ただ除染しただけではなく、子供たちが座っていた縁石周辺から除去した物質の放射能測定を行なったのである。

この画像では、検体採取日および採取箇所が記されている。画像内の検体番号は同一となっているが、正しくは、矢印2本で記されている箇所で採取された検体番号は13090402-2である。




下記がその測定結果である。検体採取日は2013年7月2日と表示してあるが、実際には2013年7月12日だった。すべての検体において、放射能測定時間は30分、使用された測定機器は、フランスのITech社の高純度ゲルマニウム半導体測定器およびInterWinnerスペクトル分析プログラムである。

最初の測定結果は、検体番号13090402-2の検体のもので、上の画像内で、駅正面玄関により近い場所の縁石付近から採取された土である。
驚くべきことに、セシウム134が22,200 Bq/kg、そしてセシウム137が50,100 Bq/kg だった。このような汚染度の土がある所に、子供たちは座っていたのであるが、子供たちの生殖器官が、β線とγ線(セシウム134はβ線とγ線を放出して安定同位体のバリウム134になる。セシウム137はβ線を放出してバリウム137の準安定同位体のバリウム137mに崩壊し、半減期が3分弱のバリウム137mがγ線を出す。)照射されていた可能性がある。


次の測定結果は、同じ土の検体を、ゼオライトでセシウムを吸収させ、それをアルカリと酸性の溶液で化学反応で取り除いた方法で処理したものである。セシウム134が1,190 Bq/kg、そしてセシウム137が2,580 Bq/kg だった。処理前と比較して、約20分の1に減少している。


最後の測定結果は、上の画像の、駅正面玄関からより遠い場所の縁石の上の土とコンクリートが混ざった検体である。
セシウム134が6,080 Bq/kgでセシウム137が14,000 Bq/kg と、土のみの検体と比較すると、約3割だった。


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下記は、除染用具および除染箇所の線量の詳細である。

除染用具


縁石のγ線量 1.73 μSv/h


縁石のβ線量とγ線量 3.649 μSv/h







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