浪江町の道路のダストの放射能分析


大西 淳氏が採取したダストサンプルが米国で分析されたので、その結果をここに公表する。

大西氏より:
この検体を採取した正確な場所は、経度緯度情報で「37.4752 140.9461」です。
住所はビデオの冒頭、電信柱の表記で確認できます。
 浪江町小野田字清水102-1 
 清水寺前(せいすいじ)前です。

 
2013.4.1より浪江町の警戒区域が再編され『避難指示解除準備区域』『居住制限区域』
『帰宅困難区域』に指定されています。

浪江町小野田地区は『居住制限区域』に指定されていて、許可等を受けなくても立ち入りが可能な場所です。検体採取地点の西にすすむと50mほどで通行止めのバリケードがあり、『帰宅困難区域』となります。

ビデオ (86.09μSv/h 浪江町小野田 路上ホコリの上1cmで 2013.4.6 )
 "2013.4.6 Namie street dust 86.09 μSv/h at 1 cm above ground"

チャンネル(Truth we must face)

大西 淳

*****

浪江町の道路のダストの放射能分析

2013年5月31日



マルコ・カルトーフェン
ボストン・ケミカル・データ・コーポレーション

米国マサチューセッツ州ワーチェスター市
ワーチェスター・ポリテクニック研究所
土木工学・環境工学部

メールアドレス: Kaltofen@wpi.edu


アブストラクト

福島第一原発事故現場から約10kmに位置する道路のダストのサンプルを受け取った。この道路は、福島県双葉郡浪江町にある。ここは『居住制限区域』内であり、『帰宅困難区域』のすぐ傍である。ダストのサンプルは、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析(SEM/EDS)、そしてNaI(ヨウ化ナトリウム)ガンマ線スペクトルメーターを用いて分析された。ブルーセンシティブなX線フィルムを用いたオートラジオグラフも用意された。サンプルからは、Cs-134とCs-137が合計で1,500 Bq/g、そしてCo-60が0.3 Bq/g検出された。オートラジオグラフィーによると、このサンプルの放射性は均一していた。走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析によると、ミネラル物質の大きめの凝集体の合間に、核分裂生成物と思われる粒子が広範囲に渡って分布しているのが分かった。

紹介と方法

浮遊ダストは高濃度の放射性同位体を含む単離した個々の粒子として放射性物質を運ぶことができる。ダストのサンプル内での個々の粒子の比放射能は、周囲の粒子よりもかなり高い場合がある。この比放射能が高い粒子はホットパーティクルと呼ばれ、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析 (SEM/EDS)を用いて単離した上で分析できる。

浪江町のダストサンプルの一部は、導電性テープを用いてガラスのスライドの上に固定され、炭素でコーティングされて、LEO/BrucherのSEM / EDSシステムを用いて走査された。電子顕微鏡分析は、リチウムドリフト型シリコン半導体検出器を用いて行なわれた。SEM/EDS分析はすべて、マサチューセッツ州チェルムズフォード市のMicrovision Labsで行なわれた。電子ビームの電流は0.60 nAmperesで、0.5以下から60 keVの電圧で加速された。後方散乱した電子が検出され、相互作用する原子核の原子番号によってコントラスト画像が決まる。電子ビームとの相互作用により励起状態になったイオンから特定X線が放射される。この特定X線は、リチウムドリフト型のシリコン検出器で検出される。

SEM/EDS では、元素の原子核が安定しているか不安定(放射性)であるかの区別がつない。粒子に放射性物質が含まれているかどうかを決めるには、さらに情報が必要である。ウラン、トリウムやプルトニウムなどの元素では、放射性同位体しか知られていない。鉛、イットリウムと多くのレアアースのような元素は放射性と安定同位体両方が知られている。安定同位体と放射性同位体の両方を持つ元素では、ガンマ線スペクトロメトリによって大量の粒子状サンプル内での放射性同位体の存在を確認できる。この分析では、最初のガンマ線スペクトロメトリ解析は、10〜2060 keVの測定範囲と銅と鉛の多重遮断を持つ、AmptekのCdTe(テルル化カドミウム)ガンマ線検出器とマルチ・チャンネル・アナライザーを用いて行なわれた。実験室での詳細なガンマ線スペクトロメトリ解析は、Ortechの2インチのNaI(ヨウ化ナトリウム)ガンマ線検出器と鉛遮断を用いて行なわれた。

結果と考察

この分析では、損傷を受けた核燃料から放出される核分裂生成物に焦点を当てた。福島県で放射能汚染されたダストで最もよく見つかる核分裂生成物にはセシウム134とセシウム137が含まれる。原子炉から生じる副産物には、重い元素(原子量125〜155)と軽い元素(原子量80〜110)がある。これらの中には、軽い放射性同位体である元素のイットリウムや銀、そして重い同位体であるスズ、アンチモン、セシウム、セリウム、ネオジム、ランタンなどがある。SEM/EDSにより、これらすべての放射性同位体が10μmほどの微粒子として、このダストサンプルから検出された。この少量(100 mg)のダストサンプルからSEM/EDSで検出された粒子は、例えば、トリウムを含むレアアースの粒子、チタン酸鉛とイットリウム・ランタノイドの粒子などであった。これらは、2μm〜10μmのサイズだった。

道路のダストはまた、ヨウ化カリウムガンマ線スペクトロメトリでも分析された(図1参照)。サンプルからは、オートラジオグラフが用意された(図2参照)。ガンマ線スペクトロメトリでは、100 mgのサンプルで、放射性セシウム(セシウム134とセシウム137)とウラン娘核種がが合計153 Bq検出された。これは1グラムにつき1530 Bq、すなわち、1.5 MBq/kgということになる。コバルト60は0.3 Bq/gだった。ガンマ線スペクトロスコピーによって検出されたウラン娘核種で最も多かったのは、ラジウム226だった。(図1参照)

ダストサンプルには、鉛、イットリウムと様々なレアアースとトリウムを含む粒子が大量に含まれていた。これらの鉛とレアアースの粒子の中には、1〜2μmという吸入可能なサイズ範囲のものがあった。(図3、4、5の例を参照)

このダストは、福島第一原発周辺の「帰宅困難区域」から50mほどの場所で採取された。たまに、風に飛ばされた黒い堆積物で、放射性セシウムや他の放射性同位体の濃度が普通よりも高いものが少量見つかったとの報告がある。今回は初めて、周囲の土壌やダストと明らかに異なって放射能レベルが高いサンプルを検査することができた。このサンプルからは、我々の実験室がこれまでに分析した200あまりのダストと土壌のサンプルの中で、最大のラジウム226が検出された。

検体が単独(そして微量)のダストサンプルであるために、この分析には限度がある。このサンプルが浪江町全体を代表するというわけではない。このデータが示しているのは、道路のダストで単離されたものが、周囲の一般的な状況よりもはるかに高い放射能レベルに達することができるということである。

単独のサンプルからは、なぜ少量の道路のダストサンプルの放射能汚染が周囲の物質と比べてひどかったのかを説明できるデータを十分に得られない。明らかに、何らかの環境的メカニズムによって、この放射能汚染度が強いダストが、土壌に分散したり雨で流されたりせずに分離されたままの状態にある。この放射性ダストが分散しにくいと言うことを考慮すると、この分析からは、小さくて局部的な放射能ホットスポットが、東日本大震災とその後の放射能漏れから何ヶ月も何年も経ってからでも持続し得るということが示唆される。

著者開示告知

著者は、経済的利益相反が存在しないことを宣言する。著者はこの分析で使用されたサンプルの提供者である大西淳氏の努力に対して深謝を述べる。


図1:浪江町の道路のダストのヨウ化ナトリウムガンマ線スペクトラム



図2:浪江町ダストサンプルのX線フィルムのオートラジオグラフ(右)とスケール化された天然色スキャン(左)  




 
図3:大きな塊の中に埋め込まれている鉛の粒子の、ロビンソン検出器を用いた走査型電子顕微鏡写真と、粒子の元素構成比率のグラフ






図4:大きな塊の中に埋め込まれているトリウムを含んだ粒子の、ロビンソン検出器を用いた走査型電子顕微鏡写真と、粒子の元素構成比率のグラフ



図5:大きな塊の中に埋め込まれているイットリウム・ランタノイドの粒子の、ロビンソン検出器を用いた走査型電子顕微鏡写真と、粒子の元素構成比率のグラフ




カルトーフェン報告書和訳 平沼百合
PDF https://docs.google.com/file/d/0B3fFCVXEJlbvYURON25Bamp3akE/edit
カルトーフェン報告書英語PDF https://docs.google.com/file/d/0B3fFCVXEJlbvbTFUdWFoekRhaDQ/edit
英語記事 http://fukushimavoice-eng2.blogspot.com/2013/06/radiological-analysis-of-namie-street.html


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