2011年ウクライナ政府報告書
ウクライナ政府がチェルノブイリ事故の25年後に出した報告書の英訳版より、 事故処理作業員や住民とその子供達の健康状態に関する部分から抜粋和訳したものを、下記のように6部に分けて掲載する。また、他のサイトで和訳がされている部分もあるが、英訳版の原文で多く見られる不明確な箇所がそのまま和訳されていた。ここでは、医学的に意味が通るように意訳をした。
1. 避難当時に子供だった人達の健康状態
立ち入り禁止区域から避難した子供達の健康状態の動向
2. 甲状腺疾患
小児における甲状腺の状態
小児における甲状腺の状態
ウクライナの小児における甲状腺癌
3. 汚染区域に居住する集団の健康についての疫学調査
●確率的影響
●非癌疾患
●非癌死亡率
●非癌疾患
●非癌死亡率
4. 被ばくによる初期と長期の影響
●急性放射線症
●放射線白内障とその他の眼疾患
●免疫系への影響
5. チェルノブイリ事故の複雑要因の公衆衛生への影響
●神経精神的影響
6. ●心血管疾患
●呼吸器系疾患
●消化器系疾患
●血液疾患
*****
3. 汚染区域に居住する集団の健康についての疫学調査
●確率的影響
●非癌疾患
●確率的影響
●非癌疾患
●非癌死亡率
http://www.dailymotion.com/video/xtx7lk_yyyyyyyyy-2-yyyyyyyyy_news#.UeeUqFO9wYw
この動画の完全文字起こしは、「MICKEYのブログ」を参照。 http://blogs.yahoo.co.jp/ueda_beck/9785121.html
汚染区域に居住する集団の健康についての疫学調査
確率的影響
確率的影響
次の図3.45は、汚染が最大だった地域での甲状腺癌の罹患率の動態を反映している。
●汚染が最大だった地域の住民における事故前(1980−1986年)の甲状腺癌の罹患率は、10万人対で1.2だった。
●事故後、甲状腺癌は急激に増加し、1987−1991年には2倍に、1992−1996年には4.5倍、そして1997−2001年には8.3倍になった。
●2002−2007年の罹患率がその前の時期より34.1%減ったのは、子供を持つ若い家族などの、甲状腺癌のリスクが一番高い集団の汚染地域からの移住などを含む複雑な要因のせいであろうと思われる。また、最小年齢で被ばくしたグループにおける放射線リスクの時期が終わった可能性があることを指摘することも必要である。
チェルノブイリ事故の影響による甲状腺癌の罹患率をウクライナ全体と比べると、避難住民では4.4倍、最も汚染がひどい地域の住民では1.35倍と、際立っていた(表3.30)。これは、甲状腺の放射性ヨウ素への被ばくに関連している。
長期モニタリングの分析によると、被ばくした集団での他の悪性腫瘍の罹患率は、国全体の罹患率を超えなかった。避難住民と汚染区域の住民のほとんどでは、この罹患率はウクライナ全体よりもかなり低かった(表3.31)。
避難住民と汚染区域の住民における乳癌の発症率は国全体より低かったが、実際の症例数には増加傾向があった(表3.32)。乳癌を発症した女性らは、事故前には乳癌の罹患率が比較的低い地域に住んでいたことを念頭に置くべきである。
非癌疾患
チェルノブイリ事故後25年間で実施された調査によると、避難者の健康状態は避難後にかなり悪化した。障害と死亡率の主要因は非癌疾患である。非癌疾患のために、1988年から2008年にかけて、避難者の中で健康な人は、67.7%から21.5%に減少し、慢性疾患を持つ人は31.5%から78.5%に増加した(図3.46)。
●5年ごとの非癌疾患罹患率の変化の疫学的分析(図3.47)によると、疾患が最も多く起こったのは、1998年から2002年だった。
●1998年から2007年の期間にかけてのほとんどの疾患罹患率のゆるやかな減少は、前半では新たに診断された疾患が含まれているのと、コホートの中で死亡した人達がいたと言う可能性がある。
●しかしながら、事故当時に0−14歳、そして15−18歳の子供として被ばくした人々においての非癌疾患の発達は、まだ持続している。低線量の放射線の非癌疾患の発達(低線量電離性放射線の長期にわたる影響)と、放射線以外の要因も排除できない。
1988年から2007年の間に、避難者の非癌疾患罹患率には個々の病気の種類や疾病分類学的カテゴリーにかなりの変化がみられた。
2003−2007年期には、それまでの期間すべてと比較して、中毒性結節性甲状腺腫の罹患率がかなり増加した。1988−1992年期と1993−1997年期よりも統計学的に有意な増加がみられたのは、後天性甲状腺機能低下症と肝臓・胆道系・膵臓を含む消化器系疾患であった。甲状腺炎、自律神経血管失調症を含む神経系と感覚器官の疾患、脳血管疾患、呼吸器系疾患、胃潰瘍と十二指腸潰瘍、泌尿器系と筋骨格系疾患の罹患率がかなり超えたのは、1988−1992年期のレベルのみだった。その他の疾患では、統計学的に低い結果がみられた。
似た様な変化は、非癌疾患の構成にもみられた(図3.48)。
●5年ごとの非癌疾患罹患率の変化の疫学的分析(図3.47)によると、疾患が最も多く起こったのは、1998年から2002年だった。
●1998年から2007年の期間にかけてのほとんどの疾患罹患率のゆるやかな減少は、前半では新たに診断された疾患が含まれているのと、コホートの中で死亡した人達がいたと言う可能性がある。
●しかしながら、事故当時に0−14歳、そして15−18歳の子供として被ばくした人々においての非癌疾患の発達は、まだ持続している。低線量の放射線の非癌疾患の発達(低線量電離性放射線の長期にわたる影響)と、放射線以外の要因も排除できない。
1988年から2007年の間に、避難者の非癌疾患罹患率には個々の病気の種類や疾病分類学的カテゴリーにかなりの変化がみられた。
2003−2007年期には、それまでの期間すべてと比較して、中毒性結節性甲状腺腫の罹患率がかなり増加した。1988−1992年期と1993−1997年期よりも統計学的に有意な増加がみられたのは、後天性甲状腺機能低下症と肝臓・胆道系・膵臓を含む消化器系疾患であった。甲状腺炎、自律神経血管失調症を含む神経系と感覚器官の疾患、脳血管疾患、呼吸器系疾患、胃潰瘍と十二指腸潰瘍、泌尿器系と筋骨格系疾患の罹患率がかなり超えたのは、1988−1992年期のレベルのみだった。その他の疾患では、統計学的に低い結果がみられた。
似た様な変化は、非癌疾患の構成にもみられた(図3.48)。
●1988年の非癌疾患の分類の大半(91.4%)は、 心血管系疾患、 呼吸器系疾患、消化器系疾患、神経系と感覚器官の疾患、筋骨格系疾患、内分泌系疾患、そして 泌尿生殖器系疾患で占められていた。
●2007年には同じ疾患が大半を占めていたが、構成の中での順番が変わった。心血管系疾患の貢献が減少して2番目となり、消化器系疾患が1番となった。呼吸器系疾患が占める割合が減ったが、神経系と感覚器官の疾患、そして内分泌系と泌尿器系疾患も幾分か増加した。
非癌疾患の有病率と罹患率の動態には性別による違いがみられ、女性は男性よりも有病率が20.0%高く、罹患率が30.9%高かった(図3.49)。
有病率の最大の違いは、甲状腺疾患(1.6倍)を含む、内分泌系疾患でみられた。
●女性では、中毒性結節性甲状腺腫、甲状腺中毒症、後天性甲状腺機能低下症を伴う、または伴わない甲状腺腫、そして甲状腺炎は、2倍以上だった。また、糖尿病(1.8倍)と泌尿生殖器系疾患(2.1倍)が多かった。女性における白内障は1.7倍で、脳血管系疾患は1.5倍だった。しかし、胃潰瘍と十二指腸潰瘍の罹患率は男性の方が高かった。
新しく診断された疾患数によると、女性で過剰にみられたのは、後天性甲状腺機能低下症(3.3倍)、甲状腺中毒症(3.6倍)、非中毒性結節性甲状腺腫(2.8倍)を含む甲状腺疾患(2倍)だった。2倍以上みられたのは、白内障、脳血管系疾患、肝臓・胆道系・膵臓疾患と泌尿器系疾患だった。どの時期でも、非癌疾患は、40歳未満コホートよりも40歳以上コホートで、もっと多くみられた(図3.50)。
特に、冠動脈疾患と脳血管疾患を含む、心血管系疾患のレベルに大きな違いがみられた(図3.51)。
甲状腺疾患の中には、動態にかなりの変化がみられたものもあった。1993−1997年期以来、非中毒性結節性甲状腺腫、後天性甲状腺機能低下症と甲状腺炎は、40歳以上コホートにおいてより多くみられている(図3.52)。
甲状腺と全身に被ばくを受けた成人の避難者においての非癌疾患には、線量に関連する著しい影響がみられた。
●甲状腺被ばく量の0.3 Gy以上2.0 Gy未満では、冠動脈心疾患と脳血管疾患を含む心血管系疾患と筋骨格系疾患と線量の間に確かな関連がみられた。
●甲状腺被ばく量が2.0 Gyに近づくにつれ、上記の疾患のリスクが増加し、また、精神疾患と消化器系疾患のリスクが確かであることが示された(表3.33)。
全身外部被ばく量は、避難者における非癌疾患の発達に著しい影響を与えた。
●リスク分析の結果によると、非癌疾患の中には、相対リスク(RR)の増加がみられたものもあり、被ばく量が増えるに従ってリスクが増加した。ほとんどの疾患においての最大のリスクは、0.25-0.32 Gyの被ばく量でみられた(表3.34)。
●対照群と比較すると、統計学的に確定されたリスクを持つ疾患が一番少なかったのは、全身被ばく線量が0.05−0.099 Gyのサブコホートだった。全身被ばく線量が0.1−0.249 Gyに増えるにつれ、白内障、本態性高血圧、脳血管疾患や泌尿器系疾患などの、相対リスクがかなり大きな疾患の数が増えた。
●被ばく線量と確かな相関性を持つ非癌疾患の数が一番多かったのは、全身被ばく線量が0.25−0.32 Gyのサブコホートだった。統計学的に有意な相対リスクは、甲状腺疾患、白内障、冠動脈系心疾患、脳血管疾患、胃炎、十二指腸炎、肝臓・胆管系疾患、膵臓疾患、泌尿器系と前立腺疾患、骨疾患、と軟骨疾患でみられた。被ばく線量の増加と共に、相対リスクの値が大きくなった。
●1 Gyあたりの過剰相対リスクと過剰絶対リスクの計算結果は、成人の避難者における非癌疾患の一部に確かな線量依存性を証明した。
●全身被ばく量が0.25−0.32 Gyと最大である避難者における過剰絶対リスクが最大だと確定されたのは、冠動脈系心疾患、本態性高血圧、肝臓・胆管系疾患と筋骨格系疾患だった。また、過剰絶対リスクが高かったのは、甲状腺を含む内分泌系疾患、泌尿器系疾患、骨疾患と軟骨疾患だった。
●1 Gyあたりの過剰相対リスクの計算結果は、また、成人の避難者の集団における非癌疾患の一部に確かにみられる線量依存性を証明するものである。過剰相対リスクは、白内障で最大のであった。また、過剰相対リスクが大きかったのは、糖尿病、甲状腺炎、脳血管疾患、泌尿器系疾患と前立腺疾患だった。
ウクライナでの研究では、放射線被ばくは、加齢性白内障、黄斑変性や網膜血管障害を含む加齢性眼疾患の発達を加速したことが証明された。被ばく線量は、加齢と相乗効果を持つ要因である。
●加齢性白内障の相対リスクは、被ばく年数1年につき1.139(1.057, 1.228)であり、 年齢1歳につき2.895(2.529, 3.313)、dが被ばく線量(Gy)でtが被ばく年数であるところの1√(d * t)につき1.681(1.033, 2.735)である。
●黄斑変性の相対リスクは、年齢1歳につき1.727(1.498, 1.727)、dが被ばく線量(Gy)でtが被ばく年数であるところの1√(d * t)につき6.453(3.115, 13.37)である。
●網膜血管障害の罹患率の線量依存性が初めて示された。30−70 cGy(注:0.3−0.7 Gy)を被ばくした集団における網膜血管障害の罹患率を、0.3 Gyを被ばくした集団と比較した相対リスクは、1.65(1.02, 2.67)で、x2=4.15、p=0.041だった。
非癌死亡率
疫学調査の結果によると、成人の避難者における非癌疾患の死亡率は1988ー2007年期には、緩やかに増加した。最大の死亡率は、2003−2007年期にみられ(図3.53)、この頃には男性と女性の死亡率がほぼ同じになった。
●観察期間全体を通して、心血管疾患が45 %から83 %を占めて最大の死亡率に貢献し、2007年には89%まで到達した(図3.54)。
成人の避難者の死亡率に貢献している他の疾患は、呼吸器系疾患(1.3%から12.5%)、消化器系疾患(0.7%から8.1%)、そして神経系・感覚器官の疾患(0.2%から4.0%)だった。
●心血管系疾患の中で一番多かったのは、冠動脈系心疾患(39.5%)だった。2007年には、冠動脈系心疾患による死亡率は男性の66%、女性の60.3%でみられた。また、心血管系疾患の中で、本態性高血圧症は11%、脳血管系疾患は3.4%を占めた。心血管系疾患、特に冠動脈系心疾患は主な死因であるが、2003−2007年期の避難者における心血管系疾患による死亡率(1000人年につき11.8±0.22)は、1988−1992年期当初(1000人年につき6.9±0.2)のほぼ2倍である。本態性高血圧症による死亡率は、最初の3期間ではほぼ同じであったが、2003−2007年期において著しく増加した(図3.55)。
●死亡率の顕著な増加は、また、神経系・感覚器官の疾患、呼吸器系疾患(主に肺気腫を伴う慢性気管支炎)と消化器系疾患(主に肝・胆道系・膵臓疾患)でみられた。内分泌系疾患による死亡率は、主に糖尿病によるものだった。
●泌尿生殖系疾患、筋骨格系疾患、皮膚・皮下組織疾患と精神障害による死亡率は、観察期間全体を通して最小限であった。
死亡率の性別による分析では、男性の死亡率の方が高かった。しかし、2003−2007年期では、男性と女性の死亡率はほぼ同じであった(図3.53参照)。
死亡率はかなり年齢に依存し、40歳未満コホートでは、どの観察期間でも40歳以上コホートよりも低かった。しかし、死亡率はどちらのコホートでも徐々に増加し、2003−2007年期で最大だった。
●死亡率の年齢による最大の差は心血管疾患でみられた。40歳以上コホートでは、2003−2007年期の心血管疾患、そして本態性高血圧症と冠動脈系心疾患による死亡率は、それ以前のどの観察期間よりも大きかった。脳血管疾患の死亡率は、観察期間全体を通してほぼ同じだった(図3.56)。
●2007年には同じ疾患が大半を占めていたが、構成の中での順番が変わった。心血管系疾患の貢献が減少して2番目となり、消化器系疾患が1番となった。呼吸器系疾患が占める割合が減ったが、神経系と感覚器官の疾患、そして内分泌系と泌尿器系疾患も幾分か増加した。
非癌疾患の有病率と罹患率の動態には性別による違いがみられ、女性は男性よりも有病率が20.0%高く、罹患率が30.9%高かった(図3.49)。
有病率の最大の違いは、甲状腺疾患(1.6倍)を含む、内分泌系疾患でみられた。
●女性では、中毒性結節性甲状腺腫、甲状腺中毒症、後天性甲状腺機能低下症を伴う、または伴わない甲状腺腫、そして甲状腺炎は、2倍以上だった。また、糖尿病(1.8倍)と泌尿生殖器系疾患(2.1倍)が多かった。女性における白内障は1.7倍で、脳血管系疾患は1.5倍だった。しかし、胃潰瘍と十二指腸潰瘍の罹患率は男性の方が高かった。
新しく診断された疾患数によると、女性で過剰にみられたのは、後天性甲状腺機能低下症(3.3倍)、甲状腺中毒症(3.6倍)、非中毒性結節性甲状腺腫(2.8倍)を含む甲状腺疾患(2倍)だった。2倍以上みられたのは、白内障、脳血管系疾患、肝臓・胆道系・膵臓疾患と泌尿器系疾患だった。どの時期でも、非癌疾患は、40歳未満コホートよりも40歳以上コホートで、もっと多くみられた(図3.50)。
甲状腺疾患の中には、動態にかなりの変化がみられたものもあった。1993−1997年期以来、非中毒性結節性甲状腺腫、後天性甲状腺機能低下症と甲状腺炎は、40歳以上コホートにおいてより多くみられている(図3.52)。
甲状腺と全身に被ばくを受けた成人の避難者においての非癌疾患には、線量に関連する著しい影響がみられた。
●甲状腺被ばく量の0.3 Gy以上2.0 Gy未満では、冠動脈心疾患と脳血管疾患を含む心血管系疾患と筋骨格系疾患と線量の間に確かな関連がみられた。
●甲状腺被ばく量が2.0 Gyに近づくにつれ、上記の疾患のリスクが増加し、また、精神疾患と消化器系疾患のリスクが確かであることが示された(表3.33)。
●リスク分析の結果によると、非癌疾患の中には、相対リスク(RR)の増加がみられたものもあり、被ばく量が増えるに従ってリスクが増加した。ほとんどの疾患においての最大のリスクは、0.25-0.32 Gyの被ばく量でみられた(表3.34)。
●対照群と比較すると、統計学的に確定されたリスクを持つ疾患が一番少なかったのは、全身被ばく線量が0.05−0.099 Gyのサブコホートだった。全身被ばく線量が0.1−0.249 Gyに増えるにつれ、白内障、本態性高血圧、脳血管疾患や泌尿器系疾患などの、相対リスクがかなり大きな疾患の数が増えた。
●被ばく線量と確かな相関性を持つ非癌疾患の数が一番多かったのは、全身被ばく線量が0.25−0.32 Gyのサブコホートだった。統計学的に有意な相対リスクは、甲状腺疾患、白内障、冠動脈系心疾患、脳血管疾患、胃炎、十二指腸炎、肝臓・胆管系疾患、膵臓疾患、泌尿器系と前立腺疾患、骨疾患、と軟骨疾患でみられた。被ばく線量の増加と共に、相対リスクの値が大きくなった。
●1 Gyあたりの過剰相対リスクと過剰絶対リスクの計算結果は、成人の避難者における非癌疾患の一部に確かな線量依存性を証明した。
●全身被ばく量が0.25−0.32 Gyと最大である避難者における過剰絶対リスクが最大だと確定されたのは、冠動脈系心疾患、本態性高血圧、肝臓・胆管系疾患と筋骨格系疾患だった。また、過剰絶対リスクが高かったのは、甲状腺を含む内分泌系疾患、泌尿器系疾患、骨疾患と軟骨疾患だった。
●1 Gyあたりの過剰相対リスクの計算結果は、また、成人の避難者の集団における非癌疾患の一部に確かにみられる線量依存性を証明するものである。過剰相対リスクは、白内障で最大のであった。また、過剰相対リスクが大きかったのは、糖尿病、甲状腺炎、脳血管疾患、泌尿器系疾患と前立腺疾患だった。
ウクライナでの研究では、放射線被ばくは、加齢性白内障、黄斑変性や網膜血管障害を含む加齢性眼疾患の発達を加速したことが証明された。被ばく線量は、加齢と相乗効果を持つ要因である。
●加齢性白内障の相対リスクは、被ばく年数1年につき1.139(1.057, 1.228)であり、 年齢1歳につき2.895(2.529, 3.313)、dが被ばく線量(Gy)でtが被ばく年数であるところの1√(d * t)につき1.681(1.033, 2.735)である。
●黄斑変性の相対リスクは、年齢1歳につき1.727(1.498, 1.727)、dが被ばく線量(Gy)でtが被ばく年数であるところの1√(d * t)につき6.453(3.115, 13.37)である。
●網膜血管障害の罹患率の線量依存性が初めて示された。30−70 cGy(注:0.3−0.7 Gy)を被ばくした集団における網膜血管障害の罹患率を、0.3 Gyを被ばくした集団と比較した相対リスクは、1.65(1.02, 2.67)で、x2=4.15、p=0.041だった。
非癌死亡率
疫学調査の結果によると、成人の避難者における非癌疾患の死亡率は1988ー2007年期には、緩やかに増加した。最大の死亡率は、2003−2007年期にみられ(図3.53)、この頃には男性と女性の死亡率がほぼ同じになった。
●観察期間全体を通して、心血管疾患が45 %から83 %を占めて最大の死亡率に貢献し、2007年には89%まで到達した(図3.54)。
成人の避難者の死亡率に貢献している他の疾患は、呼吸器系疾患(1.3%から12.5%)、消化器系疾患(0.7%から8.1%)、そして神経系・感覚器官の疾患(0.2%から4.0%)だった。
●心血管系疾患の中で一番多かったのは、冠動脈系心疾患(39.5%)だった。2007年には、冠動脈系心疾患による死亡率は男性の66%、女性の60.3%でみられた。また、心血管系疾患の中で、本態性高血圧症は11%、脳血管系疾患は3.4%を占めた。心血管系疾患、特に冠動脈系心疾患は主な死因であるが、2003−2007年期の避難者における心血管系疾患による死亡率(1000人年につき11.8±0.22)は、1988−1992年期当初(1000人年につき6.9±0.2)のほぼ2倍である。本態性高血圧症による死亡率は、最初の3期間ではほぼ同じであったが、2003−2007年期において著しく増加した(図3.55)。
●死亡率の顕著な増加は、また、神経系・感覚器官の疾患、呼吸器系疾患(主に肺気腫を伴う慢性気管支炎)と消化器系疾患(主に肝・胆道系・膵臓疾患)でみられた。内分泌系疾患による死亡率は、主に糖尿病によるものだった。
●泌尿生殖系疾患、筋骨格系疾患、皮膚・皮下組織疾患と精神障害による死亡率は、観察期間全体を通して最小限であった。
死亡率の性別による分析では、男性の死亡率の方が高かった。しかし、2003−2007年期では、男性と女性の死亡率はほぼ同じであった(図3.53参照)。
死亡率はかなり年齢に依存し、40歳未満コホートでは、どの観察期間でも40歳以上コホートよりも低かった。しかし、死亡率はどちらのコホートでも徐々に増加し、2003−2007年期で最大だった。
●死亡率の年齢による最大の差は心血管疾患でみられた。40歳以上コホートでは、2003−2007年期の心血管疾患、そして本態性高血圧症と冠動脈系心疾患による死亡率は、それ以前のどの観察期間よりも大きかった。脳血管疾患の死亡率は、観察期間全体を通してほぼ同じだった(図3.56)。
●40歳未満コホートで死亡率の確かな増加がみられているのは、本態性高血圧症のみだった。冠動脈系心疾患と脳血管疾患による死亡率は、観察期間全体を通してほぼ同じだった。
●どちらの年齢コホートでも、神経系・感覚器官の疾患、呼吸器系疾患、消化器系疾患による死亡率がかなり増加したが(図3.57)、死亡率は40歳以上コホートにおいての方がさらに高かった。
●さらに、40歳以上コホートでは胃潰瘍・十二指腸潰瘍による死亡率が、40歳未満コホートでは気管支喘息による死亡率が著しく増加した。
●1993−1997年期と2003−2007年期では、どちらの年齢コホートでも甲状腺疾患による死亡率がみられたが、1993−1997年期では40歳以上コホートで高く(40歳以上コホート:0.11±0.03、40歳未満コホート:0.04±0.02)、2003−2007年期では40歳未満コホートで高かった(40歳以上コホート:0.007±0.005、40歳未満コホート:0.02±0.01)。甲状腺疾患による死因は、甲状腺腫を伴う、または伴わない甲状腺中毒症だった。
全身外部被ばく線量による非癌疾患死亡率のリスクの研究によると、疾患の種類によっては線量依存性がみつかった。絶対リスク、相対リスク、過剰絶対リスク、過剰相対リスクの推計によると、相関性が一番みられたのは冠動脈系心疾患を含む心血管系疾患、消化器系疾患、泌尿器系疾患(特に前立腺疾患)だった。心血管系疾患による死亡率の絶対リスクと相対リスクの最大値は、0.2−0.49 Gyの線量区分でみられた。
●統計学的に有意な1 Gyあたりの過剰絶対リスク(EAR、1000人年Gyあたり)は、冠動脈系心疾患を含む心血管系疾患と消化器系疾患でみられた(表3.35)。
●0.25−0.32 Gyの線量区分では、心血管疾患による死亡率の過剰絶対リスクが最大だった。ほとんど同じレベルの過剰絶対リスクは、また別に、冠動脈系心疾患でもみられた。消化器系疾患による過剰絶対リスクは、その半分だった。
内分泌系疾患、虚血性心疾患、胃炎・十二指腸炎、泌尿器系疾患と前立腺癌による過剰死亡率は、1 Gyあたりの過剰相対リスク(ERR、Gyあたり)により確証された(表3.36)。
●1 Gyあたりの過剰相対リスクは、明らかに、冠動脈系心疾患、前立腺疾患と泌尿器系疾患でみられた。内分泌系疾患による過剰死は、そのほぼ半分だった。
ここで記述された、成人の避難者における非癌疾患の罹患率と死亡率の線量依存性の評価の結果は決定的ではなく、いわゆる複雑要因(年齢、不健康な習癖、不健康な職場環境、栄養不足や運動不足、心理社会学的ストレスなど)の影響を調査するための研究をさらに必要とするものである。しかし、0.3 Gyを超える(特に2.0 Gy以上)甲状腺被ばく量と0.05 Gyを超える(特に0.25 Gy以上)全身被ばく量は、非癌疾患の一部において線量依存性の発達を促していると言える。これらのデータは、他国(ロシア、ベラルーシ、日本)で被ばくした集団において実施された研究と一致するものである。
●1993−1997年期と2003−2007年期では、どちらの年齢コホートでも甲状腺疾患による死亡率がみられたが、1993−1997年期では40歳以上コホートで高く(40歳以上コホート:0.11±0.03、40歳未満コホート:0.04±0.02)、2003−2007年期では40歳未満コホートで高かった(40歳以上コホート:0.007±0.005、40歳未満コホート:0.02±0.01)。甲状腺疾患による死因は、甲状腺腫を伴う、または伴わない甲状腺中毒症だった。
全身外部被ばく線量による非癌疾患死亡率のリスクの研究によると、疾患の種類によっては線量依存性がみつかった。絶対リスク、相対リスク、過剰絶対リスク、過剰相対リスクの推計によると、相関性が一番みられたのは冠動脈系心疾患を含む心血管系疾患、消化器系疾患、泌尿器系疾患(特に前立腺疾患)だった。心血管系疾患による死亡率の絶対リスクと相対リスクの最大値は、0.2−0.49 Gyの線量区分でみられた。
●統計学的に有意な1 Gyあたりの過剰絶対リスク(EAR、1000人年Gyあたり)は、冠動脈系心疾患を含む心血管系疾患と消化器系疾患でみられた(表3.35)。
●0.25−0.32 Gyの線量区分では、心血管疾患による死亡率の過剰絶対リスクが最大だった。ほとんど同じレベルの過剰絶対リスクは、また別に、冠動脈系心疾患でもみられた。消化器系疾患による過剰絶対リスクは、その半分だった。
内分泌系疾患、虚血性心疾患、胃炎・十二指腸炎、泌尿器系疾患と前立腺癌による過剰死亡率は、1 Gyあたりの過剰相対リスク(ERR、Gyあたり)により確証された(表3.36)。
●1 Gyあたりの過剰相対リスクは、明らかに、冠動脈系心疾患、前立腺疾患と泌尿器系疾患でみられた。内分泌系疾患による過剰死は、そのほぼ半分だった。
ここで記述された、成人の避難者における非癌疾患の罹患率と死亡率の線量依存性の評価の結果は決定的ではなく、いわゆる複雑要因(年齢、不健康な習癖、不健康な職場環境、栄養不足や運動不足、心理社会学的ストレスなど)の影響を調査するための研究をさらに必要とするものである。しかし、0.3 Gyを超える(特に2.0 Gy以上)甲状腺被ばく量と0.05 Gyを超える(特に0.25 Gy以上)全身被ばく量は、非癌疾患の一部において線量依存性の発達を促していると言える。これらのデータは、他国(ロシア、ベラルーシ、日本)で被ばくした集団において実施された研究と一致するものである。
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