メモ:2020年8月31日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理など

 

*末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節かのう胞)が、一箇所では公式に公表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。

 2020年8月31日に開催された第39回「県民健康調査」検討委員会では予想通り、2020年3月31日時点の年度末の結果が公表された。開催時期からして、本来なら2020年6月末のデータが公表されるべきなのだが、2019年の検討委員会が3回しか開催されなかったことから公表データがずれ始め、同じく3回のみの開催となった2020年も、各回で前回から3ヶ月分のデータしか公表されないままとなっている。検討委員会の開催回数が減っただけでなく、古い時期のデータしか報告されないということがニュー・ノーマルとなってしまい、親委員会であるはずの検討委員会がおざなりにされているという印象を否めない。諸事情で、これを執筆するのが4ヶ月以上経った年明けになってしまったが、2021年1月15日に開催予定である第40回検討委員会では、せめて2020年9月末時点のデータが公表されることを願いたい。

 第39回検討委員会では、2020年6月15日に開催された第15回甲状腺検査評価部会で先行公表された3巡目結果の確定版25歳時節目検査の結果、および2巡目の結果概要(2年ぶりの更新)と4巡目の実施状況が公表された。数字の動きのほとんどは4巡目に関するもので、新たに5人が悪性ないし悪性疑いと診断され、2人が手術で甲状腺乳頭がんと診断された。さらに、2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された71人中、未手術だった19人のうち2人で手術が施行され、いずれも甲状腺乳頭がんと確定したと報告された。(25歳時節目検査での数字の動きは、前回の”メモ”で説明済みである。)

 各検査回の一次・二次検査の結果概要、悪性ないし悪性疑いの人数、平均年齢と平均腫瘍径、および各年度ごとの手術症例の人数は、「参考資料1 甲状腺検査結果の状況」にまとめられている。また、第39回検討委員会の議事録もすでに公表されている。

 全体的には、最近の公表データ(第15回甲状腺検査評価部会で公表された「参考資料1 甲状腺検査結果の状況」を参照)と比べると、悪性ないし悪性疑い例は5人増えて246人(良性1人含む)に、手術で甲状腺がんと確定された症例は、4人増えて200人となっている。

 また、前回の”メモ”では、 「若年型甲状腺癌研究会」という過剰診断論グループについて説明した。このグループには、大津留晶氏(福島医大)、祖父江友孝氏(大阪大学)、髙野徹氏(大阪大学)、津金昌一郎氏(国立がん研究センター)、緑川早苗氏(元・福島医大、現在は宮城学院女子大学)など、現役の委員、元委員、元スクリーニング担当者らが含まれている。このグループの一部として、「こどもを過剰診断から守る医師の会 Save Children from Overdiagnosis」(略称 SCO)というツイッターアカウントが2020年10月に開設されており、髙野氏、緑川氏、大津留氏らによる過剰診断論の周知に拍車がかかっているようである。

 緑川氏と大津留氏に至っては、日本内分泌学会の英文誌『Endocrine Journal』に掲載された福島医大による1〜2巡目の悪性ないし悪性疑い以外の細胞診結果についての論文への反論レターを投稿し、論文内での「過剰治療」という言葉の使い方が間違っているとの持論を展開し、最終的には学校検査の中止の提言までしている。しかし、過剰診断ありきの論調は、論理破綻しているようにしか読めない。

 さらに、髙野氏が、2019年6月に米国病理医学会の学術誌『Archives of Pathology and Laboratory Medicine』に掲載されたレターで、過剰診断が福島の子どもたちを危険に陥れていると書いていることに関しては、さすがの福島医大も看過できなかったようで、反論レターで甲状腺検査の正確な状況を説明する羽目となっている。

 福島医大にとって、最近まで医大に所属していた緑川氏と大津留氏の活動や、論文等を恣意的に解釈し、自論展開により過剰診断を推す髙野氏の存在は、目の上のたんこぶとしか言えないのであろうが、第三者からすると、どっちもどっちとしか言いようがない。


**********

現時点での結果

 これまでに発表された集計外症例数を含む、現時点での結果をまとめた。



*集計外症例の甲状腺がん11人の病理組織診断については、福島医大の横谷進氏らによる英語論文(こちら)で、11人すべてが乳頭がんである。

2巡目の結果

 2巡目結果に関しては、2018年6月18日の第31回検討委員会で結果概要の2017年度追補版が公表されて以来の更新となるが、今回公表された結果概要は、ほんの2ページに簡略されたものである。

  悪性ないし悪性疑いの人数は71人と変わりはなく、2014年度対象市町村の悪性ないし悪性疑い52人中、未手術だった13人のうち2人が手術を受け、甲状腺乳頭がんと診断された。これにより、手術症例は54人(甲状腺乳頭がん53人、その他の甲状腺がん1人)となった。

3巡目の結果

 3巡目結果の確定版は、前述のように、2020年6月の第15回甲状腺検査評価部会ですでに公表されたものが、2020年8月の第39回検討委員会でも公表されたことになり、前回の”メモ”で言及していた、「評価部会の資料は公式に英訳されないため、2巡目同様、3巡目の結果確定版の公式英訳も存在しない見込みである」という懸念は消えたと思われる。

 3巡目結果の動きに関しては、前回の”メモ”で説明したが、現時点での結果をまとめると以下のようになる。

 3巡目での悪性ないし悪性疑いは31人で、2巡目結果は、Aが21人(A1が7人、A2のう胞が10人、A2結節が4人)、Bが7人、未受診が3人である。

 手術症例は27人(甲状腺乳頭がん 27人)である。

4巡目の結果

 2018年4月1日から開始されている4巡目(25歳節目検査対象者は除外)では、新たに17,177人が一次検査を受診し、受診率は5.8%増えて61.4%となった。二次検査対象者は243人増えて1,327人となり、うち137人が新たに二次検査を受診し、15人が細胞診を受診した結果、5人が新たに悪性ないし悪性疑いと診断された。この5人の3人が男性(事故当時年齢9歳、11歳、12歳)で2人が女性(事故当時年齢は2人とも8歳)である。2人が中通り、3人が浜通りの住民で、女性1人が2018年度対象市町村の住民、残りの4人は2019年度対象市町村の住民である。この5人の3巡目の結果は、A2が4人(のう胞3人、結節1人)、Bが1人である。

 4巡目の悪性ないし悪性疑いは21人となり、前回結果は、A1が3人、A2のう胞が11人、A2結節が3人、Bが4人となる。
 
 手術症例は、2018年度実施市町村で3人増え、4巡目で甲状腺がんと確定されたのは合計13人となった。13人全員が甲状腺乳頭がんだった。
 
25歳時節目検査の結果

 2017年度から開始された25歳時節目検査の結果は、通常の甲状腺検査とは別に、6ヶ月ごとに公表されている。2019年度は1994年度生まれの人たちが対象だったので、今回公表されたデータは、1992〜4年度生まれの対象者における、2020年3月31日時点のものである。(受診は対象年度にとどまらず、次回の30歳時節目検査の前年まで可能で、追加の受診データも随時報告されていくことになっている。)詳細は、前回の”メモ”で説明したので、現時点での結果を以下にまとめる。

 25歳時節目検査の悪性ないし悪性疑いは7人で、前回検査は、A2(のう胞か結節かは未公表)が1人、Bが1人、未受診が5人である。

 手術症例は4人で、うち3人は甲状腺乳頭がん、1人は濾胞がんである。

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

1〜4巡目と25歳時節目検査の結果のまとめ

同情報は、「参考資料1 甲状腺検査結果の状況」の6ページ目にもまとめられている。

先行検査(1巡目)
悪性ないし悪性疑い 116人(前回から変化なし)
手術症例      102人(良性結節 1人、甲状腺がん 101人:乳頭がん100人、低分化がん1人)
未手術症例      14人

本格検査(2巡目)
悪性ないし悪性疑い 71(前回から変化なし)
手術症例      54人(甲状腺がん 54人:乳頭がん 51人、その他の甲状腺がん**1人)
未手術症例     17人 

本格検査(3巡目)
悪性ないし悪性疑い 31(前回から1人増)
手術症例      27人(前回から3人増)(甲状腺がん 27人:乳頭がん27人)
未手術症例       4人

本格検査(4巡目)
悪性ないし悪性疑い 21(前回から5人増)
手術症例      13人(前回から2人増)(甲状腺がん13人:乳頭がん13人)
未手術症例     8人

25歳時の節目検査 
悪性ないし悪性疑い 7(前回から3人増)
手術症例      4人(前回から3人増)甲状腺がん4人:乳頭がん3人、濾胞がん1人)
未手術症例     3人

合計
悪性ないし悪性疑い 246人(良性結節を除くと245人
手術症例      200人(良性結節 1人と甲状腺がん 199人:乳頭がん 196人、低分化がん 1人、濾胞がん1人、その他の甲状腺がん**1人)
未手術症例***      46人

注**「その他の甲状腺がん」とは、2015年11月に出版された甲状腺癌取り扱い規約第7版内で、「その他の甲状腺がん」と分類されている甲状腺がんのひとつであり、福島県立医科大学の大津留氏の検討委員会中の発言によると、低分化がんでも未分化がんでもなく、分化がんではあり、放射線の影響が考えられるタイプの甲状腺がんではない、とのこと。
注*** 未手術症例の中には、福島県立医科大学付属病院以外での、いわゆる「他施設手術症例」が含まれている可能性があるため、実際の未手術症例数は不明である。

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

前回検査の結果

2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された71人の1巡目での判定結果
A1判定:33人(エコー検査で何も見つからなかった)
A2判定:32人(結節 7人、のう胞25人)
B判定: 5人(すべて結節、とのこと。先行検査では最低2人が細胞診をしている)
先行検査未受診:1人

3巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された31人の2巡目での判定結果 
A1判定:7人
A2判定:14人(結節4人、のう胞10人)
B判定:7人
2巡目未受診:3人

4巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された21人の3巡目での判定結果  
A1判定:3人
A2判定:14人(結節3人、のう胞11人)
B判定:4人
3巡目未受診:0人

25歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された7人の前回検査での判定結果  
A1判定:0人
A2判定:1人(結節かのう胞の内訳は未公表)
B判定:1人
2巡目未受診:5人


0 件のコメント:

コメントを投稿

メモ:2024年2月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、およびアンケート調査について

  *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。  2024年2月22日に 第50回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会) が、 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。  ...