メモ:2020年5月25日と6月15日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理など


*5〜6月に公表されたデータ自体には大きな動きはなかったが、論文報告に関する議論や状況を記録として残すため、いつもの”メモ”よりも長い内容となっている。また、末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節かのう胞)が、一箇所では公式に公表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。


 2020年5月25日に開催された第38回「県民健康調査」検討委員会、ようやく2019年12月31日時点での3巡目4巡目の結果が公表され、新たに悪性ないし悪性疑いと診断された人はいなかったが、新たな手術症例5人(3巡目2人と4巡目3人)が甲状腺乳頭がんと確定したことが報告された。3巡目はまだ二次検査が終わっていないということで、結果の確定版は出なかった。

 しかし、そのわずか3週間後の6月15日に開催された第15回「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」(以下、評価部会)では、3巡目検査結果の確定版が出され、6ヶ月ごとに報告されることになっている25歳時節目検査の結果も公表された。いずれも、2020年3月31日時点での結果であり、3巡目では新たに1人が悪性ないし悪性疑いと診断、1人が手術で甲状腺乳頭がんと確定したことが報告された。25歳時節目検査では、3人が悪性ないし悪性疑いと診断、3人で手術が施行され、うち2人が甲状腺乳頭がん、1人が甲状腺濾胞がんと診断されたことが公表された。

 3週間の間に、3巡目と25歳時節目検査では3月末までの3ヶ月分のデータがさらに公表されたのに、4巡目ではされなかったという不可思議な展開である。(福島県立医科大学の甲状腺検査部門長の志村己氏によると、今後、3巡目の結果を解析することになっている評価部会の場で、確定版の説明をしたいということであった。)さらに、各検査回の一次・二次検査の結果概要、悪性ないし悪性疑いの人数、平均年齢と平均腫瘍径、および各年度ごとの手術症例の人数などがまとめられている「参考資料 甲状腺検査結果の状況」も、5月25日公表版が、3週間後には6月15日公表版に更新され、一部のデータが塗り替えられるという運びとなった。

 全体的には、前回の公表データ(2020年2月13日の第37回検討委員会で公表)と比べると、悪性ないし悪性疑い例は4人増えて241人(良性1人含む)に、手術で甲状腺がんと確定された症例は、9人増えて196人となっている。

 諸事情で、これらのデータについてまとめ始めるまで2ヶ月かかってしまった。8月31日には第39回検討委員会の開催が予定されているため、その前にまとめてしまおうと急いでいる。おそらく、8月31日に公表されるのは、2020年3月31日時点での年度末データであると思われる。今年は、昨年よりも、公表されるデータの時期がどんどんと古くなってしまっており、検討委員会への報告がおざなりにされているような印象を受けざるを得ない。

 さらに、新型コロナウイルスのパンデミックのために、4巡目の検査、特に学校検査が滞っており、今後の公表データに影響を及ぼすと思われる。また、現役の委員、元委員、元スクリーニング担当者らを含めた過剰診断論グループは、すでに独自の結論を持っており、 「若年型甲状腺癌研究会」というグループを通して活動を開始している。この研究会が、学校検査自体の存続に圧力をかけてくるのではないかと危惧される。(このグループのウェブサイトからは、主旨が分かりにくいかもしれないので、追記として補足した。)

 ちなみに、この研究会のメンバーには、大津留晶氏(福島医大)、祖父江友孝氏(大阪大学)、髙野徹氏(大阪大学)、津金昌一郎氏(国立がん研究センター)、緑川早苗氏(元・福島医大、現在は宮城学院女子大学)などが名を連ねているが、これらのメンバーが、検討委員会や評価部会で声高に過剰診断説を唱えていたのは記憶に新しい。祖父江氏と津金氏にいたっては、それぞれ、現任の評価部会員と検討委員でさえあり、現行の委員らが堂々とこのような研究会に参加していることに驚きを隠せない。


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現時点での結果

 これまでに発表された集計外症例数を含む、現時点での結果をまとめた。

*集計外症例の甲状腺がん11人の病理組織診断については、福島医大の横谷進氏らによる英語論文(こちら)で、11人すべてが乳頭がんである。

3巡目の結果

  前述の通り、2016年5月1日から開始されている3巡目検査の結果は、2019年12月19日時点のデータが第38回検討委員会で公表され、2020年3月31日時点のデータが、6月15日に開催された第15回評価部会で確定版として発表された。(ちなみに、評価部会の資料は公式に英訳されないため、2巡目同様、3巡目の結果確定版の公式英訳も存在しない見込みである。)以下、第37回検討委員会(2020年2月13日開催)で公表された2019年9月30日時点のデータ以降の変化を説明する。

 新たに17人が一次検査を受診したが、受診率は64.7%のままである。新たに二次検査を受診したのは3人、細胞診受診者は4人だった。うち、13市町村等避難区域在住で事故当時5歳で二次検査時12歳の男性1人が新たに悪性ないし悪性疑いと診断された。この男性の2巡目での判定結果は、A1だった。

 3巡目での悪性ないし悪性疑いは31人となり、2巡目結果は、Aが21人(A1が7人、A2のう胞が10人、A2結節が4人)、Bが7人、未受診が3人となる。

 手術症例は、2016年度対象市町村で1人、2017年度対象市町村で2人と、合計3人増えて27人(甲状腺乳頭がん 27人)となった。

4巡目の結果

 2018年4月1日から開始されている4巡目(25歳節目検査対象者は除外)では、2019年12月31時点のデータが最新となる。前回の9月30日時点のデータ以降の変化を説明する。

 新たに26,511人が一次検査を受診し、受診率は9.1%増えて55.6%となった。二次検査対象者は255人増えて1,084人となり、うち120人が新たに二次検査を受診し、5人が細胞診を受診したが、新たに悪性ないし悪性疑いと診断された人はいなかった。

 4巡目の悪性ないし悪性疑いは16人のままで、前回結果は変わりなく、A1が3人、A2のう胞が8人、A2結節が2人、Bが3人のままである。
 
 手術症例は、2018年度実施市町村で3人増え、4巡目で甲状腺がんと確定されたのは合計11人となった。11人全員が甲状腺乳頭がんだった。
 
25歳時節目検査の結果

 2017年度から開始された25歳時節目検査の結果は、通常の甲状腺検査とは別に、6ヶ月ごとに公表されている。2019年度は1994年度生まれの人たちが対象だったので、今回公表されたデータは、1992〜4年度生まれの対象者における、2020年3月31日時点のものである。(受診は対象年度にとどまらず、次回の30歳時節目検査の前年まで可能で、追加の受診データも随時報告されていくことになっている。)

 1,301人(1992年度生まれが16人、1993年度生まれが63人、1994年度生まれが1,222人)が新たに一次検査を受診したが、分母である対象者数が増えたため、受診率は前回より1.2%下がった8.4%となった。年度別にみると、1992年度生まれの受診率は変わらず9.9%、1993年度生まれでは0.3%上がって9.6%、1994年度生まれは5.5%である。1993年度生まれの対象者の対象年度である2018年度末の受診率は4.5%だったが、今ではその2倍以上となっているように、対象年度である対象年度に受診するとは限らないので、1994年度生まれの受診率も徐々に上がると予想されるとはいえ、受診率の低さが際立つ。

 二次検査対象者は46人増えて244人となり、23人が新たに二次検査を受診し、3人が細胞診を受診、3人全員が悪性ないし悪性疑いと診断され、この3人はすべて女性で、前回検査の結果は、Bが1人で未受診が2人だった。

 25歳時節目検査の悪性ないし悪性疑いは7人となり、前回検査は、A2(のう胞か結節かは未公表)が1人、Bが1人、未受診が5人である。

 また、新たに3人で手術が施行され、甲状腺がんが確定された。うち2人は乳頭がん、1人は濾胞がんである。今回公表された平均腫瘍径は、22.6 ± 15.6 mm(範囲 10.8〜49.9 mm)で、前回の平均腫瘍径(14.5 ± 2.7 mm, 範囲 12.3〜18.0 mm)の一倍半となっているが、これは、濾胞がんによると思われる最大腫瘍径49.9 mm のためであろう。

3巡目結果の地域比較

 第15回評価部会で公表された3巡目結果の確定版には、B・C判定者と悪性ないし悪性疑い者の割合を4地域で比較した表11が含まれている。

   中通りでの悪性ないし悪性疑い者率が6.6%と、他の3地域よりも極端に低いことに、部会員らの注目が集まった。性別や年齢などの要因に差異はみられないが、中通りでは細胞診実施率が低めで、細胞診を実施した場合に悪性ないし悪性疑いと診断される割合がかなり低かった。部会員からは、細胞診実施機関によって細胞診率や細胞診の判定が異なる可能性についての質問が出た。

 福島医大の甲状腺検査部門長の志村浩己氏によると、細胞診の判定基準は決まっており、県内の実施機関は福島医大に検体を送ることになっているため、県内ではほとんどの検体を福島医大が扱っているが、県外の実施機関では、その病院の方針に従い、院内で検体の判定を行う場合と、福島医大に検体を送る場合があるということだった。

 二次検査で細胞診を実施するかの適応評価については、県内では福島医大の複数の専門医らにより決定され、県外では、それぞれの専門医の判断によるということであった。


”大平解析”の論文の報告と問題点

   また、第15回評価部会では、前期の評価部会における2巡目の結果の解析(”大平解析’)の追加データが公表され、その解析にもとづいたとされる論文の報告があった。

 この大平解析とは、県民健康調査支援部門長の大平哲也氏により公表されたもので、UNSCEAR2013年報告書の市町村別推計甲状腺吸収線量により福島県内の59市町村を4区分し、6〜14歳と15歳以上の2つの年齢グループにおける甲状腺がんのオッズ比を出した解析である。しかし、4区分ごとの受診者数が未公表のため、「あとの数値が理解しにくい」解析の検証も不可能な状態であった。そもそも、牧野淳一郎氏が岩波『科学』2014年11月号で考察しているように、UNSCEARの推計甲状腺吸収線量自体が信頼できるものであるか疑わしい。(その考察は、こちらで特別公開されている。)

 また、前期の評価部会の目的は2巡目の結果の解析であったため、2巡目のデータを様々な調整因子で調整されたものも報告されたが、いずれも”実数”を伴わないグラフや表のみで、「何をどう調整したのか解釈のしようがない」と、部会員らから何度も困惑した発言が出ていた。しかし、最終的には、それらの未公表データを含む解析にもとづいて、部会員らがまともに把握できないうちに、「甲状腺検査本格検査(検査2回目)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくとの間の関連は認められない」という部会まとめ(最終版はこちら)が作成されたのである。(部会まとめ案を巡る経緯や問題点については、岩波『科学』2019年7月号電子版で詳しく説明した。PDFはこちら。)

 県民健康調査データの公表において、検討委員会や評価部会よりも学会・論文発表が優先されることは通常運転になっている。今回も例外ではなく、大平解析にもとづいた論文が学術誌に掲載されたということで、その解析で用いられた ”受診者数” が、追加データこちら)として公表された運びになる。現に、志村氏が、「大平先生の論文が公開されましたので、昨年6月に開催した第13回評価部会で公開された資料1-2について、受診者数を公表させていただきます」とはっきりと述べている。(動画リンク

 県民のものであるはずの県民データを、県民と共有する前に学術発表することについては、決して、検討委員や部会員らに黙認されてきたわけではない、しかし、それが横行しているのが現実で、鈴木元部会長も論文優先を容認している節がある。

 第35回検討委員会後の記者会見(動画リンク)では、大平氏が、実数データを出さなかったのは、「曲解されるおそれがあるために、部会長の判断で出さなかった」と発言している。同記者会見での鈴木部会長の発言は、途中段階のデータを出すことは、透明性が高いと思われるかもしれないが、オリジナリティのない論文を受け付ける査読付きの科学雑誌はないため、結局、そのデータが、どこからも評価されずに埋もれてしまう危険性があることを自分は気にしていて、大平先生がなるべく早く論文を書いて、データを公表できるようにしてほしいと思っている、というものだった。

 しかし、今回は、データの事後公表以外の問題が浮上した。祖父江友孝部会員が、「大平解析の解析法が論文で必ずしも採用されていない」と指摘したのである。大平氏の説明によると、大平解析の対象者は2巡目の6歳以上の受診者(175,268人)である一方、論文は、1巡目をベースラインとした追跡調査という位置づけで、1巡目と2巡目を両方受診した164,299人が対象となっているため、論文の方が人数が少ないというのだ。

 その上、驚くべきことに、前期も部会員だった祖父江部会員と片野田耕太部会員が、次々と、「Acknowledgement(謝辞)に自分の名前が載っているが、初耳だ」と発言したのである。祖父江氏の、「評価部会の資料から形が違う論文になっているが、改変をするのであれば知らせてほしかった」という発言に対し、大平氏は、「UNSCEARの甲状腺吸収線量を使った方向性としては先生方のご意見をいただいて来たので、謝辞に載せさせてもらったし、これについては先生方の了承を得たと思っている」と、返答した。

 片野田部会員は、「出版倫理の最新の基準からいうと、謝辞も含めて名前を入れる場合は、原稿も含めて事前に確認を取るのがあるべき姿」だと、当たり前のことを指摘したが、その当たり前のことを理解もせずに、論文を出したというのだろうか?

 そもそも、大平解析については、前述の通り、データの不透明性や、解析が立脚しているUNSCEARデータの信頼性という問題がある。鈴木部会長は、データのオリジナリティの保全のため、評価部会で実数データを出さないことを容認したが、最終的に出た論文では、その実数データが改変されていたわけである。

 また、今回の評価部会では、1〜3巡目の結果を、大平解析の解析法を用いて横断的に解析した資料も公表されたが、もともとの解析がきちんと検証されていないことを考えると、どこまで信頼できるのが疑問である。 

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1〜4巡目と25歳時節目検査の結果のまとめ

同情報は、「参考資料1 甲状腺検査結果の状況」の6ページ目にもまとめられている。

先行検査(1巡目)
悪性ないし悪性疑い 116人(前回から変化なし)
手術症例      102人(良性結節 1人、甲状腺がん 101人:乳頭がん100人、低分化がん1人)
未手術症例      14人

本格検査(2巡目)
悪性ないし悪性疑い 71(前回から変化なし)
手術症例      52人(甲状腺がん 52人:乳頭がん 51人、その他の甲状腺がん**1人)
未手術症例     19人 

本格検査(3巡目)
悪性ないし悪性疑い 31(前回から1人増)
手術症例      27人(前回から3人増)(甲状腺がん 27人:乳頭がん27人)
未手術症例       4人

本格検査(4巡目)
悪性ないし悪性疑い 16人(前回から変化なし)
手術症例      11人(前回から3人増)(甲状腺がん11人:乳頭がん11人)
未手術症例     5人

25歳時の節目検査 
悪性ないし悪性疑い 7(前回から3人増)
手術症例      4人(前回から3人増)甲状腺がん4人:乳頭がん3人、濾胞がん1人)
未手術症例     3人

合計
悪性ないし悪性疑い 241人(良性結節を除くと240人
手術症例      196人(良性結節 1人と甲状腺がん 195人:乳頭がん 192人、低分化がん 1人、濾胞がん1人、その他の甲状腺がん**1人)
未手術症例***      45人

注**「その他の甲状腺がん」とは、2015年11月に出版された甲状腺癌取り扱い規約第7版内で、「その他の甲状腺がん」と分類されている甲状腺がんのひとつであり、福島県立医科大学の大津留氏の検討委員会中の発言によると、低分化がんでも未分化がんでもなく、分化がんではあり、放射線の影響が考えられるタイプの甲状腺がんではない、とのこと。
注*** 未手術症例の中には、福島県立医科大学付属病院以外での、いわゆる「他施設手術症例」が含まれている可能性があるため、実際の未手術症例数は不明である。

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前回検査の結果

2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された71人の1巡目での判定結果
A1判定:33人(エコー検査で何も見つからなかった)
A2判定:32人(結節 7人、のう胞25人)
B判定: 5人(すべて結節、とのこと。先行検査では最低2人が細胞診をしている)
先行検査未受診:1人

3巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された31人の2巡目での判定結果 
A1判定:7人(前回より1人増)
A2判定:14人(結節4人、のう胞10人)
B判定:7人
2巡目未受診:3人

4巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された16人の3巡目での判定結果  
A1判定:3人
A2判定:10人(結節2人、のう胞8人)
B判定:3人
2巡目未受診:0人

25歳時節目検査で悪性ないし悪性疑いと診断された7人の前回検査での判定結果  
A1判定:0人
A2判定:1人(結節かのう胞の内訳は未公表)
B判定:1人(前回より1人増)
2巡目未受診:5人(前回より2人増)


追記

上記の「現役の委員、元委員、元スクリーニング担当者らを含めた過剰診断論グループ」の結論とは、ここでも主張されている。

web.mgu-ac.work/essay/2072.htm (2020.8.31現在)

「福島では放射線被ばくによって甲状腺がんが増えているわけではありません」 

「福島では甲状腺がんスクリーニングを行うことによって、がんがたくさん「発見」されているに過ぎないのです。」 

「そしてそのがんの多くは検査を受けなければ、おそらく一生気付かずに過ごしただろう無害のがんです(過剰診断といいます)。」 

「そして検査を受けている福島の住民とその家族でさえ、その事実を知らずに検査を受けています。」


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