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2015年6月13日土曜日

Thyroid誌に投稿された、ウクライナと福島での小児甲状腺がん患者の年齢分布についてのエディターへの手紙の和訳

2014年10月発行のThyroid誌(米国甲状線学会の機関誌)に掲載されたエディターへの手紙には、山下俊一氏や鈴木眞一氏が共著者として名を連ねている。

この手紙のタイトルは、"Age Distribution of Childhood Thyroid Cancer Patients in Ukraine After Chernobyl and in Fukushima After the TEPCO-Fukushima Daiichi NPP Accident"「チェルノブイリ事故後のウクライナと東京電力福島第一原子力発電所事故後の福島での小児甲状腺がん患者の年齢分布」で、1ページ足らずの本文と、棒グラフ2つを含む図ひとつにより構成されていた。有料記事ではあるが、共著者の1人がネット上で公表していた。以下は、手紙の日本語訳である。(追記:2016年7月現在は無料公開されている。)



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「チェルノブイリ事故後のウクライナと東京電力福島第一原子力発電所事故後の福島での小児甲状腺がん患者の年齢分布」マイコラ・D・トロンコ、ウラジミール・A・サエンコ、ヴィクトル・M・シュパック、テティアナ・I・ボグダノヴァ、鈴木眞一、山下俊一


放射線被ばくを受けた子どもでの甲状腺がんの多発は、1986年4月26日に起きたチェルノブイリ事故による健康影響として世界中で知られている。ウクライナでは1990年以降、甲状腺がんの罹患率の急激な増加が見られており、それ以前の時期は、ベースライン発生率の上昇が有意に見られなかった、いわゆる潜伏期間であった(1)。現時点では、チェルノブイリで潜伏期間中に診断された若年患者の症例は、放射線影響とはみなされていない。


2011年3月に、東京電力福島第一原子力発電所で大規模な原子力事故が発生した。福島県では、長期の低線量放射線の健康影響を調べるために、県民健康管理調査が開始された。その一部である甲状腺超音波検査プログラムは、2011年3月時点で18歳以下だった福島県民約36万人の頸部超音波検査を行なう目的で、2011年10月に始められた。このプログラムでは、2014年2月時点で対象者の約80%が受診し、75例の悪性ないし悪性疑い症例が報告された(2)。これらの症例は、先例のないマス・スクリーニングにおいて、高精度の超音波機器が使われたという、発生率の上昇が避けられない状況で検出された(3)。つまり、甲状腺スクリーニングは、この地理的地域で初めて、スクリーニングを受けたことがない集団において行なわれたのである。34例で手術が行なわれ、病理診断によると、1例が良性結節、1例が低分化甲状腺がん疑い、そして32例が甲状腺乳頭がんであった。これほど高い有病率は予測されていなかったため、専門家と公衆によって広く議論されており、放射線被ばくへの関連の可能性を懸念する声も時々ある。


図1に示されているのは、ウクライナで、潜伏期間中およびそれ以降の最初の数年間に診断された、事故当時18歳以下の甲状腺がん患者と、福島で診断された(事故当時18歳以下の)患者の、被ばく時年齢による分布を示した。チェルノブイリ後のウクライナの潜伏期間中に診断された患者と、福島で診断された患者のグラフの輪郭は、驚くほど似ている。その反面、潜伏期間後に放射線誘発性のがんが発現し始めてからウクライナで診断された患者の年齢分布は、主として異なっている。放射線誘発性の甲状腺がんに最も高いリスクを持つとされている、被ばく時に5歳以下だった多くの人たちが見られているのである。そのような患者は今の所、福島では診断されていない。


われわれの見解では、もしも福島での甲状腺がんが放射線によるものであるとすれば、被ばくした4−5歳の子どもでの症例がもっと予測されたはずである。さらに、福島での甲状腺被ばく線量は、チェルノブイリでよりもはるかに低い(4)。これから先、潜伏期間が過ぎてから現れるかもしれない甲状腺がん症例に関しては、さらなる分析が必要であろう。特に留意すべきことは、甲状腺被ばく線量再構築、被ばく時年齢と診断時年齢、腫瘍の形状(チェルノブイリでは、短い潜伏期間後に発達した小児甲状腺乳頭がんで頻繁に見られたのは、充実性成長パターンだった)、そして、スクリーニング導入後の症例数の上昇である「刈り取り効果」が見られるかどうかである。




図1.ウクライナでの潜伏期間(1986〜1989年)とその後の期間(1990〜1993年)に診断された甲状腺患者と、福島で2011〜2013年に悪性ないし悪性疑いと診断された患者の、被ばく時年齢による分布。棒グラフの上に表示された数字は、その被ばく時年齢における患者数である。異なる集団サイズ、そして異なるスクリーニング・プロトコル、特に福島における、より系統的なアプローチ、集団受診率の高さ、および高性能の超音波機器によるスクリーニングため、この2つの地域での放射能事故の症例数の絶対数を比較することは不適切である。

(和訳、ここまで。本文内文末の括弧内の数字は引用文献番号である。引用文献リストは、元論文を参照のこと。)

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解説:図1の、ウクライナと福島での小児甲状腺がん患者の年齢分布で比較されている部分を赤線で囲った。この手紙は実質、福島県での被ばく時年齢分布が5歳以下を含んでいれば、放射線影響であると言えるだろう、と述べている。事実、山下俊一氏や鈴木眞一氏らは、福島県の甲状腺検査で甲状腺がんが診断され始めてから、事故当時5歳以下だった人たちで甲状腺がんが診断されていないために放射線の影響であるとは考えにくい、と何度も述べている。このグラフを見ると、ウクライナで事故当時5歳以下だった人たちで甲状腺がん症例が急激に増加したのは、事故から5年経ってからだったことが明らかである。すなわち山下俊一氏や鈴木眞一氏らは、福島県の潜伏期間中とチェルノブイリでの潜伏期間後の症例の被ばく時年齢分布という、比較すべきでないことを比較していたという事実が、この図1を見ると明らかである。

しかしそもそも、「似ている」とされる年齢分布の輪郭にしても、ウクライナで事故後すぐに超音波検査によるスクリーニングが行なわれていたのではなく、「似ている」からこうである、という結論が出せるというわけではない。また、この手紙の中で4年間と設定された潜伏期間は実際はもっと短いのではないか、と潜伏期間自体の妥当性を疑問視する意見もある。

余談だが、この手紙は、山下俊一氏が所長をつとめる、長崎大学の原爆後障害医療研究所 放射線リスク制御部門 放射線災害医療学研究分野 の論文リストにも入っている。




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