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ランセット・ヘマトロジー誌に掲載された論文「放射線モニタリングを受けた作業者(INWORKS)における電離放射線と白血病およびリンパ腫の死亡リスク:国際コホート研究」の部分和訳とフェアリー氏解説


低線量の放射線でも白血病リスクが上昇する、と最近話題になっている新研究がある。英医学誌「ランセット・ヘマトロジー」に掲載された、"Ionising radiation and risk of death from leukaemia and lymphoma in radiation-monitored workers (INWORKS): an international cohort study"(邦題仮訳「放射線モニタリングを受けた作業者(INWORKS)における電離放射線と白血病およびリンパ腫の死亡リスク:国際コホート研究」)である。

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2015年7月2日掲載の共同通信の記事「放射線低線量でも白血病リスク 欧米作業員30万人を疫学調査」

ここでは、この論文の一部(「要旨」と「研究のコンテクスト」)および、英国のイアン・フェアリー氏による解説の和訳を記す。
 
「放射線モニタリングを受けた作業者(INWORKS)における電離放射線と白血病およびリンパ腫の死亡リスク:国際コホート研究」

要旨

背景:職業的、環境的、および診断医療の状況下で典型的に見られるような、間欠的あるいは長期におよぶ低線量放射線被ばくにおける白血病とリンパ腫のリスクには、大きな不確実性がある。われわれは、長期にわたる低線量放射線被ばくと、フランス、英国と米国で雇用されている放射線モニタリングを受けた成人における、白血病、リンパ腫と多発性骨髄腫の死亡率との間の関連性を定量化した。

方法:フランスの原子力・新エネルギー庁、 アレヴァ原子燃料部門、またはフランス電力会社、米国のエネルギー省と防衛省、そして英国の放射線業務従事者登録に含まれている原子力産業作業者で、最低1年間雇用され、被ばく線量の個人モニタリングをされた308,297人の作業者のコホートを構築した。コホートは、計8,220,000人・年に達するまで追跡された。白血病、リンパ腫と多発性骨髄腫による死亡者を確認した。ポアソン回帰を用いて、骨髄吸収線量推計値と白血病とリンパ腫の死亡率との間の関連性を定量化した。

結果:線量は非常に低い率で累積した(平均 年間 1.1 mGy, SD 2〜6)。白血病(慢性リンパ性白血病を除く)による死亡率の過剰相対リスクは1 Gyあたり2.96(90%信頼区間 1.17〜5.21、2年のラグ)だったが、これは最も特に、慢性骨髄性白血病による死亡率と放射線量との関連(過剰相対リスクが1 Gyあたり10.45、90%信頼区間 4.48〜19.65)のためだった。

解釈:この研究は、長期にわたる放射線被ばくと白血病の間の正の関連性についての強力な証拠を提示している。

研究のコンテクスト

この研究以前の証拠:電離放射線は白血病を引き起こす。放射線防護標準の主な定量的ベースは、高線量の電離放射線への急性被ばくを受けた集団の調査から得られている。原子力作業者の過去の調査では白血病の放射線起因性が考慮されたが、職業的状況における長期におよぶ放射線被ばくによるリスクの大きさについては疑問が残っている。

この研究による付加価値:われわれは、電離放射線への累積された外部被ばくからの長期におよぶ低線量被ばくと、その後の白血病(慢性リンパ性白血病を除く)による死亡との間の正の線量反応関係を報告している。線量単位あたりのリスク係数は、より高い放射線量と線量率に被ばくした他の集団の分析から得られたものと一致している。

資金提供:米国疾病対策センター(CDC)、日本の厚生労働省、放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)、アレヴァ社、フランス電力会社、米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、米国エネルギー省、米国保健社会福祉省、ノース・カロライナ大学、英国公衆衛生庁

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英国のイアン・フェアリー氏による解説 "Powerful new study shows radiogenic risks of leukemia 50% greater than previously thought"の和訳

有力な新研究により、放射線誘発性の白血病リスクが従来考えられていたよりも50%大きいことが示された。(2015年6月29日)

私は2013年に、非常に低い被ばく線量における放射誘発性リスクの優れた証拠を提示しているいくつかの疫学研究について議論した

この証拠に加わる、有力な新研究[1] が「ランセット血液学」に発表された。しかしいくつかの理由から、この研究の結果は、おそらく過去の研究よりもっと重要でさえある

最初に、著者らが述べているように、この研究は、「低線量放射線によって累積する慢性的な外部被曝と白血病の間の線量反応関係の強力な証拠」を提示している。

 2番目に、この研究では、原子力作業者の間での放射線誘発性の白血病リスクが、これまでに考えられていたよりも50%大きいことがわかった。白血病(慢性リンパ性白血病を除く)の死亡率の過剰相対リスク(ERR)は、 1 Gyあたり2.96だった。2005年に、この研究の著者らの中の数人により行われた、15カ国の原子力作業者における同様の研究[2] では、ERRが1 Gyあたり1.93だった。同じく重要なのは、この新研究の推定リスクが以前のものよりもずっと精度が高いということである。

3番目に、非常に低い線量(平均線量率=年間1.1 mGy)においてさえリスクが確認されている。日本の原爆被爆者研究とは異なり、この研究では、高線量でのリスクから外挿するのではなく、低線量率でのリスクが実際に観察されている。

4番目に、この研究ではリスクが線量率に依存しないことが示されているが、これは、ICRPが、線量・線量率効果係数(DDREF)(訳注:原文では「線量率効果係数、DREF」)という、ICRP自らが公表している放射線リスクを(半分に)低減する係数を使用していることと矛盾している。

5番目に、この研究では、放射線誘発性の白血病リスクが線量に伴い直線的に減少すると示されており、より低い、線形2次関係を示唆した過去の研究と矛盾している。この研究は、放射線誘発性リスクの線形しきい値なし(LNT)モデルを、今や固形がんのみならず、白血病への適用を強く示唆するものである。

6番目に、この研究では、90%信頼区間と片側p値が用いられている。過去には、95%信頼区間と両側p値がしばしば間違って用いられ、統計的有意差の確立を困難にしていた。

同様に重要なのは、申し分のないこの研究の資質である。原子力作業者30万人以上を調べた大研究で、合わせて800万人・年以上にもなり、研究結果が統計的に有意であること、すなわち、偶然起こったものである可能性が非常に低い、ということを保証している。さらにこれは、13人の優秀な科学者らによる国際研究であり、これらの科学者の所属機関は主に、下記にある米国、英国、またフランスの国立健康研究機関が含まれる:
  1. 疾病対策センター(CDC)、米国
  2. 国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、米国
  3. 保健社会福祉省、米国
  4. ノース・カロライナ大学、米国
  5. ドレクセル大学公衆衛生学部、米国
  6. 公衆衛生庁、英国
  7. 放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)、フランス
  8. 環境疫学研究センター(CREAL)、スペイン
  9. 国連国際がん研究機関(IARC)、フランス
研究資金は、以下を含む、多くの機関により提供された:米国疾病対策センター(CDC)、米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)、米国エネルギー省、米国保健社会福祉省、日本の厚生労働省、フランスの放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)、英国公衆衛生庁。

その他の結論

この研究は、知識、経験ともに不足したジャーナリスト(英国記者のジョージ・モンビオット含む) や、放射線リスクは過大評価されており、ましてや放射線は健康に良いとさえ主張する自称科学者の見解に強く反論するものである。ホルミシス効果はこの研究で見つかったわけでも議論されたわけでもなく、そのような見当違いの効果は(もし存在するとしても)、真の科学者によって、考慮に値しないと見なされている。この研究に貢献した科学者らとその所属機関の印象的なリストは、放射線リスクの否定論者に、その見解を再考させるはずである。この研究を多くの米国機関と米国科学者が支持していることを考えると、これは特に、米国の放射線リスク否定論者に言えることである。

著者らは、「現在、放射線防護システムは急性被ばくに由来するモデルに基づいており、より低い線量と線量率では、線量単位あたりの白血病リスクが徐々に減少すると仮定されている。」と辛辣にコメントしており、この研究は、この仮定が間違っていると示している。ゆえに著者らは、WHOやUNSCEARの科学者らと同じく、DDREFは用いられるべきでないという意見である。残された疑問は、ICRPがこの強力な証拠を認め、DDREF使用の支持を捨てるかどうか、である。読者のみなさんは、あまり期待しないほうがいいかもしれない。

この研究から予想されることについて、著者らは興味深いことに、原子力業界での被ばくではなく、医療被ばくについてコメントすることを選んだ。「職業的および環境的な放射線被ばく線源は重大である。しかしながら、このトレンドに最大の貢献をしているのは、医療における放射線被ばくである。1982年時点では、米国での医療被ばくによる電離放射線への年間被ばく線量は1人につき約 0.5 mGyだった。2006年にはそれが 3.0 mGyに増えていた。他の富裕国でも同様のパターンが見られる。英国では、放射線を用いた診断法の使用が同期間で2倍以上に、オーストラリアでは3倍以上になった。電離放射線は発がん物質であるため、医療行為における使用は、患者の被ばくに関連したリスクとのバランスが取られねばならない。」

これはすべて正しい情報であり、そして、1982年から2006年の間に医療被ばく線量が米国では6倍、英国では2倍になったというのは、懸念すべきことである。著者らはさらに、「この知見は、放射線防護の基本原理−−合理的に達成可能な限り防護を最適化すること、そして患者の被ばくに関しては、医療被ばくによる利益が害よりも大きいことを正当化すること−−に従うことの重要性を示している。」と述べている。

もちろん言うまでもなく、原子力産業からの被ばく−−この研究の実際の対象−−にも同じことが当てはまるのである。


参考文献
[1] Leuraud, Klervi et al (2015) Ionising radiation and risk of death from leukaemia and lymphoma in radiation-monitored workers (INWORKS): an international cohort study. The Lancet Haematology Published Online: 21 June 2015. 
[2] Cardis E et al (2005) Risk of cancer after low doses of ionising radiation: retrospective cohort study in 15 countries. BMJ 2005; 331:77.


この記事を書くにあたり、アルフレッド・ケルプライン博士とキース・ベイヴァーストック教授の考察に感謝する。誤りがあれば私の責任である。



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