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鈴木眞一氏のロシア論文引用発言の疑問点への質問と回答・未回答


2014年2月7日に開催された、第14回福島県「県民健康管理調査」検討委員会の記者会見の動画がこちらで紹介されている。この記事で言及された、福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座教授 鈴木眞一氏が「最近実施された被曝影響の無いロシアの子どもの検査でも4千~5千人に1人がんが見つかっている」と引用したロシア研究論文について、医療ジャーナリストの藍原寛子氏が質問されている。(質問の一部はこの件には無関係ではあるが、重要なので書き起こしてある。)

部分書き起こし

15分15秒〜
藍原寛子氏「ジャパンパースペクティブニュースの藍原です。二点、鈴木先生にご質問したいと思います。今のお話は、前回、先生が記者会見でおっしゃった、被ばく影響のないロシアの子どもの検査でも、4000人から5000人に1人で癌が見つかっているというお話があって、その出典はIvanovさんという方のリサーチだと思うんですけど、それを今回の検討委員会に適応・対応した理由とか説明がないので、色々と数字が一人歩きして混乱していると思うので、後日でもいいのでその採用された研究と理由・背景をひとつご提供頂きたいというのが一点。

もう一点は、この検討委員会では、独自の何の利害関係もない倫理委員会というものを立ち上げるようなご検討はなされておるのでしょうか?というのは、過去の放射能の災害の健康被害では、検査すれども治療せず、という問題があって、今回は検査も治療もしているのだけども、十分な検査・治療がなされていない感じ。例えば、ビキニ被ばくでは、被ばくした人達を皆、アメリカ本国に連れて行って、特定の医療機関で治療していたというような問題があります。今回、私がお聞きしたい理由としては、つまり、検査と治療と研究が、同じ福島県立医科大学で行われているということで、今回、厚労省が、ヒトゲノムの遺伝子解析の倫理委員会の指針を改訂しましたけども、その中でもセカンド・オピニオンに関する部分が非常に手厚くなっています。検査からも調査からも治療からも自分達の機関を選定できるという自由な選択が必要なのですが、今回、検査と治療をやっているところで研究が入る事になると、それは自由な選択っていうものを狭めてしまうのではないか?つまり、もうあなたは癌でした、疑いでした、という段階で、非常に患者さんは身柄を捉えてられる所にあるわけで、手術を他の東北大などの別の色んな病院で選択できるということが可能になっていないのではないかというのがひとつ疑問にあるということと、また、今回その指針に沿っているということを、改めて確認させて下さい。」

星座長「あの、ちょっと今日の議論とかなりずれているので、その準備をしていないというのと、それから、質問の意味が十分に私にも理解できないんですけども、医大の中の研究については、医大の倫理委員会を通っているという説明が最初にありまして、我々はそういった理解でデータのエントリーをしていますし、検査のエントリーを見ています。従いまして、そのご質問にお答えするとしたら、また別の場面でということにせざるを得ないかと思いますので、次の質問をお願い致します。」

会場からブーイング。

男性の声:「県が主催として調査をやっていて、県立医大でなくて。検討委員会がそれを検討するわけですが、星座長の意見でいいから聞かせて下さい。」

星座長「独立した倫理委員会については、今、ご意見を頂いて、なるほどと言うことがあれば私も検討します。今は、詳細、つまり、どういうことが問題になっているかについて、私も理解する必要があります。(後略)」

(質問者なのか司会者なのか不明)「すいません、資料につきましては、その度に新しいものが、まとまったものが出たら出しているということでよろしいでしょうか?」

25分24秒〜
藍原氏「先程の、鈴木先生にお願いした、4000人から5000人についての資料なんかは、ご検討頂けますか?」

25分34秒〜
鈴木氏「あの、答えてよろしいでしょうか?あの、お出しできますし、あの、もう既に、(筆者注:左の方の誰かを見て、「かん」と小声で言われた)ある所に、ホームページにも、その人のコメントも載せてありますので、後ほど、それはお出します。もうペーパーにもなってますし講演でも話されてるし、同じようなこの超音波のシステムで同じような精度で大規模にスクリーニングを続けているということで、採用に値するというのは、そういうことでございます。古い論文ですと比較はできない。現在、放射線の影響もない所も含めて、同じようなスクリーニングを続けている人のデータで、ロシアはそういうことをずっと続けてますので、そういうことで、最新のデータで分かっていると言う事でございます。あと、先程の大学の件ですけど、それとこの県民調査とは関係ありませんし、我々は、この手術での話をしているのではありません。私どものが手術をする施設でありますので、そういう所で患者さんになった人に対してそういう研究をしているということで、この県民健康管理調査の人を大学で倫理委員会を通して検討するということを言ってることとはちょっと違います。ただ、私どもは甲状腺を専門にしているので、手術をした方がどこで手術をされたかというのは、一切、今公表してませんので、その話と、私どもの所で治療してるしていないはまた別の話で、私どもは、通常業務で甲状腺の診療をしていますので、その中に、今、関心が高まっている小児の方がいれば、そういう検討も今後学問としてして行くというのが、通常の大学の仕事としてのひとつ。その事と、この検討委員会でやってる仕事がストレートに続いていないので、ここで倫理委員会を通すとか通さないとかの話ではありませんし、それとは全く違って、大学に入院をされてきて治療をされた方に対しての検討ですので、これは別にお考え下さい。以上です。」

(部分書き起こし以上)
*****

鈴木氏が、「ホームページにその人のコメントが載せてある。」と発言されたので、福島県の県民健康管理課のホームページ、そしてふくしま国際医療科学センター・放射線医学県民健康管理センターのホームページおよびその研究者向け英語サイトをチェックしたが、それらしきコメントは見られなかった。

「福島 甲状腺癌 イワノフ」というキーワードで検索したら、一番最初に出て来たのが、下記の首相官邸災害対策ページ内の原子力災害専門家グループからのコメントのひとつだった。鈴木氏が小声で「かん」と言われたのは、「官邸ホームページ」のことだったのだろうか?下記に全文を転載する。

*****

福島県民の皆様へ(仮訳:山下俊一)

 ビクトル・イワノフ教授からメッセージが寄せられましたので、以下、ご紹介いたします。なお、原文は、当グループ英語版に掲載 (Dear residents of the Fukushima Prefecture (January 14, 2014))してあります。

ビクトル・イワノフ教授
ロシア医学アカデミー準会員
ロシア放射線防護科学委員会委員長
放射線疫学研究訓練に関する世界保健機関協力センター・センター長

  私、ビクトル・イワノフはロシアのオブニンスクにある保健省管轄の医学放射線研究センターの副所長で教授であり、公衆と原発作業者の放射線防護に関する専門家です。2014年の新年を迎えたこの特別な機会に、福島の現状を論理的に理解し、福島における小児甲状腺癌に関する放射線リスクについての誤解や根拠の無い偏見を避ける為に、私たちの経験とデータを日本国民の皆様方と共有できればと思います。

  私は、1986年4月チェルノブイリ原発事故の直後から、事故の影響の軽減と、一般住民とソ連全土からチェルノブイリ原発施設に動員された除染作業者らを含む関係者の全ソ連登録システムの構築に参画してきました。この登録制度は1986年夏には速やかに整備されました。1991年冬までの5年間、ソ連が崩壊した年までには、登録データベースには約65万9千人の個々人の医療と被ばく線量に関する情報が保存され、そのうち34万2千人が、周辺の汚染地域に居住する住民データでした。このデータベースの構築は、日本の専門家との密接な協力で可能となったものです。現在では、ロシア政府による放射線疫学登録制度として、チェルノブイリ事故の影響を受けた約70万人が追跡調査の対象となっています。

  私は、2011年から、海外専門家の一人として福島事故の健康影響の予測に携わっています。日本とウィーンで開催された福島での事故に関する国際会議にも参加しました。2011年9月には福島第一原発、福島県の被災地域などを訪問し、住民の方々とも直接接しました。チェルノブイリ事故により被災したロシアの人々を27年間追跡調査してきた私自身の知識と経験から、チェルノブイリのデータに基づいて、福島県の被災者と原発作業員への事故の健康影響が予測出来ると思います。

  2011年3月の地震と津波という災害から3年近くが経過し、大規模な甲状腺超音波スクリーニングが行なわれた結果、福島県では子ども達の間に甲状腺癌が発見されました。当然ですが、「発見された甲状腺癌症例は、福島事故による放射線被ばくと関連があるのでしょうか?」という疑問が起こります。

  この疑問に答える為に、権威ある科学雑誌に出版されているチェルノブイリ事故後の小児甲状腺癌の疫学調査研究の主要な見解を検証してみましょう。


  1. 放射線誘発小児甲状腺癌の潜伏期は5年以上である。
  2. 放射性ヨウ素 (I-131) による甲状腺被ばく線量が150~200mGy以下では小児甲状腺癌の有意な増加は検出できなかった。
  3. 大規模なスクリーニングを行なった場合、甲状腺癌の発見頻度はチェルノブイリ事故により汚染されたか否かに関係なく、いずれの地域でも6~8倍の増加がみられた。

  以上3つの(チェルノブイリでの)疫学研究の結果から、福島県で発見された小児甲状腺癌は福島での原発事故により誘発されたものではないと一般的に結論できます。同時に、被ばく線量の推計と福島県民の放射線発がんリスクの可能性についての評価を続ける必要はあります。

  以上のような科学的な根拠から大きな健康影響はないと予想されます。しかしながら、福島での事故は、他の放射線事故と同様に、重大な精神的・社会的な問題の原因となりえます。
  科学的事実に基づく私のコメントが、皆様の健康影響への不安を軽減し、ストレスによる疾病の予防に役立てばと期待しています。恐れではなく、自信をもって前向きに将来を目指して頂きたいと念願します。

山下 俊一
福島県立医科大学 副学長
長崎大学 理事・副学長(福島復興支援担当)
*****

これが鈴木氏が言及された「コメント」だろうか?それであるなら、該当論文内に「被ばく影響のないロシアの子どもの検査でも、4000人から5000人に1人で癌が見つかっている」と言及されていたか否かの情報は見られない。

「被ばく影響のないロシアの子どもの検査でも、4000人から5000人に1人で癌が見つかっている」という論文を採用した理由と背景の提示を求めた藍原氏の質問に対しては、鈴木氏は一応回答しているとは言える。しかし、その論文が「被ばく影響のないロシアの子どもの検査でも、4000人から5000人に1人で癌が見つかっている」という主旨の論文でないという問題が未解決である。Ivanov氏は、この論文がそのように言及されているのをご存知で、同意されているのだろうか?

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