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2014年6月17日火曜日

PSRとドイツIPPNWによる、 UNSCEARフクシマ報告書の批判的分析 公式日本語版

201466日に公表された、PSR(社会的責任を果たすために医師団)およびIPPNW(核戦争防止国際医師会議)ドイツ支部による、UNSCEARフクシマ報告書の批判的分析の公式日本語版全文をここに掲載した。この批判的分析は、IPPNW19支部によって支持されている。

英語原文はこちら。公式日本語版のプリント用PDFこちらこちら。プレスリリース和訳
こちら

UNSCEAR報告書英語原文はこちらUNSCEAR報告書の本文和訳先行版はこちらよりアクセス可能。




UNSCEAR報告書「2011年東日本大震災後の

原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響」

の批判的分析



by

社会的責任を果たすための医師団(PSR)、米国
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)/社会的責任を負う医師団、ドイツ
世界的存続のための医師団、カナダ
核戦争防止メキシコ医師会議、メキシコ
戦争防止のためのグアテマラ医師・科学者協会、グアテマラ
社会的責任を果たすための医師団/核戦争防止国際医師会議、スイス
核戦争防止デンマーク医師会議(DLMK)、デンマーク
環境を保護し核と生化学の脅威に反対する医師協会、ギリシャ
暴力と核の危険に反対するオーストリア医師団、オーストリア
核兵器に反対するフランスの医師団、フランス
レジェ・アーティス医師組合、セルビア
平和研究のためのオランダ医学協会、オランダ
アイルランド医師環境協会、アイルランド
社会的責任を果たすための医師・医療従事者協会/IPPNW、ケニア
人類の福祉のためのナイジェリア医師会、ナイジェリア
社会的責任を果たすための医師団、エジプト
平和と環境保全のための医師団、イスラエル
平和と発展をめざすインド医師連盟(IDPD)、インド
平和と社会的責任のための医師団、マレーシア


2014年6月6日


***

この「批判的分析」は、20141月末に急逝した、
PSR前会長の故ジェフリー・パターソン医師に捧げる。

ジェフは、PSRIPPNWによるUNSCEARフクシマ報告書の分析に最初から携わっていた。
ジェフの予期されぬ死は、我々に深い悲しみをもたらしたと同時に、放射線被ばくの理不尽さに
苦しむ人々の擁護者・代弁者としての活動を続けて行く強い原動力にもなっている。

「原子力に関しては、『隠蔽・嘘・極少化』が推進側の三大柱であるのを忘れてはいけない。」
ジェフリー・パターソン医師

***



概要


I) はじめに

II) UNSCEAR報告書の同意点
1 日本全体の集団実効線量を計算したこと
2 避難区域外と近隣県での放射線被ばく量を推定したこと
3 過去に報告されたよりもはるかに大きな海洋放出量に言及したこと
4 フクシマ大惨事が単一の事象でなく進行中のプロセスであると正確に描写していること
III) 批判の主要点
1 UNSCEARのソースターム推定値の妥当性は疑わしい
2 内部被ばく量の計算に大きな懸念がある
3 フクシマ作業員らの線量評価は信用できない
4 UNSCEAR報告書は、フォールアウトの人間以外の生物相への影響を無視している
5 胎芽の放射線への特別な脆弱性が考慮されていない
6 非癌疾患と遺伝的影響はUNSCEARに無視されている
7 核フォールアウトと自然放射線との比較は誤解を招く
8 UNSCEARのデータ解釈には疑問がある
9 政府によって取られた防護措置が誤って伝えられている
10 集団線量推計値からの結論が提示されていない

IV) 結論

V)  頭字語と略語のリスト

VI) 参考文献


***


I はじめに

核戦争防止国際医師会議(IPPNW)は、より健康的で、より安全で、より平和な世界を目指して活動する医師達の世界的な連盟である。IPPNW支部は、60ヶ国以上で、核廃絶を支持し、核のない世界を提唱する団体として活動している。IPPNWの活動は、1985年にノーベル平和賞を授賞した。

2011年に、IPPNW役員会は、核兵器がない世界というゴールに向けて、核の連鎖の中の軍事部門と民生部門の間の強い相互依存性を指摘することで、より包括的なスタンスをとることに全会一致で同意した。核兵器が存在しない世界は、我々が原子力から手を引かなければ可能ではない。医師として、我々はまた、ウラン採掘の公衆衛生への影響、膨大な量の放射性鉱滓の発生、世界中で核分裂性物質を処理および輸送することに伴う危険、原子力の民生利用に伴うコントロール不能のリスク、核分裂性物質の民生および軍事での重複利用の可能性とその結果である核兵器拡散のリスクから、核兵器実験の世界的な健康影響と解決されていない核廃棄物の問題などの核の連鎖のすべての側面による、環境および健康影響を懸念している。地球上に存在するすべての人間は、放射能汚染が存在しない、健康と幸せと一致した環境に住む権利を持つ。

20113月のフクシマの炉心溶融の後で、IPPNWの医師達は、福島県の被災した多くの家族、地元の政治家や医師達から連絡を受け、放射能フォールアウトによる健康影響についての専門的知識を求められた。これまでの3年間で、IPPNWの医師達は、汚染地域の住民が有効な科学的情報を収集し、子供達を放射線の有害な影響から守るのを支援してきた。多くの場合、IPPNWは、原子力産業とロビー団体による大惨事の影響を隠そうとする試みに批判的に立ち向かい、公的に非難しなければいけなかった。子供の年間放射線被ばく許容量を1mSv(ミリシーベルト)から20 mSvに引き上げるという政府の暫定基準に反対した家族、医師や科学者らを支え、放射線被ばくの増加(20 mSvへの引き上げによる追加被ばく量)は人間の健康に有害ではないと公的に宣言した日本の原子力ムラの支持者に対して、強い姿勢を取った。

20128月に広島で開催されたIPPNWの第20回世界大会後に、IPPNWの医師達は、福島県の汚染区域を訪問し、また、科学会議、市民集会や大学の講義に参加した。国連人権理事会の「健康の享受の権利」特別報告者のアナンド・グローバー氏のように、我々は、フクシマの放射能フォールアウトに影響を受けた人達が、健康と幸せを保てるような生活水準への権利を系統的に奪われていると懸念している。

201442日に、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響」報告書完全版を公表した。プレスリリースで、UNSCEARは、調査結果をまとめ次のように述べた−−「フクシマ原子力事故の結果としての放射線被ばくによる将来の癌発生率と遺伝的疾患に識別可能な変化は予期されないi」。これは、2013531日のUNSCEARのプレスリリースで述べられた、「福島第一原子力発電所事故後の放射線被ばくは、即時に健康に影響を及ぼさなかった。一般市民と作業員のほとんどにおいて、将来、いかなる健康影響でも起こるとは考えにくいiiしである

諸文献や最新の研究によると、そのような明らかに楽観的な推測は正当化されない。UNSCEAR報告書内の広範で複雑なデータの評価の多くは、原子力災害の公衆衛生や環境への影響の評価において役立つではあろうが、我々は、UNSCEAR報告書はフクシマ災害の影響の真の範囲を明らかにはしていないと考えている。UNSCEARメンバーであるベルギー放射線防護協会は、UNSCEAR報告書がチェルノブイリの教訓から後退すらしていると批判したiiiUNSCEAR報告書は、独立したソースよりも、主に原子力産業の文献から引用されたデータを使っており、放射線被ばくの重要な側面を省略、または誤解釈している。また、UNSCEAR報告書内での計算の基盤とされた仮定の中には、我々が疑問を持つものもある。UNSCEAR報告書が公表されて1ヶ月(注:厳密には本分析公開時で2ヶ月以上)も経過しているにもかかわらず、元データを含む重要な付録がまだアクセス可能でなく、UNSCEARの結論の独立した検証が妨げられている。

我々は、報告書内の明らかに系統的な過小評価と疑わしい解釈が、フクシマでの原子力災害から予期される健康影響を軽視するために、原子力産業によって使われるのではないかと懸念している。さらに、公的機関が公衆の利益を最優先にして行動するためには、科学的データの信頼できる解釈だけでなく、入手可能なデータや仮定の限界および不確実さについての正直な評価をも必要とする。1992年の(環境と開発に関する)リオ宣言で定義された「予防原則」によると、科学的に不確かな状況下では、最悪の状況を推定して行動すべきであると決められている。しかし我々は、ほとんどの公的機関の政策において、信頼できて科学的に健全なベースとされるであろうUNSCEAR報告書が、楽観的すぎて誤解を招くのではないかと感じる。これは、日本での被ばく集団に関する将来の公的政策決定、科学研究、社会的サポートや医療サービスに否定的な影響を与えるかもしれない。我々はまた、UNSCEAR報告書の根拠がなく信頼できない結論が、国際放射線安全基準および緊急対応ガイドラインに対して長期的に否定的な影響を与え、将来の世代の被ばく量が増えてしまうという危険性を心配している。このような理由に基づいて、我々は、まず最初に、我々が合意する論点、その次に10の主要な批判点を示し、UNSCEAR報告書の医学的および科学的考察を提示する。


II UNSCEAR報告書の同意点


UNSCEAR報告書は、様々なデータと対処した、広範なプロジェクトである。特に、次の4点は賞讃に値するものである:


1  日本全体の集団実効線量を計算したこと

UNSCEARは、フクシマ原子力災害による日本国民全体の生涯線量の集団実効線量を48,000人・シーベルト、そして日本国民全体の甲状腺吸収預託線量を112,000人・グレイと推計したivこの計算は、個人生涯線量の平均値の計算に限定した世界保健機関(WHO)の健康評価から、かなり前向きに飛躍したものである。生涯線量の集団実効線量を用いることにより、大集団における健康影響を計算が可能になる。UNSCEARが、直線しきい値無しモデルを認め、国際原子力機関(IAEA)によって過去に放射線影響のしきい値として用いられた100 mSvを却下したことに感謝する。しかし、UNSCEAR報告書の集団線量の計算の元となり、系統的な過小評価の結果を生み出していると思われる推計値に関しては大きな疑問がある。これはセクションIIIで更に説明する。

2  避難区域外と近隣県での放射線被ばく量を推定したこと

UNSCEARは、福島県の避難区域外と近隣6県での事故後最初の1年目の実効線量vと甲状腺吸収線量viを推定した。UNSCEAR報告書は、「南トレース(富岡町、楢葉町、広野町、およびいわき市)における地表の沈着核種濃度は、日本国内の他の地域と比較して、Te-132I-132、およびI-131が非常に多い。vii」と認めている。その結果として、避難区域外での1年目の甲状腺線量で最も高かったのはいわき市の1歳児の52 mGyだったviii。これは、自然放射線による年間甲状腺吸収線量ix(約1 mGy)の52倍である。UNSCEARはさらに、千葉県、群馬県、茨城県、岩手県、宮城県、および栃木県からなる近隣6県での平均甲状腺吸収線量を計算し、放射能フォールアウトが、福島県民のみならず、日本全国で大気中あるいは経口摂取された放射性核種と接触した人たちにも影響を与えたことを認めたx。放射能汚染された米、牛肉、海産物、牛乳、粉乳、緑茶、野菜、果物や水道水は、日本の本土全体で見つかり、そして日本の輸出食品でさえも見つかったxi,xii,xiii,xiv,xv,xvi,xvii,xviii,xix,xx,xxi,xxii。しかしUNSCEARは、関東圏内で千葉のすぐ南に位置し、2011315日と21日両日にかなりのフォールアウトを受けたxxiii東京や埼玉での被ばく線量を推計することはしなかった。東京から140 km南の静岡県の農産物でさえ汚染が見つかっているxxivのだから東京都、埼玉県、神奈川県や静岡県での放射能フォールアウトを考慮しないことは、これらの地域での人口の放射線被ばく量を低く見積もることとなり、最終的には日本国民の生涯線量の集団線量の過小評価に繋がる。

3  過去に報告されたよりもはるかに大きな海洋放出量に言及したこと

フクシマ原子力災害による太平洋の放射能汚染全量の東京電力の当初の推定値は4.7 PBqだった。しかしながら、海洋汚染の最大量は、最初の炉心溶融直後の何週間もの放射能フォールアウトから起こっており、東京電力の推定には考慮されなかった。日本原子力研究開発機構(JAEA)と京都大学の科学者たちはその後、ヨウ素131とセシウム137による海洋汚染の合計が15 PBqであると計算したxxv201110月に、フランスの放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)は、セシウム137のみの海洋汚染だけでもその15 PBqを上回る27 PBqと試算したxxvi

しかし、現在のUNSCEAR報告書によると、これらの推定値は、はるかに過小評価だった。海洋汚染を決めるために、著者らは概ね20118月の川村氏らの研究論文に頼り、312日から430日の間に大気から太平洋に沈着した放射能の全量はセシウム1375 PBqでヨウ素13157 PBq、そしてさらに、321日から430日の間に直接放出されたのはセシウム1374 PBqとヨウ素13111 PBqだったと計算したxxvii

しかしながら、これらの数字でさえも海洋汚染の全貌の説明とならないだろう。321日以前の放射能放出に関して、川村氏は、「321日以前はモニタリングデータがなかったため、海洋への直接の放出はなかったと仮定されたxxviii。」と述べている。また、川村氏の推計は、「46日以降に大気へ放出された量の情報がなかった。ゆえに、46日以降は放射性物質が大気に放出されなかったと仮定されたxxix。」という疑いがあるスタンスのもと、46日以降の大気放出量を考慮していない。しかし最も不可解なのは、東京電力が最近明らかにしたように、事故当初から毎日約300トンの放射能流出が海に到達し、過去38ヶ月で合計346,500トンになったにも関わらず、2011430日以降の放射能流出がすべて無視されていることである。少なくとも、川村氏の研究論文は、「将来のある時点で、海洋と大気放出のソースタームをより正確に推計することが必要となるだろう。」と認めているxxx

前述の不確かさと過小評価すべてを考慮した上で、UNSCEARが仮定する海洋汚染数値は、ヨウ素13168 PBqでセシウム1379 PBqであるとまとめることができる。これは、JAEAの推計の5倍であり、東京電力の初期の計算の15倍である。ゆえに、フクシマフォールアウトは、これまでに記録された中で、海洋への最大かつ単一の放射能流出であることが明らかであるxxxi,xxxiiIAEAによると、フクシマ原子力災害は既に、大気圏内核兵器実験、チェルノブイリのフォールアウト、および英国セラフィールドやフランスのラ・ハーグのような核燃料再処理工場からの放射能流出と共に、世界の海の主要な放射性汚染物質のひとつであると位置づけられているxxxiii


4  フクシマ大惨事が単一の事象でなく進行中のプロセスであると正確に描写していること

原子力産業はよく、20113月の最初の炉心溶融の後からずっと放射能の放出が続いていることを考慮せずに、フクシマ原子力災害を単一の事象であると描写している。特に、放射性粒子の拡散が続いていることや、放射能汚染水貯蔵タンクと損傷した炉心からの土壌や地下水への漏えい、そしてまた、野原や森林や都市部の居住地から洗い流される放射性核種による土壌と地下水の放射能汚染を、大抵の場合は考慮していない。梅雨や台風の季節には、森林や野原などの自然の蓄積場所から放射能が以前に除染された地域に移行・再浮遊し、風の強い日や春には花粉の飛散が放射性粒子の拡散に寄与するなど、除染の試みは一時的な対策にしかならない、ということが証明されて来たxxxiv, xxxv

UNSCEAR報告書では、フクシマ原子力災害は汚染の蓄積量の再評価が絶えず必要となるような進行中の大惨事であると認識されている。UNSCEARは、「海洋環境への放出が201312月末の時点で進行中」であり、「これは今後、被ばくと傾向のさらなる追跡調査が必要であることを示唆しているxxxvi。」と述べた。UNSCEARはまた、「現地の放射性物質の多数のソース(例:汚染水タンクからの漏えいや、汚染された原子炉の冷却水の拡散、および大気に放出された放射性核種の沈着)により汚染された地下水が海洋への持続した放出源となり」と述べ、そして「将来の意図的でない(例:原子炉建屋から地下水へ放出され続ける水)、あるいは福島第一原子力発電所サイトの収束作業において採用された廃棄物処理計画の一部としてのさらなる放出は除外できないxxxvii。」と報告している。将来的に、これは、地下水源と食物連鎖からの放射性核種を通して、一般住民の内部被ばくの増加に繋がるかもしれない。このシナリオは、バーバリア地方さえも含む欧州東部と中部のいたる所で、きのこや野生鳥獣に含まれている放射性セシウム137が、チェルノブイリの炉心溶融から25年も経った今でさえも公衆衛生に懸念をもたらしていることを考えると、現実的な評価であるxxxviii, xxxix。遺憾ながら、これらの予防的側面は、UNSCEARのプレスリリースで言及されておらず、委員会の知見についてのメディア報告でもほとんど無視されているようである。


III 批判の主要点

UNSCEAR報告書には、フクシマ核炉心溶融の環境および公衆衛生影響の今後の評価に役立つかもしれない部分もあるだろうが、我々は、この報告書が核大惨事の真の規模の系統的な過小評価の基盤となるのではという懸念を持つ。国連総会への報告書において、UNSCEARは、「被ばくした一般市民やその子孫において、放射線由来の健康影響の発症の識別し得る増加は予期されない」と述べているxl。多くの人々にとって、この記述は、健康影響が予期されないだろうという予測と理解されるだろうが、実際には、この記述は単に、健康影響(例:癌症例、非癌疾患、遺伝的奇形および死産)は、日本国民全体の疫学調査で発現するには小さ過ぎると示唆しているに過ぎない。我々は、予期される健康影響の多くは日本の東北地方での放射能汚染とはっきりと因果関係を示す事ができないという点で同意はするが、これは、原子力大惨事の余波において有意に増加し得る、小児甲状腺癌のような稀な疾患にも当てはまるとは言えないxli。大集団が少量の電離放射線に被ばくしたら癌の症例数の増加が予期されることは、一般的に受け入れられており、この事実はUNSCEAR報告書内でも言及されている。フクシマの場合、これは、原子力発電所の近辺の住民のみならず、汚染された食物や水、大気中の放射性核種、あるいは増加しつつある放射性廃棄物を通しての内部被ばくによって他県の住民へも影響を持つ可能性がある。

放射線の医学的影響や線量推計についてのUNSCEAR仮定の多くは、20125月および20132月に公表されたWHOIAEA報告書に基づいているxlii, xliiiWHO報告書は、実際の放射線被ばく量を不正確に述べ、胎児の放射線への脆弱性について不完全な仮定に従い、損傷を受けた原子炉からの進行中の放射能放出を無視したと批判された。また、WHO報告書は、批判的な議論なしで放射線の非癌影響を除外し、原子力産業との深い結びつきのために利益相反を持つ科学者から大きな影響を受けたxliv,xlv

現在のUNSCEAR報告書に関しては、どのような評価もデータと仮定の妥当性に依拠するものであるという確立された科学的原理が有効である。従って、批判の主要点は、次の10の議論点を持って総括される。
 
   1 UNSCEARのソースターム推計値の妥当性は疑わしい
   2 内部被ばく量の計算に大きな懸念がある
   3 フクシマ作業員らの線量評価は信用できない
   4 UNSCEAR報告書は、フォールアウトの人間以外の生物相への影響を無視している
   5 胎芽の放射線への特別な脆弱性が考慮されていない
   6 非癌疾患と遺伝的影響はUNSCEARに無視されている
   7 核フォールアウトと自然放射線との比較は誤解を招く
   8 UNSCEARのデータ解釈には疑問がある
   9 政府によって取られた防護措置が誤って伝えられている
   10 集団線量推計値からの結論が提示されていない



1  UNSCEARのソースターム推計値の妥当性は疑わしい

フクシマ事故によるフォールアウトの「ソースターム」、すなわち原子力災害により放出される放射能の合計値の推計を扱った研究は、いくつかあるxlvi。福島第一からの放射性粒子の放出がまだ続いており、入手可能なソースターム推計値は事故後最初の数週間の間の放出しか考慮していないという事実に言及しなくとも、UNSCEAR報告書で使われたソースタームの仮定にはまだ様々な問題がある。著者らは、寺田らのソースターム推計値xlviiをベースにして計算したと言うが、この研究が、原子力産業との癒着および原子力安全の分野での不注意について東京電力福島原子力発電所事故調査委員会国会事故調)により厳しく批判されたxlviii日本原子力研究開発機構(JAEA)により行われたことへの言及を怠っている。JAEAは、原子力災害の影響を評価するにおいて明らかに利益相反関係にあり、この意味では中立的な情報源であると認められない。

UNSCEARは、2012522日に公表されたJAEAの研究が最新の評価であると言うが、有名なノルウェー大気研究所(NILU)がその3ヶ月前の20122月に研究結果を発表しており、セシウム137の放出量がJAEAの推計値の4倍(9 PBqの代わりに37 PBq)だったことを見つけた。さらに、東京電力自体による20125月のヨウ素131放出量推計値は4倍以上(500 PBq vs. 120 PBq)だったxlix。もしも、集団への健康影響の可能性の十分な評価が主な懸念であるのなら、なぜUNSCEARが、中立的な国際研究所や東京電力自体の推計値よりも、物議を醸し出す日本原子力研究開発機構のかなり低いソースターム推計値に頼るのか不明である。
放射性核種
東京電力
日本原子力研究開発機構
ノルウェー大気研究所
ヨウ素131
500 PBq
120 PBq
-
セシウム137
10 PBq
9 PBq
37 PBq
表1UNSCEAR報告書で引用されているソースターム推計値49

ソースターム推計値に関するまた別の論点は、放射性ストロンチウム(Sr-89Sr-90)のような他の放射性核種の放出である。ストロンチウムは、カルシウムに非常に良く似ているため、経口摂取されると骨組織に蓄積し、骨髄癌や白血病を引き起こす可能性がある。ゆえに、ストロンチウムは環境有害物質として非常に影響の大きいものであり、人間の健康への影響は過去数十年での多数の核事故で示されてきている。UNSCEARはその報告書内で、放射性ストロンチウム同位体が事故前の4オーダー大きい(1万倍以上)規模の濃度で検出されたと述べているlUNSCEAR報告書は、201112月に放射性ストロンチウムが直接海に放出された時以外は、放射性ストロンチウム濃度が常にCs-137濃度の10分の1だったとも述べているliCs-137海洋への放出量は約9PBqという規模であり、その10分の1であってもかなりの放射性ストロンチウムが太平洋へ放出されたことになる。そして、フクシマからの最初の放射能フォールアウトのほとんどが海に入った一方、ストロンチウムは、福島県の様々な場所の土壌、地下水や堆積物の検体からも検出されているlii

放射性ストロンチウムの同位体は、ゆえに、一般大衆の放射線被ばく量の評価に含まれるべきである。しかしUNSCEARはその報告書内で、「Sr-89Sr-90の地表沈着量はCs-137よりはるかに少なかったので、これらの放射性核種は本委員会の公衆被ばく量推計値に含まれなかった」と述べている。この不適切な省略は、20125月のUNSCEARの特別報告者の報告内で次のように正当化されている:「最初のストロンチウム測定値は(データ提出日の)締め切りの後に受け取られたため、(UNSCEARの評価には)含まれていないliii」。20125月から20144月までにほぼ二年が過ぎたが、フクシマで破壊された発電所から放出された放射性ストロンチウムの健康影響は考慮されなかったことになる。同様のことが、この災害の過程で放出された20数種類以上の、特にキセノン133やプルトニウムのような他の放射性核種にも言える。

このような大惨事の後に真の放射能放出量を評価することが困難なのは理解できる一方、承前の論拠により、UNSCEARのソースターム推計値の妥当性は疑問である。UNSCEARがなぜ、より保守的なアプローチを取らず、公表された中の最低値のソースターム推計値に頼ることを選び、「締め切り」を理由に適切な放射性同位体を省いたのかは不明である。

ちなみに、東北の地震と津波の余波の中には製油所や工業地帯での火事による環境汚染も含まれ、これにより大気に数多くの有害化学物質が放出されたliv。これらの化学物質は、人体や他の生物に有害である可能性を持ち、呼吸器系、皮膚系、および造血系の問題、そして発癌や催奇形影響をも引き起こす。UNSCEARは、地震と津波による危険化学物質汚染への曝露が、放射線被ばくと発癌影響の関係性の重大な交絡の可能性があるということを認識するべきである。放射線被ばくと化学物質曝露の共存は相乗効果を持つ可能性があり、より早く、より深刻な健康影響を引き起こすかもしれない。福島県の医療体制は、この可能性を認識し、放射能フォールアウトに曝露した人たちすべてに適切なモニタリングが行われるようにすべきである。


2  内部被ばく量の計算に大きな懸念がある

ソースタームと同じく、飲食による放射性同位体の取り込みの推計値は、原子力災害後の個人の総放射線被ばく量に大きな影響を与える。どれほど専門的に行われたとしても、内部被ばくによる健康リスク評価は、それが基づく仮定と同じ正確さでしかあり得ない。さらに、どのような線量推計でも、食物のサンプルの選択およびサンプルのサイズの決定の方法に影響される。選択的サンプリング、曲解や省略のために妥当性に疑問があるデータに基づいた推計値は、予測や健康政策の提言の基盤とされるベースとしては受け入れられないlv

そのような懸念は、UNSCEAR報告書の結論を台無しにしてしまう。食物内の放射線量に関しては、UNSCEARは唯一無二のソースとして、いまだに公表されていないIAEAおよび国際連合食糧農業機関(FAO)のデータベースを用いているlviIAEAは、「安全で保障され、平和的な原子力技術の推進」のために、「核エネルギーの平和、健康と繁栄への貢献を促進かつ拡大する」ための特定のミッションの下に設立されたlvii。ゆえに、IAEAには重大な利益相反がある。IAEAの食物サンプルのデータへの依存は、内部被ばく線量の評価を台無しにし、その知見が操作されているのではないかと反論されやすくなるために、推奨できない。

IAEA/FAO食物データベースについては、いくつかの問題点がある。最初に、I-131Cs-134およびCs-137の測定データしか含まれていないので、UNSCEAR報告書は経口摂取による被ばく線量の評価において、これら3核種しか考慮していないことになるlviiiSr-89/90なとの他の核種は考慮されなかった。また、UNSCEAR報告書では、IAEAの食物サンプルがどの場所でどのように採取されたのかについて言及されていないため、選択的サンプリングが実施されたかもしれないと言う疑惑が起こる。

実際の例を挙げるために、IAEA/FAO食物データベースに基づいて推計値を出した、20125月のWHO/IAEA線量評価報告書についての最近の分析から引用する。WHO/IAEA報告書内で内部被ばく線量を計算するために使われた食物サンプルの量と選択は、不十分であると示され、事故後当初に日本政府によって公表されたサンプルと全く対照的であるlixWHO/IAEA報告書内で放射能汚染レベルが最大だったのは、ヨウ素13154,100 Bq/kg(ちなみにこれは福島県外で見つかった)で、セシウム13741,000 Bq/kgだったがlx、日本政府の文部科学省(MEXT)は、ヨウ素131濃度が最大で2,540,000 Bq/kgWHO/IAEA報告書で言及されている汚染が最大の野菜サンプルの40倍以上)およびセシウム137濃度が最大で2,650,000 Bq/kg WHO/IAEA報告書で言及されている汚染が最大の野菜サンプルの60倍以上)で汚染された雑草/葉野菜サンプルを見つけた。雑草/葉野菜の放射能レベルがそれほど高いということは、同じ地域で栽培されている野菜が同様の放射線量を蓄積したかもしれないことを示唆する。炉心溶融の1ヶ月後でさえ、文部科学省の科学者達はヨウ素131濃度が最大で100,000 Bq/kgWHO/IAEA報告書のほぼ2倍)およびセシウム137濃度が最大で900,000 Bq/kg WHO/IAEA報告書の20倍以上)の雑草/葉野菜サンプルを見つけていたlxi。なぜ、そのように汚染が大きなサンプルがWHO/IAEA報告書には載っていないのか?これは、選択バイアスを示しているのか?WHOIAEAも、文科省ホームページから簡単にアクセスでき、多くの文献で引用されているこれらの文科省のサンプルデータが、なぜWHOIAEAが用いたデータベースから省略されているのかを説明していない。IAEA/FAO食物データベースのみに頼ることにより、UNSCEARは、WHO/IAEA報告書のやり方を繰り返し、その内部被ばく線量評価の信用を落とし、自らの知見に選択的データサンプリングの疑惑をかけられやすくしている。
放射性核種
WHO/IAEA
文部科学省
ヨウ素131
54,100 Bq/kg
2,540,000 Bq/kg
セシウム137
41,000 Bq/kg
2,650,000 Bq/kg
     表 2: 植物内の最大放射線量測定値 60, 61


もう一つの重要な問題は、内部被ばく線量の見積もりを大きく影響する食習慣の仮定である。UNSCEAR報告書の著者らは、「日本国内の住民のほとんどは、日本全体から集められた食物をスーパーマーケットから購入している」と仮定し、それに従って内部被ばく線量を計算したlxii。これは論理的であるようだが、被災地が主に農村地域であり、多くの人々が農家の産直市場や自家栽培された野菜に頼っていることを無視している。福島県では、「地産地消」、すなわち、「地元で生産された食物を地元で消費する」、という指針が広く奨励され、市町村が学校給食で地元の福島産農作物を使用することを推奨、あるいは命じる所まで行ったlxiiiUNSCEARは、地元産の食物を食べた人たちは「見積もられた線量よりもはるかに高い線量に被ばくした可能性があるlxiv」と認めている。さらに考慮されていないのは、日本政府によって日本全国で繰り広げられた、福島県で生産された食べ物の購入を団結の印として推進する「食べて応援しよう」キャンペーンであるlxv。ゆえに、福島県民が全国から集められた食べ物を食べるという仮定は、おそらく、実際の汚染食品の消費を過小評価することに繋がるだろう。


3  フクシマ作業者らの線量評価は信用できない


UNSCEAR報告書には、福島第一原発事故現場で、発電所作業者、緊急対応要員および収束作業員として、24,832人が雇用されていると記載されている。これらの作業者らの放射線被ばくに関して、UNSCEARは東京電力自体から受け取ったデータのみを頼りにしているlxvi。報告書によると、173人の作業者が100 mSv以上の実効線量に被ばくし、24,659人の実効線量が100 mSv以下だった。さらに、この中の13人の甲状腺被ばく量は、212 Gyだった。

国会事故調委員会は、東京電力と当局の間に癒着があり、津波が沿岸に位置する原子力発電所に損傷を与える可能性についての警告を無視したと非難しており、東京電力に原子力災害の責任の大部分を課したlxvii。故に、東京電力には、従業員の放射線被ばく量に関する事実やデータを公表するにおいて利益相反があると仮定するのはごく自然である。日本の原子力産業には意味のある規制や監視はなく、東京電力からのデータは、過去にしばしば改ざんおよび偽造されていたことが分かっているlxviii

またUNSCEARは、職業被ばく作業者の15%だけが東京電力の従業員でありlxix、残り(約20,000人)は元請業者や下請業者の不透明なネットワークに雇用されていたと述べている。これらの下請業者の多くは、公式統計に含まれない派遣労働者を雇用しているlxx,lxxiまた、線量計の紛失、線量計をわざと鉛のケースに入れて測定できないようにした意図的な操作や、放射線測定機器の不具合などの報告も多数であるlxxii,lxxiii,lxxiv

最後に、テルル132、ヨウ素132、ヨウ素133およびキセノン133などの短命核種は作業者の被ばく線量の計算から除外された。例えば、報告書は、「より短命なヨウ素同位体、特にヨウ素133の摂取による被ばく量への寄与の可能性は考慮されなかった。結果として、内部被ばくによる被ばく量評価は、20%ほど過小評価だった可能性がある。作業員の多くにとっては、モニタリングの開始が遅かったために、甲状腺でヨウ素131が検知されなかった。これらの作業員については、東電と契約業者によって推定された内部被ばく量は不確かであるlxxv」と述べている。

これらの理由すべてによって、東電から提供されたデータを、予測値を算出するための代表的で妥当な根拠として受け止めるのは困難である。しかし、UNSCEAR報告書は、その健康評価を完全に東京電力のデータに基づけており、この集団での健康影響をおそらく過小評価している。

我々はまた、UNSCEARの、「研究は放射線被ばくによる癌リスクの評価をするには統計的パワーが不十分である。被ばく線量が低過ぎて、集団サイズが小さ過ぎるlxxvi」という評価に同意しない。ウラン鉱山労働者lxxvii,lxxviii,lxxix,lxxx,lxxxi,lxxxii 、核実験場の風下の住民lxxxiii,lxxxiv,lxxxv 、核工場の労働者lxxxvi,lxxxvii,lxxxviii,lxxxix 、原子力発電所近辺の住民xc、およびチェルノブイリの清掃作業員xci,xcii,xciiiなどの、非常に様々な放射線量に被ばくした非常に多様な集団での低線量放射線被ばくのかなりの健康影響に関しては、多くの研究で示されている。これは最終的には、研究デザインと、科学原理の厳守の問題であり、東京電力の場合は、これまでのデータ操作の不当な規模から判断して、これが厳守されていると想定できない。


4  UNSCEAR報告書は、フォールアウトの人間以外の生物相への影響を無視している

低線量放射線被ばくから観察された人間以外の生物相への影響は、人間への影響を理解する助けとなり得る。フクシマ報告書において、UNSCEARは、「観察内容は本委員会の評価と一致しておらずxciv」と述べて実際の放射線影響についての最新の科学的野外調査を無視し、それよりも、人間以外の生物相への影響についての、UNSCEAR独自の1996年と2008年の報告を引用しているxcv,xcvi

これは、チェルノブイリとフクシマからの生態学的および遺伝的研究論文が増えており、低線量率の放射線影響が、突然変異率の増加のような遺伝的損傷、鳥とほ乳類での発達異常、白内障、腫瘍や脳のサイズの減少、そして集団、生物学的コミュニティーと生態系へのさらなる傷病を生み出しているというかなりの証拠を見つけているにも関わらず、UNSCEARが承前の報告書以降の新知識を得ていないことを暗に示しているxcvii,xcviii,xcix

短期間の実験室の設定下で比較的高線量の放射線への急性反応に焦点を当てた古い放射線研究とは異なり、ムソー、モラー、リンドグレンその他の科学的研究は、低線量の電離放射線への何世代にも渡る慢性被ばくの後の自然集団においての測定可能な影響があるかどうかという、複雑さがより大きな問題を検討している。

それゆえに、彼らの観察は、自然な状況下での累積影響を反映する。このような影響は、従来の毒物学的研究のほとんどで用いられてきた人工の状況下では観察することができない。この点を強調し、ジャーナル・オブ・エンバイロメンタル・ラジオロジーの最近のレビューは、チェルノブイリでの生物の反応は、普通のモデルで予測されたよりも8倍大きかったと示唆したc

UNSCEARは、ピアレビューされた科学雑誌に掲載されている、チェルノブイリとフクシマからの最新の野外調査の知見を取り入れるべきである。そのような研究を無視することは、UNSCEARの手順にバイアスがあるか、もしくは厳しさが欠けているかのように見え、委員会が提供するかもしれない、建設的あるいは役立つ助言のどれをも台無しにしてしまうだけである。


5  胎芽の放射線への特別な脆弱性が考慮されていない

UNSCEAR報告書は、被ばく集団を、成人、小児と乳幼児の、3つの年齢層に分けている。胎児の特別な状況が特別に考慮されることはなかった。「本委員会は、胎児または母乳で育てられている乳児に関しては、外部被ばくと内部被ばくのどちらも他の年齢層と同様であっただろうと考え、特に区別して被ばく線量を推定していないci」。

このアプローチは、胎内の子どもの特別な脆弱性を完全に無視しており、新生児の生理学と放射線生物学の基礎原理に反するものである。母親の皮膚、腹筋と子宮によって遮断されるために、胎芽の外部被ばく量が小児や成人に比べると低いことが知られている一方、これは、原子力災害においてより関連性が高い要因である内部被ばくには当てはまらない。母親が経口摂取あるいは吸入したヨウ素131は、胎児の甲状腺に蓄積し、誕生後に甲状腺疾患や甲状腺癌の発現に繋がる可能性がある。また別の放射性核種であるセシウム137は、発達しつつある胎盤を自由に通り抜けて胎芽に入り込み、さらに羊水や膀胱にも溜まり、胎内の子どもをあらゆる方向からベータ線とガンマ線で照射する。なにより重要であるのは、一定の放射線量は、小児においてよりも、胎芽においての危険性が高いということである。すなわち、胎内の子どもでは、体組織の代謝と細胞の有糸分裂率が高いため、ゲノムの突然変異の機会が増えるのである。胎内の子どもの免疫システムと細胞修復メカニズムはまだ完全に発達していないため、悪性腫瘍の発達を十分に防ぐことができないciiUNSCEARは、「これまでの経験では、特定の集団(特に胎児としての被ばく後、あるいは乳幼児期および小児期の被ばく後)における特定の癌の相対リスクは集団の平均よりも高くなる」と述べてはいるが、その評価において、胎内の子どもを特別に考慮していないciii

「電離放射線への胎内被ばくは、催奇性、発癌性、突然変異誘発性を持つ。この影響は、被ばく量と胎児の発達段階と直接相関する。胎児は、器官形成期(受精後2−7週間)と初期の胎児期において放射線への感受性が最も高いciv」と言うことは、広く認められている。1950年代後半から多くの研究が示すことができたように、電離放射線への被ばくひとつひとつが定量化できるリスクを伴う:

  • アリス・スチュワート博士は、レントゲンの胎内被ばくに起因した小児癌の最初の疫学研究に携わった。スチュワートは、妊婦の腹部が一度レントゲン照射を受けたら、小児癌の発症が50%増加したと示すことができた。また、スチュワートの研究は、小児癌リスクがレントゲンへの胎内被ばくの回数に直線的に比例して増加することを示した。これらの影響についての他の説明となる交絡因子を見つけることはできなかったcv, cvi
  • 1997年に、ドールとウェイクフォードは次のように結論づけた。「様々な国々での多くのケースコントロール研究で、一貫した関連性が見つかっている。これらの研究結果を合わせて得られた過剰相対リスクは統計的有意性が高く、過去に、妊婦の腹部のレントゲン検査が約40%の比例したリスク増加に繋がったことを示唆する。(中略)胎児が胎内で10 mGyの放射線被ばくを受けると、結果として小児癌のリスクが増えると結論付けられるcvii」。
  • 世界中での多くの大規模研究により、スチュワートらの研究結果が確認され、誕生前の放射線被ばくに対して、より注意深いアプローチが取られるようになったcviii, cix, cx
  • したがって、レファレンスの1歳児を、恣意的に胎内の子どもを含む5歳以下の子どもの代表とするのは受け入れられないcxi。胎内の子どもと乳児の間の生理学的差異を否定することにより、UNSCEAR報告書の著者らは、この、特に脆弱性が高い集団での健康リスクを事実上過小評価している

6  非癌疾患と遺伝的影響はUNSCEARに無視されている

循環器系疾患、内分泌系および消化器系の障害、不妊症、子孫での遺伝子突然変異や流産などの非癌健康影響は医学文献で報告されているが、UNSCEAR報告書では考慮されていない。その代わりに、著者らは、「様々なグループのいずれにおいても、確定的影響を予期しなかった」と述べているWHO/IAEA健康リスク評価を引用しているが、そこでは、「妊娠期の被ばくが『自然妊娠中絶、流産、周産期死亡率、先天性の影響や知能低下の発症率』を増やすと予期しなかったcxii」とも述べられている。

この見解は、放射線の非癌影響が確定的でなければいけないと思うのが当たり前ということになるが、その一方で、放射線の癌影響と同じく、非癌影響も本質的に確率的であるかもしれないと仮定するのも妥当である。大規模の疫学研究では、低線量の電離放射線と非癌健康影響の間に否定できない関連性があることが示されている。これらの関連性は科学的な批判を受けておらず、国際的に認められている公衆衛生の予防原則では、リスクがあるすべての人の放射線被ばくを最小限に抑えるための広範囲の予防対策が取られるべきであると決定づけられている。

電離放射線と関連した非癌疾患の際立った例のひとつは、循環器系疾患の一群である。多くの研究論文が示唆する電離放射線の循環器系への確率的リスクというのは、高血糖症、高コレステロール血症、高脂血症、高血圧症やその他の独立したリスク要因の影響と同様の血管内皮の損傷が、放射線によって引き起こされることに由来する可能性がある。

  • リトルらは、低線量電離放射線への分割した被ばくによる循環器系疾患の妥当なモデルを提案し、放射線量と影響の間に、癌症例を推定するのに使われるモデルと似た直線的相関性があると示唆しているcxiii
  • 乳がんの放射線治療を受けた女性についてのスウェーデンの研究は、循環器系疾患の放射線誘発性の増加を示したcxiv
  • 広島と長崎の被爆者における日本の研究は、0−2 Gyの放射線量域で心疾患と脳梗塞のリスクが増加したのを発見したが、これは癌発症率を推定するのに使われるモデルを支持し、より低い線量でさえも過剰リスクがあることを示唆したcxv


7  核フォールアウトと自然放射線との比較は誤解を招く

UNSCEAR報告書は、「福島第一原発事故後の1年目の被ばく量が自然放射線からの年間バックグラウンド被ばく線量と同等かそれ以下の(そして、生涯被ばく線量がバックグラウンド放射線による被ばく線量よりずっと少ない)地域に居住する日本の一般大衆については、本委員会は、生涯リスクが低いために、この集団あるいはその子孫において、放射線被ばくによる健康影響の将来の発症の識別可能な増加は予期されないだろうと推定したcxvi」と結論づけた。この比較はよく、低線量放射線の健康影響を軽視するために持ち出されるが、誤解を招く恐れがあるのとはまた別に、原子力災害の公衆衛生影響の系統的な過小評価に繋がる。

まず最初に、放射線の中には全身に影響を与えるもの(地殻放射線や宇宙放射線)もあるが、経口摂取あるいは吸入された放射性粒子は特定の臓器にしか影響を与えないかもしれないと言うことを認識するのが重要である。例えば、ヨウ素131は主に甲状腺に取り込まれ、そこで癌を引き起こすことができ、ストロンチウム90は主に骨に蓄積し、白血病や悪性骨腫瘍を引き起こす。一方、セシウム137は、ほとんどの軟組織にかなり同等に分布され、固形癌の発達に繋がる。しかし、これらの核種すべてにはひとつの共通点がある。それは、放射線量を周囲の組織に直接そして持続して照射し、ゆえに、外部放射線被ばくよりも内臓への危険がずっと大きいということである。なので、臓器線量は、全身線量よりも癌の発生率を予期するための方法として優れている。

これを視野に入れて見直すと、日本人が1年間で受ける自然バックグラウンド放射線量の平均値は約1.5 mSvであり、その内訳は約0.3 mSvが宇宙放射線、約0.4 mSvがカリウム40やウラン238などの地殻内の放射線核種からの地殻放射線、 約0.4 mSvが大気中の放射性同位体(主に屋内のラドンガス)の吸入、そして、ほとんどの飲食物には元々いくらかの放射線が含まれているために、年間約0.4 mSvが経口摂取からとなるcxvii。この自然バックグラウンド放射線は無害というわけではない。優れたデザインの多くの研究cxviii, cxix, cxxでは、癌の発症率と、特に地下水cxxiと土壌内cxxiiの自然放射線、屋内のラドンレベルcxxiii, cxxiv, cxxv, cxxvi, cxxvii, cxxviii、そして飛行機の中での宇宙放射線への被ばくcxxixなどのバックグラウンド放射線との間に、有意な関連性が示されている。

国際的な科学的コンセンサスによると、それ以下では放射線が害を及ぼさないという閾値はない。むしろ、放射線量と癌発症率には直接的直線的関係がある。米国科学アカデミーの電離放射線による生物学的影響に関する調査委員会によって2006年に公表された報告書(BEIR-VII)によると、10,000人が1 mSvの放射線の全身照射を受けると、確率的にはこの集団で癌が1症例過剰発生する。すなわち、1 mSvの全身照射量に被ばくした人では、この被ばくによって発癌する可能性が10,000人に1人ということになる。10 mSvでは、このリスクは既に1,000人に1人に増え、100 mSvではリスクは100人に1人、または1%に増える。このリスク計算は、自然バックグラウンド放射線、医療被ばく、および原子力災害の結果の放射能フォールアウトすべてに当てはまる。

それゆえに、自然バックグラウンド放射線の方が安全であるとか、核フォールアウト由来の過剰放射線が自然バックグラウンド放射線の線量域に留まっていれば無害であると主張するのは科学的でない。もしもそれが事実であるなら、医師らは、子どもや妊婦をレントゲン機器で、日本のバックグラウンド放射線と同じ線量の1.5 mSv(およそ腹部レントゲン3回か胸部レントゲン75回分)で照射しても何も気がとがめないはずであるcxxx。しかし医療従事者らは、自然バックグラウンド放射線と同じくらいの放射線レベルでさえ、電離放射線に有害な影響があることを良く承知している。大規模な疫学調査で、低線量の電離放射線にかなりの医学的影響があることが示された。胎内でのレントゲンへの被ばくと小児癌の間の強い相関性は、1950年代に既に見つかっていたcxxxi。より最新の研究では、平均線量が4.5 mSvCTスキャン検査を受けた人たちの平均癌リスクが、最初のCTスキャン24%増加し、その後の追加CTスキャン検査1回につき16%上昇したことが示された。癌リスクの上昇が最も高かったのは、小さな子どもにおいてであったcxxxii, cxxxiiiCTスキャンやX線検査からの不必要な医療被ばくを避けることは、重要な公衆衛生対策であり、癌の過剰発生を防ぐ助けとなり得る。この極小化の原理は、核フォールアウトにもまた適用するべきである。


8  UNSCEARのデータ解釈には疑問がある

UNSCEAR報告書の著者らは、自分達の仕事は放射線に関連した健康影響のみを評価することだと述べているcxxxiv。だが、それとはまた別に、フクシマのような原子力災害が、避難時の急性ストレス、心理身体的影響や心的外傷後ストレス障害、外で運動ができないことによる汚染区域の住民での慢性影響などの多くの理由のために、集団の健康に重篤な影響を持つと認識することが重要である。しかし、これらの要因は、放射線の影響が無効であると宣言するために使われるべきではない。チェルノブイリ事故後においてさえ、清掃作業員のグループでの健康影響が、「ストレスと不健康な生活スタイル」のせいにされたcxxxv。これはフクシマで繰り返してはいけない。

プレスリリース内で、UNSCEARは、「フクシマ原子力事故の結果の放射線被ばくによる将来の発癌率と遺伝的疾患に識別可能な変化は予期されない。そして、先天性奇形の発症率の増加は予測されない」という結論に達しているcxxxvi。この結論が述べる所が、健康影響がないだろうと言うことではなく、(もしも健康影響があったとしても)一般的に用いられる疫学方法では検出できないだろうと言うことに過ぎないことを認識することが重要である。これは、タバコ会社や自動車産業によって、喫煙あるいはフィルターのかかっていない排気ガスと肺疾患との間の因果関係を示す科学的証拠に反論するために、既に何十年間も使われている古い作戦である。癌には原産地表示と言うべきものがなく、単独の原因との因果関係は分かり得ない。しかし、疫学的証拠が圧倒的になったら、合理的な確かさを持って因果関係を立証することが可能になる。

UNSCEAR報告書自体では、「本委員会は、『識別可能な上昇なし』という言葉を用いて、現在利用可能な方法では、疾患統計において放射線被ばくによる疾患発生率の上昇を実証できるとは予想されないことを示唆した。これは、放射線照射による疾患症例が将来過剰に発生する可能性を排除するものでないと同時に、かかる症例が発生した際に伴う苦痛を無視するものでもない」と述べられているcxxxvii

しかし、UNSCEAR報告書やその短いエグゼクティブ・サマリー(国連総会への報告書A/68/46)、あるいはプレスリリースを読むほとんどの人たちは、健康影響が予期されないと理解するだろう。ほとんどの人たちに誤解されるような文章で結論を表現することにより、著者らは、報告書に「スピン」をかけている。しかし、報告書の知見は、そのような楽観的な結論を正当化するものではない。UNSCEAR報告書は、科学的標準である中立性を支持せず、被ばく集団への健康リスクを系統的に過小評価している。

また、全292ページの報告書完全版を、国連総会に提出された22ページのエグゼクティブ・サマリー(A/68/46)、そして1ページのプレスリリースと比較すると、文章が簡潔になるにつれて、解釈がより大きな度合いの確かさを持って提示されているようにみえるのが気にかかる。科学者によって科学者のために書かれたとされている報告書完全版が多数の不確かさを含んでいる反面、この不確かさは、政策決定者、メディアや一般大衆向けであり、もっと頻繁に読まれているはずの短い文書であるエグゼクティブ・サマリーやプレスリリースには反映されていない。報告書完全版においてUNSCEARは、「放射性核種の経時的放出率および放出時の気象状況についての知識が不完全」であると認めているcxxxviii。著者らはさらに、「環境測定値に基づいて外部被ばく線量を評価するには、放射能プルーム通過時の大気中のガンマ線量率と放射性核種の測定が不十分であった」と述べているcxxxix。また、「最初の1−2ヶ月間の食物の測定値は比較的少なかった」と述べ、そして、「日本で生産された食品への放射性核種の経時的な移行に関する情報が不足している」とも述べているcxl。これだけの不確かさがあるというのに、どうしてエグゼクティブ・サマリーでは、あれほどの確実さで集団線量推定値を提示することができるのか?


9  政府によって取られた防護措置が誤って伝えられている

UNSCEARは、報告書とプレスリリース内で、日本政府によって取られた防護措置を頻繁に称賛している。日本政府の災害対策本部の不手際にも関わらず、避難支援などの一般大衆において放射線被ばくがより大きくなるのを防ぐための活動に従事した、何万人もの緊急作業員やその他の人たちの尽力は賞讃に値する。しかし、日本政府の災害対策本部の多くの重大な間違いは、被災した都道府県の市民、ジャーナリスト、医師、科学者や政治家のみならず、国会事故調にも正当に批判されてきたものであり、UNSCEARがその間違いを直視しないのは評価として一面的である:


「中央政府は、各自治体に原子力発電所事故について知らせるのが遅かっただけでなく、事故の重大さを伝えることもできなかった。(中略)特に、311日夜の2123分に3キロ圏内からの避難命令が出た時点で、原発立地自治体の住民の中で事故について知っていたのはほんの20%だけ だった。原発から10キロ圏内の住民のほとんどは、第15条通報[原子力災害対策特別措置法]か12時間以上経った312544分に避難命令が出た時に初めて事故について知ったが、事故や避難方向についての詳細な説明を受けなかった。多くの住民は、必要最小限のものだけを持って逃げなければいけず、複数回の移動をするか、あるいは放射線レベルが高い地域へ逃げることを強いられた。(中略)住民の中には、放射線量が高い地域に避難した後放置され、さらなる避難命令を4月になるまで受け取らなかった人たちもいた。(後略)

委員会は、官邸の危機管理システム、規制当局および責任が所在するその他の機関が正しく機能しなかったために、状況が悪化し続けたと結論づけた。(後略)

避難に関する住民の混乱は、規制当局の手抜かりと原子力災害に対する十分な対策を実施することを長年怠ったこと、そして前政府と規制当局が危機管理に焦点をあてて行動しなかったことに起因した。官邸および規制当局の危機管理システムは、公衆の健康と安全を守るた めの機能を果たすことができなかった。(中略)政府と規制当局は、公衆の健康と安全を守ることに完全にはコミットしておらず、(中略)住民の健康を守り、福祉を取り戻すことを行わなかったcxli


炉心溶融直後の安定ヨウ素剤の配布状況は、日本当局が取った防護対策へのUNSCEARの賞讃がいかに不適切にくり返されているかと言うことをかなり鮮明に描写している。UNSCEAR報告書によると、「医療対策には、甲状腺被ばく防止のための安定ヨウ素剤の使用が含まれていたcxlii」とされている。注意深い読者でなければ、安定ヨウ素剤は、約2000人の緊急時対応作業従事者だけに処方され、一般大衆には処方されなかったcxliiiことに気がつかないだろう。実際、国会事故調は、「安定ヨウ素剤の効用および適切な投与のタイミングが分かっていたにも関わらず、政府の原子力緊急対策本部と福島県庁は、公衆に適切な指示を出すことができなかったcxliv」と結論づけた。この重大な過失の結果、何千人もの子どもがヨウ素131に被ばくした。WHO/IAEAのフクシマ報告書は、安定ヨウ素剤の配布が行われなかったために、事故影響を受けた集団の甲状腺推定被ばく線量は、「放射性ヨウ素の取り込み低減のために甲状腺ブロックを受けた人たちで予期されるよりも高いcxlv」であろうと結論づけた。

UNSCEAR委員とは異なり、我々は、当局が公衆衛生と安全を最も優先しなかったという証拠に困惑している。日本政府は、国民を守るという最大の責務を果たせなかった。2011419日に年間被ばく許容量を20 mSvに引き上げることにより、日本政府は実質、多くの子どもたちが放射能汚染区域に居住することを強制したcxlvi。保護者団体、科学者や医師らの抗議の後にやっと、政府は、最終的には年間被ばく量を1 mSv以下に低減することを目標とし、年間1−20 mSvを学校での暫定的目安とした。残念ながら、この推奨は義務づけられておらず、完全には実行されていないcxlvii。日本政府の文部科学省は、事故後間もなく、福島県での学校再開を決めた。その際、教室に放射性塵が入って来ないように窓を閉めておけるようにするためのエアコンを設置することもなかったcxlviii。学校関係者は、学校の敷地から1メートルも離れていない所にある放射能ホットスポットを無視し、給食に福島産の米を再導入しているcxlix。このような問題は、ひとつもUNSCEAR報告書で言及されていない。

最後に、炉心溶融による放射能フォールアウトの約80%が大きな自治体エリアでなく太平洋上に拡散されたために、日本国民が最悪のシナリオを回避できたということを認識することが重要であるcl。これは、UNSCEAR報告書が暗に示すように「即座の避難と後発の(『計画的』)避難、自宅での屋内避難、汚染された食品の流通・消費に対する制限など、公衆を防護するためのいくつかの措置」のおかげではなく、むしろ、風向きが南ではなく北東へ反転したおかげで、3,500万人以上が住む首都圏が激しく汚染される危険がもたらされなかったという、まったくの幸運のせいであった。しかし、ある1日に、風が沿岸方面に向かって吹いたために、破壊された発電所から数十kmもの内陸部に多くの放射性物質が到達し、小さな町や村から数万人もの住民が避難せざるを得なくなった。フクシマ事故は、日本のような高度の工業先進国でさえも、原子力エネルギーが持つ本質的な危険性をコントロールすることができなかったということを明白に示した。


10  集団線量推計値からの結論が提示されていない

UNSCEAR報告書には、日本での原子力災害から予期される健康影響を理解する助けとなる線量推計値が複数含まれている。前章で描写されたように、これら推計値の基礎となる計算の科学的基盤は疑わしいが、それらは(生死にかかわる)最も重大な結果を説明するものである。UNSCEARは、報告書内で集団線量を載せてはいるが、これらの線量から予期される癌症例数を説明していない。この章では、わかりやすい言葉で、UNSCEARの計算が、これまでに説明された理由のためにおそらくほぼ過小評価であるだろうということに留意しつつも、その計算に基づき、日本国民にどのような健康影響が予期されるかの説明を試みる。ここでは癌発症に制限するが、上記でも既に述べたように、フクシマ事故のような原子力災害の健康影響において非癌疾患も重要な部分を占める。

全癌症例

今日、放射線被ばく線量と発癌リスクには直線的関係があり、この放射線量以下であれば無害であるという閾値がないことが分かっている。このモデルは、直線しきい値なしモデルと呼ばれ、UNSCEARWHOのような国際的機関に受け入れられている。被ばく集団において癌が何症例予期されるかを計算するためには、生涯線量の集団実効線量および、定義された実効線量に対する癌の寄与リスクという、2つの変数を知る必要がある。

まず始めに生涯線量の集団実効線量についてUNSCEARは、事故後最初の1年間の、福島県内1歳児全身被ばく線量を1.613 mSvと計算しているcli。これを広い視野から見ると、日本での自然放射線からの平均年間被曝量は約1.5 mSvので、福島県で被ばく量が最小だった子どもでさえ、事故後1年間で、普段の2倍の線量に被ばくをしたことになる。これらと他のすべての被ばく線量推計値は、平均値である。実際の被ばく量は、多様な生活スタイルや食生活の習慣、個人の健康要因に依存するので、人によって、特に子どもでは、被ばく量がもっと大きかったかもしれない。放射能フォールアウトと食品汚染が福島県外にも広がったので、日本全国の住民の被ばく線量が増えた。UNSCEARによると、日本の他の地域の乳幼児は、事故後1年目の全身被ばく量が0.22.5 mSvだったclii。一般的に、成人の1年目の被ばく量は子どもよりも低く、UNSCEARの見積もりによると、福島県で1.09.3 mSv、日本のその他の都道府県で0.11.4 mSvだったcliii。これらの全身被ばく線量平均値から、UNSCEARは、日本全国の生涯線量の集団実効線量が48,000 人・シーベルトであると計算したcliv。これまでの章で述べられた理由のため、そしてUNSCEARの保守的な生涯線量の計算方法のため、この数値はおそらく系統的な過小評価を表すことに留意しつつ、この数値を我々の評価に用いることにする。

癌発症率の推定において二番目に重要な変数は、与えられた放射線被ばく量に対するリスク係数である。そのようなリスク係数で最も広く使われているのは、BEIR VII報告書である。この報告書における、年齢および性別で平均した癌の生涯寄与リスクは10,000 人・シーベルトにつき1,1906152,305)件(約0.060.23/人・シーベルト)、そして年齢および性別で平均した癌死の生涯寄与リスクは、10,000 人・シーベルトにつき6103051,240)件(約0.030.12/人・シーベルト)と計算されているclv。しかしBEIR VII報告書では、低線量被ばくに対する恣意的な低減係数(DDREF)として1.5を依然として用いている。この係数は、WHOのフクシマ報告書でも引用されており、「DDREF=1が妥当だろう」とする最近の研究により、時代遅れであるとみなされているclvi。したがって、DDREF1.5を用いなければBEIR VII報告書から導き出された年齢および性別で平均した発癌の生涯寄与リスクは、10,000 人・シーベルトにつき1,7859233,458)件(約0.090.35/人・シーベルト)、そして年齢および性別で平均した癌死の生涯寄与リスクは、10,000 人・シーベルトにつき9154581,860)件(約0.050.19/人・シーベルト)となる。核実験の風下住民や15ヶ国の原子力作業者への低線量の電離放射線の影響を分析した最近の研究では、癌発生率のリスク係数は0.4/人・シーベルト、癌死のリスク係数は0.2/人・シーベルトというのが、放射線被ばく量と癌の関係を評価するためにより現実的であるとさえ示されているclvii,clviii,clix。しかしながら本分析では、BEIR VII報告書により広く受け入れられている数値、すなわち、癌発症率の推定には 0.09-0.35/人・シーベルト、癌死の推定には 0.05-0.19/人・シーベルトを用いることにする。

BEIR VII リスク係数
癌発症
癌死
DDREFを用いた場合
0.06 – 0.23/人・シーベルト
0.03 – 0.12/人・シーベルト
DDREFを用いない場合
0.09 – 0.35/人・シーベルト
0.05 – 0.19/人・シーベルト
   表 3: BEIR VII報告書からの癌リスク係数 158
  
集団線量推計値の48,000人・シーベルトと上記のリスク係数を合わせると、日本のフクシマ原子力災害による将来の癌症例の過剰発生は4,30016,800件となり、癌死の過剰発生は2,4009,100件となる。UNSCEARは、この数字を取るに足らないと言うかもしれない。そして、日本での癌のベースライン発症率が比較的高い(年間約630,000件の癌が新たに診断される)ことclxを考慮すると、4,30016,800件のフクシマ由来の癌が過剰発生しても、日本の疫学統計では明らかにならないかもしれないと見なすこともできる。しかし、個人の観点から見れば、癌の症例はそのどれもがひとつでも多過ぎるのであり、そして我々医師は、癌がその人の身体的および精神的健康、そして家族全体の状況にもたらす悲劇的な結果を知っている。原子力災害の場合、このような癌症例の過剰発生は、予防可能であるとともに人為的に引き起こされた疾患を表すものであり、公衆衛生機関は特に注意を払うべきである。

甲状腺の放射線被ばく

核炉心溶融後の放射能フォールアウトの主要な核種のひとつがヨウ素131であるため、原子力大災害後には、甲状腺が特に注目される。経口摂取されたヨウ素131は、非放射性ヨウ素のように作用し、甲状腺に取り込まれる。甲状腺内では、完全に崩壊するまで(半減期8日)ベータ放射線とガンマ放射線を放出して取り囲む組織に損傷を与え、甲状腺癌を引き起こすclxi。チェルノブイリ後に最も著しく見られた悪性腫瘍は、甲状腺癌だった。2006年にインターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサーに掲載された論文は、放射性核種のフォールアウトによる甲状腺癌の過剰発生は15,000件以上になるだろうと予測したclxii

甲状腺癌のトピックは主として小児の問題として扱われる。これは、子どもの放射能フォールアウトへの感受性が、遊び方や食習慣のために成人よりも比例的に高いためである。さらに、子どもの粘膜の浸透性はより高く、毎分呼吸量も多いため、フォールアウトをより多く吸収する。体組織代謝が平均より速く、有糸分裂率が高いため、体の自己調整メカニズムによって阻止される前に突然変異が悪性腫瘍に繋がってしまうチャンスが増える。子どもの免疫システムと細胞修復メカニズムはまだ完全に発達していないため、発癌を十分に防げない。最新のメタ分析では、「質的および量的な生理学的そして疫学的証拠は、乳児が癌を発症しやすいことを支持している。」ことが分かり、放射能フォールアウトに関しては、一定単位の線量における乳児の放射線リスクが成人の10倍であると推定されているclxiii。その一方で、より保守的な国際放射線防護協会(ICRP)は、年齢が低い子どもや胎児の電離放射線への感受性は、成人の3倍のみであると仮定しているclxiv。いくつかの国際研究では、また、小児甲状腺結節の悪性率は、成人よりも250%高いことが分かった。原子力災害下での甲状腺病変の評価においては、異なる年齢層で区別したアプローチを採用することが必要なことが明らかとなる。UNSCEARの線量評価の方法を見るかぎり、これらの要因すべてが適切に考慮されたかどうか、非常に疑わしいclxv

フクシマ原子力災害後の最初の3ヶ月間に、放射性ヨウ素は、牛乳、飲料水、野菜、雨水と地下水および、日本の北東部の土壌検体からも検出されたclxvi。この中には、2011323日にヨウ素131のレベルが36,000 Bq/m2 まで到達した東京都内の一部も含まれているclxvii。このような状況において、日本の政府緊急対策本部が、一般大衆に安定ヨウ素剤を投与せず、多くの子どもたちを放射性ヨウ素131に被ばくさせた可能性があるということを思い起すのは重要である。WHOによると、「安定ヨウ素剤は、日本でも日本以外の場所でも、一般大衆によって摂取されなかった。ゆえに、甲状腺等価線量推計値は、放射性ヨウ素の取り込みを低減させるための甲状腺ブロックをした人たちで予期されるよりも高い」と見なすことができるclxviii

他のすべての種類の悪性腫瘍と同じく、放射線誘発性の甲状腺癌の発症率は、被ばく量に比例した線量関係を示す。被ばく集団で予期される甲状腺癌の症例数を計算するためには、ここでもまた、2つの数字を知ることが必要である。それは、日本国民における生涯臓器吸収線量の集団線量と、定義された甲状腺吸収線量に対する癌の寄与リスクである。

まず始めに生涯臓器吸収線量の集団線量について、UNSCEARは、福島県および日本の他の都道府県での甲状腺の外部被ばくと内部被ばくを検討した。放射能フォールアウトの影響が最も強いのは子どもである。UNSCEARによると、大惨事後の最初の1年間で、福島県の乳幼児の甲状腺は1583 mGyの放射線量に被ばくしたが、「その内、約半分が食物内の放射能の経口摂取によるものだったclxix, clxx」。これと比較し、「自然発生の放射線源からの年間平均甲状腺吸収線量は、典型的に1 mGyのオーダーとなるclxxi」。それは、大惨事後の最初の1年だけで、福島県の乳幼児の甲状腺が、自然バックグラウンド放射線の1583倍の有害な放射線被ばくを受けたということになる。これらと他のすべての被ばく線量推計値は、平均値である。実際の被ばく量は、多様な生活スタイルや食生活の習慣、個人の健康要因に依存するので、もっと高い甲状腺被ばく量を受けた人もいるかもしれない。放射性ヨウ素は福島県境で止まったわけでもなく、汚染された地域の牛乳、海産物、肉、水、野菜や米から検出されたので、日本の他の都道府県の乳児もまた、放射性ヨウ素131に被ばくし、通常の年間被ばく量の2.615倍の甲状腺被ばく線量を受けた。一般的に、成人の1年目の被ばく線量は子どもより低く、福島県で7.235 mGy、日本の他の都道府県で0.55.1 mGyだった。平均甲状腺被ばく線量データから外挿し、UNSCEARは、日本全国の生涯線量の集団甲状腺吸収線量が112,000人・グレイであると推計したclxxii。これまでの章で述べられた理由のため、そしてUNSCEARの非常に保守的な生涯線量の計算方法のため、この数値はおそらくほぼ系統的な過小評価を表し、実際の被ばく量はこれよりもかなり高いかもしれないことに留意しつつ、この数値を我々の評価に用いることにする。

リスク係数に関しては、ここでも再度BEIR VII報告書を参考にするが、そこでは、年齢および性別で平均した甲状腺癌の生涯寄与リスクが10,000 人・グレイにつき60.5件(約0.006/人・グレイ)と計算されているclxxiii。 この数値は、DDREFに、まだ時代遅れの1.5を使用しているため、(DDREF=1として)補正した年齢および性別で平均した甲状腺癌の生涯寄与リスクは、10,000 人・グレイにつき90.75件(約0.009/人・グレイ)となる。

このリスク係数と集団甲状腺吸収線量推計値の112,000人・グレイを合わせると、日本のフクシマ原子力災害による将来の甲状腺癌の過剰発生は、1,016件となる。この数値が、UNSCEARの言い分である甲状腺癌の「識別可能な発症率の増加clxxiv」にならないとしても、我々医師にとっては、小児がほとんどであるその1,000人以上の人たちに対し、複数の炉心溶融、コーディネートされなかった避難、安定ヨウ素剤の配布の不履行、そして放射能汚染のリスクが隠蔽され続けたことが直接的結果として引き起こした甲状腺癌なのだろうということを意味する。

良い治療オプションがあるおかげで甲状腺癌の増加は比較的懸念が少ない、と原子力ロビーはしばしば主張するが、子どもとその家族へのそのような疾患の影響を少なく見積もるべきではない。必要な手術と甲状腺全摘は、心理的な影響を持つだけでなく、全身麻酔および術野が迷走神経に近い場合などの、手術前後のリスクを伴う。生涯ずっと人工甲状腺ホルモンを摂取する必要があること、フォローアップのための頻繁な医療機関での受診、血液検査、エコー検査や穿刺吸引細胞診の可能性、そして常に再発の可能性を恐れていることはすべて、個々の患者とその家族にとって大変重要な問題である。米国放射線防護測定審議会(NCRP)は、放射線由来の甲状腺癌の7%は致死的であると見積もっているclxxv。これは、約1,000件の甲状腺癌の過剰発生数のうち、70人が死亡するだろうと言うことになる。致死的でない症例でも相当な入院に至るかもしれなく、そのQOL損失は十分に評価することができないが、それもまた考慮されなければいけない。

推定被ばく量に基づいた将来の甲状腺癌症例数の予測に加え、2011311日に18歳以下だった子どもたちの201110月から20143月にわたって行われた甲状腺検査一巡目の疫学的データは、既に入手可能であるclxxvi。福島県の小児コホート全体のスクリーニングから得られるのは甲状腺癌の有病率(集団内での総症例数)であり、発症率(症例数の年ごとの増加)は将来のスクリーニングからしか明らかにならないため、この1巡目のスクリーニングからは甲状腺癌の発症率について断言することはできないということに留意することが重要である。2013年末の時点(201427日に開催された第14回県民健康調査検討委員会で発表された結果)での、福島県での細胞診による悪性の可能性がある症例の有病率は、18歳以下の子どもで10万人あたり29.1人(絶対数74人)で、その中で甲状腺癌確定数の有病率は、10万人あたり13人(絶対数:33人)だったclxxvii。それと比較して、日本の小児(19歳未満)での2000年から2007年の甲状腺癌発症率は、10万人あたり0.35人だったclxxviii。スクリーニング検査の結果の有病率をフクシマ災害前の発症率と直接比較することはできないが、それでもこれは、甲状腺癌の検出数が予期されたよりも大きく、懸念される数字である。

UNSCEAR報告書で、これらの福島県での甲状腺癌の症例が、「チェルノブイリ事故で放出されたヨウ素131に小児あるいはティーンエイジャーとして被ばくしたウクライナのコホート(”UkrAmコホート”)の研究結果と一致しているclxxix」と断言されているのは、現代的な超音波機器がなく、政府規制や限定されたリソースのために、科学的調査があまり行われなかった1980年代後半の旧ソビエト連邦の小児被ばく集団において、いわゆる「放射線関連でない」甲状腺癌症例が、どのように「放射線関連がある」症例と異なると考えたのか説明がないために受け入れがたい。

UNSCEAR報告書ではまた、福島県での甲状腺検査について、他にも矛盾点が見られる。報告書は20144月に公表されたが、2013731日付けの甲状腺検査データしか用いられていない。甲状腺癌確定数が、UNSCEAR報告書内の9件から20142月の時点での33件に増え、さらに42件の癌疑い症例が診断待ちであるのに、福島医科大学による、20131112日と201427日のより新しい発表は含まれていない。福島県の甲状腺検査が進行中のプロセスであり、1巡目の2次検査がまだ完了していないという理解だとしても、UNSCEARは、入手可能な結果のごく一部だけに言及するのではなく、最新の結果による正確な癌症例数を取り入れる努力をすることができるはずである。

その上、UNSCEARは、通常のベースラインリスクを参照するために、青森県、長崎県および山梨県での超音波検査を対照調査として引用しているclxxx。しかしUNSCEARは、このコホートが、一般集団の代表的サンプルではなく、おもに国立大学付属学校の生徒で構成され、年齢、性別、そして他の人口統計的特徴で合致されていないものであると言及するのを怠っている。さらに、超音波検査に使われた時間は、この対照調査での方が長かったと言われており、福島県の甲状腺検査調査よりも詳細な調査を指導した可能性もある。

その代わりに、UNSCEARは、2013123日に発表され、「世界の多くの地域では、臨床的に小さな甲状腺乳頭癌の潜在癌の有病率は35%にもなる」と述べられたレビュー論文clxxxi を引用し、福島県での甲状腺検査で高い割合で見つかった癌が単なるスクリーニング効果であり、スクリーニングすれば、他の小児集団でも同様の割合で癌が見つかるかのように示唆している。しかしこの記述は単に、フィンランドの剖検研究のみに基づいたもので、興味深いことに言及されている有病率は35%ではなく27%であり、厳密には18歳以下の小児では臨床的な甲状腺癌の潜在癌が見つかってもいない。この事実は、スクリーニング効果仮説を否定するものであるが、UNSCEARは言及していないclxxxii


IV 結論

フクシマ原子力災害は、まだまだ終わっていない。日本政府は201112月に「冷温停止」を宣言したが、破壊された原子炉はまだ安定した状態ではなく、UNSCEARでさえも放射性物質の放出が勢いを衰えずに続いていることを認めているclxxxiii。東京電力は、周辺の土壌と海に漏れ続けている膨大な量の汚染水と悪戦苦闘している。福島第一原発の現場では、汚染された大量の冷却水が蓄積している。その場しのぎの冷却システムは繰り返して故障を起こしている。放射性廃棄物の放出は、長期間続くであろう。

損傷を受けた原子炉にも使用済み燃料プールにも莫大な量の放射能が含まれており、さらなる地震、津波、台風や人的ミスに対する脆弱性が高い。放射能の破局的な放出がいつでも起こり得て、このリスクを排除するのには何十年もかかる。その上、日本の他の原子力発電所の多くは、地震大災害への脆弱性が福島第一原発と同じくらいに高い。

これほどの不確かさが背景にあると、これから将来の数十年について、信頼できる予報を試みても仕方がないように思える。UNSCEAR報告書のほとんどは、将来の評価のために役立つ重要な土台ではあるが、その反面、UNSCEARが提案しているような「警報解除」的なことを正当化するようなものであるとは、全く言えない。

現時点で、フクシマ原子力災害の日本国民への影響の正確な予測をすることは不可能である。しかし、本分析で提示された論点に基づくと、UNSCEAR報告書は系統的な過小評価を提示しており、原子力災害の健康と環境への真の影響をうやむやにした、科学的確実さという幻想を作り出している。

UNSCEARはその報告書内で、日本国民の集団実効線量および甲状腺吸収線量を計算している。しかし、被ばく線量に関して認めている不確かさ、疑わしいデータ選択、誤った仮定、そして進行中の放射能放出が考慮されていなかったという事実からすると、この計算の妥当性そのものが疑わしくなる。その結果として推計された被ばく線量はおそらく過小評価されており、事故の影響を受けた集団の被ばく線量の真の度合いを反映していない。

もっと中立的なデータを使用し、被ばく線量推計につきものの不確かさを認め、最善の場合のシナリオでなく、可能性のある被ばく線量の範囲全体を発表し、進行中の放射能放出の最新データを取り入れることにより、UNSCEARは、これから数十年の間に放射能フォールアウトからどのような影響が予期されるかという現実的な状況を描写することができるはずである。これは、甲状腺癌、白血病、固形癌、非癌疾患や先天性奇形などであり、すべて、チェルノブイリ原子力災害の影響を受けた集団でも見られている。

より現実的なデータを持ってしても、日本でのベースライン発症数が比較的高いため、フクシマ放射能フォールアウトにより誘発される癌の症例数は、UNSCEAR委員らにとっては取るに足らないものかもしれない。しかし、医師の観点からすると、予防可能である個々の癌の症例はそのどれもがひとつでも多過ぎるのであり、癌が患者の身体的および精神的健康、そして家族全体の状況に及ぼす、悲劇的な影響が考慮されねばならない。

人権に関する世界宣言に誇りを持つ組織である国連委員会が、「福島第一原発事故後の放射線被ばくは(中略)一般大衆とほとんどの作業員の間での将来のどの健康影響の原因となるとも考えにくい」と述clxxxiv、フクシマ原子力災害の何万世帯もの家族への悲惨な影響を単なる統計学的問題に矮小化し、多数の個々の苦しみの体験談を無視することは不適切である。

人為的な原子力災害、不正を働く事業者たち、規制機関や政治家、不十分な緊急対策、そして最終的には、放射線被ばく量とそれから予期される健康影響の系統的な過小評価を通して、福島県の人々は、健康と幸せと保てるような生活水準に対する権利を剥奪されているのである。

原子力災害により影響を受けた人々の健康をおもに懸念する医師団として、我々は、国連総会と日本政府が、事故の影響を受けた集団が、さらなる放射線被ばくからの防護を必要としていると認識することを勧める。我々の意見では、下記の問題の対処が必要である:

  • 入手可能なすべての専門知識・技術が、損傷を受けた原子炉および使用済み燃料プールからの進行中の放射能放出を最小限に留め、将来のより大きな放出を防ぐという、極めて大きな課題の対処に使われるべきである。
  • UNSCEARによると、事故当初以来、24,000人以上の作業員が破壊された原子炉の現場で作業を行って来た。これから何十年もの間、さらに何万人もの作業員が必要となる。これらの作業員の十分な放射線防護、モニタリングと医療の提供に加え、日本では、原子力産業労働者全員に国の生涯放射線被ばく登録が必須である。これには、下請業者や電力会社従業員も含まれるべきである。個々の作業員は、その結果へ容易にアクセスできるべきである。
  • 機能的な登録制度の問題はまた、民間集団にとっても重要である。現在、日本のほとんどの都道府県での効率的な癌登録、そして長期の健康影響の評価に用いることができるような、被ばく者の被ばく量推計値の包括的な登録制度が欠如しているために、健康影響が起こったとしても検出されないままで終わるだろう。放射能汚染による将来的な健康影響を適切に評価するためには、そのような登録制度が作られるべきである。
  • 人々が現在、年間被ばく量に加えてさらに最大20 mSvもの被ばくをすると予測される地域へ帰還することを推奨されているのは受け入れ難い。そのような許容できない被ばくを最小限に留めるためには、現在行われているよりも避難移住を増やす選択肢しか十分でないように思える。放射能汚染された市町村に居住しているが汚染が少ない地域への移住を希望する家族らへの移動サポートおよび経済的支援も、将来の健康影響リスクを軽減するために提供されるべきである。避難住民においては、汚染地域へ帰還するように圧力をかけられたり、買収されるべきではない。
  • 放射線被ばくの軽減が十分かつ持続可能であるために必要なスケールでの除染は、効果的であると証明されていない。また、放射能汚染には境界というものはなく、フォールアウトは福島県のみに留まっているわけではない。栃木県、宮城県、茨城県、群馬県、埼玉県および千葉県の一部も汚染された。現時点での原子力災害に対応した政府のプログラムは、ほとんど福島県に限定されている。県境ではなく、汚染レベルに応じた国の対応が必要である。
  • 国連総会および日本政府においては、「すべての者の到達可能な最高水準の身体及び精神の健康の享受の権利」特別報告者アナンド・グローバー氏の報告書を検討し、グローバー氏の建設的な提言を留意するように願いたい。放射能防護政策においては、予防原則が採用されるべきである。

健康影響が予期されないという偽りの主張や早まった安心感は、何も福島県民の助けになっていない。福島県民は、適切な情報、健康モニタリングや支援を必要としているが、その中で何よりも必要なのは、健康と幸せを保てるような生活水準に対する権利の承認である。これこそが、フクシマ原子力災害での健康影響の評価においての指針となるべきである:

骨に癌ができ骨に癌ができ、血液は白血病を患い、肺に毒が入ってしまった子どもたちや孫たちの数は、自然由来の健康被害と比べると統計的に小さいと思えるかもしれない。しかし、これは自然由来の健康被害ではない。さらに、統計的な問題でもない。人間の命が1人分でさえも失われるということ、あるいは、赤ちゃんが1人でも奇形を持って生まれてくるということは、例えその赤ちゃんが、我々が皆死んでしまったずっと後に生まれて来るかもしれなくても、我々全員にとって重要なことであるべきだ。我々の子どもたちや孫たちは、我々が無関心を装ってもよいような、単なる統計ではない。

ジョン・F・ケネディー、1963726



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IPPNW(核戦争防止国際医師会議)ドイツ支部 www.ippnw.de
PSR(社会的責任を果たすための医師団)www.psr.org
©IPPNW e. V., June 6, 2014 All rights reserved.

共同著者:   アレックス・ローゼン、IPPNWドイツ支部
      平沼 百合、アルフレッド・マイヤー、ジョン・ラカウ、PSR米国
和訳:   平沼 百合
和訳校正:   study2007iPatrioticmom
連絡先:      rosen@ippnw.deyurihrnm@gmail.com(日本語可)


V)  頭字語と略語のリスト(省略)


VI) 参考文献

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viiUNSCEAR 2014, p. 183, paragraph C83
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