甲状腺検査の偽陽性について:岡山大学・津田敏秀教授の説明「診断学の基礎知識と甲状腺がん議論の整理」(第4.41版)


(注:2014年10月31日に、現時点での最終版の第4.41版に差し替えられた)


2014年10月20日午後2時より、環境省の「第12回東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」が開催された。その前日の2014年10月19日午前5時00分付けで、大岩ゆり記者による朝日新聞デジタル記事『甲状腺検査の問題指摘「がんの疑い」判定、福島の子に負担 専門家会議』が公表された。この記事は、環境省会議資料のリーク記事であった。その証拠に、会議冒頭で、環境省の得津馨参事官がこのように述べている。「それから、昨日、本会議の資料の一部と思われる内容が報道され、大変失礼致しました。今後とも引き続き科学的・医学的な見地から議論を続けてございますけれども、事務局と致しましては、資料の管理等、さらに気をつけて行きたいと思っております。」(動画

この記事では、会議で公表された「中間とりまとめのたたき台」に言及しており、中でも目を引いたのは次の記述であった。1,744人が「偽陽性」だとは初耳だったからである。

『たたき台では、無症状のまま問題にならないがんを見つける可能性や、がんではないのにがんの疑いがあると判定される「偽陽性」の増加、手術で合併症が起きる可能性などの問題点も指摘。これまで検査を受けた約30万人のうち1744人が偽陽性だったと認定した。うち381人は、超音波検査などを経て、甲状腺に針を刺す検査も受けたとしている。』

そしてこの供述は、環境省事務局配布資料3「中間とりまとめに向けた論点整理等(線量評価部分以外)」の10ページ目(画像)から引用されていたようだった。




「ここで言う偽陽性 とは、がんが無いにも関わらずがんがあるかもしれないと判断されることを指す。 」と定義した上で、「一次検査で B 又は C 判定とされて二次検査を受診し結果が確定した 1,848 人のうち 1,744 人が、穿刺吸引細胞診を受けた 485 人のうち 381 人が、いずれも偽陽性であったと言える(悪性ないし悪性疑いと診断されたのは 104 人)。」と述べられている。
会議中に、福島県立医科大学副学長の阿部委員がこの供述に関して異議を唱え、福島医大としては、手術後に良性だと判明した1名のみが偽陽性だと考えている、と述べた。

会議を中継していたアワープラネットTVの白石草氏によると、会議終了後、得津参事官は「公衆衛生の世界では、一次検査で異常が見つかり、最終的に異常なしは全て偽陽性というんです」とコメントされたそうだ。

しかし、「がんが無いにも関わらずがんがあるかもしれないと判断される」偽陽性が381人や1,744人となると、スクリーニングのデメリットが非常に大きくなってしまうが、そもそもこのような偽陽性の定義は正しいのか?

疫学の教授である、岡山大学の津田敏秀氏に問い合わせ、その返事を簡潔にまとめた。詳細は、この下に貼付けてある、津田氏の詳細な説明のPDFファイルを参照願いたい。


”結論から言うと、いずれもあっているし、いずれも舌足らずで間違っていると言えます。試験の記述式なら、バツにするかお情けの部分点でしょう。

阿部氏が福島医大での穿刺吸引細胞診の偽陽性例のことを言っているのであれば、正解です。もちろん、何の検査での偽陽性は明示した方が良いですが、この場合言わなくても分かるでしょう。環境省資料の、「穿刺吸引細胞診を受けた485人のうち381人が偽陽性」というのは、この検査陽性が「(穿刺吸引細胞診で)がんが無いにも関わらずがんがあるかもしれないと判断される」と定義されていることが間違いなので混乱の元となっています。この場合の本来の485人は、「医師により穿刺吸引細胞診が必要と判断される」と定義されるからです。穿刺細胞診の話であれば、381人は偽陽性ではなく単なる陰性です。(下記の「診断学の基礎知識と甲状腺癌議論の整理」p. 11の表5の③を参照)穿刺吸引細胞診で陽性とされた者のうち「がんが無いにも関わらずがんがあるかもしれないと判断される」が検査陽性の定義であれば、偽陽性は正しくは阿部氏が言うように1人です(p.11の表5の③とp.12の表5の④を参照)。診断学の基礎として学ぶ、偽陽性というのは、検査毎に出てきます。偽陽性をどの検査について問題にしているのかを定義することが必要です。原則的に、1つの検査に感度と特異度があり、それぞれの検査に対して偽陽性例などを論じる必要があります。

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