2011年ウクライナ政府報告書
ウクライナ政府がチェルノブイリ事故の25年後に出した報告書の英訳版より、事故処理作業員や住民とその子供達の健康状態に関する部分から抜粋和訳したものを、下記のように6部に分けて掲載する。また、他のサイトで和訳がされている部分もあるが、英訳版の原文で多く見られる不明確な箇所がそのまま和訳されていた。ここでは、医学的に意味が通るように意訳をした。
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6.チェルノブイリ事故の複雑要因の公衆衛生への影響②
●心血管疾患
●呼吸器系疾患
●消化器系疾患
●血液疾患
●心血管疾患
●呼吸器系疾患
●消化器系疾患
●血液疾患
心血管疾患
亡くなった事故処理作業員988人の病理解剖調査の分析によると、冠動脈系心疾患(CHD)を伴う本態性高血圧症(EH)は、癌死総計よりも高い死亡率を示した(図3.84)。
呼吸器系疾患
ウクライナ医学アカデミーのウクライナ国立放射線医学研究所の外来放射線クリニック登録の、長期に渡る(1996年から2009年) 呼吸器科調査の結果、16,133人の1986−1987年の事故処理作業員では、呼吸器系疾患に著しい一定の増加がみられた。1986−1987年の事故処理作業員7,665人は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を患い、被ばく量が250 mSvであったが、慢性閉塞性肺疾患および慢性気管支炎と放射線被ばくとの予測される相対リスクには、線量依存性があった(図3.85)。
事故処理作業員における慢性閉塞性肺疾患の経過は、Tリンパ球の再分配による気管支粘膜の炎症反応の欠如のために、気管支粘膜の進行的な変形が起こり、肺と気管支粘膜での線維性変化が迅速に発達し、増悪が減少し、気管支粘液の分泌障害が起こることに特徴付けられる。事故処理作業員における慢性閉塞性肺疾患は多臓器疾患の一部分であり、本質的には、統合的なホメオスタシス(恒常性)システムにおける乱れによって起こる。
事故処理作業員の気管支内膜表皮における再生不良性変化、特に、細胞形成層の明らかな病理と細胞の表現型における変化は、このコホートにおける気管支内腫瘍の発達のリスクが高いことを示唆する。慢性閉塞性肺疾患では、EGFRとHER2の発現が正常パターンを示す一方、Ki-67の発現が増える傾向がみられ、Ctk陽性、Vim陽性とBER-EP4陽性の細胞のレベルが低い。肺癌では、Ki-67陽性とHER2陽性の上皮細胞の発現が増え、EGFR陽性、Ctk陽性、Vim陽性、BER-EP4陽性、CD25陽性とHLA-DR陽性の細胞の数が少ない。
消化器系疾患
臨床疫学登録データによると、事故後の事故処理作業員における胃と十二指腸のびらん性・潰瘍性疾患は、1993年から1994年の期間の119.1‰(パーミル)から2007年から2009年の期間の133.1‰に増加した。この増加は、公式統計の68.3‰から96.6‰への増加よりも大きかった(図3.86)。
「ケースコントロール」疫学調査によると、びらん性・潰瘍性疾患のリスクは、吸収線量が25 cGy(訳者注:0.25 Gyまたは250 mGy)以上の幅広い年齢層(20〜59歳)での事故処理作業員で高かった(オッズ比=4.67、信頼区間2.84−7.71)。
電離性放射線とチェルノブイリ事故による他のマイナス要因は、どの年齢の事故処理作業員においても、胃粘膜の全構成要素の成り立ちに影響を与える。
こういった変化は、非定型の臨床経過を持つ病理発生を誘発し、次のような特徴がある。 ●自律神経無力症候群の優勢 ●ヘリコバクターピロリ菌との関連 ●分泌と自律神経の調整の変化 ●併発症との合併
コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)とガストリンのベースライン濃度は、25 cGy(250 mGy)以上の吸収線量と直接的な関係にあった。これは、胃・十二指腸エリアの局部的自己制御の損傷とそれに伴うガストリンメカニズムによる酸形成の優勢を意味する。
事故後の晩発期(2004−2009年)には、胃と十二指腸のびらん性・潰瘍性疾患を持つ事故処理作業員において、顕著な萎縮変化が胃にみられ、低酸性や無酸性の状態の割合を高くしていた。
●ガストリンと胃液酸度の低下は、25 cGy(250 mGy)位から、線量が増すにつれて増加した。
●ガストリンと胃液酸度の最低値は、50.0−99.9 cGy(500−999 mGy)の被ばく線量でみられた。
●人格には、不安増加、精神的および感情的ストレスの存在と、不安解消の神経心理学的メカニズムの欠如などの変化が見られた。
慢性肝炎と肝硬変の診断症例は、事故後20年目を過ぎてから顕著に増加している。1992年から2009年の間には、臨床疫学登録の慢性肝炎患者2,881人のうち、70人に肝硬変がみつかった。慢性びまん性肝疾患の分類で最も多かったのは、非アルコール性脂肪性肝疾患(50.0%)と非アルコール性脂肪性肝炎(36.6%)だった。肝機能の変化は、放射線被ばく量が多かった事故処理作業員の間で、より顕著だった。吸収放射線量と血清中のγグルタミン酸転移酵素(GTTP)(r=0.6, p<0.02)、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)(r=0.39, p<0.02)と血糖値(r=0.5, p<0.03)の活性値には直接的相関性がみられた(図3.87)。
事故処理作業員の被ばく線量に基づいた肝機能の分析結果の生物化学的パラメーターによると、5 cGy(50 mSv)以下の吸収線量と比べて、吸収線量が50 cGy(500 mSv)以上の事故処理作業員において、 アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)(p<0.001)とアラニンアミノ基転移酵素(ALT)の著しい増加とビリルビン(p<0.05)とβリポたんぱく(p<0.001)の減少がみられた。
非アルコール性脂肪性肝炎は普通は良性の経過が持続可能であると認識されているが、事故処理作業員においては進行性の臨床経過がみられる。事故処理作業員における脂肪性肝炎の長期かつ開存性のある臨床像は、肝線維症とその最終ステージである肝硬変へ病変する可能性の増加に繋がる。
このような消化器系疾患の病理発生の特徴を考慮した上で、チェルノブイリ事故処理作業員における消化器系疾患の治療法が確立された。
こういった変化は、非定型の臨床経過を持つ病理発生を誘発し、次のような特徴がある。 ●自律神経無力症候群の優勢 ●ヘリコバクターピロリ菌との関連 ●分泌と自律神経の調整の変化 ●併発症との合併
コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)とガストリンのベースライン濃度は、25 cGy(250 mGy)以上の吸収線量と直接的な関係にあった。これは、胃・十二指腸エリアの局部的自己制御の損傷とそれに伴うガストリンメカニズムによる酸形成の優勢を意味する。
事故後の晩発期(2004−2009年)には、胃と十二指腸のびらん性・潰瘍性疾患を持つ事故処理作業員において、顕著な萎縮変化が胃にみられ、低酸性や無酸性の状態の割合を高くしていた。
●ガストリンと胃液酸度の低下は、25 cGy(250 mGy)位から、線量が増すにつれて増加した。
●ガストリンと胃液酸度の最低値は、50.0−99.9 cGy(500−999 mGy)の被ばく線量でみられた。
●人格には、不安増加、精神的および感情的ストレスの存在と、不安解消の神経心理学的メカニズムの欠如などの変化が見られた。
慢性肝炎と肝硬変の診断症例は、事故後20年目を過ぎてから顕著に増加している。1992年から2009年の間には、臨床疫学登録の慢性肝炎患者2,881人のうち、70人に肝硬変がみつかった。慢性びまん性肝疾患の分類で最も多かったのは、非アルコール性脂肪性肝疾患(50.0%)と非アルコール性脂肪性肝炎(36.6%)だった。肝機能の変化は、放射線被ばく量が多かった事故処理作業員の間で、より顕著だった。吸収放射線量と血清中のγグルタミン酸転移酵素(GTTP)(r=0.6, p<0.02)、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)(r=0.39, p<0.02)と血糖値(r=0.5, p<0.03)の活性値には直接的相関性がみられた(図3.87)。
事故処理作業員の被ばく線量に基づいた肝機能の分析結果の生物化学的パラメーターによると、5 cGy(50 mSv)以下の吸収線量と比べて、吸収線量が50 cGy(500 mSv)以上の事故処理作業員において、 アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)(p<0.001)とアラニンアミノ基転移酵素(ALT)の著しい増加とビリルビン(p<0.05)とβリポたんぱく(p<0.001)の減少がみられた。
非アルコール性脂肪性肝炎は普通は良性の経過が持続可能であると認識されているが、事故処理作業員においては進行性の臨床経過がみられる。事故処理作業員における脂肪性肝炎の長期かつ開存性のある臨床像は、肝線維症とその最終ステージである肝硬変へ病変する可能性の増加に繋がる。
このような消化器系疾患の病理発生の特徴を考慮した上で、チェルノブイリ事故処理作業員における消化器系疾患の治療法が確立された。
血液学的影響
事故後初期の時期(1986年から1990年)
●25% 白血球減少症(末梢血内での白血球数の減少)
●12% 白血球増加症
●9.5% 赤血球とヘモグロビンの増加
●9% 血小板増加症
●14.5% リンパ球増加症
●10.5% 単球増加症
事故後5−10年の時期(1991-2000)
●19.7% 白血球減少症
●24% 白血球増加症
●7.6% 血小板減少症
●2.4% 血小板増加症
●15% 汎血球減少症
2009年
白血球減少症、血小板減少症と貧血の数は安定しており、リンパ球増加症がやや増えていた。
(訳者注:各疾患の3本の棒グラフは下記の時期を意味する。
●左の棒グラフは事故後初期の時期−−1986年から1990年
●真ん中の棒グラフは事故後5年後から10年後
●右の棒グラフは2009年)
研究期間全体を通して、量的指標が比較的正常化しても、質的な損傷が造血細胞内の核と細胞質の不規則さとして見られたが、これは低分葉好中球、顆粒球とリンパ球の細胞質の空洞化、細胞質突出と中毒性顆粒などであった(図3.89)。
巨核球では、「老化した」細胞の増加、血小板の巨大化、多型性顆粒がみられ、中には、血小板凝集がみられるものもあり、大小様々な大きさの集団もあった。(図3.90−3.91)。
結論として、放射線被ばくだけでなく、チェルノブイリ事故に関連した複合要因全体が国民の健康に影響を与えたため、その影響を打ち消すための付加的な健康対策が必要となる。