第11回 「県民健康調査」甲状腺検査評価部会(2018年10月29日開催)での議論の一部の書き起こし



2018年10月29日に福島県福島市で開催された第11回「県民健康調査」甲状腺検査評価部会の中での、「資料2 甲状腺検査対象者への説明・同意に関する部会員意見の集約」および、 「
資料3-2【髙野部会員・祖父江部会員資料】県民健康調査における甲状腺超音波検査の実施体制および検査方法の問題点と改善案」についての議論を書き起こした。

第11回甲状腺検査評価部会の全資料はこちらからアクセスでき、公式議事録も、後日、そのウェブページに掲載される。どうしても聞き取れないために空白となっている箇所については、公式議事録を参照願いたい。

部会員については、以下の出席者名簿に詳細が記述されているが、発言者として最初に登場する際に、どのような立場での発言か分かりやすいように専門分野なども記述した。

注:学校検査について、「学校検診」と言う言葉が出てくるが、2014年3月2日の第2回甲状腺検査評価部会で、福島県立医科大学の甲状腺外科医である鈴木眞一氏は、はっきりと、福島県の甲状腺検査は、死亡率を下げることが目的の「(がん)検診」ではなく「健診」であると述べている(議事録の31ページ目を参照)。2017年10月末の第50回日本甲状腺外科学会学術集会でのシンポジウム発表抄録(以下のスクリーンショットを参照)では、最初に「検診」と言及してはいるが、「今後放射線被ばくによる甲状腺癌発症の増加があるかないかを確認する目的で、直ちに超音波検診(健診)を開始した。」と説明した後は、「健診」としているため、「学校健診」と認識すべきであろう。しかし、この書き起こしでは、発言者が「検診」を用いていることが分かっていたり、発言の文脈から通常のがん検診と同様に考えていると思われるため、あえて「検診」としている。




以下の書き起こしは、資料2と資料3−2に関する議論で2部に分けてある。それぞれ、当日の動画も貼り付けてあるが、書き起こしを始めた箇所から再生されるように設定してある。

1. 資料2 甲状腺検査対象者への説明・同意に関する部会員意見の集約」に関する議論の書き起こし



鈴木 元 座長(国際医療福祉大学教授、日本放射線影響学会 推薦):資料の2、利益の方に移って。それぞれ箇条書きをしております。この部会の中で、利益がないという意見もありました。それに対して、特に外科の立場からは、吉田先生の方から、早期診断になった場合は手術侵襲も少ないというふうに、患者さんにとってはメリットのある術式になるということも説明がされました。一方、不利益としては、本来、手術しなくてもいいような甲状腺も手術してしまう過剰診断・過剰治療ということも起きると言うことで、その辺を避けるために、なるべく、成人の場合はアクティブサーベイランスと言われてまして、経過をみながら本当に手術が必要になる時期を慎重に選んで行くという作業がなされるわけですが、お子さんに関してはまだそういう臨床的な体制というのが必ずしも成立してない時期であるということを踏まえた上で、検査をやって行かざるを得ないというひとつの問題点があるかと思います。不利益に関しては、そういう所で、早めに手術してしまうことによる不利益ということがいくつか挙げられてまいりました。これに関して、一個一個の項目の議論を始めて行くとちょっと時間はありませんが、髙野委員、いかがでしょうか。

髙野 徹 部会員(大阪大学大学院 医学系研究科 内分泌代謝内科学講師、日本甲状腺学会 推薦):祖父江先生と共同でちょっと意見書を出させてもらったんですけども、この利益・不利益、メリットとハーム(harm)という言い方の方が正しいように思うんですが、漠然とこんな利益、こんな不利益がありますという形では、なかなか議論の集約ができないし、県民にイメージもしにくいということで、超音波検査をした場合、しなかった場合で、それぞれ、これだけの対象者にこんだけの利益があります、で、こんだけの対象者にこんだけの不利益がありますと数字でやっぱり出して、それを比較検討して、こんな通りですよということをお示しすると言うことが非常に重要な責務ではないかと思いますし、そういうことはこの部会でしかできないと思いますので、ぜひ、その方向でご議論いただきたいと思います。

鈴木座長:資料2の、たとえば利益の所の米じるし1、2、3、というような形で、この間、部会でも挙げて来たデータなんですが、数字を挙げて来ました。これに関しては、___になるでしょうか?安心があるというか、検査の結果、見つからないパーセント、実際に見つかるパーセント、それが実際に手術を受けた場合に、チェルノブイリの時の手術にくらべて、今現在の早期発見の場合の手術の副作用の頻度というのがここに書かれてます。

髙野部会員:そういう、たとえば、早く見つかった方が予後がいいとか、そういう数字じゃなくて、超音波検査の、つまりがん検診としての有効性の話になると思うんです。ですから、受けた場合と受けなかった場合での差というものが、どういう風に見えてくるかということが__なことだと思うんで、それを出す必要があると思うんですよ。

吉田 明 部会員(甲状腺外科医、日本内分泌外科学会および甲状腺外科学会 推薦):あの、甲状腺って非常に小さい臓器でですね、かつ、対象?としての非常に予後のいい甲状腺のがんですよね。そういうのを数値化するっていうのは、非常に難しいのではないかと思うんですね。だからほんの少しのわずかな差しか出てこないだろうと思うんですよね。ただし、要するに、そこで見つかったものに関しては、やはりその当人にとってはすごく大きなメリットがあると思っているんで、髙野委員の言うようなやり方だとですね、何をやっているのか良く分からない、と言うことになってしまうのではないかなと思うんです。

髙野部会員:吉田先生のおっしゃることは良くわかるのですけども、やはりそこは、がん検診の有効性というスタンスで、一回、資料をまとめる必要があるのではないかなと思います。

鈴木座長:はい、あの、多分ね、髙野先生と私自身、少し立場が違ってて、議論がかみ合わないのは、たとえば、IARCの、まったく検診も何もしてないような集団、それに対してこれから予算をつけてスクリーニングのプログラムを組みますかと言う時の議論と、それから、今、実際にがん対策として甲状腺検査が始まったわけですが、予算がついて動いてる中で、今、これからこれをどういう風に変えて行くか、あるいは方向性としてどういう方向性を向いて行くのかという議論、そこのスタンスが、立ってる位置が違っていて、なかなか議論がかみ合ってないような気がします。スクリーニングの有効性があるかどうかという議論でいうと、これはまた、一般には検診の有効性って言うのは、がん死亡率をどのくらい下げられるかというような所で議論をしていくわけですが、今、この甲状腺プログラム、死亡率を下げようという立場で始まったプログラムではないと思うんですね。だから、ちょっとその辺は、私は違うのではないかなと言う風に思うんです。

南谷 幹史 部会員(小児科医、日本小児内分泌学会 推薦):色々言われてるのは、今、鈴木先生がおっしゃられたように、死亡率なんですけど、甲状腺がん、良くない髄様がんにおいても、10年生存率は85%なわけでして、その予後が悪い髄様がんですら、アメリカですと、家族性の場合は、__的に温存せず取ってしまうと言われてるわけですね。ですから、エンドポイントとして死亡率と言ってしまうと、まったく、甲状腺がんに関しては予後が良いがんなので、それをエンドポイントとするとちょっとどうかな、と言う気がします。前、医大でまとめていただいた125例の手術例で、甲状腺外浸潤したものが4割くらいでしたが、その見つかったものが、手術したメリットがなかったかというのは、ちょっとどうなのかと感じます。

片野田 耕太 部会員(国立がん研究センター がん統計・総合解析研究部長):数字で示す場合に、福島県ではどうか。資料の3ページ目の(3)の1の3つ目の、「検査を受けた場合どのような割合でどのような結果が出て、どういう経過をたどるのか」というのが、おそらく、先行検査をやる前というのは、やってないと分からないということもあったと思うんですが、現状ではもう、本格検査の結果、先行検査の結果がある程度出揃っていますので、たとえば受けた人の1%弱にB判定以上の結果が出ますと。で、二次検査を受けた人の10%くらいの割合で細胞診の適用となります。そのうち何パーセントくらいに悪性または悪性疑いの人が見つかります。って言うことの説明をした上で、それぞれ、その検査結果に応じてどのような心情的な負担を生じるかと言うのを、きちっと説明すべきだという風に思います。
過剰診断の話が出ましたけど、過剰診断の割合って、現状のデータからは、決して実データとしては出せないので、欧米ではシミュレーションの結果とかで過剰診断の割合を出したりしていて、実例からは決して出てこないものなので、死亡率の減少効果についても同じだと思います。現状で分かってる範囲でこういう結果になりますという説明を十分にすべきではないかと私は思います。

祖父江 友孝 部会員(大阪大学大学院 医学系研究科 環境医学教授、日本疫学会 推薦):利益の部分で、死亡減少効果があるのはなかなか望みにくいと言うことは、その通りというか、専門家は分かってることかもしれませんけども、少なくとも受けてる人たちは、そのことをあまり分かっておられないと思います。ですから、説明文書に何を書くかと言うことなんですが、専門家が当たり前と思ってることでも、受診者の人たちがその理解にギャップがある場合は、きちんと記述すべきかと言う風に思うんです。その上で、どのようなものが利益であるのかということを列記する。それもできるだけ定量的に示すと言うことをした方がいいと思います。

吉田部会員:死亡率云々と言うのを利益の第一に考えていらっしゃると思うんですけど、甲状腺がんではQOLを上げると言うような部分が非常にが大きいんですね。浸潤してるのが40%であると言った所をですね、早期に超音波で発見してそれを治療に持っていくって言うのは、非常に大きいわけなんですね。そうすると、死亡率云々を言うのにはですね、まだ7年くらいしか経ってないわけですね、一番最初の先行検査から始めて。それにはあまりにも期間が短すぎると言うことが言えますので、今の議論の中では、なかなかちょっと、先生の言うようなことは言えないんじゃないかな、と言うふうに思います。

祖父江部会員:このデータから死亡減少効果を言うというのは、それは難しいです。何ができるかと言えば、個々の発見例の人が仮に放置されたらどのような結末になっていたのか、と言うことを想定して、どのような利益だったのかと言うことを記述すると言うのはできるかも知れない。

吉田部会員:どのような利益であるか想定してって言うのはですね、手術なさった先生方は、そのまま置いとくと危ないと言うように思って手術をされてるわけですから、それを否定するってことはなかなか難しいと思うんですね。

祖父江部会員:否定はしてません。ですから、どのような利益が想定されたのかと言うことをここに記述する、と。

鈴木座長:まああの、まずちょっと整理しますと、最初の予後の件については、一般に甲状腺がんは小児の場合でも予後は、たとえば10年生存率で99.5%とかという数字が出てるかと思いますんで、そういうのを入れると言う方向ですね。それから、あの、先ほどの片野田先生が言ったものに関しては、②ー2の米じるしの4の所に、ちょっと書き落してるんですけども、本格検査の実績では、B判定が大体0.5%ぐらいになってまして、今の状態ですと、そのうちの5%くらいの人に穿刺吸引がなされます、というような、今のデータを入れ込むというようなことでよろしいでしょうか。
それで、先ほどの祖父江先生の、えーっと、ご意見ですが、そのまんま放置して、要するにどの段階で臨床症状が出るかという議論だと思うんですね。で、要するに臨床症状が出るというのは、反回神経麻痺が起きるとか、気管の中に細胞浸潤が入って、そこで声がおかしくなる、呼吸がおかしくなるとか、あるいは、どっかにポンと飛んでそれによる症状が出るとかいうような所の、一番、どちらかと言うと昔の何もしない時の甲状腺がんが臨床的に発見された時の標準的な治療でどのくらいの成績だったかという話を「出せ」と言うことのように、今、理解したんですが、よろしいですか?

祖父江部会員:あの、別に、成績とかのことを言ってるわけじゃ、全然ないんです。たとえば、反回神経に非常に隣接しているロケーションであって、何年か経つとこのようなことになるというのをここに検討するのはできると思うんです。

鈴木座長:はい、これはあの、臨床の吉田先生の方から。たとえば医者がなかなかそこまで放置したっていうのはないんで、ただ、昔だったらこういう症状で甲状腺がんが見つかったよ、というような書き込む形になるのかなと思うんですが、吉田先生、いかがですか?

吉田部会員:あの、そのまま放置したらどうなるかということはですね。やはり第一に、出血が起こります、気管の。それで出血による窒息死というものも起こりますし、それから、周囲臓器、頚部ってのは動脈・静脈、太い頸動脈・頸静脈がありますので、それを浸潤して大出血を起こす、と。そういうのを具体的にですね、われわれは経験しております。そういうことになるんじゃないかと想定されます。それが何年先に来るかということは、その腫瘍の浸潤の速度によって違ってくるだろうというように考えておりますので、何年ということは言えないんですけども、遠い将来、そういう恐れがあるということで、外科医はみな手術するんだろうというように思いますけども。

祖父江部会員:想定されるそういった害ですね、有害性ですね、個々の例について記述したらどうか、と。そういう意味です。

吉田部会員:あのー、それ非常に生々しくてですね、そういうことをこの場に書くということ自体どうかな、と。そういうことになりますよと言うのは、みなさん、暗黙のうちに分かってるんじゃないかなと思います。それから、あと、反回神経の麻痺っていうのがあります。そのまま置いとくと嗄声になってきます。そういうので一生苦しんでる人ってのは、かなりの数でいますので、そういうことをあえて書くということをしなくていいんじゃないかな、と言う風に思います。非常に生々しいことは、却って恐怖心を植えるような感じになると思いますので。その代わりに私は、この検査を受ける前にですね、小児甲状腺がんに言われている一般的なコースのことを書いてですね、手術した場合に何パーセントくらいの人が生きてられるというようなことを書いた方が、非常に予後がいいということを書いた方が、検査を受ける前の段階の人たちには有益じゃないかな、という具合に思いますけど。

髙野部会員:ちょっと全体像を俯瞰してみた方がいいと思うんですけども、現状、放射線による影響は少ないと県も見解を示しています。にも関わらず、200名以上に甲状腺がんが診断されています。この地域では、通常の臨床経過では数例しか甲状腺がんが出ないはずです。じゃあ、残りの差は何なのかということで、まあこれ、残りの200人近くが全員、甲状腺がんが見つかって良かった人だということになると、じゃあなぜ福島だけこんなに増えてるのかということを、これは県民に説明しないといけないんですよね。それをどう評価するかという所で、やはり、どれだけの人がメリットがあって、どれだけの人がデメリットだったのかということを示すべきなんじゃないでしょうか。これをどう説明するのか。

鈴木座長:論点がちょっとずれてるように思うんです。現実的に今、多く見つかっているというのは、その前の議論の中でも、スクリーニングをかけて小さいがんを一生懸命見つけているという現状を報告したかと思います。だから、そこで十分説明はついています。問題は、そういう小さいがんを見つけることが、はたしてメリットかデメリットかという議論になってくるんで、ちょっと論点が少しずれてるかなと思います。で、小さいがんのうちに見つけた方が手術侵襲は少ないですし、QOLはいい。で、甲状腺全摘をしないわけですから、そこでホルモン補充療法も、少ないかやらないで済む。そういうメリットがありますよということは、ここで書き込めるわけですね。私はそれで、かなり十分なんじゃないかという風に思います。

髙野部会員:あの、そこで仮にスクリーニングをせずに置いといた場合、どのようなデメリットがどのような人数の子どもに出るかというような議論が必要なんじゃないかと思います。

鈴木座長:はい、それは先ほど(苦笑)吉田委員の方からもあったんで。要するに、どの段階で臨床症状が出るかっていうことは、予見不能なわけですよね。で、ただほっとくと、少なくとも臨床がんに進展する人たちは、将来こういう臨床症状が起きて外来受診しますよ、と。で、そういう段階で手術した場合は、今のような部分的な手術ではなくて、より侵襲の大きい全摘になるでしょうし、また場合によっては放射線療法も一緒に併用するというような話になりますし、甲状腺ホルモンもずっと生涯、補充するというような、そういうふうな、要するに臨床、病気が遅れれば遅れるほど、そういう治療法が変わって行ってQOLが変わりますよということは、記述できるんだろうと思います。

髙野部会員:あの、ちょっとそこも視点が違うんですけど、要するに、あの、先生のおっしゃることも分かるんですが、そういう方が200人の中、何人おられるかということも重要なんじゃないかと思うんです。その__も疑問?ではないんでしょうか?(聞き取りにくい)

吉田部会員:200人のうち何人いるかというのはですね、ただその手術をする外科医がですね、小さいがんと言っても、甲状腺の表面にあるがんと、中の方にあって神経に接しているがんと、それから食道に接しているがん、気管に接しているがんと、色々あります。それで、それぞれの所でリスクを考えて、そのリスクが多少、多めになっている可能性は否定できませんけれども、100%その、治療したのがですね、一致しないんですね。私たち、あの、患者さんを前にしてですね、こういう可能性がありますということで、手術をしますか?と言うと、手術をお願いします、という患者さんがほとんどです。その段階で同意書を取っています。ですから、それが結果的に浸潤しなかったということもあり得るかと思います。現在の医療上においては、その可能性があれば何か処置するというのが外科医の立場ですので、それを否定してしまうことはできないだろうと思うんですね。たとえば、甲状腺がんは予後がいいので、今、髙野委員が言われるようなことの議論が出てくるんだろうと思うんですけど、私は乳腺と甲状腺やっておりましたけど、乳がんの方でもそのようなことはいくらでも言えると思うんですね。だからそのことを言ってしまうと、外科医の仕事とか全否定してしまう感じになってしまうだろうという具合に思ってます。

片野田部会員:過剰診断はスクリーニングを受けなければ、生涯臨床的に発見されないと定義?されてますけど、個々の症例をそれを示すことって不可能なので、一般論として検診、精密検査では過剰診断というものがあって、生涯、臨床的に症状が発生しないようながんが見つかることがありますよというくらいの説明は、一般論としてはできると思うんです。で、現状では、それしかできないんだと思います。定量的に何か、どのくらいの割合で過剰診断で、という数値が、この検査の結果から?言えるわけではありませんので、ただ、一般論として過剰診断があり得るというのは、ちょっと説明することはできると思います。

加藤 良平 部会員(病理医、伊藤病院 病理診断科 科長、日本病理学会 推薦):過剰診断の問題にまた入ってしまったんですが、今、問題になってるのは、アメリカとか韓国とか過剰診断が問題になってます。で、これは事実なんですね。ただ、彼らが問題にしているものと、日本での診療と診断のシステムというのはかなり違うので、一概に、日本でやってることが過剰診断という言葉でまとめられるのは、少し違うんじゃないかというふうに思ってるわけです。過剰診断というと、初めからもう過剰の診断ですので、これはあの、患者さんにとっては非常に大きな問題になって、その言葉を使うこと自体が、非常に良くないんじゃないかと。実際に言われている、overdiagnosisという、アメリカで言われてるのと、それから韓国で言われている過剰診断というのは、かなり日本と立場が違うんです。それから、手術の方法、手術の範囲も、見つかった場合も、それも日本と大きく違いますので、そこは注意して扱われた方がいいと思います。

鈴木座長:はい、あの、オーディエンスのみなさんに多分、アクティブサーベイランスという、私たちは当たり前のように今、甲状腺がんで使っている言葉なんですが、ちょっともう一度説明した方がいいと思うんで。これは、吉田先生、お願いできますか。

吉田部会員:あのー、小さい甲状腺がんを手術した方がいいかどうかというのですはね、私が医者になった頃、40年くらい前から日本の外科医は議論してまいりました。初めの20年間はですね、やはりなんだかんだ言ってもがんなんだからと言うことで、手術をしてまいりました。ところが、今から20年くらい前からですね、ぽちぽちと、こう、手術をしないで様子を見ようと。特に1cm以下のものを、日本の外科医は微小がんと呼んでおりました。それでじゃあ、微小がんというようなものをどうやって扱うかということで、隈病院とがん研とその2つの病院で先行的に患者さんに同意書を渡して、3mm以上に大きくなったら手術しましょうとか色々細かい取り決めをして、ずっとフォローアップするというふうに。半年に一回、あるいは一年に一回のフォローアップをすると、積極的にフォローアップしていくと言うのを、アクティブサーベイランスと言う。で、今かなりそうやって、微小がんの扱いについては、そうやってみていく日本の施設が多くあると思います。だからそれをこの福島でも取り入れて、すぐに手術をする必要のないものは手術しないでアクティブサーベイランスというような格好で医大の方でみているんだろうという具合に私は思っておりますけど。

髙野部会員:アクティブサーベイランスなんですけども、それは大人と福島の子どもで大きく状況が違うと思います。まず、子どもの場合は、がんと診断されることが非常にその子にとって大きなデメリットになります。要するに、われわれ専門家は甲状腺がんは非常に予後がいいと言うふうに知ってますけども、世間一般では、その子たちは、診断されたその時から小児がん患者です。それから、もうひとつ、私自身も経験したことですけども、その世代の子どもたちをアクティブサーベイランスしようと思っても、結局、進学があり、就職があり、結婚したり、子ども産みたい、もう絶対に迷います。で、結局、何年か経ってから手術しようとなって手術しました。じゃあこれはアクティブサーベイランスはどうだったんだろう(?聞き取りにくい)という話になってしまいます。だからもともと大人と子どもは非常に違うと。特に福島の子どもは、今、福島の子どもたちは将来どんどんがんになるという風評被害が出ています。そんな中で子どもたちにがんという診断をつけるアクティブサーベイランスは非常に残酷なことだと私は思います。

祖父江部会員:あの、ちょっと提案なんですけど、利益・不利益の中身をですね、何を記述するかということについてちょっと議論があるとこなんですけど、一方で、今のIC(注:インフォームドコンセント)の説明文書できちんと説明できてるかという、それを補足するであろうというのが前回のコンセンサスだったと思います。ですから、待ってはおれないわけで、きちんと部会の間もですね、作業をして、ICの文書を、その説明文書の中における利益・不利益の検討をどうするのかの案を作らないとですね、なかなか進まないと思うので、何かワーキンググループをですね、あるいは福島医大の先生方にも入っていただいて、その案を作っていただいてこの部会で検討するという形にした方が、私はいいと思います。

鈴木座長:それは私も、あの、なかなか限られた30分くらいの間で議論が出尽すわけではありませんし、はっきりした文書を仕上げて行くためには、やはりそういう下準備で少しICを作る図案を作る必要があるだろうと思います。それから、もうひとつ、あの、こういう文章で伝えるって言うだけではやはりうまく伝わらない可能性がある。今、髙野先生も、そういう診断を受けること自身が非常に精神的なダメージが大きいんじゃないかというようなこともありましたし、まあ、現在も、がんと診断されたあとのケア体制というのは県立医大でしっかり取ってもらっていると思いますが、あの、その辺も含めてですね、少し再整理してみた文面を、まあこの次は準備していきたいと思います。よろしくお願いします。

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志村氏が「資料3−1 学校における甲状腺検査について」を読み上げ、現在の実施状況と開始の経緯について説明。
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2.「資料3-2【髙野部会員・祖父江部会員資料】県民健康調査における甲状腺超音波検査の実施体制および検査方法の問題点と改善案」に関する議論の書き起こし



鈴木座長:この資料3−1を準備してもらったのは、あの、この後、髙野先生・祖父江先生の意見書の中で、一番最初に、学校検診というのはどうしても強制性があるから倫理的に大問題であるという強い部分があったためです。あの、私自身は、きっちり同意の取れた人だけが受けるという形になってますし、現実に100%の受診率を達成してるわけではなくて、きっちりと受診しないことを選ぶ人もいるという現実。それから、まあ、ここにあるように、決してこれ、検査のやり方として最初からこういう形を取ったということがある。学校、あるいは父兄との同意のもと、現在の形になっていると理解しておりますんで、この資料を準備していただきました。 

では、続けて資料の3−2。これは「県民健康調査における甲状腺超音波検査の実施体制および検査方法の問題点と改善案」ということで、髙野先生・祖父江先生から出されていますが、髙野先生、簡単に説明をお願いします。

髙野部会員:県民健康調査の問題点の改善案としまして、1番として検査実施体制上の問題点、2番として検査方法の問題点としてリストアップさせていただきました。検査体制上の問題点につきましては、さきほど学校検診の件が出ましたけども、あの、超音波を行うには強制性があってはいけないということが大原則なんですが、現時点では授業の合間に検査が実施されており、検査拒否の意思を示しにくいため強制性を持つと言うことが言われています。実際あの、授業の合間に行われてしまうと、検査を受けない子どもたちは、授業中教室でポツンと残っている現状をうかがっています。ですから、原則、放課後あるいは休日に限定して検査すべきではないかと考えます。それから、これは補足的な事項ですけども、学校で検査を実施していることで、対象者に健康改善を目的とした他の健康診断と同様な検査であると誤解される可能性がある。多分、おそらく、たとえば先ほど祖父江先生も言われましたアンケートを取ると、そういう意識の保護者の方が非常に多いんじゃないでしょうか。ですからこの辺は、説明文の内容と、特に健康改善を目的とした検査ではないことを学校関係者に周知する必要があるんじゃないかと思います。

それから2番目は検査方法の問題点。これはさきほどのメリット・デメリットの話にも繋がりますけども、検査の対象者に対する有害性を提言するための検討をすべきである、ということで、別紙の方で参考文献が書いてありますけども、JAMAのUS Preventive Services Task Forceによれば、利益・不利益のバランスの上で不利益の方が勝ってしまっているということで、まあこれは問題であろうと言うことが言えると思います。また、がんの治療等に伴い、要するに頭頸部に大量に被ばくした症例についてどのようにフォローするかということでいくつかガイドラインが出ておりまして、こちらも参考文献に載せていますけども、今出ているガイドラインの方、参考文献からご覧になれますけども、③ー5になります。まず、後ろの方で3つの団体から推奨が出てますけども、いずれもUSではなくて触診の方を推奨しているということで、それから、アメリカ甲状腺学会の方からガイドラインが出てますけども、こちらの方も、まず診察すべきだと。診察して異常があった場合、画像検査を考慮すべきということをリコメンドしています。ですから、このような国際的な背景もあるということから改善案を提案しますけども、最初から超音波をするのではなくて、触診をした上で超音波検査による精査の必要性を判断する。あと、過剰診断を減らすためには超音波検査の件数を減らすしかありませんので、超音波検査の対象年齢を制限する、超音波検査の実施頻度を下げることを提案させていただきたいと思います。以上です。

鈴木座長:はい、あの、まず、問題点の1の方は、今、(説明が)あったように、決して強制性を持って始めてるわけではなくて、きっちり、あの、検査当日になって同意しますかどうかって言うと強制性ってのが十分あるかと思いますが、事前に、これはあの、意思表示をしてもらった上でやってるということになってます。私はこれは、かなり髙野先生の危惧しすぎかなと言う風に思っています。

で、②の方ですね。これは現在、説明と同意書を書き換えてる最中ですので、その中で十分書き込めば解決する問題ではないかと。決して一般の健康改善を目的にしたものではないと言うのは、ここで十分書き込めるんではないかと思ってますので、ここはICの方の話に継続?して行くのかな、と。

で、検査方法の問題点で、これは私、あの、髙野先生、文献の読み方、少しバイアスがかかっていらっしゃるかと非常に不安に思ってます。まずあの、子どもに関するガイドラインとしては、『JAMA』ではなくて『Thyroid』の方ですよね。これは、たとえば、リコメンデーション4(B)、一番下のところに、”Therefore, routine screening US in high-risk children can neither be recommended for nor against until more data become available.”と言うことで、あの、このリコメンデーションが書かれた段階(注:2015年)での文献調査では、積極的な支持も積極的反対もできないというのが、このリコメンデーションなんです。実は、この後のリコメンデーションとして、3つ目の『Cancer Treatment Review』、これがクレメントたちの論文なんですが、ここの中では、はっきりと、どちらかと言うと、超音波を使った場合のベネフィットとdisadvantage、まあリスクをしっかりと説明して、本人と医者が話し合った上でちゃんとUSを使いましょう、というようなリコメンデーションになってるかと思います。で、先生があげた所は、まずこれまでどうだったかという所の、一番最初の文献のサーチしたところでの表をたまたまポッと出してきただけで、実際の中身を読んでいただくと、そういう内容になってて、その精神?というのは、今回のIARCのリコメンデーションの中の、どちらかと言うとアクティブサーベイランスも含めたような形での、スクリーニングじゃなくてモニタリングというような概念に入って来てるかと思いますんで。決して、国際学会が超音波じゃなくてpalpation、触診でやりましょうと言うふうなのを子どもに対して今、積極的に勧めているわけではないと言うふうに理解してます。で、特に今、吉田先生の方からもご意見あったかと思いますが、小さいがんで、本当に今、手術しないで、アクティブ・サーベイランスの対象でいいのかどうかということを判断するのは、触診ではできないですよね。ですから、なんかその辺も少し、あの、髙野先生とまあ、私の意見はあまり強く言ってもしょうがないんですけども、国際的な流れと少しズレがあるような気がしております。

南谷部会員:小児科の立場からしますと、教育委員会というのは非常に強い力を持っていますよね。で、教育委員会、あるいは父兄からの要請があるというのは、かなり強いことだと思うんで、それに関して色々、僕らがどうかという立場じゃないかなと言う気がちょっとしますね。で、あとはですね、まあスクリーニングに関してですけど、福島県の「外」ですよね。たとえば私が住んでいる千葉県はですね、柏とかホットスポットがある地域がたくさんあるんですよね。そういう地域は、NPO団体が色々、もう勝手に甲状腺の検査とかしてるわけですね。で、そういう検査に殺到するわけですね。それから、ちょっと定かではないんですけども、市町村がその検診の費用を、まあ半分負担するとか、そういう自治体が絡んでやってる所も結構あったりしますんで。ですからまあ、ちょっと大阪と千葉と、なんて言いますかね、放射線に対する受け止めが違って、かなり千葉県の人は福島県から離れているけども、福島から避難した人じゃないですけども、そういうことでかなり気にしている人は多いと思いますんで、そういう状況で福島県が今の体制を改めてしまうと、要は、スタンスとしては、髙野先生は被ばくの影響はないっておっしゃってましたけども、まあその最初の政府の発表をみんな信じなかったというのが原点で、みんなまあ、隠蔽してるんじゃないかと、そういうことから始まっているわけですから、今の状況で想定外の甲状腺がんが見つかったということで、それで検査体制を縮小すると言うと、また何か色々言われるような気がします。

祖父江部会員:今の髙野先生の説明でですね、『Cancer Treatment Review』の方で触診を勧めている。まあ、これ、私も専門ではちょっとないのではっきり断言はできませんけども、少なくとも、放射線治療を受けた子どもにおいて、甲状腺がんのサーベイランスをする時に、超音波ではなくThyroid palpationですね、触診を推奨するというガイドラインが、3つの団体それぞれでconcordance、まあ一致して主張してるという。ですからまあ、超音波検査をすることと同様というかそれ以上に、触診ということは結構、あの、モニタリング、サーベイランスの手法としては採用されてるんじゃないかということが、僕は言えるんじゃないかと思うんです。で、その上で、学校検診の際にですね、あの、まあ、授業の合間部分にですね、まあ、やられていると。強制性はないかもしれませんけども、まあ、やらないと判断した保護者の方、あるいは本人ですね。教室に残って非常に居づらい感じだと言うようなことを聞いたりします。で、その際にですね、ま、一緒に検査を受けるんだけども、選択肢のひとつに触診、超音波に加えて触診があるということであればですね、検査を受けるということも可能だし、ま、たとえば、触診というものをですね、選択肢のひとつに設けるというのも本気で考えたらどうかと思ったりします。

吉田部会員:あの、甲状腺の触診っていうのはですね、ほとんど分かんないです。ですから、いわゆる、ほとんど、その、放射線を受けた子どもたちに触診をするというのはですね、radiation thyroiditisというのがあります。そちらの方で、それをdetectするのはいいのかもしれませんけど、それからがんが出てきた時に、その触診で見つけるってことはほとんど不可能ですので、やはりあの、甲状腺の超音波ってのは非常に無害ですし、いい方法だという具合に私は思っております。

南谷部会員:私も吉田先生の意見に最も賛成で、スクリーニングをする場合はかなり多数の医師が甲状腺を触るんですけども、私も甲状腺が腫れてると言われて紹介される患者さんいっぱいいますけども、ほとんど甲状腺じゃなかったりします。甲状腺を専門にしてない医者が触って、甲状腺が分かるどころか、結節が分かるとはとても思えないです。そういう意味では、超音波でないと客観性は保てないような気がしますよ。

祖父江部会員:ですから、超音波で見つけるようなnoduleを見つけようとしていないんですね、触診というのは。ですから、しない、ということでしょうか。

鈴木座長:あの、よろしいでしょうか。これも前回、ちょっと議論したんですが、結局、大きい甲状腺がんは、素人でも見つけられます。あの、5センチとか、そんな大きさだったら、誰でもって言うか、一応、その目で見れば見つけられますし、もうちょっとちっちゃいやつでも、慣れた人だと見つけると思います。ただ、その段階で見つけた時に、どういう手術方法になるかって言うと、一般のスタンダートは両側の甲状腺摘出になりますし、結構広い郭清になって、で、アメリカのこのJAMAなんかのリコメンデーションとか、あの段階のですとね、放射性ヨウ素の治療を一緒に組み込むわけです。要するに、そういう治療を前提にした触診法なんですよ。だからやっぱり、今、日本でやろうとしてる、早期発見でなるべく手術野の少ない治療を選択しよう、なるべくQOLを残したものにしようって時は、触診法では相当問題があるんだろうと私は思ってますが。

祖父江部会員:なぜこの『Cancer Treatment Review』でですね、Thyroid palpationというのが推奨される方法だと書いてあるんですか?

鈴木座長:えっと先生、これ、もう一回先生に文献を送ったと思いますが、これは一番最初に既存のものをレビューしたんです。その中で、じゃあ、彼らはどういうふうなリコメンデーションにしようかって言って、その後、ズルズルズルといっぱい書いてまして、たとえば、palpationの、触診法のメリット・デメリットも書いてますし、超音波のメリット・デメリットも書いてます。で、そういうのを理解した上で、医者と患者さんと親御さんとで話し合って、USを使うんだったら、超音波を使いましょうと言うのがリコメンデーションになってます。決して、あの、これで全部やるべきだと言うようなリコメンデーションではないですが、あのそういう、USを否定するようなリコメンデーションではないです。

祖父江部会員:否定はしていません。選択肢のうちにpalpationも入れたらどうですか、ということです。(注:発言後に髙野氏が座ってる方向をちょっと向いたように見えた。)

鈴木座長:はい、ですから、palpationを入れるという議論は、さきほど言いましたけども、今の日本の術式の考え方とはあまり合ってないと言う所だと思います。

髙野部会員:あの、この『Thyroid』の論文、それから『Cancer Treatment Review』の論文ですけど、いずれも触診とか超音波検査について議論をしてて、結局、超音波検査はリコメンドしてないんです。その理由というのはやはり、overdiagnosis、これが__を下げるという理由に違いありません。で、もしも超音波検査が非常にいいもの、有益なものであって、無症状の若年者に超音波をあてていいものだったら、もっと世界的に広まっているはずです。それがされないと言うことに、ちょっとわれわれ、神経を尖らす必要があると思います。

吉田部会員:あの、超音波ってのは、日本で非常に早くから発達しててですね、欧米というのは、非常に日本の方に引っ張られてやったものなんですね。ですから、その影響がかなりあるだろうと思いますし、今、触診、触診って言われましたけど、たとえば乳がんの世界で、乳がんの検診をする場合にですね、触診はもう今、根拠がないと、客観性がないということで、否定されています。それでマンモグラフィーしましょうと言うことになっております。それと同様にですね、超音波で見つけることが悪いという、超音波検査そのものが悪いんではなくてですね、もし悪いとしたらですね、見つけたがんをどういう具合に取り扱うかという、その方法の部分で、みんな手術してしまうとかって言うような、韓国みたいなことが取られるのが悪いのであってですね、それに対してアクティブ・サーベイランスなり、色々解決案がありますので、その精度をもっと高めようというような努力をする方が正しいんじゃないかな、というふうに思いますけど。

加藤部会員:髙野委員とか祖父江委員の意見の、一般的な甲状腺がんのスクリーニングとか、この福島の原発事故後の調査を一緒にして扱っているところが、うーんどうかな、と言うふうに思いますね。今までそんな子どものスクリーニングとかやった所はひとつもないですので、実際に出たきたデータで、そういうふうな話になってきてるんだと思いますけど。だからやはり、原発事故後、やる時にですね、やはりロールモデルだったのはですね、チェルノブイリなんですよね。で、チェルノブイリの甲状腺って言うのは、子どものがんが多かった。それが非常にみなさん危惧していると思うんです。それで始めたことなんですけど。今の話というのは、一般的な甲状腺がんの話を、大人の話をしてると。で、実際われわれがやってるのは、__の、将来がある子どもたちのために何とかしようと言うふうなことですので、それに対するデータと言うのは、ほとんどないんです。どこの大学に出しても?ないと思います。わたくしもかなり甲状腺の子どものがんをやってますけど、子どもの甲状腺がんは特殊です。ただし、それに対する臨床的なフォローアップデータとかそういったものは非常に限られておりまして、今出してるJAMAとか色んなものってのは、大人の甲状腺がんに対してのものなので、やはり、それと分けて考えていいんじゃないかと言うふうに思います。

阿美弘文部会員(甲状腺外科医、福島県病院協会 推薦):わたし、市内で甲状腺外科をやってまして、その立場からしますと、あまりその、反回神経麻痺とか出血が起こってという契機で発見される甲状腺がんって実際に少ないって___、自然に見つかる甲状腺がん__がほとんどだなっていう印象なんですね。___、触診って本当に不十分なのかって言うのはちょっと何とも言えないかなと思いますし、超音波で過剰診断が出るんじゃないかなという意見も__、僕自身ちょっと、どう言うことが一番正しいのかと言うことを決めかねている状況ではあります。(注:非常に聞き取りにくかった。)

鈴木座長:触診法、あるいは超音波を使った検査、それぞれメリット・デメリットがあると言うのは、クレメントたちの論文にも書いてあります。今までの小児甲状腺がんに関するリコメンデーションで、超音波を使った方が間違いなくいいと言うようなデータってのはまだまだ少なくて、実際は日本の、この部会の中でも前々回になりますか、吉田委員の方に、小児の時期に診断した症例の日本の報告をお示しいただきましたけど、まあ、ステージが早いほど再発率が少ないというようなデータが少し出てきたくらいで、非常に大規模な調査の中で、早期診断と言うのがどの程度のメリットがあるのかって言うエビデンスは、まだまだ蓄積が足りないってのが現状だと思ってます。その辺が、あの、超音波を使うことに対して積極的反対もしないし賛成もしないという、中立的なリコメンデーションになってたと言う所だろうと思います。現実に今、この福島では、超音波を使った検診を続けてるわけなんでして、そこの中で間違いなく色んなエビデンスが今、集まってきている。大体どういうふうな、で、また手術した症例も増えて来てますんで、それがどういうふうな予後をたどって行くのかって言うのも、従来、小児の場合ですと、非常に大雑把に病理分類をしてやってたんですが、より細かい病理分類をした上での解析も将来可能になって来るんじゃないかと思います。で、その辺が出ないと、本当の意味で今、髙野先生の疑問に対して答えるエビデンスと言えるだけのデータってのは出て来ないのかもしれませんが、現在それがないからと言って、じゃあまったく早期発見の、間違いなくそれ自身はQOLを改善する利点はあるわけですが、それを_した上でもう一回、palpationに戻るのかという疑問は、私は、なかなか受け入れられないんじゃないかと言うふうに思っております。

あの、どうしましょうか。なかなか議論は収束はしない。こういうふうに立場の違いと言うのは残るんだろうと思ってます。で、そういう意味では、クレメントたちと同じようにですね、インフォームドコンセント、同意書を取る時に、超音波検査でどういうことが、実際、早期診断のメリット・デメリットと同じ話になるんだろうと思いますが、それをきっちり書き込んだ物を作って行くというような、形になるのかと思います。あくまで判断してそれを受けるかどうかと言うのは、やっぱり親御さんと子どもさんが判断する話なんで、それに対して十分説明を尽くすと。ただまた、早期発見された場合の、まあアクティブサーベイランスというような考えも出されましたが、いま、医者の側ではそういうようなことをスタンダードとして考えながら、みなさんをフォローして行きますというようなことを、ある意味、書き込むのかと思っています。その辺をこの次までに、文章にもう少しまとめて準備していきたいと思っています。そんなところでいかがでしょうか。

髙野部会員:この資料ってのはわれわれ、元々、倫理問題として出してるものですので、特にこの学校検診に関しては、倫理委員会とかで検討しただく必要があります。ですから、現在、福島県立医大の倫理委員会がその役をしていると思います。そちらの方で学校検診の問題についても、これで__、是とするか否とするかは、判断していただきたいと思います。

鈴木座長:これについては、すでに、今の研究計画書は倫理委員会にかかってて、その中にこの検診の体制も含まれているんではないかと私、推察するんですが?

安村 誠司 氏:(福島県立医科大学医学部 公衆衛生学講座教授):鈴木先生の仰られたとおりです。(注:安村氏は、県民健康調査の研究プロトコル論文の筆頭著者であり、検査体制設定に最初から関わってきた。)

鈴木座長:一応、倫理委員会で、この方式は認められてるというふうになってるかと思うんですが。

髙野部会員:それはあの、県が開始当初の審査ですか?

安村氏:そうです。

髙野部会員:この学校検診は、その後で始まったのではないでしょうか?

安村氏:このやり方での倫理審査を受けて、承認されています。

髙野部会員:了解しました。

祖父江部会員:学校検診のことだけでなくてですね、16歳以上の未成年に関しての同意の取り方に関しては、どうですか? 倫理審査でこのやり方で認められてるわけですか?

志村 浩己 氏(福島県立医科大学医学部 臨床検査講座教授、放射線医学県民健康管理センター 甲状腺検査部門長):現在、あの、二次検査に関しては16歳以上は本人の同意も得ている方針。一次検査は20歳以上で本人の同意、20歳までは保護者の同意という同意書の書式で承認はいただいています。で、前回、お答えさせていただきましたように、段々、指針も移り変わっておりますので、今回の議論を踏まえて、また書式を見直したりと言うことで、もう一回、修正申請をすることになると思いますので、その時また、一緒に検討させていただきます。(注:志村氏は、28年度より、前任の大津留晶氏から甲状腺部門長を引き継いでいる。)

髙野部会員:今思い出したんですけども、あの、超音波検査の実施に関する提案についての審査と言うのは、されてるんでしょうか?

志村氏:あの、前回お示しさせていただきました同意のお知らせの文章とその同意書を提出して、あの、最初は承認から色々移り変わりがございますので、その都度、修正審査をしていただいて、追加したものを受診者の方に報告しているという(状況です?)。

鈴木座長:髙野委員、今、同意書の文面を変えて、そこの中に甲状腺検査のメリット・デメリットもきっちり書き込んだものが出てきて、それが倫理委員会に再度かかって、と言うふうに私は理解しておりますんで、髙野先生の懸念はその段階で解消されるのではないかと思ってます。

髙野部会員:ちょっと、私が福島県の方に書類__してみたところでは、超音波検査の利益・不利益という所、そこには、超音波検査については、基本的には侵襲性はないと__されてなかったような気がするんです。そこがもし、今の現状のままだとしたら、そこはやはり、審査を再度する必要があるのではないかと思います。

志村氏;研究計画書は__はそうかもしれませんけど、同意書は、あの、その都度提出してますので、先生が求められてるように出してるかちょっと分からないんですけども、まあ、その都度、可能な範囲で修正が__しております。で、まあ今回、前回は先行検査の評価部会・検討委員会の結論を踏まえた出ておりますので、今回また、本格検査2回目の評価部会・検討委員会のご決定を踏まえて、また_____。

鈴木座長:はい。では、どうもありがとうございました。あの、今日はかなり突っ込んだ議論がされました。あの、必ずしもこの部会の中で、ハーモナイスされるというのは期待はしておりません。やはり色んな意見があるというのを、いかに県民の皆さんにもちゃんと伝えた上で、検査を受けてもらう体制を作っていくことが一番重要であると思っておりますんで、あの、ぜひこの次までに具体的な文面として、今の検査のメリット・デメリット、その辺を分かりやすく書いた書式、もしそれで足りないんであれば付属のパンフレットようなものも使うと言うような形で準備を進めて行きたいと思ってます。その他、ございますでしょうか?特にないようでしたが、第11回の甲状腺検査評価部会、これで終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

(書き起こし、以上)

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参考:「資料3−2」の「参考文献からの抜粋」に出てくる3つの論文についての解説ツイート
https://twitter.com/YuriHiranuma/status/1058386397801762816












注:最後のツイートで言及されている「4つめの文献」とは、鈴木部会長の、「髙野先生、文献の読み方、少しバイアスがかかっていらっしゃるかと非常に不安に思ってます。」「決して、国際学会が超音波じゃなくてpalpation、触診でやりましょうと言うふうなのを子どもに対して今、積極的に勧めているわけではないと言うふうに理解してます。」と言う発言について、髙野部会員がブログで、「4つのガイドラインにおける議論のいずれも超音波検査を使用するかどうか議論しており、結論として4つのいずれも超音波検査を推奨する方法として最終的に採用していないという点は重要である。」と述べていることに言及している。

メモ:2018年9月5日発表の甲状腺検査結果の数字の整理など


2018年9
月5日に、第32回「県民健康調査」検討委員会が開催され、2018年6月30日時点での3巡目(新たに3例が悪性ないし悪性疑いと診断、2例が甲状腺がんと確定)と4巡目の結果が公表された。

1〜3巡目の一次・二次検査の結果概要、悪性ないし悪性疑いの人数・年齢・性分布、および各年度ごとの手術症例の人数などは、「参考資料2 甲状腺検査の状況」にまとめられている。

3巡目の結果
  2016年5月1日から開始されている3巡目では、一次検査受診率が前回よりわずか0.3%増えて64.6%となり、結果判定率は5.8%増えて100.0%となった。1巡目と2巡目での受診率(それぞれ81.7%と71.0%)よりも低いことには変わりない。特に、検査年度4月1日時点での年齢が18歳以上の受診率は、前回より0.5%しか増えず、16.4%とかなり低いままである。
  二次検査対象者は前回より115人増えて1482人となり、受診者数は110人(平成28年度対象市町村で17人、平成29年度対象市町村で93人)増えて913人になり、受診率は2.9%増えて61.6%となった。1巡目の二次検査受診率は92.9%、2巡目では84.1%だったので、かなり下がっていることになる。二次検査の結果確定数は、平成28年度対象市町村で30人増えて547人(94.5%)、平成29年度対象市町村で107人増えて279人(83.5%)と、全体的には826人となり、全体的な結果確定率は5.0%増えて90.5%になった。平成28年度対象市町村から2人、平成29年度対象市町村から8人の計10人が新たに細胞診を受診し、平成29年度対象市町村から3人(男性1人、女性2人)が悪性ないし悪性疑いと診断された。1人が浜通り、2人が会津地方の住民である。この3人の事故当時年齢は、男性が9歳で、女性が10歳と11歳である。3人とも、2巡目での判定結果はB判定だった。手術症例は2例増えて11例となった。
  3巡目以降の二次検査実施状況は、市町村別ではなく地域別でしか公表されなくなっている。「別表5 地域別二次検査実施状況」によると、二次検査受診率は、避難区域等13市町村と中通りでは70%をやや超え、浜通りと会津地方では、前回よりそれぞれ8.1%と15.8%増えて41.3%と49.8%になった。今回発表された結果は、4月1日から6月30日までに集計されたものであるが、新学年開始直後のあわただしい時期よりも夏休み中の受診を選ぶ可能性もあると思われ、浜通りと会津地方での二次検査結果には、今後動きが見られると想定される。またこの別表によると、細胞診実施者10人中、6人が中通り、2人が浜通り、2人が会津地方の住民である。
  2巡目の結果との比較表によると、2巡目を未受診だった15048人からB判定が92人出ている。B判定1482人のわずか6%であり、この中から悪性ないし悪性疑いが出ているのか不明ではあるが、もしそうであれば、新規受診による早期発見に繋がっていることが望まれる。

4巡目の結果
  4巡目に関しては、これまで2018年5月1日から開始されているとされていたが、実際には2018年4月1日からの開始であることが説明された。一次検査対象者数は、3巡目よりも42818人減っているが、これは、25歳節目検査の対象者が除外されているからである。1993年度生まれの対象者(約22000人)は2018年度に、1994年度生まれの対象者(約22000人)は2019年度に節目検査を実施することになる。節目検査の結果は別途、計上される予定である。このように、節目検査対象者が除外されて行くにつれ、対象者はどんどんと減って行くことになる。
  4巡目の一次検査は、対象者293850人中、受診者が16362人と、受診率はまだ5.6%である。まだ953人でしか結果が確定しておらず、8人がB判定となったが、二次検査は未実施である。
  3巡目の結果との比較表によると、3巡目を未受診だった93人からB判定が2人出ている。

(注:前回検査との比較表における「前回検査」とは、前回検査での一次検査の結果であり、二次検査後の再判定が反映された結果ではない。)

***

現時点での結果
前回発表された集計外症例数も含む、現時点での結果をまとめた。

***

以下は、「参考資料2 甲状腺検査の状況」の4ページ目にも、まとめられている。

先行検査(1巡目)
悪性ないし悪性疑い 116人
手術症例      102人(良性結節 1人、甲状腺がん 101人:乳頭がん100人、低分化がん1人)
未手術症例      14人

本格検査(2巡目)
悪性ないし悪性疑い 71(前回から変化なし)
手術症例      52人(甲状腺がん 52人:乳頭がん 51人、その他の甲状腺がん**1人)
未手術症例     19人 

本格検査(3巡目)
悪性ないし悪性疑い 15(前回から3人増)
手術症例      11人(前回から2人増)(甲状腺がん 11人:乳頭がん11人)
未手術症例     4人

合計
悪性ないし悪性疑い 202人(良性結節を除くと201人
手術症例      165人(良性結節 1人と甲状腺がん 164人:乳頭がん 162人、低分化がん 1人、その他の甲状腺がん**1人)
未手術症例       37人

(**「その他の甲状腺がん」とは、2015年11月に出版された甲状腺癌取り扱い規約第7版内で、「その他の甲状腺がん」と分類されている甲状腺がんのひとつであり、福島県立医科大学の大津留氏の検討委員会中の発言によると、低分化がんでも未分化がんでもなく、分化がんではあり、放射線の影響が考えられるタイプの甲状腺がんではない、とのこと。)

***

2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された71人の1巡目での判定結果
A1判定:33人(エコー検査で何も見つからなかった)
A2判定:32人(結節 7人、のう胞25人)
B判定: 5人(すべて結節、とのこと。先行検査では最低2人が細胞診をしている)
先行検査未受診:1人

3巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された15人の2巡目での判定結果
A1判定:2人
A2判定:6人(結節2人、のう胞4人)
B判定:4人
2巡目未受診:3人

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他施設での手術症例について
  今回の検討委員会では、「手術の適応症例について」の訂正報告で、2016年3月末時点での手術症例132例(1巡目102例、2巡目30例)のうち、福島医大以外での手術症例が6例と報告されていたけど、2015年には7例だったことについて、実際には7例であると報告された。
  背景を説明すると、2015年8月31日に開催された第20回検討委員会で鈴木眞一氏が提出した資料「手術の適応症例について」では、2015年3月31日時点での手術症例104例(1巡目99例、2巡目5例)のうち、7例が他施設での手術症例とされていた。しかし、2016年9月末の国際専門家会議で鈴木眞一氏が出した臨床データでは、132例中6例が医大以外での手術例とされていた。(注:この臨床データについての2016年10月の記事での筆者の解説では、それまでの7例から6例に減っていることに言及している。)2017年11月30日に新メンバーで再開された甲状腺検査評価部会では、2016年9月に公表された鈴木眞一氏の発表データが日本語に直され、「手術の適応症例」として資料にされていた。
  福島県立医科大学の甲状腺・内分泌センター長である横谷氏の説明によると、2016年3月31時点での手術症例132例のうち、医大での手術症例が126例だとされていたのは、実は2016年4月に入ってからの手術例1例が含まれていたために間違いであり、3月31日時点での医大での手術症例は132例中125例で、他施設での手術症例は、2015年と同じく7例であるということだった。訂正資料では、スライド3の数字を2016年3月31日時点のものとして調整し、医大での手術例を126例から125例、うち甲状腺がん124例と訂正し、スライド4「福島県立医科大学における甲状腺がん125例の特徴」には、「2012年8月から2016年4月までの甲状腺がん手術症例」という注釈が追加されている。

  この125例の特徴については、データが公表された国際専門家会議の内容をまとめた英語書籍 "Thyroid Cancer and Nuclear Accidents"(山下俊一 & Gerry Thomas編集)にも収録されている。さいわい、その書籍での内容は、上記の集計ミスには影響されていないが、現場にいる本人が、国際会議での発表にあたり、データの整合性を取っていないことは驚きである。
  この他施設での手術症例7例については、甲状腺検査部門長の志村氏から口頭で追加情報が出されたが、その内容は、1巡目に関しては、知り得た範囲で医大以外の症例を含めて手術症例を報告しており、他施設での手術症例7例を含めたが、それ以降は、「研究倫理や個人情報保護に関する社会の考え方を反映し、他施設での手術症例は含んでいない」ということだった。さらに、記者会見でのおしどりマコ氏の質問の答えから、2巡目以降の他施設での手術症例を、福島医大は把握していないということが明らかになった。これは、現時点で悪性ないし悪性疑いとされた202人中、手術を受けていない37人が、仮に他施設で手術を受けて甲状腺がんと確定されていたとしても、その結果が公式発表には反映されていない可能性を示唆している。

  また前回、「甲状腺検査集計外症例の調査結果の速報」として2017年6月30日時点での集計外症例が公表されたが、その報告の確定版および更新について、アワプラネットTVの白石草氏から質問があった。驚くべきことに、「速報」としておきながら、実質、その報告が最終版とみなされており、2017年6月30日以降の集計外症例を把握する予定もないことが明らかになった。

メモ:2018年6月18日発表の甲状腺検査結果の数字の整理など


2018年6月18日に、第31回「県民健康調査」検討委員会が開催され、2018年3月31日時点での3巡目の結果(新たに2例が悪性ないし悪性疑いと診断)が公表された。1巡目は、結果概要が、2巡目では、2017年度追補版が公表された。4巡目の検査は2018年5月1日から開始されており、次回の検討委員会で実施状況が報告される見込みである。

1〜3巡目の一次・二次検査の結果概要、悪性ないし悪性疑いの人数・年齢・性分布、および各年度ごとの手術症例の人数などは、「参考資料3 甲状腺検査の状況」にまとめられている。

今回、甲状腺検査部門長が大津留晶氏から志村浩巳氏に変わっていることが判明した。なお、当日朝の大阪での地震の影響のため、大阪大学の髙野徹委員は急遽、欠席となった。

1巡目の結果
今回公表された結果概要は、一次・二次検査結果、B・C判定数と悪性・疑い数の地域別データ、悪性・疑い判定数と手術症例データをまとめた3ページにわたる。2016年度追補版とほぼ同内容ではあるが、なぜか、一次検査では対象者数が12人減って、結果判定数が1人減り、二次検査では結果確定数が1人増えている

2巡目の結果
2巡目の2017年度追補版では、第8回甲状腺検査評価部会での確定版の公表後に口頭発表された2例の手術症例(甲状腺がんの診断が確定)が追加された。

3巡目の結果
2016年5月1日から開始されている3巡目では、一次検査受診率が前回より7.4%増えて64.3%となり、結果判定率は0.8%増えて94.2%になった。1巡目と2巡目での受診率(それぞれ81.7%と71.0%)よりも低く、特に、検査年度4月1日時点での年齢が18歳以上の受診率は、前回より2.2%増えて15.9%となったものの、かなり低いままである。

二次検査対象者は前回より168人増えて1367人となり、受診者数は144人(平成28年度対象市町村で30人、平成29年度対象市町村で114人)増えて803人、受診率は3.7%増しの58.7%となった。結果確定数は平成28年度対象市町村で23人増えて517人(92.0%)、平成29年度対象市町村で93人増えて172人(71.4%)と、全体的には689人となり、全体的な結果確定率は1.1%減って85.8%になった。平成28年度対象市町村から3人、平成29年度対象市町村から1人の計4人が新たに細胞診を受診し、平成28年度対象市町村から2人(男性1人、女性1人)が悪性ないし悪性疑いと診断された。この2人の事故当時年齢は、女性が11歳、男性が16歳である。また、この人の2巡目での判定結果は、1人がA1で、2人が2巡目を未受診だった。手術症例は2例増えて9例となった。

3巡目以降の二次検査実施状況は、市町村別ではなく地域別でしか公表されなくなっている。「別表5 地域別二次検査実施状況」によると、二次検査受診率は、避難区域等13市町村と中通りで70%前後、浜通りと会津地方ではそれぞれ33.2%と34.0%であり、1巡目(92.9%)と2巡目(84.1%)と比べて低くなってはいるが、少なくとも、浜通りと会津地方での二次検査は続行中と思われる。またこの別表によると、細胞診実施者4人はすべて中通りの住民であることがわかる。

25歳節目検査の結果

今回、3巡目結果概要の末尾で、平成4年度生まれの対象者22653人における25歳節目検査の結果が公表された。
注:2巡目対象者数には、甲状腺検査未受診の25歳節目検査対象者が計上されたが、3巡目では、25歳節目検査対象者(平成4年度、5年度生まれ)は別途計上となるために対象者に入っておらず、3巡目の一次検査対象者数は、2巡目よりも44576人少なくなっている。

一次検査の受診率は、わずか8.4%とかなり低い。うち、97.1%にあたる1846人で結果が判定されており、A2判定が1012人(5.0mm以下の結節が38人)、B判定は80人(5.1mm以上の結節が79人、20.1mm以上ののう胞が1人)だった。一次検査受診者1846人の約3分の1である577人が甲状腺検査を未受診だった。B判定80人の前回検査結果は、A1判定が3人、A2判定が21人、B判定が28人、未受診が28人だった。B判定80人の35%が前回検査未受診だったことになる。

二次検査は、対象者80人中41人が受診し、うち31人で結果が確定している。細胞診実施者数は0人で、31人全員がA1&A2相当以外と判定され、「概ね6ヵ月後または1年後に診療(予定)となる方およびA2の基準値を超えるが次回検査となる方」だった。31人すべてで細胞診が実施されなかったことから、甲状腺がん以外の何らかの甲状腺疾患であると思われる。

志村氏によると、25歳節目検査対象年度に検査を受診しなかった場合は、希望すれば、次回の30歳節目検査の前であっても節目検査を受けることが可能であるということだが、対象者にもその事実が周知されているかどうかは不明である。

***
以下は、「参考資料3 甲状腺検査の状況」の4ページ目にも、まとめられている。

先行検査(1巡目)
悪性ないし悪性疑い 116人
手術症例      102人(良性結節 1人、甲状腺がん 101人:乳頭がん100人、低分化がん1人)
未手術症例      14人

本格検査(2巡目)
悪性ないし悪性疑い 71(前回から変化なし)
手術症例      52人(甲状腺がん 52人:乳頭がん 51人、その他の甲状腺がん**1人)
未手術症例     19人 

本格検査(3巡目)
悪性ないし悪性疑い 12(前回から2人増)
手術症例      9人(前回から2人増)(甲状腺がん 9人:乳頭がん9人)
未手術症例     3人

合計
悪性ないし悪性疑い 199人(良性結節を除くと198人
手術症例      163人(良性結節 1人と甲状腺がん 162人:乳頭がん 160人、低分化がん 1人、その他の甲状腺がん**1人)
未手術症例       36人

(**「その他の甲状腺がん」とは、2015年11月に出版された甲状腺癌取り扱い規約第7版内で、「その他の甲状腺がん」と分類されている甲状腺がんのひとつであり、福島県立医科大学の大津留氏の検討委員会中の発言によると、低分化がんでも未分化がんでもなく、分化がんではあり、放射線の影響が考えられるタイプの甲状腺がんではない、とのこと。)

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2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された71人の1巡目での判定結果
A1判定:33人(エコー検査で何も見つからなかった)
A2判定:32人(結節 7人、のう胞25人)
B判定: 5人(すべて結節、とのこと。先行検査では最低2人が細胞診をしている)
先行検査未受診:1人

3巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された12人の2巡目での判定結果
A1判定:2人
A2判定:6人(結節2人、のう胞4人)
B判定:1人
2巡目未受診:3人

*なお、2巡目以降は、一次検査結果の表4で前回検査との比較が示されているが、この表における「前回検査」とは、前回での一次検査の結果であり、二次検査後の再判定が反映された結果でないことが、志村氏の理解であると説明された。

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「別枠」データについて

今回の検討委員会では、二次検査後に通常の保険診療に移行してから甲状腺がんと診断された、いわゆる「別枠」データについての調査報告は、まだ行われなかった。しかし、「資料4 県民健康調査甲状腺検査サポート事業の実施状況について」によると、少なくとも3人が「別枠」に相当することが判明した。

2015年7月10日から開始されたサポート事業については、昨年6月5日の第27回「県民健康調査」検討委員会でも2015〜6年度の実施状況が報告されている。今回は、2017年度の情報が追加されているが、支援金の交付件数は述べ313件、交付された実人数は233名と、前回よりもそれぞれ88件と41名増えており、増加人数はすべて2017年度のものである。手術を含む交付件数は実人数82名で、前回報告された67名に、2017年度の15名が追加されている。82件の病理診断結果は、77件が甲状腺がん(乳頭がん76件、低分化がん1件)、5件が甲状腺がん以外(濾胞腺腫等)である。2017年度に追加された15名は、すべて甲状腺乳頭がんである。

77件のうち、72件が二次検査で悪性ないし悪性疑いと判定され、5件がそれ以外となることが、福島県職員から説明された。この5件の内訳は、「二次検査では悪性ないし悪性疑いと診断されず、別疾患等で通院された後に甲状腺がんと診断された方が3件、二次検査の対象となったが二次検査を受診せず、他の医療機関を受診し甲状腺がんと診断された方が2件」ということであった。この3件が、「別枠」に相当し、残り2件は、甲状腺検査の「枠外」で診断されたことになる。この説明での「他の医療機関」とは、福島県立医科大学と連携している医療機関以外であると思われるが、「県民健康調査甲状腺検査サポート事業支援金申請確認表」によると、他の医療機関での受診であっても、サポート事業開始前に受診した場合は、支援金申請が許可されるようである。

メモ:2018年3月5日発表の甲状腺検査結果の数字の整理


2018年3月5日に、第30回「県民健康調査」検討委員会が開催された。2017年12月31日時点での3巡目の結果(新たに3例が悪性ないし悪性疑いと診断)が公表され、2巡目では、第8回甲状腺検査評価部会で公表された結果確定版への追加情報(新たに1例が手術により甲状腺がんの診断が確定)が口頭発表された。

2巡目の結果
大津留晶氏により、2巡目で手術例が2例追加されたと口頭発表されたのだが、実際には、前回の検討委員会で口頭発表された2017年9月30日時点での追加手術症例1例を含んでいるということで、今回の追加手術症例は1例である。前回の検討委員会から、これまでの甲状腺検査結果をまとめた「甲状腺検査結果の状況」という参考資料が配布され始めたのだが、その資料の4ページ目の情報から、今回の2巡目の追加手術症例1例が平成27年度市町村の対象者であり、また乳頭がんと確定診断されたことがわかる。

3巡目の結果 (2018年7月1日に数カ所訂正済み)
2016年5月1日から開始されている3巡目では、一次検査受診率が前回より12.8%増えて55.0% 56.9%となり、結果判定率は2%増えて93.4%になった。二次検査対象者は前回より276人増えて1199人となり、受診者数は102人(平成28年度対象市町村で15人、平成29年度対象市町村で87人)増えて659人となったが、受診率は5.3%下がって55.0%となった。結果確定数は99人増えて573人となり、 結果確定数は平成28年度対象市町村で40人増えて494人(92.9%)、平成29年度対象市町村で59人増えて79人(62.2%)となり、全体的には573人となり、全体的な結果確定率は1.8%増えて86.9%になった。平成28年度対象市町村から5人、平成29年度対象市町村から4人の計9人が新たに細胞診を受診し、平成28年度対象氏市町村から2人(男性1人、女性1人)、平成29年度対象市町村から初めて1人(男性1人)の計3人が悪性ないし悪性疑いと診断された。女性1人の事故当時年齢は11歳、男性2人は6歳と16歳である。この3人の2巡目での判定結果は、1人がA2(結節)で、2人が2巡目を未受診だった。手術症例は変わらず7例にとどまった。

注:2巡目対象者には、甲状腺検査未受診の25歳節目健診対象者が計上されるが、3巡目では、25歳節目健診対象者(平成4年度、5年度生まれ)は別途計上となるため、対象者に入っていない。このため、3巡目の一次検査対象者数は、2巡目よりも44625人少なくなっている。またこれは、平成4年度と5年度生まれの受診者が二次検査で悪性ないし悪性疑いの診断を受けても、今回の3巡目結果には含まれていないことになる。今回の検討委員会で、節目健診については、結果がまとまったら公表されることが、大津留氏により発表された。

***

先行検査(1巡目
悪性ないし悪性疑い 116人
手術症例      102人(前回から変化なし)(良性結節 1人、甲状腺がん 101人:乳頭がん100人、低分化がん1人)
経過観察中      14人

本格検査(2巡目
悪性ないし悪性疑い 71(前回から変化なし)
手術症例      52人(前回から1人増)(甲状腺がん 52人:乳頭がん 51人、その他の甲状腺がん**1人)
経過観察中     19人 

本格検査(3巡目
悪性ないし悪性疑い 10(前回から3人増)
手術症例      7人(前回から変化なし)(甲状腺がん 7人:乳頭がん7人)
経過観察中     3人

合計
悪性ないし悪性疑い 197人(良性結節を除くと196人
手術症例      161人(良性結節 1人と甲状腺がん 160人:乳頭がん 159人、低分化がん 1人、その他の甲状腺がん**1人)
経過観察中       36人

(**「その他の甲状腺がん」とは、2015年11月に出版された甲状腺癌取り扱い規約第7版内で、「その他の甲状腺がん」と分類されている甲状腺がんのひとつであり、福島県立医科大学の大津留氏の検討委員会中の発言によると、低分化がんでも未分化がんでもなく、分化がんではあり、放射線の影響が考えられるタイプの甲状腺がんではない、とのこと。)

***

2巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された71人の1巡目での判定結果
A1判定:33人(エコー検査で何も見つからなかった)
A2判定:32人(結節 7人、のう胞25人)
B判定: 5人(すべて結節、とのこと。先行検査では最低2人が細胞診をしている)
先行検査未受診:1人

3巡目で悪性ないし悪性疑いと診断された10人の2巡目での判定結果
A1判定:1人
A2判定:6人(結節2人、のう胞4人)
B判定:1人
未受診:2人

福島県の甲状腺検査についてのファクトシート  2017年9 月



福島県の甲状腺検査についてのファクトシート 2017年9 月
(初出:岩波書店『科学』2017年10月号) 転載禁止
*2018年7月24日訂正:「11. 放射線影響についての公式見解」の第12パラグラフ6行目の、「浜通りで25.7、中通りで19.6」を「中通りで25.7、浜通りで19.6」に訂正した。

このファクトシートは、福島県の甲状腺検査の現状をまとめたものである。甲状腺検査の開始から7年目に入ろうとしているが、かなりの量のデータや関連情報が蓄積されており、情報把握が容易ではなくなっている。特に、関係者により英語発信されている情報は、きちんと分析されていない2巡目の結果を1巡目の結果と合わせるなど、仮に被ばくの影響があったとしても見えなくなるような方法で、放射線影響の可能性を否定しているものが散見される。よって、実情を英語発信するために英語のファクトシートを作成したのだが、英語でしか入手できない公式情報・見解の一部が含まれていることもあり、現状把握のために日本語版のファクトシートも作成した。この日本語版は、英語版の和訳というよりも、説明を補うなど理解しやすいように加筆している。
(英語版PDFは、こちらで公開されている。英語版ロングバージョンは、こちらで公開されている。)

*なお、ブログ掲載にあたり、脚注(i〜xix)は、末尾の文献リストの下にまとめてある。

目次:
  1. はじめに
  2. 甲状腺検査の枠組み
  3. 甲状腺検査の結果
  4. 最新結果(2017年3月31日現在のデータより)
  5. データの透明性・公正性
  6. 外科的・病理的特徴
  7. 甲状腺がんの他のデータ
  8. 甲状腺がんの高有病率についての公式見解
  9. がん症例の前回検査の結果
  10. 性比について
  11. 放射線影響についての公式見解
  12. 最後に

ダウンロードはこちら↓から。


*******************

1.はじめに
福島県は、2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故当時に18歳以下だった約36万人の県民を対象とする甲状腺検査を、同年10月9日に開始した。1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故後、放射性ヨウ素への被ばくによる小児甲状腺がんの発症率が劇的に増加したため、県民健康検査[1]の一環として甲状腺検査が実施されることになったのである。甲状腺を放射性ヨウ素から守るためのヨウ素剤は、福島県民のほとんどに配布されなかった。県民健康調査は、国から福島県に出資(経産省の出資を環境省が交付)された基金でまかなわれており[2]、調査自体は福島県から福島県立医科大学(以下、福島医大)に委託されている[3]。

2.甲状腺検査の枠組み4
甲状腺検査は、20歳までは2年ごと、それ以降は5年ごとに実施され、一次検査と二次検査で構成されている。一次検査では甲状腺超音波検査を用いて、のう胞や結節の有無を調べる。ある程度の診断基準(B判定以上)を満たしているのう胞や結節は二次検査の対象となり、ドプラーやエラストグラフィのような詳細な超音波検査および、尿検査や血液検査を受ける。悪性が疑われる場合は、甲状腺細胞自体を調べるための穿刺吸引細胞診(FNAC)が実施される。FNACが陽性で悪性が疑われる場合は、外科手術か経過観察の対象となる。甲状腺がんの確定診断は、外科手術で摘出された甲状腺組織の病理診断が必要になる。よって、甲状腺検査の結果は、悪性ないし悪性疑いの症例数として報告される。(これまで、1例のみが手術後に良性結節と判明している。)

チェルノブイリの知見に基づいた放射線誘発性小児甲状腺がんの潜伏期が4年と仮定されているため、事故後最初の3年間に実施される検査1巡目は放射線の影響を受けていない前提で、福島県の小児におけるベースラインを確立することになると想定された[i]。本来、被ばくしていない小児で同様の規模と技術のもと行われた甲状腺がんスクリーニングを比較対象とすべきだが、それが存在しないからである。このベースラインの役割を強く印象付けるためか、1巡目の英語名称は、最初の「先行検査」から 「Preliminary Baseline Screening(予備的ベースラインスクリーニング)」と改名された。2巡目と3巡目はそれぞれ、日本語の「本格検査1回目」「本格検査2回目」と同じ意味の英語名称で呼ばれている。

甲状腺検査の1巡目[5]は、福島県の市町村を空間放射線量の降順に平成23年度、24年度と25年度の3グループに分け、2011年10月9日から2014年3月31日の間に実施される予定だった。しかし、受診率を上げるため、2巡目開始後も1巡目未受診者を受け入れ、2巡目の1年目と並行し、2015年4月30日まで続行された[ii]。これにより、受診率は1.5%増えて最終的に81.7%となった。

2巡目検査 [
6]は、1巡目完了直後のはずだった2014年4月に開始され、2012年4月2日から2013年4月1日生まれの県民も対象となった。(これは、事故当時胎内で被ばくした人たちの検査のためだが、学校検査の際にクラス全員が対象となるように設定された。) 2巡目の一次検査の受診率は71.0%、進捗率は100.0%と、実質完了しているが、二次検査が受診率82.3%、進捗率95.4%と、まだ続行中である。


3巡目検査[7]は、2016年5月1日に開始され、2017年度末の2018年3月末まで続く予定である。2017年3月31日時点で、336616人(節目健診受診者[iii]が除外されているため、1〜2巡目より約45000人少ない)の対象者中、120596人が一次検査を受診しており、受診率は35.8%である。二次検査は2016年10月1日に開始され、これまでの受診率は48.0%、進捗率は67.8%である。
福島県の甲状腺検査特有の判定基準であるA1、A2、B、Cは、「甲状腺検査専門委員会診断基準等検討部会[iv]」(以下、診断基準検討部会)により、下記のように設定された。
  • A1:結節やのう胞が認められない
  • A2:5.0 mm以下の結節や 20.0 mm以下ののう胞[v] 
  • B:5.1 mm以上の結節や、20.1 mm以上ののう胞
  • C:甲状腺の状態等から判断して、直ちに二次検査を要する
A1判定とA2判定は、2年後の次回検査を受診し、B判定とC判定は、二次検査の対象となる。直ちに二次検査を要するC判定は、これまでに1例しか出ていない。

3.甲状腺検査の結果
甲状腺検査結果は、年4回開催される福島県民健康調査検討委員会で報告され、福島県ウェブサイト(https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai.html)に掲載される。報告書の英訳は、約3週間遅れで、福島医大の放射線医学県民健康センターの国際協力部門のウェブサイトに掲載される[8]。現時点での英語での最も詳細な情報は、2016年9月26〜7日に福島市で開催された甲状腺課題に関する国際専門家会議 「福島における甲状腺課題の解決に向けて~チェルノブイリ30周年の教訓を福島原発事故5年に活かす~」の発表内容が収録された英語書籍「Thyroid Cancer and Nuclear Accidents(邦題仮訳:甲状腺がんと核事故)」の第14 ・15章に要約されている[9, 10]。
最初のがん症例が報告されたのは、事故からちょうど1年半後の2012年9月11日だった[11]。2巡目で初めてがん症例(4例)が報告されたのは2014年12月25日だった[12]。2巡目は、二次検査がまだ続行しているため、現時点(2017年8月)では最終報告はまだ出ていないが、2017年6月5日に公表された最新データ[13]では、悪性ないし悪性疑いが71例、うち手術で悪性と確定されたのが49例となっている。3巡目検査での悪性ないし悪性疑いは、今の所4例で、うち2例が手術で悪性と確定されている[14]。

4.最新結果(2017年3月31日現在のデータより)
表1に、2017年6月5日に報告された最新結果をまとめた[15]。

表1 (2017年3月31日現在のデータより) *手術後に良性結節と診断された1例を含む。


5.データの透明性・公正性
二次検査後に経過観察、穿刺吸引細胞診や手術が必要とされることになった症例は、県民健康調査の予算で行われる甲状腺検査から、通常の保険診療に移行する。保険診療移行後のデータのほとんどは、「原則として公表が許されない診療情報」であるという名目で、検討委員会や福島県民と共有されていない。(しかし、彼らの学会発表や医学雑誌でのこれらの臨床情報の論文発表は許され行われている。)

最近のことであるが、福島医大が、がん症例の詳細どころではなく、がん症例数すべてさえも、検討委員会に報告していないことがわかった。これは、2017年3月に、事故当時4歳だった男児でのがん症例が公式報告に含まれていないことが発見されたことにより明らかになった[16]。福島医大は、経過観察中に診断されたがん症例についての情報を集める義務も制度もない、と述べている[vi]。現在、1巡目を受診後、約1250例が経過観察に移行しており、経過観察中に診断された甲状腺がんが何例存在するのか不明である。

このような状況で書かれた福島医大の論文[17, 18]は、不完全な公式データが用いられており、科学的公正性が欠如していると言えよう。

6.外科的・病理的特徴
上記で述べた理由のため、がん症例の外科的および病理的詳細は、ごく限定された情報しか公表されていない。福島医大で手術が施行された125例の、不完全ながらも最も詳細かつ最新の外科的・病理的情報は、前述の英語書籍「甲状腺がんと核事故」に収録されている。(その元となった鈴木眞一氏の発表スライド[19]は、放射線医学県民健康管理センターの英語サイトからダウンロード可能であり、また、筆者のブログでスライドの詳細な解説をしている[20]。)

125例中、121例(96.8%)は甲状腺の片側、4例(3.2%)で両側に腫瘍が見つかった。手術方式は、114例(91.2%)で甲状腺葉切除、11例(8.8%)で甲状腺全摘出だった[vii]。全手術症例で中央区域のリンパ節郭清が行われ、24例では外側区域でも行われた。反回神経の損傷を防ぐため、全手術症例で術中神経モニタリングシステム(IONM)が用いられた。
副甲状腺機能低下症、反回神経の永久的麻痺や術後出血のような手術の合併症は見られなかった。IONMシステムの使用にもかかわらず、持続性の反回神経麻痺が1例で見られた。
組織病理学的診断では、121例(96.8%)が乳頭がん(PTC)、3例が低分化がん、1例が甲状腺癌取扱い規約で「その他」とされる甲状腺がんだった。乳頭がん121例の亜型は、通常型110例、濾胞型4例、びまん性硬化型3例、家族性大腸腺腫症の一部分型とされている篩型・モルラ型4例だった。充実型乳頭がんの有無は、福島とチェルノブイリが「違う」理由のひとつとして挙げられているためか、鈴木氏の発表では、充実型が見られなかったことが言及されている。

しかし、低分化がん3例中2例(平成23年度と24年度から各1例)は乳頭がんと再分類されており[5]、その亜型は公式には特定されていない。(2018年2月8日追記:2018年1月26日に開催された第9回「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」にて、低分化がんから乳頭がんと再分類された2例は充実型乳頭がんであることが口頭発表された。)甲状腺検査で見つかった甲状腺がんも含む、福島医大で治療を受けた小児甲状腺がん症例について最近出た鈴木らの論文[21]には、次のように述べられている。「以前に第6版甲状腺癌取扱い規約では低分化癌と判断されていたものが7版では充実型亜型として再評価されている。本邦の小児例でも珍しくないとされているが,福島での手術例では現時点では極めて少ない。」

表2:術前(臨床的)および術後(病理的)のTNM分類[viii] 
(T=腫瘍サイズ, N=リンパ節転移, Ex=甲状腺外進展, M=遠隔転移)
(症例数は鈴木眞一氏の発表スライドによる数字のママ)
術後のTNM分類によると(表2)、125例の約60%で腫瘍径が20 mm以下(pT1aとpT1b)、78%でリンパ節転移が認められ(pN1aとpN1b)、39%でがん細胞が甲状腺の外に広がっていた(pEx1)[ix]。術前に微小がん(cT1a cN0 M0)と診断された44例中33例が、甲状腺外進展(20例)、リンパ節転移(1例)、反回神経侵襲(10例)、気管侵襲(7例)、バセドウ病(1例)や肺のすりガラス陰影(1例)などの手術適応症例だった[10]。33例中3例のみがpT1a pN0 pEx0であり、残りの30例での手術は適切と考えられた。非手術的経過観察を勧められたにも関わらず手術を希望した11例では、2例のみがpT1a pN0 pEx0だった。肺への遠隔転移(M1)が認められた3例の詳細は、1)事故当時16歳男性(cT3 cN1a, pT3 pN1a)、2)事故当時16歳男性(cT3 cN1b, pT2pN1b)、3)事故当時10歳女性(cT1 cN1b, pT3pEX1pN1b)だった。

7.甲状腺がんの他のデータ
無症状の集団におけるスクリーニングから得られた有病率を、臨床的に診断された発生率と直接比較するのは不適切であるとされている。参考として、2012年全国罹患率推計[22]から年齢0〜19歳での甲状腺がん発生率を計算したところ、男女合わせて100万人につき4.6人、男性では100万人につき1.4人、女性では100万人につき7.9人だった[xi]

術後に良性結節と判明した1例を除き、FNACで悪性疑いとされた症例すべてが悪性と確定されると仮定すると、1巡目データから得られる甲状腺がんの有病率は、事故当時0〜18歳だった男女合わせて100万人につき386人(受診者300473人中116人)となる。

青森、山梨と長崎県の3〜18歳の子ども4365人で行われた甲状腺超音波検査(いわゆる「3県調査」)を、福島医大や政府は、対照調査と位置付けている[xii]。この3県調査では、福島県の甲状腺検査と同様の割合でのう胞や結節[23]、そして甲状腺がんが1例[24]見つかった。(2018年2月8日追記:3県調査の日本語での報告書は、のう胞や結節を見つけた最初の検査の速報はこちら、報告書PDFはこちら、甲状腺がんが1例見つかった追跡調査の速報はこちら、報告書PDFはこちら。)しかし、年齢や性別がマッチされていないことと、調査集団のサイズが小さいために誤差の範囲が大きくなることから、3県調査は対照調査として不適切だとされている[25]。3県調査では4365人から甲状腺がんが1例診断されたが、95%信頼区間が100万人につき6〜1276人と、統計的推定の幅が大きいため、100万人につき229人という点推計値は、あまり意味のないものとなってしまう[26]。

岡山大学の津田敏秀教授らのグループは、近代疫学に基づいた標準的な疫学手法が用い、福島県のほとんどで罹患率比が全国罹患率より高くなっており、また有病率に地域差があることを示した[27]。この論文には7通の反論がされており[28,29,30,31,32,33,34]、著者らはそれらの反論に反論している[35]。

国立がん研究所の研究では、甲状腺がん有病率の観察数と予測数の比率は30.8にもなると示されたが、この増加は過剰診断に起因するものとされた[
36]。


8.甲状腺がんの高有病率についての公式見解
福島医大によると、福島県で診断された甲状腺がんの高有病率は過剰発生ではなく、無症状の人たちに高精度の超音波機器を用いたスクリーニングを行った結果の過剰検出、すなわち、スクリーニング効果、ということである。福島医大関係者は、2013年2月頃から早くも「スクリーニング効果」という表現を使い始めており、福島での甲状腺がん症例は、ずっと将来まで何の症状も起こさないであろう、おとなしい「潜在がん」が診断されている、すなわち、過剰診断である、と提唱している。

国立がん研究所の津金昌一郎氏と片野田耕太氏は、2014年11月に県民健康調査検討委員会の甲状腺検査評価部会に提出した文書[xiii]で、2010 年時点の福島県の 18 歳以下の甲状腺がん有病者数を推計し、1巡目と比較した[37]。2014年8月時点での悪性ないし悪性疑いの104人は、事故前年の約61倍だと試算し、「スクリーニング効果だけで解釈することは困難」であり、なんらかの要因にもとづく過剰発生、あるいは過剰診断に起因すると述べている。

スクリーニング効果や過剰診断、またはその両方を提唱している研究者らは、がん症例の臨床的特徴を考慮していないと思われる。鈴木眞一氏は、がん症例の多さをスクリーニング効果としながらも、手術の妥当性を支持するためか、過剰診断を主張してはいない。スクリーニング効果の前提は、スクリーニングなしではもっと後になるまでがんが発見されないことだが、腫瘍径10mm以下の微小がんでさえもアグレッシブな特徴を持つという事実は、これらのがんがスクリーニング効果であるという主張を弱めている。

9.がん症例の前回検査の結果
2巡目検査で悪性疑いと診断された71人の1巡目での結果は、33人がA1判定、32人がA2判定(結節7人、のう胞など25人)、5人がB判定、1人が1巡目を未受診だった。58人(A1判定の33人とA2判定で結節以外だった25人)で、悪性になりえる病変が1巡目で見られなかったということは、1)診断漏れ、2)1巡目から2〜3年の間にがん病変が急速に成長、という2つの可能性を意味する。2番目の可能性は、小児甲状腺がんの潜伏期間が4年であるということと矛盾している。

関係者の説明は、このどちらでもない。甲状腺検査の責任者である大津留晶氏によると、1巡目の超音波画像を確認したところ、診断漏れではなかった。(この主張は、独立検証されていない。)大津留氏は、がんが急速に成長した可能性を否定しており、これらのがんは、「新たな発症」ではなく、「新たな検出」であると主張している。第26回検討委員会の議事録に収録されている大津留氏の説明は、「超音波検査では非常に検出されやすい小さな結節が一部にありますけれども、境界が曖昧であったり、結節の密度が低くて正常組織と交わり合っていたり、正常の組織と性状が近いような結節などの場合は超音波で検出しづらいという特徴があります。」 というものである[38]。つまり、「結節はそこにあったのだが、超音波で見えなかっただけ」だというのだ。大津留氏はまた、以前は検出されなかった結節が、超音波で検出できる大きさになった時に、突然結節ができたように見えることはある、と述べている。(この主張は、1巡目でA1もしくはA2の判定を受け、2巡目以降の健診を受診しないという選択をした人たちの中でも、「新たに検出」されたがんが同様の割合で存在している可能性を示唆している。しかしそのような例があったとしても、公式なカウントには含まれない。)大津留氏は、超音波で検出された後の結節は、急激に大きくなっているわけではないのが一般的だ、とも述べている。

10.性比について
甲状腺がんの性比は、年齢が低い時は1:1に近づくが、加齢と共に女性の比率が高くなり[39,40]、放射線被ばくの影響下では男性の比率が高くなることが知られている[41]。性比は、1巡目で女:男=1.97:1、2巡目で女:男=1.22:1だったが、いずれも有症状での性比の最新値である女:男=7.9:1[42]よりかなり低い。なぜか、平成27年度対象市町村では、常に男性の方が女性より多く甲状腺がんと診断されており、現時点での性比は女:男=1:1.38だが、これについて何の調査も分析も行われていない。

2017年2月の第26回検討委員会で大津留氏は、がん登録データでも思春期前後までは性比は1:1に近く、剖検データでは成人でも1:1か男性がやや多いと説明し、「検診を行うと一般的には男女比が小さくなるというふうに科学的には予想されております。」と結論づけた[38]。

大津留氏の「科学的」な説明は、説得力に欠けている。2000〜2012年のがん登録データから計算すると、思春期前後の性比(女:男)は1:1よりも2:1 か3:1に近い(表3)。剖検データをスクリーニングに当てはめることの妥当性は非常に疑わしく、スクリーニングが積極的に行われた結果、甲状腺がんの発症率が増加した韓国では、スクリーングによって男女比が高くなっているという証拠は見られない[43]。

表3:2000〜12年の地域がん登録データの甲状腺がん罹患率全国推計値[22]に基づいた性比


11.放射線影響についての公式見解
福島医大の見解は、前述の『甲状腺がんと核事故』からの引用文に要約されている[9]。

「甲状腺がんの高有病率と放射線被ばくの関係は、事故後あまり年数が経っていないこと、被ばく線量が非常に低いこと、甲状腺がん患者の年齢分布と地理的分布、ドライバー変異のパターン、そして病理学的特徴などのいくつかの観点から、非常に考えにくいと思われる。これは、過去5年間の結果は、スクリーニング効果による過剰診断であることを示唆している。」

この記述は整合性に欠け、矛盾している。たとえば、「過去5年間の結果」というのは、1巡目と2巡目の結果を合わせてしまっており、1巡目がベースラインであるという独自の設定と相いれない。また、年齢分布の違いというのは、1)事故後の異なる期間(福島では事故後すぐの3年間、チェルノブイリでは事故から3〜4年後)[44,45]、あるいは、2)福島での事故後すぐの3年間とチェルノブイリ事故後の年数不特定の期間での比較[46]という、不適切な比較に起因している。実際、事故後の同時期での比較[47]では、福島とウクライナでの甲状腺がん症例の年齢分布が「驚くほど似ている」のである。これらの不適切な比較は、また、事故後最初の4〜5年が潜伏期間である、つまり、非常に年齢が低い人たちでがんが成長するには時間が足りない、という関係者の主張と相反している。(2018年2月8日追記:文献44は、2016年9月14日に開催された第24回「県民健康調査」検討委員会で資料8「福島とチェルノブイリにおける甲状腺がんの発症パターンの相違について」として提出されている。文献45は文献44に対する反論で、その和訳はこちらに掲載されている。)
 
放射線発がんの通常の考えでは、放射線誘発性のDNA損傷が突然変異につながることに焦点が当てられており、「放射線誘発性」がんは、放射線で「イニシエート」されたがんに限定されている。しかし放射線は、がんの発達をイニシエートもプロモート(促進)もすることができる、「完全発がん物質」である[48,49]。放射線誘発性のDNA損傷は、ゲノム不安定性をもたらしたり、複数の発がん段階に関連する可能性を持つ様々な経路を活性化するため、イニシエーションとプロモーション、そしてプログレッション(進行)を区別するのは、現実的には困難なのである[48]。

実際、電離放射線は、国際がん研究機関(IARC)により定義された発がん物質の重要な10特性のうち、1)遺伝毒性がある、2)DNA修復を変える、あるいはゲノム不安定性を生じる、3)酸化ストレスを誘導する、という少なくとも3つの特性を持っている[50]。酸化ストレスは活性酸素種(ROS)を生じるが、ROSは細胞外および細胞内でバイスタンダー効果をもたらすことが知られている[51]。ゆえに定義上では、放射線の発がん特性に、遺伝的および非標的効果が含まれることになる[xiv]。酸化ストレスの誘導は、細胞損傷につながり微小環境に影響を与える。システム生物学の視点からは、放射線の非標的効果は、微小環境への影響を通してがんの発達を促進するという極めて重要な状況を生み出していると提唱されている[52,53]。

ワールドトレードセンターヘルスプログラムで用いられている米疾病予防管理センター(CDC)の政策文書「Minimum Latency & Types or Categories of Cancer(最小潜伏期間とがんの種類やカテゴリー)」は、リンパ増殖性と造血器がんを除くすべての小児がんの最小潜伏期間を1年、成人の甲状腺がんの最小潜伏期間を2年半と定めている[54]。

以上のことから、福島の甲状腺がん症例のすべてではないにしても、何例かでは、放射線被ばくにより、既存の前がん細胞ががん細胞に促進された結果だと考えても矛盾せず、広い意味での放射線影響と言える。したがって、1巡目が放射線影響が見られないベースラインであるという考えは無効となる。

福島での総放射線被ばく線量はチェルノブイリよりも低い可能性がある一方、ほとんどの県民が実際にどれほど被ばくしたのかは分かっておらず、推定被ばく線量は色んなレベルで過小評価されている。食品規制がただちに行われたという公式見解[55]に反し、食品の放射能検査と出荷規制[56,57]が実際に行われたのは、事故直後ではなく、その数日後だった[15]。避難や屋内退避が迅速に行われたという公式見解は、避難区域からの避難のタイミングと方向を考慮していない[58,59]。また、1080人での実測値(いわゆる「1080人調査」)[60]は、複数の要因のため、過小評価されている可能性が高い。1080人調査は、1)精度の低いサーベイメーターを用い、2)放射性ヨウ素131の半減期が過ぎてから、3)バックグラウンド放射線値が高い状態で行われ、4)そのバックグラウンド値を測定値から差し引く際に、空間線量ではなく、個々の肩で衣服の上から測定された放射線量を用いることで、過剰に差し引いた可能性がある[61]。測定値が高かった人たちの精度が高い甲状腺モニターによる追跡調査は、「本人家族及び地域社会に多大な不安・言われなき差別を与えるおそれ」のため、行われなかった[62[xvi]。そもそも、1080人でのデータというのは、事故当時18歳以下だった県民約36万人のわずか0.3%にしかすぎず、代表値とは言い難い。さらに、ヨウ素132、テルル132やヨウ素133のような短命核種からの寄与が考慮されていない[59]。加えて、100 mSv以下ではがんの増加は見られないという公式見解[63]を覆すかのように、それより下では放射線の影響がないという、放射線のしきい値は存在しないこと、また100 mSvよりもはるかに低い線量でもがんが検出可能であることを支持する報告が相次いでいる[64,65,66,67,68,69,70]。

日本では食事を介したヨウ素摂取量が多いため、放射線ヨウ素の吸収、そして甲状腺がんのリスクが低くなると考えられているが、実際の尿中ヨウ素レベルから、子どもの16.6%が軽度から中度のヨウ素欠乏症であることがわかっている[71]。ヨウ素欠乏リスクは、6歳未満と12〜18歳という、そのほとんどが非給食群である年齢グループで高い。さらに、日本の粉ミルクはヨウ素未添加であることも合わせると、放射線への感受性が特に高い乳幼児での甲状腺がんリスクが懸念される。前述のとおり、県民の大多数で、事故後の安定ヨウ素剤投与が行われなかった。

福島医大の大平氏らによる研究[18]は、「個人の外部被ばく線量と甲状腺がんの有病率との間に有意な関連」は見られなかっために、がんの有病率に地域差はないと結論付けた。しかしこの研究には、不十分あるいは不適切な研究デザイン、不適切な地理的分類[xvii]、さらに、外部被ばく線量への誤解を招くような依存[xviii]という欠点を負っている。甲状腺がんリスクというのは、外部被ばく線量ではなく甲状腺被ばく線量で評価されるべきものである。外部被ばく線量による地理的分類の不適切さは、福島第一原発から南へ約40kmに位置するいわき市を最小線量グループに入れることの不適切さを際立たせている。いわき市は、放射能プルームに直撃はされたが、降水がほんの少ししかなかったために放射性物質があまり地面に沈着せず、甲状腺被ばく線量が外部線量と一致していないのである[72]。いわき市の甲状腺被ばく線量推計値は、線量が最も大きなグループの中の飯舘村や川俣町のと同じくらい高く、現に、1080人調査での甲状腺被ばく線量実測値の最大値は、いわき市の子どもで見つかっている[58]。

福島医大関係者らは、福島県全体を4つの地域(避難区域等13市町村、浜通り、中通り、会津地区)に分け、1巡目結果で悪性ないし悪性疑い者率に地域差がなかったと報告した(「先行検査」結果概要確定版[5]の表9を参照のこと)。しかし、この解析は、年齢補正をしておらず、地域区分と被ばく量との関係が弱いため、あまり意味がない。

一方、2巡目データの独立した解析では、被ばく線量が比較的少ない平成27年度市町村(いわき市以外)での年齢補正済み悪性率が、被ばく線量が比較的多い平成26年度市町村よりも統計的に有意に低いことが示されている[73]。実効線量推計値のあるがん症例の分析では、線量推計が1 mSv以上での悪性率が、1 mSv未満の2倍以上となり、有意差が示された。さらに、統計的検出力の弱い[74]公式の地域区分を用いたとしても、2巡目の悪性率に明らかな地域差が見られ、避難区域等13市町村で49.2(10万人あたり、以下同)、中通りで25.7、浜通りで19.6、会津地区で15.5だった[75]。地域差があるということは線量反応があるということで、甲状腺がんの高有病率と放射線被ばくの関係を否定する公式見解と矛盾することになる。(2018年2月8日追記:文献73〜75は、岩波書店『科学』に掲載されており、インターネット上では閲覧できないため、URLにリンクしていない。)

福島ではBRAF点変異がよく見られる一方、チェルノブイリではRET/PTC再配置が多いという、ドライバー変異パターンの違いは、必ずしも放射線影響を除外するわけではない。その理由は、公式見解の媒体とも言える前述の「甲状腺がんと核事故」の第12章[76]に、英国の分子病理学者ジェリー・トーマス氏により、はっきりと次のように述べられている。「RET再配置とBRAF変異は放射線被ばくに関連していないが、患者の手術時年齢と強い関わりがある。」つまり、チェルノブイリで頻繁に見られ、放射線被ばくのせいであると言われているRET再配置が実際に関連しているのは、放射線ではなく[77]、乳頭がんの形態とそれに関与している患者の年齢なのである[78]。RET再配置は、放射線誘発性の甲状腺がん特有ではない上、ヨウ素摂取状況に関連している可能性がある。BRAF V600E点変異は成人とアジア人種でよく見られるが[79]、これもヨウ素摂取状況に関連している[80]。事実、ウクライナ米国甲状腺研究コホートの甲状腺がん62例の4割で、RET/PTCやBRAFを含む既知の変異が見つからなかった[81]。同様に、福島はチェルノブイリと違うとする、唯一の病理学的特徴である充実性乳頭がんの福島での欠如(少なくとも公式報告で[xix])は単に、異なる年齢グループの不適切な比較を反映しているにすぎない可能性が強い。

福島とチェルノブイリは確かに異なる。しかし、その違いは単に、福島とチェルノブイリのデータはそもそも異なるデータであるということを、明確に示しているにすぎない。この、「違い」の強調によるミスリードは、論理破綻を浮き彫りにし、ブーメランと化しているのである。

12.最後に
甲状腺検査の今後は、論争を引き起こしているトピックである。福島医大で過剰診断を主張する研究者らは、がんの診断による心理社会的影響を軽減するという名目で、甲状腺検査の規模を縮小し、検査の受診を辞退すること(オプトアウト)を推進しようとしている[82]。EU傘下のSHAMISENプロジェクトは、つい最近、核事故後の健康調査についての提言を発表したが、システマティックな甲状腺がんスクリーニングは推奨していない[83]。福島医大の研究者もこのSHAMISENプロジェクトに参加しており、放射線医学県民健康センターの英語ウェブサイトにこの提言が掲載[84]されているのは、提言への賛同を暗に示していると言える。一方、福島医大の甲状腺外科医の鈴木氏は、甲状腺検査を長期にわたって行うことを勧めている。2巡目結果がきちんと解析さえされていない現状で甲状腺検査のあり方を変えてしまうのは、時期尚早であるとしか言えない。福島医大の透明性、科学的公正性およびデータ保全性が疑われている今、真の意味での独立した分析が、最新のエビデンスに基き、有資格の専門家によって行われることが、極めて重要である。(2018年2月8日追記:2017年9月末に、放射線医学県民健康センターの英語ウェブサイトがリニューアルされ、国際会議等の情報が見つけにくくなり、同年7月に提言が出されたばかりのSHAMISENプロジェクトに関連するページがアクセス不能となっていることが発覚した。ゆえに、文献84のリンクもアクセスできなくなっている。)



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83 Oughton D, Albani V, Barquinero F, Chumak V, Clero E, Crouail P, et al on behalf of the SHAMISEN Consortium. Recommendations and procedures for preparedness and health surveillance of populations affected by a radiation accident (放射線事故への備えと、その影響を受けた人々の健康調査に関する勧告及び施策). 2017年7月. radiation.isglobal.org/images/shamisen/Anim2/Radiation_accident_JAP.pdf
84 SHAMISEN recommendation booklet is available. Office of International Cooperation, Radiation Health Medical Science Center, Fukushima Medical University. http://fmu-global.jp/2017/08/07/shamisen-recommendations-booklet-is-available/ Published August 7, 2017. Accessed August 10, 2017.

[i]  被ばく集団でベースラインを確立することの科学的妥当性は不明である。
[ii]  2巡目と3巡目の二次検査も同時進行しているかもしれず、また、人手不足のような運営上の問題が二次検査の遅滞に繋がっている可能性もある。本来、2年(1巡目は3年)と定められたスクリーニング期間が、実質、それ以上に延びてしまい、次回スクリーニングと重なっている。この状況でスクリーニング各回の結果を厳密に分析することは、不可能に近いかもしれない。
[iii]  甲状腺検査は、20歳までは2年ごとに実施されるが、25歳からは5年ごとの節目健診に移行する。25歳節目健診に移行している県民が甲状腺検査を未受診の場合は、検査結果は2巡目結果に計上されるため、2巡目期間は2016年3月に終了していても、その受診者数は増加する見込みである。
[iv]  診断基準検討部会は、日本甲状腺学会、日本内分泌外科学会、日本甲状腺外科学会、日本超音波医学会、日本超音波検査学会、日本小児内分泌学会、日本乳腺甲状腺超音波会議(現在は日本乳腺甲状腺超音波学会に改名)の「甲状腺7学会」のメンバーで構成されている。部会の議事録によると、診断基準検討部会は定期的に開催され、甲状腺専門家らが、公表前の結果について議論を重ねてきている。会議も部会員の名前も非公開である。議事録は、こちらからアクセスできる。https://www.i-repository.net/il/meta_pub/ssearch
[v]  この甲状腺検査では、のう胞は悪性の可能性を持たないコロイドのう胞とされている。充実部を持つのう胞は、のう胞自体のサイズで「結節」と分類される。つまり、10.0 mmののう胞が充実部を持つ場合、10.0 mmの結節と診断され、B判定とされる。
[vi]  4歳児の症例は、いまだに公式結果に入っていない。
[vii]  日本の診療ガイドラインでは、甲状腺全摘が絶対的適応でない限りは、葉切除と予防的リンパ節郭清が推奨されている。
[viii]  日本の診療ガイドラインでは、実質、TNM分類と同じ分類が用いられているが、日本ではさらに、甲状腺腫瘍の肉眼的腺外浸潤を表すEx分類が加えられている。Ex1はT3と同等で、浸潤が甲状腺被膜をこえるが、胸骨甲状筋あるいは脂肪組織にとどまるもの、Ex2はT4と同等で、浸潤が甲状腺被膜をこえ、胸骨甲状筋や脂肪組織以外の組織あるいは臓器に明らかに波及しているもの、と定義されている。
[ix]  鈴木氏の発表動画によると、49例のpT3分類は、甲状腺に限局する4 cmを超える腫瘍だからではなく、甲状腺外への微少進展(pEx1)のためだった。
[x]  括弧内の数字は症例数だが、提示された手術適応条件を2つ以上満たす症例があるためか、合計は33にならない。
[xi]  男女合わせた年齢階級別の甲状腺がん発生率(100万人あたり)は、0〜4歳で0人、5〜9歳で0.6人、10〜14歳で3.1人、15〜19人で13.6人、20〜24歳で37.5人だった。
[xii]  福島の甲状腺結果が真のベースラインであり3県調査と違いが無いならば、日本全国で同様の小児甲状腺がん罹患率・進行度を示していることとなる。
[xiii]  この文書「福島県における甲状腺がん有病者数の推計」は日本語のみでしか存在しないが、筆者のブログに非公式英訳が掲載されている。http://fukushimavoice-eng2.blogspot.com/2015/08/the-estimated-number-of-prevalent-cases.html
[xiv]  放射線影響研究所の現所長である丹羽大貫氏でさえ、1995年に、「放射線は自然発がんプロセスを強化することによりがんを誘発する」「放射線発がんの最初のステップは、突然変異の直接的誘発ではないかもしれない」と述べている。(丹羽大貫 放射線発がんモデル 1995年 https://inis.iaea.org/search/search.aspx?orig_q=30007142
[xv]  公式見解では、牛乳や他の食品の規制が速やかに行われたことになっているが、暫定規制値が設定されたのは、事故から6日後の2011年3月17日だった。さらに、高濃度に汚染された原乳の検査結果は3月17日に出てはいるが、実際に公表されたのは3月19日だった。
[xvi]  2011年4月11日付の文書には、放射線医学研究所の理事長で、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の前議長(2015〜2017年)だった米倉義晴氏の、「追跡調査を実施しなくても問題はないと考えられる」という見解が示されている(引用文献62の74ページ目の添付資料23)。
[xvii]  この論文では、その一部か全体が20km圏内に入る市町村が、中程度の線量の地域に入れられている。UNSCEAR2013年報告書で示された20km圏内の甲状腺被ばく線量推計値は、この論文での中程度の線量の地域に入っている市町村の一部よりも高い。
[xviii]  外部被ばく線量推計値は、任意提出の問診票の情報に基づいているが、回答率は26.4%と低く、県民全体を代表しているとは言い難い。
[xix]  甲状腺癌取扱い規約第7版での変更により、福島で診断された低分化がん3例中2例が充実性乳頭がんと再分類されているはずである。

220人の手術症例とこれまで報告されてきた臨床データについて

   2024年11月12日に開催された 第53回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会)および3日後に開催された 第23回「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」 (以下、評価部会)で、 220例の手術症例 について報告された。これは、同情報が 論文 として20...