和訳:イアン・フェアリー「原子力発電所近辺での小児がんを説明する仮説」


原子力発電所近辺での小児がんを説明する仮説  イアン・フェアリー

英語原文はこちら(有料)、英語原文PDFこちら
注:この和訳は、著者であるイアン・フェアリー氏の許可を得ている。



ハイライト

  •      原子力発電所近辺でのがんの増加について、世界中で60以上の調査が行われてきており、そのほとんどで白血病の増加をしめしている。
  •       ドイツ政府のKiKK調査研究は、非常に有力な証拠を提供している。
  •       本仮説は、がんは原発近辺に居住する妊婦への放射線被ばくによって発生すると提案する。
  •       燃料棒交換時の放射性核種の大気中への放出スパイク(急上昇)が被ばくの増加に繋がる可能性がある。
  •       公式の線量推計値とリスク増加との間の食い違いについての説明がされている。


アブストラクト

世界中の60以上の疫学研究により、原発近辺での小児がん発症率が調査されてきた。ほとんどの研究で白血病の増加が示されている。このうちのひとつ、ドイツ政府から委託された2008KiKK調査研究では、ドイツのすべての原発で、5 km以内に居住している乳幼児においての相対リスク(RR)が、全がんで1.6、白血病で2.2であることが判明した。KiKK調査研究は、これらのがんの増加の理由についての議論を再燃させた。本稿で提案されている仮説は、がんの増加は、原発近くに居住する妊婦への放射線被ばくにより引き起こされるとしている。しかし、どのような理論でも、原発からの放出物による公式線量推計値と観察されたリスク増加の間に1万倍以上の食い違いがあることを説明できねばならない。ひとつの説明としては、原発からの放射性核種の大気放出スパイクによる線量が、年間平均を用いることにより希釈されてしまっている公式モデルの線量推計値よりも、大幅に上回る可能性が考えられる。さらに、胎芽と胎児へのリスクは、成人へのリスクよりも大きく、造血組織の放射線感受性は、新生児よりも胎芽と胎児でもっと大きいと思われる。被ばく線量の増加の可能性と線量あたりのリスクの増加の可能性を掛け合わせた積が、説明となるかもしれない。

1.はじめに

1950年代初めに、Folleyら(1952により、原爆被爆者において白血病リスクの増加が観察された。1950年末には、Stewartら(1958が放射線被ばくにより白血病発症率が上昇するのを観察した。それ以来、多くの研究(BEIR, 1990; Preston, 1994; IARC, 1999)が、医療・職業・環境由来の放射線被ばくが白血病のリスク要因だと示してきた。さらに、それ以前のエコロジカル研究とケースコントロール研究(Forman, 1987; Gardner, 1991; Pobel and Viel, 1997)が、原子力発電所とその近辺での小児白血病との関連性を明らかにした。

1980年代後半から1990年代初期に、英国のいくつかの原子力施設近辺で小児白血病の発症率の増加が報告され、これに対して色々な説明が提示されたが、英国政府の「環境における放射線の医学的側面に関する委員会(COMARE)」は、一連の報告書(1986; 1988; 1989; 1996)で、理由は不明であるが、放射線被ばくが関連しているとは考えにくいと結論づけた。これは主に、これらの施設から放出された放射線量の公式推計値が、白血病増加の原因となるには桁違いに低過ぎたからである。実際、どの理論であっても、原発から放出される放射能からの線量の公式推計値と観察されたリスク増加の間の、10,000倍以上にもなる大きな食い違いを説明する必要がある。

世界中での疫学的証拠のパターンは、現在、明らかに、原子力発電所近辺での白血病リスクの増加を示している。LaurierBard1999と、Laurierら(2008は、世界中の原発近辺での小児白血病に関する文献を考察した。これらの2つの研究では、60以上の研究が確認された。これらの研究の独立したレビュー(FairlieKörblein, 2010)では、ほとんどの研究で、小児白血病のわずかな増加が明らかになったが、多くの場合は統計的に有為ではなかったことが示された。LaurierBardと、Laurierらのほとんどは、フランスの放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)に所属しており、 ほとんどの原発の近くで小児白血病のクラスターが存在したことを確認したが、それより広範な結論を出すことは避けた。FairlieKörblein2010のレビュー論文は、原子力施設近辺での、特に小さな子どもにおける白血病発症率増加を示す証拠は大量にあり、かなり説得力があるものだと結論づけた。

この結論は、各国の多施設研究のメタ分析2つにより裏付けられた。BakerHoel2007は、英国、カナダ、フランス、米国、ドイツ、日本とスペインの136の原子力施設を考慮した17の研究論文のデータを評価したが、9歳以下の子どもで、白血病死亡率が5−24%高く、白血病罹患率が14−21%高かった。しかし、この分析は、SpixBlettner2009に批判された。

Körblein2009による2つ目のメタ分析は、ドイツ、フランスと英国の原発を考慮し、原発近辺での小児白血病リスクと白血病死の相対リスク(RR = 1.33; 片側p = 0.0246)の統計的に有意な増加を見つけた。さらに他の研究(Guizard, 2001; Hoffman, 2007)が、フランスとドイツでの白血病発症率増加を示した。しかしCOMARE2005; 2006)は、この結論を支持しなかった。

後に、Bithellら(2008により英国の、Laurierら(2008によりフランスの原発近くでの小児白血病の増加が見つかったが、どちらのケースでも症例数は少なく、統計的有意さが見られなかった。すなわち、この増加が偶然であった可能性が5%以上あるということだった。しかし、これらの増加を報告するのではなく、研究は、ただ統計的有意さが欠けていたためだけの理由で、英国とフランスの原子炉近辺での白血病の増加は「証拠がない」(Bithell)や「示唆されない」(Laurier)というような誤った結論に達した。これらの結論は間違っていた。著者らは、観察された白血病増加を報告し、それが偶然起こった確率が5%より大きいと付け加えるべきだった。

さらに詳細に説明すると、p値(すなわち、観察された影響が偶然であるかもしれない確率)は、影響の大きさと研究サイズの大きさに影響される(WhitleyBall, 2002)。これが意味するところは、統計的有意さのカットオフ値(普通はp = 5%)を恣意的に設定することは、統計的に有意ではないというだけで帰無仮説(すなわち、影響なし)を間違って受け入れることになるために、統計的検定の際には注意が必要だということである(SterneSmith, 2001)。これは、第二種過誤の可能性を生む。これはしばしば小規模の研究で起こるが、その理由は、影響がないというよりも、サンプルサイズが小さいためである。(Everett, 1998)。Axelson2004は、多くの疫学研究で統計的に陰性の結果が見られる場合、実際に存在するリスクが隠されているかもしれないために、それらの研究の妥当性が疑問であると指摘している。

2. KiKK調査研究

KiKK調査研究では、ドイツのすべての原発から5 km以内に居住する乳児と5歳以下の子どもの中で、白血病で120%の増加、全がんで60%の増加が見つかった(Kaatsch, 2008b; Spix, 2008)。原発への近さに伴うリスク増加は、距離の逆数の傾向で検定された場合、全がん(p = 0.0034, 片側)でも白血病(P = 0.0044)でも統計的に有意だった。

KiKK調査研究は、大規模かつ適切に実施された研究である。その調査結果は科学的に正確で、証拠は特に強力である。そして研究を委託したドイツ政府の連邦放射線防護庁は、その調査結果を確認している。連邦放射線防護庁に指名された専門家グループは、「本研究では、ドイツ国内で、診断時の居住地から最寄りの原発への距離と、5歳の誕生日の前にがん(特に白血病)を発症するリスクに相関性があることが確認された。本研究は、どの生物学的リスク要因がこの関係を説明できるかを述べることはできない。電離放射線への被ばくは、測定もモデリングもされなかった。この研究で以前の結果を再現はできるが、現在の放射線生物学的および疫学的知見は、ドイツの原発から通常運転中に放出される電離放射線が原因であると結論づけることを許容するものではない。本研究は、交絡因子、選択あるいは無作為さが、観察された距離傾向に影響を与えているのかを、確証的に明確にすることはできない」と述べた(BfS, 2008 [訳註:このリンクは削除されており、最新の専門家グループ報告書はこちらである]

ひとつの問題の可能性は、KiKK調査研究が、妊娠初期の居住地でなく、白血病診断時の居住地からの距離を考慮したということである。本仮説(下記参照)が正しいのであれば、これは結果に不確実性を加えることになる。これに対処する最善の方法は、妊娠初期時の居住地を把握する新研究である。

3. KiKK調査研究後の研究

KiKK調査研究は、小児白血病論争を再燃させ(Nussbaum, 2009)、その結果、英国(COMARE, 2011)、フランス(Sermage-Faure, 2012)とスイス(Spycher, 2011)での研究が行われた。KiKK調査研究の調査地域からのデータを用いたドイツでの地理的研究(Kaatsch, 2008a)を加えると、現在、デザインが似ており、エンドポイント、距離の定義と年齢カテゴリーが同じのデータセットが4組存在する。これらの4研究の結果は似ており、特に、原発から5 km圏内での白血病の増加は、表1Table 1)に示されているように、ほぼ同じである。

KörbleinFairlie2012は、これらの4研究から、原発から5 km以内に居住する5歳未満の子どもにおける急性白血病のデータを統合解析した。5 km圏内での標準化罹患比(SIR)は表1に示され、全体のSIRは、1.3790 CI: 1.13-1.66, p = 0.042, 片側)だった。


  
また、白血病リスクの距離依存性の形を調査するために、KörbleinFairlie2012は、4組のデータセットを合わせ、距離の逆数への線形および線形二次的依存性を用いてポアソン回帰分析を行った。図1Figure 1)で示されているように、線形二次モデルがデータにより適合した。



赤池情報量規準で最も適合したのは、5 km圏内での過剰発生率を >5 km圏での発生率と比較して推計したモデルだった。著者らは、距離がr 5 kmの場合のSIR0.950.90-1.00)であると発見した。この2つのSIRから、相対リスクの1.37/0.95 = 1.44p = 0.0018)が得られた。片側検定では、この結果は非常に有意であった(p = 0.0009)。この統合解析は、原発近辺での白血病増加の統計的に強力な証拠を提供し、これは、承前の著者らの統計的に有意でないという供述と矛盾した。

上記の証拠の優位を考慮すると、小児白血病発生率と原子力施設への近さとの関連性に関する異議はない。議論の残りは、その原因および、エネルギー政策への影響についてである。

4.原発近辺でのがんの増加の理由は何なのか?

KiKK調査研究の著者らは、「報告された結果は(中略)放射線生物学的および疫学的考察下では予期されるものではなかった」、そして、白血病の増加は「説明ができないままである」と述べた。そして、「小児がんと、特に小児白血病に関しては、この [KiKK調査研究の]結果に対する必要強度であるリスク要因がないことが知られている。」と付け加えた(Kaatsch, 2008b)。

原子力施設付近での白血病クラスターが、1984年に英国のセラフィールド原子力施設付近で初めて発見されて以来、これらのがんの増加の原因の可能性について多くの議論がなされてきた。しかし、1980年代よりも今の方が、原因を確かめることに少し近づいている。

人口混合によるウィルス仮説(Kinlen, 2004)、小児における感染症への異常な反応(Greaves, 2006)、がんへの遺伝的素因、あるいは複合要素などの、様々な案が提示されてきている。これらのどれも、KiKK調査研究の中心的な結果である、がんの増加が原発への近さと強く関連していたということに言及していない。また、Garderら(1990は、小児白血病とセラフィールドからの距離の有意な関連性は、父親が受けた職業被ばくの線量で説明できると示唆したが、白血病の発症率増加は、ひとつの村、シースケール、すなわち、母親ら全員が居住していた場所のみに限定されており、一方、父親らは広範囲に居住していた。

環境曝露間での相互作用で、まだ理解されていないものがあるかもしれないため、この増加は、複合要因により引き起こされている可能性がある。例えば、放射線と化学物質の相乗効果は、がんリスクを増加させる働きがあるかもしれない(Koppe, 2006; Wheldon, 1989)。この理由は、KiKK研究調査では探究されなかったが、原発からの微量の化学物質の放出によるリスクは非常に少ないと推定される。ほとんどの観察者は、原発から放出される化学物質の影響を気にしておらず、それを考察した研究はあるにしても多くはない。その一方で、放射線被ばくは白血病の増加をもたらす可能性があり、原発から放出される放射性物質は大量である。

Körblein2008は、また別の説明を提示した。線量−リスク関係は、線形ではなく、曲線(すなわち、超線形)であるというのだ。これは、なぜ影響が原発近辺の5 km以内に留められているのか、そしてなぜ、毎年燃料棒が交換される際に起こる放射性核種の大気放出スパイクが放射線リスクに矛盾した影響を持つか、の説明になる。後者のポイントは、下記で議論されている。

5.仮説:環境放出からの胎内被ばく

がんの増加は、原発近辺に居住する妊婦の胎内の胎芽や胎児への、原発からの気体状および液体状の放射性放出物による放射線被ばくに起因する、という仮説が立てられる。この仮説は以前にも討論されているが(Fairlie, 2010)、この論考は、さらに理論を広げ、大気放出スパイクと統合解析結果に関する新たな情報も入れており、推定被ばく線量と観察されたリスクの間の約1万から10万倍にもなる隔たりの説明を試みている。

この理論は、KiKK調査研究では、増加した固形がんのほとんどが「胎児性」であった、すなわち、新生児が固形がん、あるいは生後に完全な腫瘍に発達した前がん組織を持って生まれてきたという観察に起因する。図4Figure 4)で示されているように、これは白血病でも起こる。

この理論はまた、KiKK調査研究の、乳児と子どもの白血病発症率の増加は原発の排気筒への近さと綿密に関連していたという知見にも起因している。

この仮説は、大体毎年起こる原発からの放出スパイクが、原発近辺に居住する妊婦による放射性核種の取り込みに繋がり、結果として胎内の胎芽や胎児がラベリングされるということである。これらの放射性核種濃度は、長期にわたって存在し、胎芽や胎児の放射線感受性を持つ組織への高線量の被ばくに寄与し、その後、がんをもたらす可能性がある。これは、30年以上前に、カナダのトロント近辺の原子力施設からのトリチウム[汚染水]の放出による健康影響の可能性を調査したオンタリオ水力問題特別委員会への証言(Provincial Government of Ontario, 1978)において、BEIR III委員会の前委員長の故・エドワード・ラッドフォード教授によって初めて提案された。

この仮説には5つの主な要素がある。まず1つ目は、がんの増加が原発からの大気放出物による放射線被ばくに由来するかもしれないということ。2つ目は、原発からの大気放出スパイクが、原発から5 km圏内に居住する住民への線量率を大きく増加させるかもしれないということ。3つ目は、観察されたがんが胎内で発生するかもしれないということ。4つ目は、胎芽と胎児への線量とリスクが現在理解されているよりも大きいかもしれないということ。そして5つ目は、胎児期の造血細胞の放射線感受性が非常に高いかもしれないということ。これらの5つの要素を合わせると、原発からの放出による放射線被ばく量推定値とKiKK研究調査で観察された影響との間の1万-10万倍の食い違いについて、可能な説明を提供することができる。

5.1 原発からの放射性放出物

原発からくる放射能の主なものは、その相対的に大きな放射性核種の放出である。これについては、表2Table 2)を参照のこと。KiKK調査研究の設定時に原発からの放出物が想定されていたのは、原発の排気筒からの距離が測定され、モニターされた地域は大多数が原発から風下だったことから分かる。



原子炉の炉心からの直接的なガンマ線や中性子、炉心の中性子からのスカイシャインの地面への反射、電線からの電磁波放射線、例えば作業員の作業服による自宅の放射能汚染なども考慮はされたが、どれも、原発からの比較的大きな放射性核種の放出と比べると、詳細に検証されていない。

原発からの放射能放出は、大気への放出と、ドイツでは川へ、他国では海洋への放出を通して起こる。 人への集団線量のほとんどは、大気への放出に起因する。原発の放出核種による放射線リスクは、ほとんど文献で議論されていない。Evrardら(2006は、フランスの原子力施設近辺での白血病発症率を、ガス状の放出物からの推定被ばく量に基づいた地理的区域を用いて推計した。この研究では、被ばく線量が最大のグループで白血病リスクの増加は見つからなかったが、年間μSvという非常に低線量の推定値に依存しており、これがどのように算出されたのかの説明がなく、大きな不確かさを含むかもしれない。

C14(炭素14)とH3(トリチウム)の大気への放出は比較的多く、原発付近の草木や食物での放射性核種濃度を高くする。トリチウム(H-3)の半減期は12.3年、炭素14の半減期は5730年である。原発付近の草木や食物の水分内でのトリチウム濃度のドイツのデータがないために、カナダのデータが示されている(図2Figure 2)。カナダの重水炉からのトリチウムの放出はPWR型やBWR型原子炉からよりもはるかに大きいが、どのタイプの原子炉の近くでも、草木や食物内の放射性核種濃度の上昇は同じパターンで起こると予期される。他のタイプの原子炉の近くでのトリチウム濃度は、英国政府の年次報告(RIFE, 2011)から入手できる。



1Figure 1)によると、リスク−近さの関係性は、1/r2に比例しており、傾き(10 kmまでの距離では)は約マイナス2である。観察されたトリチウム濃度−距離の関係性は、KiKK調査研究の回帰分析で示された、5 km圏内でのリスク−距離の関係性と似ている。

5.2 放射性核種の大気放出スパイク

原発での放射性核種の大気放出スパイクは、一年に一度ほど、使用済み核燃料を新しい核燃料と取り替えるために、原子炉が開けられ減圧された時に起こる。図3(Figure 3)では、201191925日の第38週間目のドイツのグンドレミンゲン原発C号機の排気筒内の30分ごとの希ガス濃度が示されている。トリチウムと炭素14とその他の放射性核種は、希ガスと同時に放出されると予期される。



このデータを入手した核戦争防止国際医師会議ドイツ支部(IPPNW, 2011)によると、1年の間の平時の希ガス濃度は、約3 kBq/m3である。2011922-23日の点検時および燃料棒交換時には、これが1470 kBq/m3、すなわち、平時の濃度の約500倍に上昇した。この週の間の希ガス放出量は、年間推定放出量のほぼ半分だった(Körblein, 2008)。

これらの大気放出スパイクが起こっている間の原子力発電所近辺と風下の住民らへの被ばく量は、年間の他の放出時より、もっと大きいかもしれず、その推計値は20倍から100倍の範囲である。その理由は、部分的には放出期間に関連している。短期の放出は、細いプルームを発生させるからである。もっと長期の放出の場合、プルームの幅が大きくなり(幅は、期間の分数冪として非線形的に異なる)、結果として、放出されたBqごとの個人線量が低下する。また理由の一部は、大気放出スパイクが環境物質と人体により高濃度の汚染をもたらし、体内での滞留時間が長くなり、特に有機結合型トリチウムと有機炭素からの被ばく線量が、結果として高くなるからである。

英国の全国線量評価ワーキンググループ(NDAWG, 2011)は、大気への短期放出に関する指針を発表した。これによると、年間放出量すべてが単一の短期間に起こったと注意深く仮定すると、「(前略)一度の現実的な短期放出の評価による線量は、継続した放出の評価による線量より20倍大きい」。それ以前の研究(Hinrichsen, 2001)では、線量は最大100倍かもしれないと示されている。実際の線量の増加は、原子炉への距離、プルームの幅、風速、風向きと地元住民の食生活や習慣などを含む多くの要因に依存する。ここでは、吸入被ばく量が経口摂取からの被ばく量よりも多いことは暗黙の了解である。原発近辺(2−3 km圏内)では、ほとんどの環境輸送モデルで吸入被ばく線量の方が経口摂取の被ばく線量よりも大きいと予測するが、もっと遠くではその反対が真実である。

現時点では、原発近辺の重要なグループへの線量は、いまだに継続放出評価法によって計算されている。

5.3 観察されたがんは胎内で発生するかもしれない

上記のように、この仮定は、KiKK調査研究で増加した固形がんが胎児性だった、すなわち、新生児ががんを持って生まれて来たという観察に起因している。RössigJürgens2008は、乳児白血病は胎内で発生し、出生後まで完全な白血病に発展しないと示唆しており、これは図4に示されている。



5.4 胎芽と胎児の胎内被ばくへの放射線感受性

胎内被ばくによる放射線リスク、すなわち、胎芽と胎児の放射線感受性に関する一番良いデータは、1950年代から1970年代にStewartら(1956によって行われた、英国オックスフォード小児がん調査(OSCC)である。もっと最近では、Wakeford2008が、オックスフォード小児がん調査および世界中の30以上の同様の研究のデータを包括的に再考した。後の研究では、スチュアートにより最初に発見された15歳未満の子どもにおける胎内被ばくのリスクの存在と規模が確認された。WakefordLittle2003は、その前に、OSCCと他のデータから、(母体の)X線への腹部照射に起因する、15歳未満の小児における白血病の相対リスク(RR)が1グレイあたり5295 CI: 28,76)であると推定していた。

このリスク推定値を提案された仮説に適用するには、3つの訂正をしなければいけない。まず最初に、白血病診断のピーク年齢は2−3歳なので、5歳未満(KiKK調査研究での設定)での白血病リスクは、15歳未満でよりも大きい。これにより、相対リスクの平均は約1.5倍大きくなる。

また、オックスフォード小児がん調査での被ばく例のほとんど(90%以上)が、妊娠後期に起こっており、妊娠初期での被ばくであれば、リスクはおそらく5倍ほど大きくなると推定されている(Stewart, 1958)。

さらに、これらのリスクはX線外部照射によるものだが、本仮説で論じているリスクは、内部被ばくに起因すると仮定されている。内部被ばくの推定値はあまり存在しないが、Fucicら(2008によると、体内の放射性核種からの胎内リスクは、ちなみにこれは白血病ではなくて自然流産の場合であるが、X線からのリスクの4−5倍であると提案されている。これらの因子を掛け合わせると、妊娠初期における放射性核種の内部被ばくからの、0−5歳での白血病の相対リスクは次のように計算される。

RR = 1グレイあたり52(オックスフォード小児がん調査)x 1.50−5歳児)
  x 5(妊娠初期)x 5(内部被ばく)
   = 1グレイあたり1,950 = 1ミリグレイあたり約2

これが正しければ、ヒトの胎芽と胎児の放射線感受性は、現在認識されているよりもはるかに高いことが示唆される。また、年間約1 mGyのガンマ線の平均自然放射線量(ラドンを除く)が、自然発生の小児白血病の大きな原因である可能性を持つことが示唆される。これは既に提案されている(Wakeford, 2009; Mobbs, 2009)。

興味深いことに、上記の相対リスク推計値の1 mGyあたり約2というのは、他の研究からのリスク推定値と似ている。Stevenson2001は、妊娠初期での胎内被ばく後の小児白血病の倍加線量が約2 mSvであると観察した。そして、Stewartら(1956は、英国オックスフォード小児がん調査での妊婦へのX線からの腹部照射量は2−3 mGyであると推定した。

KiKK調査研究が原発近辺の小児での白血病リスクがほぼ倍であった(RR = 2.19)という発見をしたことが思い起こされる。上記の議論から、この倍増は、KiKK調査研究での胎内被ばく線量が実際は数mSvだったかもしれないことを示唆するが、これはドイツ政府による1歳児の公式線量推計値(Deutscher Bundestag, 2007)であり、年間数μSvとは1000倍違うことになる。この線量推計における矛盾の説明を下記で試みる。

5.5 胎児期の造血細胞の放射線感受性の上昇

最後に、胎児の造血系、すなわち、骨髄とリンパ組織内の造血細胞の放射線感受性を考慮する必要がある。これらの組織には自己再生能力を持つ幹細胞が含まれる。細胞分裂の際に、娘細胞の一部は幹細胞のままであるために、幹細胞の数はほぼ同じに留まる。幹細胞の放射線誘発突然変異は、白血球の奇形率の増加をもたらす可能性がある。

骨髄には比較的多数の幹細胞が含まれており、胎芽と胎児の組織の中では放射線感受性が最も高い組織のひとつだと思われ、これは最低でも3度の機会に示唆されている。Gardnerら(1990)が父系性受胎前照射仮説を出版した後、BMJ誌はこの仮説の色々な側面を疑うレターをいくつも出版した。Morris1990からのレターでは、白血病発症率がガードナーらが観察したように10倍になった原因が突然変異だと仮定して、生殖細胞に影響をもたらすのであれば、放射線誘発性の突然変異率は100−1000倍に増加しなければいけないだろう、と述べた。これが胎内での初期の時期にリンパ球に影響をもたらすのであれば10倍、胎内期を通してリンパ球に影響するのであれば1.8倍のみの増加が必要となる。Morris1992も参照のこと。Morrisはその前(1989)に、被ばく経路は不明ではあるが、後者が一番もっともらしいメカニズムに思えると述べていた。

その2−3年後に、Lordら(1992が同じ事を示し、胎児期の造血細胞の放射線感受性が、出生後の造血細胞の最大1000倍まで高いかもしれないと示唆し、この損傷を誘発する様々なメカニズムは、胎芽・胎児期の様々な段階で起こると付け加えた。

もっと最近では、Ohtakiら(2004が、胎内被ばくした原爆被爆者の白血球における染色体転位の頻度の研究で同じ事を示唆し、胎児の造血系のリンパ球前駆細胞の放射線感受性は非常に高く、もしかして出生後のリンパ球の100倍ほどかもしれないことを発見した。この研究から、Wakeford2008は、放射線感受性を持ち突然変異により小児がんを引き起こす単細胞は、妊娠後期を含む妊娠期間中ずっと活発さを維持し、出生後は活発でなくなると推測したが、現在、なぜそうであるかという理由は明らかでない。

この、出生前の造血細胞の放射線感受性の明らかな上昇は、KiKK調査研究での公式推計線量と観察されたリスクレベルの間の矛盾を説明する大きな要因かもしれない。

6.線量とリスクの間の1万ー10万倍の食い違いは説明可能なのか?

原発からの放射性核種の放出物ががんの増加に至るかもしれないという説明は、「原子力発電所により起こる放射線追加被ばくは、KiKK調査研究で報告されたリスクを起こす放射線被ばくより1000倍以上低い。」とし、ドイツの放射線防護委員会(SSK)(2008により却下された。KiKK調査研究の著者らは、「ドイツでの自然バックグラウンド放射線量は年間1.4 mSvで、医療検査からの被ばく量は年間約1.8 mSvであるが、ドイツの原子力発電所近辺での放射線被ばく量は、その1000倍から100,000倍低い。」と述べた。

これは、どのような説明がなされるにしても、4-5桁の違いを説明せねばならないことを意味する。公式線量とリスク推定がそんなに大きく異なることがあるだろうか?最初は、これは有り得ないと思われたが、上記のKiKK研究調査の線量とリスクは、胎芽と胎児ではなく、小児に対してのものである。すなわち、この2つのグループの間には、線量や放射線感受性に関して大きな違いがある。

原発由来の推定被ばく線量とKiKK調査研究で観察されたリスクとの間の食い違いを説明するには、推定されたリスク(1 mSvあたりのがん死数)を推定被ばく線量(mSv)で掛け合わせる必要がある。これは、線量とリスクを別々に考察しなければいけないということである。まず最初に、線量推計値を考察する。

6.1 不正確な線量推計値

現在の線量推計値は、下記の理由のために不正確な可能性がある。

(i) 放射性核種の放出スパイクが、原発から風下の住民の線量を、年間平均線量と比べて20倍(NDAWG, 2011)から100倍(Hinrichsen, 2001)に増加させるかもしれない。
(ii) Statherら(2002は、妊娠中のトリチウム摂取後の胎児のトリチウム濃度は、母親のトリチウム濃度より60%多いと推定した。トリチウムは、主にトリチウム水蒸気(HTO)として、どの原発からも大量に放出される。トリチウムは、近辺の住民の放射線量に大きく寄与するだろうと予期されている。英国健康防護機関(HPA, 2008)は、トリチウム水蒸気の大気への放出後の被ばくによる胎芽と胎児の組織への線量は、成人の組織へと比較して、1.5−2倍増えると推定した。これらの研究では、炭素14に対しても同様の結果が見られた。
(iii) 残念ながら、公式なトリチウム線量測定は、筆者が過去に示した(Fairlie, 2008)ように、問題と誤解だらけである。国際放射線防護委員会(ICRP)によって用いられているトリチウムの放射線荷重係数(WR)は、かなりの放射線生物学的証拠がその2倍(AGIR, 2007)か3倍(Fairlie, 2007)であるべきだとしているのに、いまだに1である。その上、ICRPの公式トリチウムモデルは、有機結合トリチウム(OBT)からの線量を過小評価し続けている。トリチウムへの慢性被ばくを受けている人たちでは平衡状態での有機結合トリチウム(OBT)の線量は、トリチウム水蒸気(HTO)の線量の約4倍である。慢性的だが被ばく量が一定でない原発近辺の住民集団の場合、平衡状態まで達しないかもしれないため、有機結合トリチウム(OBT)の線量を推定するのが難しい。有機結合トリチウム(OBT)の発生を考慮するためには、トリチウム水蒸気(HTO)の線量を倍にするのが保守的な推定となる。

(iv) Richardson2009は、様々な代謝的な理由のために(ICRPモデルが人体の成長を考慮していないことを含めて)、乳児における放射性核種の線量係数(BqあたりのSv)は、成人のおよそ10倍以上であると付け加えた。

上記の線量因子(放射性核種放出スパイクからの20 x 胎児内トリチウム濃度からの2 x 生物学的効果比(RBE)からの2 x 有機結合トリチウムからの2 x 人体の成長からの10 = 1600)を掛け合わせると、承前の食い違いを部分的に説明することができる。もちろん、これは非常に大雑把な推計であり、正確だというわけではないが、上記の因子は、公式線量推計値が不正確かもしれないという可能性を示している。

実際、原発からの放出物の取り込みによる内部被ばく線量の推計には、大きな不確かさが存在しているかもしれない(Fairlie, 2005)。これは、英国政府の内部被ばくリスクに関するCERRIE委員会(2004の報告書の主な結論であった。ほとんどの線量推計においては無条件に不確かさが存在する。特に矛盾した証拠(たとえば白血病の多発など)が存在する際には、これらの不確かさが線量推計値を信頼できないものにしているかもしれない。

言い換えると、非常に少ない線量推計値と観察された高リスクの間の大きな隔たりの理由を理解しようとする時、線量推計値が小さいからと言って、放射線が原因である可能性を却下すべきではない。残念ながら、線量の不確かさは、ほとんど考察されておらず、上記のKiKK調査研究に関するドイツ、英国とフランスの研究、あるいはKiKK調査研究そのものでも考察されていない。

6.2 不正確なリスク推定

胎芽と胎児への放射線リスク、特に胎芽と胎児による放射性核種の取り込みによるリスクは、あまり良く特徴づけられていない。Richardson2009は、内部被ばくによる危険は、年齢が若い人で著しく増加すると観察した。原爆被爆者のデータから、乳児における線量単位あたりの放射線リスクは成人の約10倍であると推定された。さらに、Ohtakiら(2004は、胎児の造血系のリンパ球前駆細胞の放射線感受性が、乳児のリンパ球よりはるかに高く、おそらく100倍にもなるかもしれないことを発見した。

総括すると、上記で述べられたように、後述の約100倍のリスク増加を、線量の不確かさによる因子の約1000で掛け合わせる必要がある。その積は、原発からの推定被ばく線量とKiKK調査研究で観察されたリスクとの間の1−10万の違いに達し得る。再度繰り返すが、これが正確だと言うわけではないが、説明となる可能性が提示されたことになる。例えばチェルノブイリ、テチャ川、そして1950年代と1960年代の大気圏内核実験からの被ばくの研究では、小児白血病がそんなに増加しているわけではないことを認めねばならない。しかし、小児白血病が見つかっていないことは、これらの研究ですべての白血病症例が見つけられたのかという確認バイアスを含む、いくつかの要因による可能性がある。

さらに、最近の環境レビューによる証拠は、動物(そしておそらくヒト)の放射線感受性についての現在の推定が低過ぎると示唆している(Garnier, 2012)。このレビューでは、自然界で自由に暮らす動物の放射線感受性が、実験動物を用いた従来のモデルで予測されるよりも10倍高いことが示された。

7.結論

KiKK調査研究の観察を説明できるかもしれない生物学的メカニズムは、原発からの大気放出スパイクにより、近辺に居住する妊婦の胎内の胎芽や胎児の組織が放射性核種によるラベリングをされるということである。そのような放射性核種の濃度は、胎芽と胎児の造血組織を高線量に被ばくさせるかもしれない。妊娠期の放射性核種取り込みによる胎芽と胎児の特定の臓器や組織への累積被ばく線量およびリスクは、ICRP文書で特に考察されていない。

KiKK研究調査や他の研究で観察された白血病の増加は、取り込まれた放射性核種への胎児期での被ばくの結果、胎内で発生するのかもしれない。新生児が前白血病状態で生まれ、出生後に初めて白血病と診断されるということが示唆されている。放射能スパイクは、前白血病状態のクローンを生じるかもしれなく、出生後の2度目の放射線の直撃で、これらのクローンの中のいくつかが完全に白血病細胞化するのかもしれない。

これらの懸念を考慮し、原発に関して下記の情報が公表されるべきであると推奨する。

・間欠的な原発からの放出物、つまり大気放出スパイクによる放射線被ばく
・その結果としての、発達中の胎芽の骨髄への放射線被ばく量の推計値
・それに伴う、乳児や幼児への白血病リスクの推定
・これらの線量とリスク推定の信頼区間

さらに、欧州の原発近辺での白血病のより広範囲のケースコントロール研究が、できる限りKiKK調査研究と同じ方法、特に白血病症例と原発排気筒の間の正確な距離の測定を用いて設定されることが推奨される。


和訳:@YuriHiranuma
和訳校正:@iPatrioticmom@wtr000

福島県の小児甲状腺がん症例について現在わかっていること


福島県の県民健康調査の甲状腺検査により診断された甲状腺がん症例の詳細について、現時点で判明している情報をまとめた。
1)2014年11月11日に開催された第4回 甲状腺検査評価部会で鈴木眞一氏によって公表された手術の適応症例について。
2)2014年11月14日の日本甲状腺学会学術集会での鈴木眞一氏の発表「小児〜若年者における甲状腺がん発症関連遺伝子群の同定と発症機序の解明」の抄録テキストおよび口頭発表からの情報。学術集会の質疑応答時の長瀧重信氏の発言も。
3)2014年8月28日の日本癌治療学会学術集会での鈴木眞一氏の発表「福島における小児甲状腺癌治療」の抄録テキスト。

なお、同様の情報の英語版はこちら
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第4回 甲状腺検査評価部会 
資料3 手術の適応症例について

震災後 3 年を経過し、2014 年 6 月 30 日現在までの二次検査者 1,848 名からの細胞診実施者 485 名中、悪性ないし悪性疑いは 104 例であり、うち 58 例がすでに外科手術を施行されている。
58例中55例が福島医大甲状腺内分泌外科で実施され、3例は他施設であった。また、55 例中1例は術後良性結節と判明したため甲状腺癌 54 例につき検討した。
病理結果は 52 例が乳頭癌、2例が低分化癌であった。
術前診断では、腫瘍径 10 ㎜超は 42 例(78%)、10 ㎜以下は 12 例(22%)であった。また、10 ㎜以下 12 例のうちリンパ節転移、遠隔転移が疑われるものは 3 例(5%)、疑われないもの(cT1acN0cM0)は 9 例(17%)であった。
この9例のうち7例は気管や反回神経に近接もしくは甲状腺被膜外への進展が疑われ、残りの2例は非手術経過観察も勧めたが本人の希望で手術となった。
なお、リンパ節転移は 17 例(31%)が陽性であり、遠隔転移は 2 例(4%)に多発性肺転移を疑った。
術式は、甲状腺全摘 5 例(9%)、片葉切除 49 例(91%)、リンパ節郭清は全例に実施し、中央領域のみ実施が 67%、外側領域まで実施が 33%であった。出来る限り 3cm の小切開創にて行った。
術後病理診断では、腫瘍径 10 ㎜以下は 15 例(28%)かつリンパ節転移、遠隔転移のないもの(pT1a pN0 M0)は 3 例(6%)であった。甲状腺外浸潤 pEX1は 37%に認め、リンパ節転移は 74%が陽性であった。術後合併症(術後出血、永続的反回神経麻痺、副甲状腺機能低下症、片葉切除後の甲状腺機能低下)は認めていない。

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2014年11月14日 日本甲状腺学会学術集会

小児〜若年者における甲状腺がん発症関連遺伝子群の同定と発症機序の解明

鈴木 眞一、福島 俊彦、松瀬 美智子、平田 雄大、岡山 洋和1、大河内 千代1、門馬 智之2、水沼 廣1、鈴木 悟、光武 範吏3、山下 俊一3

福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座、福島県立医科大学器官制御外科学講座、長崎大学原爆後障害研究所社会医学部門放射線災害医療研究分野

超音波診断技術の進歩や小児甲状腺超音波健診の実施などで、小児・若年者甲状腺がんと診断される患者数が増加している。しかし、これらのがん発症・進展に関わるメカニズムは、未だ十分に解明されていない。今後、さらに症例数は増加するものと考えられ、これらのがんの生物学的特徴を明らかにするために癌発症関連遺伝子群の同定と発症機序の解明を行う。今回は、既知の甲状腺がん発症関連遺伝子につき検討した。

対象:小児〜若年者で手術が施行された24例(男女比、1:2、平均年齢17.9歳(9−22歳)である。23例は乳頭癌、1例は濾胞癌であった。(注:口頭発表では、1例は低分化癌だった。)

方法:切除された腫瘍組織から抽出したDNA・RNAからダイレクトシークエンスおよびRT−PCRにて、BRAF、K-、N-、H-RASの変異およびRET/PTC1、3のrearrangementにつき検討した。

結果:BRAFは67%に変異陽性であった。またRET/PTC1は12.5%にrearrangementを認めたが、RET/PTC3、K-、N-、H-RASの変異はすべて陰性であった。

考察:既知の遺伝子変異の検討では、小児に多いとされるRET/PTC rearrangementの頻度は低く、むしろ成人と同様にBRAF遺伝子変異を高率に認めた。通常成人型の乳頭癌と同様のパターンを示したことは、若年者小児甲状腺癌発症のメカニズムを考察する際に極めて重要な結果といえる。


日本甲状腺学会学術集会の口頭発表からの情報

23例は乳頭癌、1例は低分化癌。
23例の乳頭癌のうち、典型的なclassical typeの乳頭癌が19名、follicular variant(濾胞性)の乳頭癌が1名、cribriform-morular variant(篩状モルレ型)、いわゆる家族性大腸腺腫症の合併症が認められる乳頭癌が3名。
福島県民健康調査での手術は23名 通常入院は1名(22歳女性)

遺伝子変異の分析結果。
RET/PTC13例(12.5%)で陽性(平均年齢17.8歳)
ETV6/NTRK31例(4.2%)で陽性(16歳女性)
成人に多いとされているBRAFは、18例(67%、3分の2)で陽性。(平均年齢18歳)
小児に多いとされているRET/PTC30、その他、K-N-H-RASTRK0
これらの遺伝子変異すべて陰性が5例(平均年齢16.7歳で全例女性)
通常入院の22歳女性はRET/PTC1陽性。

BRAFRET/PTC1ETV6/NTRK3すべて、典型的なclassical typeの乳頭癌。
すべて陰性の5例は、1例は濾胞性乳頭癌、1例は低分化癌、3例は篩状モルレ型乳頭癌。篩状モルレ型乳頭癌はAPC遺伝子変異によることが知られるため、現在検査中)。陰性5例は腫瘍径がやや大きく、この陰性5例のみ全摘。

篩状モルレ型乳頭癌の3例は、家族歴・本人歴あり。

BRAFaggressiveな症例と言われている。RET/PTC1は、非被ばくでやや年齢が高い人で見られ、RET/PTC3は、若年で見られ、放射線誘発性の乳頭癌の原因遺伝子とは言われていないが、チェルノブイリで良く見られたが、今回は検出されなかった。遺伝子再配置は小児で多く、点変異は成人で多いのが定説とされてきた。

結論として、通常成人型乳頭癌同様の変化であり、今回の症例が福島における原発事故後の小児超音波検診で発見されたものであり、通常であれば成人で発見された可能性のある癌が、検診によって小児あるいは若年の段階で発見された可能性が強い。

質問1BRAF変異は予後が悪いと言われていて、その根拠のひとつに、小児で検出率が低いからとずっと言われているが、この発表はそれを覆すものになるのか。

鈴木氏:これは発見動機がスクリーニングなので、前倒しなので、この人たちがスクリーニングされないで成人で発見されたとしたらどうだったか、というのをもう少し踏まえなければいけないけど、そこはもう少し見ないとわからない。

質問2BRAFが多かったということは、福島の放射線による影響というのはほとんど考えにくいのか?

鈴木氏:なんらかの原因で小児に甲状腺がんが発症してくるというメカニズムが、今まで知られているもののパターンよりも、むしろ成人型でよく見つかる変異を、こういう検診をするということで少し早めに見つかっている。決して早過ぎるというわけでもないが、きわめて予後が悪いというわけでもない。

学術集会の質疑応答時の長瀧重信氏の発言など

阪大・岩谷教授の質問:放射線で甲状腺癌が増えているというデータを持っておられる方がおられるのか?これまでの演題では目につかなかったが。

長瀧氏:ちょうど今、環境省会議をやっていて、会津地方との地域差があること、今までの罹患率とスクリーニングの罹患率が大きく違うことの2点を理由にエビデンスを提示して増加していると声高に発言されている方がいて、その方に同調する市民団体も存在している、と申し上げておく

岩谷教授?:それを信じるかどうかは別にして、そういう方がおられるということですね。では、鈴木先生に質問だが、RET/PTC3がないから放射線影響がないと言う印象を私は持っておりますが、それでよいのか。

鈴木眞一氏:RET/PTC3が放射線影響の証拠というわけではないが、今回見つかったのが通常成人型でよく見られるBRAFなので、スクリーニングによって前倒しで見つかっていると思われる。
(中略)
長瀧氏:甲状腺癌が増加していると発言されている方には専門家会議にも来ていただいたが、会津地方の検査結果が出ていない中で言われているので、全く根拠に欠ける。これだけの甲状腺の専門家が多く集まる中で増えたと言われてないことを大きく受け止めます。ありがとうございます。

長瀧氏:アメリカ甲状腺学会で、要請をされて、Meet-the-Professorというので、「福島原発事故と甲状腺がん」というタイトルで講演してきた。内容はオープンにされたもので、鈴木先生と相談してスライドを作った。これは30万人のスクリーニングという前代未聞のことで、それで結果は、結節の大きさが何ミリという話だけなのか、一体バセドウ病は何人いたんだ、自己免疫疾患の患者はどれくらいいたんだ、あるいはgoiter(甲状腺腫)はどうだったんだ、という質問をされた。これはプライバシー(個人情報保護)であると言ったが、プライバシーとは個人の名前などであって、何人のうち何人がバセドウ病ということは全然プライバシーと関係ないんだ、しかも、専門家がスクリーニングしたのなら、当然甲状腺疾患の見当はついたのだろうと、後でしつこく聞かれた。書いて返事をすると言ったが、そこはどう考えたらいいのか。志村先生?
志村氏:検診目的は結節を見つけることで、それよりさらに診るとなると保険診療をして診て行く場合もある。数は多くないがデータをまとめて発表していきたいと思っている。

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第52回 日本癌治療学会学術集会
2014年8月28−30日
8月28日 10:00〜12:00
臓器別シンポジウム03
「甲状腺がんの治療戦略のUp to Date −小児甲状腺がんの治療戦略−」(プログラムpp.127−128)


OS3-5「福島における小児甲状腺癌治療」
鈴木眞一
福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座

小児甲状腺癌は全甲状腺癌の約1−2%と稀なものとされてきた。発見時には肺転移や広範なリンパ節転移を認め、一見進行している様に見えても長期予後は極めて良好である。

2011年3月11日、東日本大震災後に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故後、福島県では長期にわたる放射線の健康影響と向き合わなければならなくなった。福島県では県民健康調査が開始され、その1つとして事故当時の小児甲状腺超音波検査が開始されている。すでに先行調査が終了し、甲状腺癌も発見されている。この、従来の有病状甲状腺癌とは異なり、超音波スクリーニングで発見された無症状の小児甲状腺癌に対する治療経験について報告する。

対象は2011年10月から2013年12月31日までに一次検査が施行された269,354名(受診率80.8%)である。そのなかで二次検査が必要とされた1796名のうち75名が穿刺吸引細胞診によって悪性ないし悪性疑いとなった。34名がすでに手術が施行され、33名に甲状腺癌が確定した。うち当科で手術を実施した31例につき報告する。

手術時平均年齢は16.4歳(9−20歳)、男女比14:17、23年度(国指定の避難地地域等の13市町村)施行例9例、24年度施行例22例である。

手術時平均腫瘍径14.9mm(6−31mm)である。術前診断でT1 22例(T1a7例、T1b15例)、T2 7例、T3 2例、N0 19例、N1 12例(N1a 4例、N1b 8例)、M0 29例、M1(肺)疑い2例であった。手術は片葉切除28例、全摘3例、リンパ節郭清は中央区域郭清19例、外側区域郭清12例であり、術後病理診断では、乳頭癌(通常型)24例、濾胞型乳頭癌3例、びまん性硬化型乳頭癌3例、低分化癌疑い1例であった。pT 21例(pT1a 9例、pT1b 12例)、pT2 3例、pT3(EX1)7例、pN0 7例、pN1 24例(pN1a 12例、pN1b 12例)であった。術前M1(肺)疑いが2例あり、全摘術後血中Tgが感度以下に低下したため、後日肺CTないし131Iシンチグラフィを予定している。

全例術中NIMによる反回神経モニタリングを行い、中央区域郭清では3cm、外側区域郭清では3−5cmの皮膚小切開にて実施した。反回神経麻痺、副甲状腺機能低下症は認めていない。




国連第4委員会の議長とUNSCEAR事務局長に手渡された、UNSCEARフクシマ報告書の改訂を求める要請書の和訳


2014年10月24日にニューヨーク市で開催された国際連合第69セッション第4委員会で、国際核戦争防止会議(IPPNW)の米国支部である社会的責任を果たすための医師団(PSR)の代表と特定非利益活動法人ヒューマンライツナウの代表が、第4委員会の議長およびUNSCEAR事務局長のクリック氏に手渡した要請書の和訳。43の市民社会グループが賛同し、署名した。

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20141024

国連総会69会期第4委員会の委員各位
UNSCEAR委員各位
国連総会メンバー各位


議題:  市民社会グループは、4月に公表された原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)報告書:「東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響」の改訂を要求する。

2011年の福島災害により、国連による電離放射線の悪影響の監視が、世界的に最重要な問題となった。監視の目的と基準は、健康と福祉への人権の保護と促進であるべきで、これは、人工電離放射線への被ばくが可能な限り存在しない環境をも含む。われわれ下記署名者は、 UNSCEAR報告書[i]の科学的結論、そして報告書から除外された科学的証拠を、第4委員会が批判的に調査することを要請する。

国際核戦争防止医師会議(IPPNW)の、社会的責任を果たす医師団(米国支部:PSR)とIPPNWドイツ支部を含む19ヶ国支部の医師らは、UNSCEAR報告書の批判文書[ii]を作成・発行・公表し、UNSCEARによって使われた仮定とデータ、そしてそれから帰結した解釈と結論に疑問を呈した。この批判文書は、UNSCEARが福島災害による健康影響をどのように系統的に過小評価し、軽視したかを論証している。

われわれは、UNSCEAR委員会メンバーらが、福島原子力大惨事に関する広範で複雑なデータの評価にかなりの努力を費やしたことには感謝する。しかしながら、現在も将来も「識別可能な影響がない」というUNSCEARの結論は、常識に反し、かつUNSCEARの信頼性を台無しにするものである。批判文書は、UNSCEAR報告書そのものに基づくと、福島放射能フォールアウトにより、日本で、約1000件の甲状腺癌症例、および4,30016,800件のその他の癌症例の過剰発生が予期されると記している。これらの癌を経験する個人、その家族とコミュニティー、そしてその他の放射線誘発性疾患に罹患する個人にとっては、それは非常に識別可能な影響である


そして「識別可能な影響がない」とすることによって、追加被ばく回避や健康影響対策を実行しない方向へと日本政府を誘導し、重大な人権侵害状況を生んでいる。

この大惨事は、すでに収束した単一の事象ではなく、いまだ展開中で終わりが見えない事象である。放射性物質は生物圏に漏れ続け、汚染地域に住む人々は、汚染された食物や水の摂取と汚染された空気の吸入により、電離放射線に被ばくし続けている。さらに、福島由来の健康影響のほとんどは、何十年も何世代も先まで現れない。ゆえに、今手元にあるUNSCEAR報告書は、福島健康影響の予備的あるいは初期評価とみなされるべきである。この評価のモニタリングを継続して改善し、アップデートして行くことが、これから長期間必要となる。UNSCEAR2014年報告書は、終わりではなく、始まりなのである。

われわれは、UNSCEAR報告書に関して、第4委員会に下記の2つの行動を要請する:

1)批判文書で挙げられた留意事項を考慮し、批判文書に基づいた改訂がなされるように、UNSCEARに報告書を返すこと。そして、UNSCEARが、委員会の委員構成を広げ、原子力活動に批判的な科学者らを、十分な資格を持った委員として迎え入れること。

2)また、 UNSCEARの一義的な科学ミッションが、公衆衛生、そして最も脆弱な人々の健康への権利の促進および保護であることを確保するために、 1955年のUNSCEAR設立時に設定された権限を見直す決議を可決するようにと、第4委員会が国連総会に強く要請することを要求する。 現在と将来の世代と環境への、短期的および長期的な電離放射線の影響に対処するためには、予防原則が用いられるべきである。同様に予防原則は、原子力災害後の被ばく、浄化と除染の規制や活動の決定、個人の被ばくリスクを最小限に抑え、かつ軽減するための教育的対策の決定、そして汚染サイトの長期的モニタリングを定める際にも用いられるべきである。UNSCEAR委員会のメンバーらがその専門知識を世界コミュニティーの命と健康を守るために十分活用することを可能にするためには、新たな国連権限が必須である。



この要請書は、下記のグループに賛同されている:

Physicians for Social Responsibility, USA
International Physicians for the Prevention of Nuclear War - Germany, Germany
特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウ
Peace Boat - US, USA
虹とみどりの会
緑ふくしま
反原発労働者行動実行委員会
風下の会 福島
福島県自然保護協会
国際環境NGO FoEジャパン
全石油昭和シェル労働組合
「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク
原発災害情報センター
特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター(JVC)
脱原発の日実行委員会
脱原発福島ネットワーク
ハイロアクション福島
原発いらない福島の女
福島原発30キロ圏ひとの会
福島につながり続ける新潟避難の会
手をつなぐ3.11信州
子どもたちを放射能から守る全国ネットワーク
The Civil Forum on Nuclear Radiation Damages (CFNRD), Japan
高木学校
AEEFG - Association de l'Education Environnementale pour les Futures Generations, Tunisia
NGO of “Ecolife”, Azerbaijan
Women in Europe for a Common Future International, Netherlands
Women in Europe for a Common Future, Germany
Women in Europe for a Common Future, France
Irish Doctors' Environmental Association (IDEA), Ireland
Nuclear Information and Resource Service, USA
Nuclear Age Peace Foundation, USA
Nuclear Age Peace Foundation, New York, USA
Nukewatch/The Progressive Foundation, USA
Nuclear Watch New Mexico, USA
Georgia WAND - Women's Actions for New Directions, USA
Physicians for Social Responsibility – Kansas City, USA
Gray Panthers, USA
Center for Safe Energy, USA
Nuclear Energy Information Service, USA
Shut Down Indian Point Now, USA
International Society of Doctors for the Environment, Switzerland
Beyond Nuclear, USA



[i] UNSCEAR report “Levels and effects of radiation exposure due to the nuclear accident after the 2011 Great East-Japan Earthquake and tsunami” at: http://www.unscear.org/docs/reports/2013/13-85418_Report_2013_Annex_A.pdf
(先行和訳: 「東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響」 http://www.unscear.org/docs/reports/2013/14-02678_Report_2013_MainText_JP.pdf)

[ii] Critical Analysis of the UNSCEAR Report “Levels and effects of radiation exposure due to the nuclear accident after the 2011 Great East-Japan Earthquake and tsunami: www.fukushima-disaster.de/information-in-english/maximum-credible-accident.html 公式和: UNSCEAR報告書「2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響の批判的分析http://fukushimavoice2.blogspot.com/2014_06_01_archive.html






国際連合総会第69セッション第4委員会での日本代表のステートメントの和訳 


2014年10月24日の国連総会第69セッション第4委員会で、議題項目48「原子放射線の影響」についてステートメントを述べた13ヶ国のリストから、午後4時21分から25分の間に口述された日本代表のステートメントを和訳した。動画へのリンクはこちら。 ちなみに、昨年のステートメントの一部はこちら


***


日本代表によるステートメント
国際連合第69セッション第4委員会
議題項目48:原子放射線の影響

2014年10月24日


議長、

   まずは、国際連合第69セッション第4委員会での、特にこの重要な議題項目、「原子放射線の影響」においての、あなたの効果的な議長職に心からの謝辞を述べたいと思います。

   原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、日本が1955年以来の設立メンバー国でもありますが、電離放射線への被ばくの影響について科学的評価と報告を提供するという極めて重要な役割を果たしています。委員会の仕事は、われわれが放射線リスクを評価し、皆が恩恵を受ける放射線防護と安全基準を確立する助けとなっています。

   特に東京電力株式会社(TEPCO)の福島第一原子力発電所での2011年の事故に照らして、原子力技術の安全性に長年コミットしてきている国として、われわれは、委員会の仕事を高く評価しています。この点では、2013年4月に出版された報告書「電離放射線の線源、影響およびリスク」とその附属書「2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響」を賞讃、そして感謝いたします。

   9月に、UNSCEAR委員長のカール=マグナス・ラーソン氏とそのチームが来日されました。福島で、訪問団は、最近出版された報告書についてのパグリック・ダイアログのイベントを開催されました。報告書は、他の点と共に、全体的には事故後の発がん率には変わりがないだろうと示しました。UNSCEARのこの報告書とパグリック・ダイアログは、科学的知識に基づいた知見を提供したために、歓迎されました。また、それらは、経験と学んだ教訓を国際コミュニティーと共有するにおいても役だっています。

議長、

   これらは、UNSCEARが原子力の安全性において果たしている極めて重要な役割の例のごく一部です。その重要な役割を認め、日本はこれまでも、そしてこれからもUNSCEARの活動を支援し続けます。これに関連して、今年の2月に、日本政府はUNSCEARに、全額$863,000の自主的な寄付を貢献したことを謹んでご報告いたします。

   結論として、私は、UNSCEARの重要な仕事に対する日本のコミットメントと支援が続くことを再確認したいと思います。

   議長、ありがとうございました。


***

原文


Statement by Japanese Delegation 
At the Meeting of the Fourth Committee
69th Session of the United Nations General Assembly 
On agenda item 48:
Effects of atomic radiation 

24 October 2014

Mr. Chairman,

At the outset, I would like to express our sincere appreciation for your Excellency’s effective chairmanship at the Committee during the 69th session of the United Nations General Assembly, in particular under this important agenda
item “Effects of atomic radiation.”

The United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation (UNSCEAR), to which Japan has been a founding member since 1955, plays a vital role in providing scientific assessments and reports on the effects of exposure to ionizing radiation. The work of the Committee helps us evaluate radiation risk and establish radiation protection and safety standards from which we all benefit.

As a country long committed itself to the safety of nuclear technology, particularly in light of the accident of 2011 at the Tokyo Electric Power Company (TEPCO)’s Fukushima Daiichi Nuclear Power Station, we highlyvalue the work of the Committee. In this regard, we commend and appreciate the publication in April of the 2013 Report “Sources, Effects and Risks of Ionizing Radiation” and its annex “Levels and effects of radiation exposure due to the nuclear accident after the 2011 great east-Japan earthquake and tsunami”. 

In September, we welcomed the visit of Mr. Carl-Magnus Larsson, Chair of UNSCEAR, and his team to Japan. In Fukushima, the visiting delegation held public dialogue events on their recent published report. The report indicated, among other points, that overall, cancer rates would remain stable following the accident. This report by UNSCEAR and their public dialogues were well received as they provided the findings based on scientific knowledge. They have also been useful in sharing the experiences and the lessons learnt with the international community.

Mr. Chairman,

These are just some of the examples of the vital role that UNSCEAR plays in the safety of nuclear energy. In recognition of their important role, Japan has and will continue to support the activities of UNSCEAR. In this context, we are pleased to inform you that in February of this year, the Government of Japan made a voluntary contribution totaling 863,000 USD to UNSCEAR.

By way of conclusion, I would like to reaffirm Japan’s continued commitment and support to the important work of UNSCEAR.

I thank you, Mr. Chairman.

甲状腺検査の偽陽性について:岡山大学・津田敏秀教授の説明「診断学の基礎知識と甲状腺がん議論の整理」(第4.41版)


(注:2014年10月31日に、現時点での最終版の第4.41版に差し替えられた)


2014年10月20日午後2時より、環境省の「第12回東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」が開催された。その前日の2014年10月19日午前5時00分付けで、大岩ゆり記者による朝日新聞デジタル記事『甲状腺検査の問題指摘「がんの疑い」判定、福島の子に負担 専門家会議』が公表された。この記事は、環境省会議資料のリーク記事であった。その証拠に、会議冒頭で、環境省の得津馨参事官がこのように述べている。「それから、昨日、本会議の資料の一部と思われる内容が報道され、大変失礼致しました。今後とも引き続き科学的・医学的な見地から議論を続けてございますけれども、事務局と致しましては、資料の管理等、さらに気をつけて行きたいと思っております。」(動画

この記事では、会議で公表された「中間とりまとめのたたき台」に言及しており、中でも目を引いたのは次の記述であった。1,744人が「偽陽性」だとは初耳だったからである。

『たたき台では、無症状のまま問題にならないがんを見つける可能性や、がんではないのにがんの疑いがあると判定される「偽陽性」の増加、手術で合併症が起きる可能性などの問題点も指摘。これまで検査を受けた約30万人のうち1744人が偽陽性だったと認定した。うち381人は、超音波検査などを経て、甲状腺に針を刺す検査も受けたとしている。』

そしてこの供述は、環境省事務局配布資料3「中間とりまとめに向けた論点整理等(線量評価部分以外)」の10ページ目(画像)から引用されていたようだった。




「ここで言う偽陽性 とは、がんが無いにも関わらずがんがあるかもしれないと判断されることを指す。 」と定義した上で、「一次検査で B 又は C 判定とされて二次検査を受診し結果が確定した 1,848 人のうち 1,744 人が、穿刺吸引細胞診を受けた 485 人のうち 381 人が、いずれも偽陽性であったと言える(悪性ないし悪性疑いと診断されたのは 104 人)。」と述べられている。
会議中に、福島県立医科大学副学長の阿部委員がこの供述に関して異議を唱え、福島医大としては、手術後に良性だと判明した1名のみが偽陽性だと考えている、と述べた。

会議を中継していたアワープラネットTVの白石草氏によると、会議終了後、得津参事官は「公衆衛生の世界では、一次検査で異常が見つかり、最終的に異常なしは全て偽陽性というんです」とコメントされたそうだ。

しかし、「がんが無いにも関わらずがんがあるかもしれないと判断される」偽陽性が381人や1,744人となると、スクリーニングのデメリットが非常に大きくなってしまうが、そもそもこのような偽陽性の定義は正しいのか?

疫学の教授である、岡山大学の津田敏秀氏に問い合わせ、その返事を簡潔にまとめた。詳細は、この下に貼付けてある、津田氏の詳細な説明のPDFファイルを参照願いたい。


”結論から言うと、いずれもあっているし、いずれも舌足らずで間違っていると言えます。試験の記述式なら、バツにするかお情けの部分点でしょう。

阿部氏が福島医大での穿刺吸引細胞診の偽陽性例のことを言っているのであれば、正解です。もちろん、何の検査での偽陽性は明示した方が良いですが、この場合言わなくても分かるでしょう。環境省資料の、「穿刺吸引細胞診を受けた485人のうち381人が偽陽性」というのは、この検査陽性が「(穿刺吸引細胞診で)がんが無いにも関わらずがんがあるかもしれないと判断される」と定義されていることが間違いなので混乱の元となっています。この場合の本来の485人は、「医師により穿刺吸引細胞診が必要と判断される」と定義されるからです。穿刺細胞診の話であれば、381人は偽陽性ではなく単なる陰性です。(下記の「診断学の基礎知識と甲状腺癌議論の整理」p. 11の表5の③を参照)穿刺吸引細胞診で陽性とされた者のうち「がんが無いにも関わらずがんがあるかもしれないと判断される」が検査陽性の定義であれば、偽陽性は正しくは阿部氏が言うように1人です(p.11の表5の③とp.12の表5の④を参照)。診断学の基礎として学ぶ、偽陽性というのは、検査毎に出てきます。偽陽性をどの検査について問題にしているのかを定義することが必要です。原則的に、1つの検査に感度と特異度があり、それぞれの検査に対して偽陽性例などを論じる必要があります。

220人の手術症例とこれまで報告されてきた臨床データについて

   2024年11月12日に開催された 第53回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会)および3日後に開催された 第23回「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」 (以下、評価部会)で、 220例の手術症例 について報告された。これは、同情報が 論文 として20...