この英語記事内で言及されている筆者からエディターへの手紙の和訳を掲載する。Open Journal of Pediatrics (OJPed)のエディターは、手紙は掲載できないし、一旦掲載された論文を下げることもしない、と述べた。過去にも著者らの関連論文に対しての手紙の掲載を拒否された例があったので想定内ではあった。理由を尋ねると、手紙は掲載しないが、ケース・スタディーなどを投稿するなら掲載する、と言う答えが返って来た。その後のやり取りから、無料では何も掲載しない、という意図が明らかになった。
著者らの承前の関連論文を批評したスティーブ・ウィング氏によると、「『Open Journal of Pediatrics』は、実は、営利目的を持つPredatory journal、すなわち、『(研究者を)食い物にする雑誌』として知られており、真剣な科学的ピアレビューの過程を持たないようである。」
コロラド州の司書であるジェフリー・ビオール氏は、そのような『研究者を食い物にする雑誌』の調査を随時行っており、この手紙掲載拒否の件も記事にしている。
また、手紙の内容および、著者らのフクシマ事故後に米国での死亡率が上昇したという論文に関してのイアン・ゴッダード氏のビデオはこちら(英語)である。
なお、共著者の1人で統計担当らしいクリストファー・バズビー氏は、論文に記された所属機関であるJacobs Universityに実際に所属していないことが分かっている。
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2014年4月14日
オープン・ジャーナル・オブ・ピディアトリックス(オープン小児科ジャーナル)のエディターへの手紙
「フクシマ核メルトダウン由来の環境フォールアウトの相関関係としての、カリフォルニアでの先天性甲状腺機能低下症の確定およびボーダーライン症例数の変化」という論文で、マンガノ、シャーマンとバズビーは、調査集団における先天性甲状腺機能低下症の確定診断数を、間違っている上に選択的なデータ解釈に基づいて結論づけている。
著者らは、カリフォルニア州公衆衛生局(CDPH)の先天性甲状腺機能低下症の新生児スクリーニングデータを入手した。これには、2009年から2012年の診断確定数およびスクリーニングを受けた新生児の人数が含まれており、新生児の人数は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって分類されていた。著者らの結果を再現する試みのため、同じデータをカリフォルニア州公衆衛生局に要請した。
カリフォルニア州では、先天性甲状腺機能低下症のスクリーニングのTSH値のカットオフ値は29 mIU/Lであり、これは、2013年9月11日付けの「新生児スクリーニングのカットオフおよび基準値範囲」に記載されている。
しかし、著者らは、「このプログラムでは、29 μIU/ml以上のTSH値だけに基づいて先天性甲状腺機能低下症の診断を確定する。この基準を超えた子どもには全員、普通の身体的・精神的発達を促すために、甲状腺ホルモンが処方される。2011年1月1日に、カリフォルニア州は、TSHを算出する分析方法を変えた。ほとんどの新生児で数値が上がったため、先天性甲状腺機能低下症の症例数も増加した。」と誤った供述をしている。(注:μIU/mLは、mIU/Lと同等である。)
著者らはこの論文で、前述の供述を筆頭に、いくつかの間違いをした。
まず最初に、新生児スクリーニングプログラムによって検出されるのは、TSH全血値の上昇であり、これにより先天性甲状腺機能低下症が診断されるわけではない。先天性甲状腺機能低下症の診断には、さらに臨床的検査が行われる。29μIU/ml以上のTSH値は、スクリーニングが「陽性」という意味しかない。故に、この基準を超えた子ども全員がホルモン補充療法を受けるのではない。
カリフォルニア州公衆衛生局の遺伝的疾患スクリーニングプログラム内の、「プログラムと対策部門」のチーフ代理であるRobert J. Currier氏とのメールのやり取りの中で、Currier氏は次のように述べた。
「(先天性甲状腺機能低下症)陽性だと推定される乳児は、血清TSH検査および、主治医により任意に選択される、遊離T4(遊離チロキシン)のような他の検査を受ける。乳児はまた、州が認定する内分泌科クリニックに紹介され、内分泌専門医に受診する。必要に応じてフォローアップを繰り返す。乳児で先天性甲状腺機能低下症の診断が確定されたら、毎年、内分泌科クリニックで再診することになる。」
この供述から分かるように、著者らの「先天性甲状腺機能低下症の診断確定症例」の定義は間違っている。それにも関わらず、著者らは、スクリーニング「陽性」を診断確定数として間違って数えている。
2番目に、2011年1月1日に始まった新分析法の結果増加したのは、著者らの主張の「先天性甲状腺機能低下症の診断数」ではなく、TSHのカットオフ値である。Currier氏は続いて次のように述べた。
「2011年以前は、先天性甲状腺機能低下症の陽性推定のカットオフ値は25 μIU/mlだった。我々のラボでは、2011年初めに新しいTSH検査法を取り入れた。その結果、人口ベースでTSH値が変わったため、2011年4月にカットオフ値を29 μIU/mlに調整した。すなわち、2011年4月以前には、スクリーニングのTSH値が25 μIU/ml以上であれば先天性甲状腺機能低下症陽性であると認識された。この(新検査法の)情報も、ジョー・マンガノに提供された。」
3番目に、著者らはさらに、「注意深く選んだ範囲である19.0−28.9 μIU/ml」を「ボーダーライン症例」と定義しており、その「ボーダーライン症例」を先天性甲状腺機能低下症全体の推定に加えている。しかしながら、そもそも先天性甲状腺機能低下症の診断は、フォローアップ時の臨床的観察および追加検査の後にしか確定されないので、この定義は無意味である。
実際、Currier氏は次のように述べている。
「『ボーダーライン症例』の定義というものは、皆無である。TSH検査は単にスクリーニング法であり、臨床的に診断された先天性甲状腺機能低下症の症例のみが、『先天性甲状腺機能低下症』とみなされている。」そしてCurrier氏は、「滅多にないことだが、確定症例のTSHがカットオフ値以下であり、後日臨床的に診断されたという可能性もある。」と付け加えた。
著者らが、カリフォルニア州では「この疾患の定義に一貫性がある」と宣言しながらも、「ボーダーライン」という間違った定義のカテゴリーを生み出し、単なるスクリーニング「陽性」症例と合わせたということは、バイアスを実にひどい形で導入したことになる。
これにより、2011−2012年の先天性甲状腺機能低下症全症例が、658症例から4670症例に増え、統計的分析でのp値が誇張されたようである。(「確定症例数とボーダーライン症例数の合計」のp値 < 0.00000001) 「ディスカッション」のセクションで、著者らは、「ボーダーライン症例を恣意的に定義しなければいけなかったにも関わらず(中略)カリフォルニア州では、ボーダーライン症例数(TSH値が19.0−28.9 μIU/ml)を確定症例数(TSH値が29.0 μIU/ml 以上)に加えると、症例数が7倍以上になる。」と考察している。この供述は、データ選択にバイアスがあり、著者らが「ボーダーライン」とスクリーニング「陽性」が先天性甲状腺機能低下症の「確定症例」であるとみなしていることの確証になる。
Currier氏は、また、著者らが受け取ったのと同じ2セットのデータ(表1と表2を参照のこと)および、先天性甲状腺機能低下症スクリーニングプログラムの追加詳細情報を提供してくれた。
Currier氏は、確定症例数の表のデータは、著者らが受け取ってからアップデートされたと述べた。それは、「滅多にないことだが、診断ミス、もしくは診断にある程度の不確実さがあった赤ちゃんが、後日、本登録から削除される可能性がある。」からだと言う。しかしながら、Currier氏は、それでも著者らが当初受け取ったデータにとても近いはずだと請け合った。Currier氏は、また、「マンガノ氏は記事内でこの表(注:表2)のデータを使わなかった。」と言及した。
表1:カリフォルニア州の最初の新生児スクリーニングのTSH値分類表、2009年−2012年
表2:カリフォルニア州の一次性先天性甲状腺機能低下症の診断確定症例数、2009年−2012年
ドイツの元物理学者で、独立した疫学コンサルタントであるアルフレッド・ケルプライン氏が、先天性甲状腺機能低下症の10万人あたりの「確定」症例数をグラフ化した。(図1)この図から、2011年3月17日から12月31日の期間の確定症例数増加には、他の時期と同様の変動が見られるのが分かる。
図1:先天性甲状腺機能低下症の確定症例数の発生率、2009−2012年
4番目に、著者らは、「結果」のセクションの最後で、「単なる確定症例数よりもっと大きなサンプルサイズがあれば、真の変化をもっと良く理解することが可能になる。」と述べている。この論文の著者らがより大きなサンプルサイズを欲していること自体が、著者らがカリフォルニア州での先天性甲状腺機能低下症スクリーニングプログラムを良く理解していないことを示唆する。
結論として、マンガノ氏、シャーマン氏とバズビー氏による研究には重大な欠点がある。
1)スクリーニング陽性(29 μIU/ml以上のTSH値)の生データを先天性甲状腺機能低下症の確定症例数として誤用し、カリフォルニア州公衆衛生省から送付された、先天性甲状腺機能低下症の実際の確定症例数の正しい数字を無視している。
2)スクリーニングプログラムにも医療現場にも根拠のない、「ボーダーライン」症例という無意味な診断カテゴリーを定義している。
3)自分達が作り出したニセの発症率(スクリーニング陽性の結果プラス「ボーダーライン」スクリーニング結果)が、正当なものであると主張している。
4)2011年の(著者らの定義による)先天性甲状腺機能低下症の増加が統計的に有意であると主張しているが、実際に臨床的に確定された2009−2012年の症例数のグラフ化では有意な増加がみられていない。
誠意を込めて、
ユリ・ヒラヌマ、 D.O.
社会的責任を果たすための医師団、放射線と健康委員会委員