2014年2月21日−23日に品川で開催された「放射線と甲状腺癌に関する国際ワークショップ」の主催は、環境省、福島県立医科大学と経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)であり、組織委員会の委員長は、山下俊一氏だった。最後のワークショップの結果の要約の締めとして登場した山下氏は、「チェルノブイリとは違う、ということを明確にして頂いた。また、スクリーニング効果があるというのを共通の認識とした。また、ハーベストエフェクトという、最初に何もない所から刈り取った状態であることも認識できた。こういう話を世界の専門家が来て、日本でして頂いたというのは、日本の現状をしっかりと理解して頂いたと思うので、これからもフクシマへの支援をして頂けると思う。福島県立医科大学、福島県、そして環境省の方々も、同じ日本を愛する方々です。フクシマの復興なしに日本の復興はない。」という主旨の発言をした。
記者会見の部分書き起こし
(前略)
記者;チェルノブイリで事故による甲状腺癌が急増したとする4年目、5年目のペースに入るわけですけれども、今、3年目のこういうタイミングというのをを山下先生はどうとらえられますか?今、どういう時期ですか?
山下氏:これは甲状腺癌について、でいいんでしょうか?今、スクリーニングでこれだけの患者さんが27万人近くで見つかりましたので、この数は今日のご発表でもお分かりになったように、ほぼスクリーニング効果であろう、と。ということは、今後、この翌年、翌々年と言う本格調査が26年4月から始まります。これは決して、あの、強制で皆様方に受けて頂くものではなくて、ボランティアであります。甲状腺の調査は、事故のあった後、福島県の子どもたちを見守るという大きな目的でスタートしたものですから、その一環がこの甲状腺の超音波の検査である、と言うことで、今後これを継続することがより重要で、先程からも申しますように、被ばく線量がほとんどない所では、明らかな甲状腺癌が増えるとは考えていません。ですから、本格的な調査が3年目から始まる、と。この3年間は、先行調査、あるいは予備調査ということで、ベースラインの甲状腺の頻度を明らかにしたということに留まるので、これからが本格的な長期的な子どもたちを見守る体制作りが重要になってくるいう風に考えています。
木野龍逸氏:山下先生が、最後のまとめの所で、今後甲状腺が増えるという予測はしていないというお話がありましたけれど、その意味は、現在の74人より一切増えないという意味なのか、その根拠となるしきい値みたいなものがあるのかどうか、もう少し詳しくお願いできますか?
山下氏;頻度の問題、だろうと思います。色々、Prevalence(有病率)について、今日、ことばの色々説明がありましたけれども、現在27万人で疑いを含めて75例ですよね。おそらく、検査をすれば出て来ると思います。で、その出方が、どういう頻度なのか、ベースラインのスクリーニングに対して増えて来るかどうか、ということが極めて重要だと思いますが、これは簡単にいかないというのは、先程お話したハーベスト効果で、突然こういう検査をしましたから、根こそぎみんな最初に見つけられるだろうと、そうすると第2ラウンドに行くと少し減るんじゃないか、という見方もありますし、それから当然、ある一定の数は出続けるわけです。この頻度がどれくらいかというのは、実はチェルノブイリにしか比較するデータはありません。というのは、現在でもチェルノブイリでは、超音波の甲状腺エコー検査をしています。このデータを、大体概略でいうと一万人に数名、今でも事故後25年経って甲状腺癌が見つかりますから、そのくらいの頻度では、おそらく小児で見つかるのでなかろうか、そういうふうな、わたくしたちは、考えを持っています。
木野氏:私がお伺いしたかったのは、現状で数を比較すると、おそらく100万人に300とか、従来考えていたよりも数百倍という数字になるわけですけども、この数字というのをスクリーニング効果と言う以上は、数としてしきい値がなければいけないのでは?何万人に何人という数が説明される以上は、その数字にしきい値みたいなのがないと、どこまで増えると予想の範囲を超えるのかよく分からなくなると思うんですけれども。
山下氏:ちょっとわたくし、質問が分からないんですが、たとえば、甲状腺癌は年齢と共に増えます。韓国でこれだけが多く見つかったということは、40代や50代では100人に1人となるんですね。
木野氏:いえ、ごめんなさい、あの、言いたいことはそうではなくて、小児甲状腺癌に関して、県民健康管理調査の中で、これから、じゃあ、どれくらまで数が増えるかという予測としては、数としてはないということでしょうか?
山下氏:年齢がシフトして行きますから、同じ頻度で見つかるだろうと思います。一万人に数名単位。
木野氏:じゃあ、そうすると、今の100万人に300と、そういう数字ではなくなるということですかね。それはしばらく続くということですかね。
山下氏;はい。それは、そういう予想です。
記者:ウクライナでは1992年以降、ベラルーシでは1990年まで、子どもの甲状腺癌というものが見られなかったというお話だったんですが、ウクライナの1992年以前、ベラルーシの1991年以前は、どのような健康調査を、特に甲状腺癌に対して、どのような甲状腺癌の検査が行われていたのか、今の日本のような超音波検査が行われていたのか。この会合の出席者について、どなたがどのような理由で選考されたのか。
山下氏:わたくし達が入った1991年までは、超音波を使ったスクリーニングがなされていませんでした。1991年12月までは、ソ連全体の地域の癌登録でなされたデータがそのまま使われています。1991年12月に国が崩潰した後、色んな団体が入り、それぞれの国々で超音波を使いました。出席者の選考は??委員会で行われましたので、わたくしもそのメンバーの1人です。そして丹羽先生、OECD、環境省。今回は、福島の甲状腺癌についてがテーマでしたから、広島・長崎の経験、それからチェルノブイリの経験、これは大優先をしました。その上で、欧米のEpidemiologist、つまり疫学者、それから線量を評価できる人、そういう方を、従来の国連機関、いわゆる国際機関で活躍されている方々を呼ばせていただいた、ということになります。
質問:チェルノブイリではどのようにしてスクリーニング効果だとわかったのか?
山下氏:(前略)2つ目は当時はまだ線量評価が不十分で、これは日本と違って、すべてはミルク、食の汚染の連鎖で甲状腺の放射線線量を評価しますから、実はまったく持ってばらつきが大きくて、正確な値が出ませんでした。1,000mSvと言われたり、5,000mSvたり。そういう中で、3つの機関、国連機関もそうですけども、アメリカ、ヨーロッパ、それから旧ソ連も、それくらい評価をし、その検証した結果が出たのが、15年後、20年後となりました。長い歴史の下で、これは間違いなく、トレンド、タイムコースとして、順次、事故当時0歳から10歳の子どもたち、とりわけ、5歳未満に集中して、この子たちが年齢が上がって行くに従って、思春期癌、成人癌に罹って来るという、特定の母集団だけに、当時の、もう消えてなくなった放射性ヨウ素を初期にとったと言う方だけに増えてきたということで、スクリーニング効果じゃないだろうか、ということになりました。
木野氏:甲状腺検査を始める前からスクリーニング効果があるかもしれないということは想像されてたと思うが、そのような話は最初になかったと思う。だからこそ100万人に1人という数字がかなり広く知られたわけで、なぜそういうことを初めにちゃんと説明されなかったのか。
鈴木眞一氏:最初からスライドの中に、今まで小児の疫学調査はされてないと言った次に、この時点で超音波検査をやると、ゆっくり育つ、今まで発見されてなかった甲状腺癌が、容易に多く見つかるということを、ずっと説明してきています。それは、検査が始まる前からの説明でございます。それでは、どのくらいの数があるかということは、今日も昨日も議論になったように、やってみないとわからない。あの、これは、それを計算するものではございません。で、我々は、この制度でやって、やっとその具合がわかるようになってきた、というのがこの3年の経験だと思いますが、そういうことは最初から想定して、説明はさせてもらってます。
山下氏:わたくしの方からひとこと。これは内部でも十分議論しています。出すメッセージとしてわたくしたちが心配したのは、住民の方たちに対してでなく、まず、小児科の先生や甲状腺学科の先生たちが初めてこういうのを見ますから、それが、極めて誤解を招いたらいけない、ということでメッセージを出させていただきました。こういう、福島で検診が始まりましたので、微小癌が見つかります、と。先生たち、きちんと説明してください。とこれ、まさにスクリーニング効果そのものであります。スクリーニングすることによって、それまで無症状で、まったく◯◯(注:聞き取れず)なものがたくさん見つかります。そういうメッセージを、まず協力をしていくということから始めてますし、住民に対しても、今まさに鈴木先生がおっしゃったような形で、説明が始まっています。
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議長サマリーのまとめの部分の和訳
県民健康管理調査 検討委員会によると、甲状腺癌の増加が原発事故による放射線被ばくであると同定できる証拠はない。次の特徴がこれを支持する。
1.これまでの検査結果によると、福島第一原発付近の子どもの甲状腺被ばく線量は、チェルノブイリ事故の際に子ども達が被ばくした線量よりもかなり少ない。
2.国際的な観察によると、甲状腺癌の潜伏期間は最短で4−5年とみなされている。近年行われたスクリーニングの結果見つかった癌は、原発事故後間もなく、検査を受けた子どもたちに発現した。甲状腺癌の発達がゆっくりでおとなしいという医学的理解の下では、これらの癌が2011年3月の原発事故による放射性ヨウ素131への被ばくによって起こされたとは考えにくい。
3.甲状腺癌が確定された子どもたちは、事故当時に幼児ではなくティーンエイジャーだった。幼児は放射線誘発性甲状腺癌への感受性が強いということは知られている。今回の甲状腺癌でみられた年齢分布は、小児における自然発生の甲状腺癌の理解と一致するものである。
なお、OurPlanet-TVの白石草氏によると、この議長サマリーの著者は、経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)のTed Lazo氏であるということだ。