2011年ウクライナ政府報告書(抜粋和訳)2:甲状腺疾患−−小児における甲状腺の状態、ウクライナの小児における甲状腺癌


2011年ウクライナ政府報告書
英文 https://docs.google.com/file/d/0B9SfbxMt2FYxZmdvWVNtMFkxXzQ/edit
原文 http://www.chnpp.gov.ua/images/pdf/25_chornobyl_ua.pdf

ウクライナ政府が、チェルノブイリ事故の25年後に出した報告書の英訳版より、事故処理作業員や住民とその子供達の健康状態に関する部分から抜粋和訳したものを、下記のように6部に分けて掲載する。また、他のサイトで和訳がされている部分もあるが、英訳版の原文で多く見られる不明確な箇所がそのまま和訳されていた。ここでは、医学的に意味が通るように意訳をした。

1. 避難当時に子供だった人達の健康状態
立ち入り禁止区域から避難した子供達の健康状態の動向
2. 甲状腺疾患 
 小児における甲状腺の状態
ウクライナの小児における甲状腺癌
3.  汚染区域に居住する集団の健康についての疫学調査   ●確率的影響
 非癌疾患
 非癌死亡率
4. 被ばくによる初期と長期の影響
 ●急性放射線症
 ●放射線白内障とその他の眼疾患
 ●免疫系への影響
5. チェルノブイリ事故の複雑要因の公衆衛生への影響
 ●神経精神的影響
6. ●心血管疾患
 ●呼吸器系疾患
 ●消化器系疾患
 ●血液疾患

*****

2. 甲状腺疾患 
 ●小児における甲状腺の状態 
 ●ウクライナの小児における甲状腺癌

このセクションは、福島県での小児甲状腺癌発現のために興味が多いかもしれないので完訳した。

甲状腺疾患

 ●甲状腺疾患は、ウクライナでチェルノブイリの影響を受けた成人で一番く40−52%みられる疾患である。 放射線やヨウ素・セレン等の微量栄養素の欠乏などのマイナス要因の複雑な影響が、甲状腺疾患の罹患率増加に貢献したのである。
●ガンマ線による外部被ばくと放射性核種による内部被ばくの組み合わせによりホルモン生産細胞の刺激構造が損傷を受けるために、内分泌系の中枢と末梢組織両方におけるホルモン調整が様々な段階で破壊されるのである。

 ●これらの組織への放射線による損傷は、遺伝的体質が負の環境要因との相互作用を通して活性化される事によって現される。
 

チェルノブイリ事故後、内分泌系の中枢と末梢組織における病理生理学的変化は、段階を経て展開した。


 ●最初の反応は1986年8月まで続き、内分泌系細胞の部分的破壊のために、ホルモンの末梢血液中濃度が上昇した。

 ●1986年9月から1989年までの間、末梢ホルモンの代償的な生産過多が起こったが、内分泌軸の中枢からの反応はなかった。負のフィードバックによる制御機構は、TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)とTSH(甲状腺刺激ホルモン)が合成されなかったために機能していなかった。

 ●次の1990年から1995年の期間には、甲状腺や他の内分泌器官の潜在性疾患の発展がみられた。

 ●1996年以降は、放射線に誘発された内分泌系疾患の臨床像は、内分泌系疾患の診断の増加、末梢内分泌組織の機能性の大きな減少と、ホルモン調整の中枢の障害に特徴付けられる。

 ●1992年から1996年の間には、チェルノブイリの影響を受けた人達では甲状腺疾患のリスクが9倍に、2型糖尿病のリスクが2.4倍に増えた。

 ●事故処理作業員における内分泌系疾患の年ごとの増加は、一般成人に比べて3倍から5倍であった。

 ●非癌系甲状腺疾患の増加は、ほとんどが慢性の自己免疫性甲状腺炎、結節性甲状腺腫と後天性甲状腺機能低下症によるものである。

 ●甲状腺疾患が一番激増したのは、1986年に20歳以下だった事故処理作業員においてであった。

 ●0.25から1Gyの全身外部被ばく量は、1986年から1987年の事故処理作業員と、30キロ圏内の立ち入り禁止区域からの避難者において、慢性甲状腺炎と後天性甲状腺機能低下症の重要なリスク要因であった。







 ●1997年から現在までの橋本病の有病率は、事故処理作業員におい増加し続けている反面、キエフ市の住民では一定のレベルを保っている




小児における甲状腺の状態

事故後の最初の1年間

影響を受けた小児における甲状腺被ばくに対する初期の反応は次のようであった。

 ●臨床所見なしの高サイロキシン血症

 ●短期の「ストレス性」高甲状腺刺激ホルモン血症の後、TSH(甲状腺刺激ホルモン)とT4(サイロキシン)の軸が普通になる。


事故後12ヶ月から18ヶ月後

 ●T4の値が正常化し、その後も正常数値内に留まった。

 ●高サイロキシン血症が続いた場合、TSHの平均値は正常数値内に留まった。

 ●甲状腺被ばく量が2Gy以上だった場合、血清サイロキシンの数値は被ばく量の増加に伴い顕著に増加し15Gy以上の被ばく量で最大に達した。


1986年から1991年

 ●ホルモンの変化によると4歳から16−17歳の子供において甲状腺疾患の変化の臨床像は見られなかった。  


1992年から1996年

 ●遊離サイロキシン(FT4)減少は0.8%のみにみられ、0.2%ではTSHが増加したが臨床所見はなかった。


 ●慢性甲状腺炎と甲状腺機能低下症はほとんど記録されなかったが、信頼できる増加は発症頻度には見られなかった。これは、成長期の体における回復と代償プロセスによって説明されるかもしれない。


1999年から2003年


 ●チェルノブイリ事故によって影響を受けた小児においては、甲状腺機能低下症、慢性甲状腺炎や甲状腺中毒症などの発病率には、さほど変化がなかった。


 ●このため、チェルノブイリ事故の影響としての甲状腺疾患を持ちながらも、ヨウ素欠乏の環境下である汚染地域に居住し続ける小児の治療と回復の原理となるであろうと思われる、潜在的な甲状腺不全をさがための研究が行われた。


2004年から2006年


 ●事故後の最初のヨウ素放出で被ばくをした事故処理作業員に生まれた子供達に、視床下部ー脳下垂体軸の中枢調節の障害がみつかった。


 ●これは、検査を受けた35.5%においてみられ、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)のチャレンジによるTSHの過剰分泌によって証明された。(訳者注TRH投与後すぐに、脳下垂体前葉に蓄えられていたTSHが放出される。) これは、神経内分泌系の構造の生理学的な劣勢のために、甲状腺疾患が発現するという間接的証明なのかもしれない。


 ●細胞培養で見られる細胞遺伝学的な遅延性の影響によると、被ばくした両親の子供への染色体の不安定性の伝達は、子供において視床下部ー脳下垂体ー甲状腺軸の潜在的機能不全を持つ甲状腺疾患を促進する可能性がある。


ウクライナの小児における甲状腺癌

高リスクグループ(事故当時に0-18歳だった人達)における甲状腺癌の発症の有意な増加は、今日やっと証明されている。


 ●これは、チェルノブイリ事故の主な健康被害の結果である。

 ●重篤な量の放射性ヨウ素に被ばくをした小児は、現在成人層に入っている。

 ●事故当時に4歳以下だった人では、甲状腺癌のその後の増加は、甲状腺被ばく量に依存した。

 ●事故当時18歳以下だった人で、被ばく量が高くなるにつれて甲状腺癌の罹患率が増加したというのは、ウクライナ・米国の甲状腺プロジェクトによるスクリーニングと研究の過程で観察された。

 ●事故前に生まれた小児においては、事故後に生まれた小児の15倍の疾病率がある。

 ●これは「チェルノブイリ後の子供」における甲状腺癌に放射線が関連していることの確認となる。

ウクライナのチェルノブイリ後の期間(1986-2008)において、  
 
 ●1968年から1986年に生まれた人事故当時に0歳から18歳のうち、6,049 人が形態的に確認された(訳者注:文章の流れから、細胞診などでという意味だと思われる)「甲状腺癌」の診断で手術を受けた。
 ●4,480 人(74.1%)が014歳(図 3.41)で 、1,569人(25.9 %)が1518歳(図3.42)だった。

 ●女性と男性の比率は事故当時の年齢に従って高くなり、014歳では3.9:1、1518歳では5.1:1だった。 
 ●発症率は1990年から2008年にかけて徐々に大きくなった。
 ●チェルノブイリ事故当時に0−14歳だった子供達での甲状腺癌の新しい症例数は、2009年では463件(2008年と同じ)だった。事故当時に15−18歳だった子供達での2009年の症例数は129件で、同じく2008年と変わらなかった。


 ●相対指数、すなわち10万人対の罹患率は、事故当時に0−14歳だった子供達と15−18歳だった子供達において、1990年から2008年にかけて着実に増加していた。
 ●2009年には、0−14歳での発症率は4.13、そして15−18歳での罹患率は4.87で、2008年の罹患率を超えなかった。(図3.41、3.42)すなわち、2008−2009年期に、放射線のリスクを受けたグループにおいての甲状腺癌の発症ピークが達成された可能性があり、2010年には徐々に発症が減ることが予測される。

 ● 甲状腺癌の増加は、ある程度は、コホートの年齢が1986年から2008年の間に徐々に高くなってきていることで説明することができる。しかし、汚染が最もひどかった北部6地域(注:グラフの黒棒)と他の地域(注:グラフの白棒)での甲状腺癌の罹患率の差を比較すると、明らかに差があるだけでなく、2006年から2008年にはそれまでの時期と比べて増大していた。(図3.41、3.42)これは、甲状腺癌の発症に、事故後の時の経過に伴う加齢ではなく、放射線が要因として関連していることを示す。
  
 ●事故後に生まれた成人においては、最初の甲状腺癌の症例は2006年に報告された。(図3.43)

 ●2006年から2009年の間には、事故当時に子供だった人達の2,223人に甲状腺癌が見つかったのと比べて、事故後に生まれた成人の91人に甲状腺癌が見つかった。

 ●1986年から2009年の間に登録された甲状腺癌の症例数合計は6,448だった。
   ○6,049人が事故前に生まれた。
   ○399人が事故後に生まれた。
 ●事故前に生まれた子供達の2009年、ウクライナ全体と最も汚染がひどい地域での甲状腺癌の発生率と罹患率は、2008年のレベルにとどまった。



 ●事故当時に18歳以下だった人達の甲状腺癌で、1990年から2008年の間に手術を受けたケースの92.2%は乳頭癌であった。 

 ●事故後の時間の経過と共に、被ばく者の年齢が増したが、乳頭癌の形態的特徴も大きく変化した。乳頭癌充実亜型(訳者注:充実亜型は侵攻性が比較的強い)の割合は、1990−1995年期の24.4%から2006−2009年期の5.7%(p<0.01)と徐々に減った。乳頭癌乳頭亜型の割合は、1990−1995年期の12.0%から2006−2009年期には34.0%、乳頭癌混合亜型の割合は、1990−1995年期の25.5%から2006−2009年期には43.8%となった。

 ●潜伏期間が長くなるにつれ、乳頭癌混合亜型の構成部分の組み合わせにも変化があった。充実亜型・濾胞亜型で構成されている乳頭癌の割合はかなり減り(1990−1995年期の72.7%から2006−2009年期の25.4%、p<0.01)、乳頭亜型・濾胞亜型で構成されている乳頭癌の割合が増えた(1990−1995年期の10.9%から2006−2009年期の43.8%、p<0.01)。 
  
乳頭癌の浸潤性の分析によると、年齢と時間という2つの因子に影響されていることがわかった。 
 ●年齢の影響としては、甲状腺外への浸潤と領域転移および遠隔転移の頻度は、常に、事故当時の4−14歳の子供よりも19−40歳だった成人でかなり低かった。
 ●時間の影響としては、4−40歳の患者全体を合わせたら、潜伏期間(事故から手術時までの期間)が長くなるにつれて上記のパラメータが減ったことがわかった。特に興味深いのは、遠隔転移の患者の割合が減ったというデータであり、1990−1995年期の23.0%から2006−2009年期には1.8%に減っている(p,0.001)。
 ●さらに、被包性腫瘍の割合は1990−1995年期の7.4%から2006−2008年期には29.4%に増え(p<0.001)、10mm以下の微小癌も1990−1995年期の4.1%から2006−2009年期には29.4%に増えた(p<0.001)。


まとめ

 ●事故当時に0−14歳、もしくは15−18歳だった子供達の10万人対の甲状腺癌の罹患率は、2006−2008年期に最大となり、2009年には安定した。

 ●一方、汚染が最大だった地域と最小だった地域での罹患率のかなりの差(0−14歳で2.5倍、15−18歳で1.9倍)は、チェルノブイリ事故から24年後のウクライナで、高リスクの人達においての甲状腺癌の発症率に、放射線が要因として影響を与え続けていることの証明となる。


 ●チェルノブイリ事故後から時を経て、手術時での患者の年齢が高くなるにつれ、主な甲状腺癌である乳頭癌では、かなりの形態上の変化が見られた。すなわち、甲状腺外への浸潤や領域転移や遠隔転移の発現の著しい減少によってわかるように、甲状腺癌の侵攻性は減少したのである。


 ●事故後に生まれた小児においての甲状腺癌の発症がゆるやかで遅いということは、チェルノブイリ事故による放射線被ばくを受けた0−14歳と15−18歳の甲状腺癌が放射線によって影響されていることを支持する証明となる。











米国FDAサイトの、原子力緊急時用の液状ヨウ化カリウムの作り方


米国FDA(Food and Drug Administration, 米国食品医薬品局)サイトに、乳児・子供や、その他の錠剤を摂取できない人のために、安定ヨウ素剤の錠剤を液状にする方法が載っていたので、手順を和訳した。
http://www.fda.gov/Drugs/EmergencyPreparedness/BioterrorismandDrugPreparedness/ucm072261.htm(2019年1月10日追記:このリンクは現在デッドリンクになっているが、FDAサイトのこのページに、アーカイヴ記事のリンクが載っている。)
PDFリンクはこちら:http://www.fda.gov/downloads/Drugs/EmergencyPreparedness/BioterrorismandDrugPreparedness/UCM318791.pdf


材料
65 mgのヨウ化カリウム(KIまたはPotassium iodide)錠剤2つ
調理用小さじ(5 cc)
小さなボール
水 小さじ4
飲み物 小さじ4(牛乳、チョコレートミルク、オレンジジュース、コーラなどの炭酸飲料水、粉ミルク、ラズベリーシロップ、水など)

手順
1.ヨウ化カリウムの錠剤を柔らかくする。
 ヨウ化カリウム65 mgの錠剤を2つ、小さなボールに入れ、小さじ4の水を入れる。一分間、水に浸す。
2.柔らかくなったヨウ化カリウムの錠剤をつぶす。
 小さじの裏を使い、大きなかけらが残らないように、ヨウ化カリウムの錠剤を水の中でつぶす。これでヨウ化カリウムの錠剤と水のミックスができる。
3.飲み物を、ヨウ化カリウムの錠剤と水のミックスに加える。
 好みの飲み物を上記のリストから選び、小さじ4を手順2のヨウ化カリウムの錠剤と水のミックスと混ぜる。これで液状ヨウ化カリウムができる。
4.適切な分量を投与する。(日本での推奨服用量に換算した、下記の表の真ん中の赤字部分を参照)

ちなみに、この調合でできる液状ヨウ化カリウムは、小さじ1につきヨウ化カリウム量が16.25 mg(ヨウ素量が12.5 mg)。また、残りは冷蔵保管し、必要があれば7日以内に服用できる。



なお、安定ヨウ素剤予防服用についての詳細は、下記を参照のこと。

緊急被ばく医療研修 安定ヨウ素剤の予防服用





2011年ウクライナ政府報告書(抜粋和訳)1:避難当時に子供だった人達の健康状態、立ち入り禁止区域から避難した子供達の健康状態の動向


2011年ウクライナ政府報告書

ウクライナ政府が、チェルノブイリ事故の25年後に出した報告書の英訳版より、  事故処理作業員や住民とその子供達の健康状態に関する部分から抜粋和訳したものを、下記のように6部に分けて掲載する。また、他のサイトで和訳がされている部分もあるが、英訳版の原文で多く見られる不明確な箇所がそのまま和訳されていた。ここでは、医学的に意味が通るように意訳をした。

1. 避難当時に子供だった人達の健康状態
立ち入り禁止区域から避難した子供達の健康状態の動向
2. 甲状腺疾患 
 小児における甲状腺の状態
ウクライナの小児における甲状腺癌
3.  汚染区域に居住する集団の健康についての疫学調査   ●確率的影響
 非癌疾患
 非癌死亡率
4. 被ばくによる初期と長期の影響
 ●急性放射線症
 ●放射線白内障とその他の眼疾患
 ●免疫系への影響
5. チェルノブイリ事故の複雑要因の公衆衛生への影響
 ●神経精神的影響
6. ●心血管疾患
 ●呼吸器系疾患
 ●消化器系疾患
 ●血液疾患


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1. 避難当時に子供だった人達の健康状態
立ち入り禁止区域から避難した子供達の健康状態の動向

このセクションは要点和訳した。


3.2.2. 避難当時に子供だった人達の健康状態(120ページ目)

 ●一番多いのは神経系、消化器系と循環器系の疾患である。

 ●網膜血管障害が感覚器官で一番良く見られる疾患であり、避難時に8−12歳だった人でリスクが高い。
 ●通常疾患の多くにおいて、血管障害は、網膜血管障害を含め、合併症というよりは病理過程に統合された一部分であり、他の症状が発現する前に確認できる 

避難時に4−12歳だった人達
  ●女性は皮膚と皮下組織の疾患のリスクが高い。
  ●男性では次の疾患のリスクが高い。
    ○心血管疾患
    ○皮膚と皮下組織の疾患

避難時に12歳以上だった人達
  ●女性では次の疾患のリスクが高い。
    ○精神疾患
    ○神経系と感覚器官の疾患
    ○呼吸器系疾患
    ○消化器系疾患
    ○泌尿生殖器系疾患
  ●男性では次の疾患のリスクが高い。
    ○神経系と感覚器官の疾患
    ○消化器系疾患
    ○泌尿器系疾患


3.2.3. チェルノブイリ事故により被ばくした色々なグループの子供達の健康被害 (121ページ目)

立ち入り禁止区域から避難した子供達の健康状態の動向

チェルノブイリ事故直後の時期(04/26/1986-09/01/1986)


 ●喉の痛みや違和感、金属の味(57.7%)

 ●頻繁な空咳(31.1%)

 ●疲労(50.1%)

 ●頭痛(39.3%)

 ●めまい(27.8%)

 ●睡眠障害(18.0%)

 ●気絶(9.8%)

 ●吐き気・嘔吐(8.0%)

 ●腸障害(6.9%)

 ●呼吸器系症候群(31.0%)

 ●リンパ組織過形成(32.2%)
 ●心血管系機能障害(18.0%)
 ●消化器系機能障害(9.4%)
 ●肝腫大(9.8%)
 ●脾腫大(3.2%)
 ●血算の数量的(34.2%)、そして質的 (92.2%)な変化

1986年から1991年の事故後の初期の頃

体内でのフリーラジカル反応が強くなり、T細胞の免疫が中程抑制され、免疫グロブリン異常血症が存在するという状態の中で、30キロ圏内からの避難者と汚染地居住者には器官や諸体系の機能障害が主にみられた。
 ●自律神経失調症(70.3%)
 ●心臓の機能的変化(40.0%)
 ●非呼吸性と呼吸性肺機能の抑制(53.5%)
 ●消化器系機能障害(82.4%
慢性疾患は稀であった。
多数の子供に甲状腺疾患、免疫系疾患、呼吸器系疾患や消化器系疾患がみられた。


1992年から1996年

機能障害が慢性身体疾患に移行。
30キロ圏内からの避難者と汚染地居住者両方において、健康な子供が減少し、慢性身体疾患を持つ子供が増加。
2.0 Gy以上の甲状腺被ばく量は最悪の健康状態と関連していた。



1997年から2001年

30キロ圏内からの避難者と汚染地居住者両方において、健康状態は着実に低下していた。

ナロディチ(Narodychi)地方の子供のサブグループの、集団線量2.6人Sv(サブグループ1)と9.4人Sv(サブグループ2)の比較において、サブグループ2で有意に高い発生率が次の疾患で見られた。
 ●呼吸器系疾患(2.0倍)
 ●自律神経失調症(1.52倍)
 ●肝線維症(2.3倍)
 ●血液疾患(2.5倍)

被ばく量によっては、体細胞で染色体の不安定性がみられた。


 ●身体疾患には次のような特徴があった。
   ○低年齢での発症
   ○多発体系性、多臓器性。
   ○経過にはぜん延性持続性、再発性が見られ、治療抵抗性も比較的ある。
 ●子供時代全般を通して健康状態が悪い。
 ●17歳−18歳では、76.6%の避難者と66.7%の汚染地居住者には多数の慢性疾患があり、その平均数は1人につき5.7疾患であった。
 ●この子供達は生殖可能年齢に入りつつあったので、その子供が影響を受けるのは避けられなかった。
 ●身長に比べて低体重であり、成長障害が頻繁であった。
 ●鉄欠乏性貧血が一般的であった。
 ●汚染地に居住する子供達には、単球増加が見られた。

初期登録グループの親から生まれた子供達の評価123ページ目

494,200人の子供が、初期登録グループ(Primary Registration Groupまたは PRG)1から3に所属する親から生まれた。この初期登録グループには4段階ある。

 ●PRG1は事故処理作業員
 ●PRG2は30キロ圏内からの避難者
 ●PRG3は汚染地の居住者
 ●PRG4はPRG1から3の親から生まれた子供達

この子供達のうち、毎年27-29%が血液疾患や造血器官疾患の診断を受ける。

 ●この中の18-22% は鉄欠乏性貧血である。
 ●事故以来、毎年20−30症例の白血病やリンパ腫の登録がある。
 ●これはウクライナの一般人口における発生率(10万人に5.2-5.4人)に匹敵する。

2009年には、1992年に比較して、急激に下記の疾患の登録数が増えた。 

 ●内分泌系疾患(子供全体に対して11.61倍)
 ●筋骨格系疾患(5.34倍)
 ●消化器系疾(5.00倍)
 ●精神疾患、行動障害(3.83倍)
 ●心血管疾患(3.75倍)
 ●泌尿生殖器系疾患(3.60倍)

健康な子供の比率は、1992年には24.1%で2008年には5.8%だった。
慢性疾患を持つ子供の比率は、1992年には21.1%で2008年には78.2%だった。



要約すると、被ばくの影響を受けた小児人口の健康状態は、持続的なマイナス傾向に特徴付けられる。

 ●着実な疾病率の増加と事実上健康な子供の減少。甲状腺被ばく量が多い子供において最悪の健康状態がみられた。
 ●慢性身体疾患の発症と自然経過の特徴は次のようである。    ○より低い年齢での発症。    ○多発体系性、多発器官性を持つ疾患。
   ○再発性のある経過で、治療抵抗性が比較的みられる。

 ●胎児発達中の被ばく量と次の事項には確実な相関関係があった。    ○全体的な健康状態    ○身体的発育    ○複数の小奇形の形質発現    ○体細胞での染色体異常の数の増加  ●被ばくした親に生まれた子供には次のような特徴を持つゲノム不安定性が見られた。    ○多因子的疾患の疾病素質    ○複数の小さな発育異常のある先天性奇形    ○体細胞における染色体異常の頻度の増加    ○マイクロサテライトに関係するDNAフラグメントの頻繁な突然変異


 

スティーブ・ウィングによる、マンガノ&シャーマン共著の福島原発事故後の先天性甲状腺機能低下症についての論文の批評


ノース・カロライナ大学の疫学研究者であるスティーブ・ウィングは、マンガノとシャーマン共著の研究論文「福島原発事故後の米国ハワイ州と西海岸4州での大気中のベータ線量増加と新生児における甲状腺機能低下症の傾向」が2013年1月29日に掲載をアクセプトされた後での批評を、第三者から依頼された。ウィングが批評したのは、このリンクhttp://www.scirp.org/journal/PaperInformation.aspx?PaperID=28599で見られる、Open Journal of Pediatricsの2013年3月号に実際に掲載された最終バージョンではない。

2013年2月27日付けのウィングの批評は著者らにも送られたが、直接の返答はなかったようである。しかし、ウィングが批評で言及しているポイントのいくつかは最終バージョンに含まれていなかったため、何らかの修正は行なわれたと見える。

ちなみに、この論文を掲載した医学雑誌”Open Journal of Pediatrics”は、実は営利目的を持つ”(研究者を)食い物にする雑誌”として知られており、真剣な科学的ピアレビューの過程を持たないようである。読者の中には、この情報を興味深いと思う人達がいるかもしれない。

ウィングの許可を得たので、その批評の和訳を掲載する。

なお、関連記事の「アルフレッド・ケルプラインによる、マンガノ&シャーマン共著の先天性甲状腺機能低下症論文に対しての編集者への質問状 英語原文」はこちらである。
http://fukushimavoice2.blogspot.com/2013/05/blog-post_29.html

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ジョセフ・J・マンガノとジャネット・D・シャーマン共著「福島原発事故後の米国ハワイ州と西海岸4州での大気中のベータ線量増加と新生児における甲状腺機能低下症の傾向」についてのコメントと質問

スティーブ・ウィング

この記事は、米国西部5州と他の36州における先天性甲状腺機能低下症の症例数の割合を、2010年と2011年の一定期間において比較したものである。著者らは、米国西部5州においての福島由来のヨウ素131のフォールアウトが、他の州よりも多かったと提案している。そして、もしもこれが先天性甲状腺機能低下症の発症に影響があるとしたら、2011年と2010年の症例の割合が、これらの州にフォールアウトが蓄積した後の数ヶ月間は増加するだろうと主張している。この比較の原理は、空間的および時間的変動を用いて環境因子への曝露の影響を評価するという点では論理的であるように見えるが、データ収集および分析が不透明であり、内面的に矛盾している。

序文
「序文」では、インディアン・ポイント原発近辺の4つの郡における先天性甲状腺機能低下症の症例数を全米の症例数と比較した結果が取り上げられている。2つの時期が比較されているが、この2つの時期を選んだ理由が、被ばく量に変化があったためかまた別の理由かは明らかでない。インディアン・ポイントでの、1970年から1993年の大気中へのヨウ素131の放出量が、米国の72基の原発の中で5番目に最大だったと述べられている。著者らがなぜ、先天性甲状腺機能低下症の分析時の4年〜13年前の放出データを提示したのかは明確でない。1997年から2007年に起こった先天性甲状腺機能低下症が、1970年から1993年の間にヨウ素131に被ばくしたせいでないのは明確である。原子炉からの放出が先天性甲状腺機能低下症を起こすということに興味があるのなら、著者らはなぜ、先天性甲状腺機能低下症が起こった時期にもっと近い時期からの推定放出量を用いなかったのか、そしてなぜ、全米で5番目ではなく、一番放出が多い原子力施設付近の記録を分析しなかったのかを説明するべきである。

方法
「表2」と表示された2つの表のうちの最初の表は、福島メルトダウン後の米国での雨水中のヨウ素131の77の測定値を示している。文献リストで指定されたURLからは情報ソースが見つからなかったが、EPAの別のURLでは雨水中のヨウ素131の157の測定値が見つかった。この表から省かれた数値は、未検出値だったのだろうか?もしも、州ごとの平均値に興味があるのなら、未検出値も、例えば、検出限界値の半分であるなどの仮定に基づいて、平均値の中に含まれるべきである。著者達は、最大の測定値のいくつかは、後の先天性甲状腺機能低下症の分析で「対照群」と分類されている州(実際は「フォールアウトが低い」と表現されるべき州)であるフロリダ州ものであり、そして、先天性甲状腺機能低下症の分析から省かれているマサチューセッツ州のものであると言及している。この理論的根拠は示されていない。

雨水中のヨウ素131は、牛乳の摂取を介したヨウ素の取り込みに関連しており、これが米国での集団の甲状腺被ばく量推定値の大半である。この先天性甲状腺機能低下症の分析においての被ばくグループは、なぜ、キセノンやクリプトンなどのベータ線放出ガスに影響されるであろう、大気中の総ベータに基づいているのか?キセノンやクリプトンなどのベータ線放出ガスは、福島からの放出だけでなく、米国の原子炉の通常運転からの放出に常に存在している。2番目の表2では、未検出値はどのように扱われているのか?検出限界値は何だったのか?

著者らは「月ごとの先天性甲状腺機能低下症の症例数」を電話調査で得たと言う。個別の症例での誕生日も得られなかったのであれば、その後の分析において、どのように誕生日ごとに分類できるであろうか?結果のセクションで、著者らは、個人情報保護守秘に関する懸念のため、人口が少ない州からのデータを得ることができなかったと言及している。3月の症例に対しての個人の誕生日が得られたものもあるが、そのような個人情報保護守秘に関する懸念は考慮されたのだろうか?また、データから省かれた州の中には、ニューヨーク州のように、小さくない州もいくつか含まれている。この部分のデータ収集は不透明であり、結果を分析する人達にとっては、フォールアウトが多かったまたは少なかったグループがどのようにして構成され、欠損しているデータがフォールアウトに関連しているのかということを明らかに知る事が重要である。

「州のプログラムに、2010年と2011年の間で、時間的比較にバイアスを与えるような、先天性甲状腺機能低下症の定義の変化がなかったことを確認するように依頼した。」という供述があるが、定義を変えた州はあったのか?もしあったのなら、どの州か?その次の文章で使われている”intra-state”(州内)は、正しくは”inter-state”(各州間)とするべきである。調査システムによる症例数は、その調査の締め切りの日までは仮の数字であることが多い。電話調査で報告された症例数は、最終版だったのか?もし最終版でないなら、その症例数は公式記録で報告される症例数と異なるかもしれず、現在の分析を最終データを用いて再生することができなくなる。

結果
この研究デザインのひとつの強みは、時間枠の使用である。それ故に、先天性甲状腺機能低下症の発症期間の選択が重要となってくる。2011年3月17日生まれの先天性甲状腺機能低下症の症例が、その日に到着した福島由来のヨウ素131によって、時間差なしに引き起こされたと言えるだろうか?牛乳を介した経路なら、ある一定の時間を過ぎないと被ばくを起こすとは考えられない。ひとつの疑問は、福島のフォールアウトによる先天性甲状腺機能低下症が最初の被ばく量によって起こされるのか、数日や数週間にわたる集積線量によって起こされるのか、ということである。どちらにしろ、3月17日(または、表3の中の一行においては3月15日)が被ばく期間で一番最初の日の可能性がある日なので、その日に誕生した症例を数のうちに入れるという選択は、議論の上で正当化される価値がある。

表3は主な結果を表しているが、ラベリングと数字が混乱している。最初の行で、なぜ3月17日の代わりに3月15日を使うのか?3月15日〜4月30日の症例数が、3月17日〜6月30日や3月17日〜12月31日よりも多いのはなぜか?ここでの2番目と3番目の期間での西部5州におけr症例数を足したら、最初の期間の症例数となるが、これはラベリングエラーだと示唆される。しかし、他の州での症例数を足しても同様の結果がみられない。表3の中のp値は、「議論」で言及されるものと合致せず、何に関連し、どのように得られたのかということの明白さが不十分である。

議論
このパラグラフでは、著者らは次のようないくつもの良いポイントを示しており、それは、論文原稿を改善するための基盤となり得る。「この報告内で使用されたデータを技術的に改善することができる。このうちのひとつは、福島事故後の米国においての、ヨウ素131を含む特定の放射性物質の環境レベルについての、もっと正確な時間的および地理的データを得るということである。さらに、フォールアウトの結果としての人間への特定の被ばく量の推定は、健康リスクの将来的な分析において役に立つだろうとも思える。また、この報告のデータに次のような技術的変化を加えることもできる。ベースラインとして2010年のみよりもっと多くの期間を用いること、2011年以降の先天性甲状腺機能低下症のデータを含むこと、そして、2010−2011年の州ごとと月ごとの生産数が公式発表されたら、症例数の傾向を発症数に換算すること、などである。」

220人の手術症例とこれまで報告されてきた臨床データについて

   2024年11月12日に開催された 第53回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会)および3日後に開催された 第23回「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」 (以下、評価部会)で、 220例の手術症例 について報告された。これは、同情報が 論文 として20...