シベリア化学工場(トムスク7)付近の放射性物質汚染区域の住民における、様々な細胞遺伝子学的な方法や電子スピン共鳴スペクトロメトリによるバイオドシメトリ(生物学的線量測定)の結果


"Biodosimetry results obtained by various cytogenetic methods and electron spin resonance spectrometry among inhabitants of a radionuclide contaminated area around the Siberian Chemical Plant (Tomsk-7)"
N.N. Ilyinskikh, I.N. Ilyinskikh, V.A. Porovsky, A.T. Natarajan, I.I. Suskov, L.N. Smirenniy and E.N. Ilyinskikh
Mutagenesis vol. 14 no. 5 pp. 473-478, 1999.
http://mutage.oxfordjournals.org/content/14/5/473.long
http://mutage.oxfordjournals.org/content/14/5/473.full.pdf 

トムスク事故
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=04-10-03-04

 

アブストラクト


1993年4月6日に、ロシアのトムスクという町の近くで、シベリア化学工場(シベリア化学工場)で事故が起こり、工場の北の250 km2という広範囲に渡って、プルトニウム239、セシウム137やストロンチウム90のような長期寿命放射性核種による汚染が起こった。細胞遺伝子学的な方法と歯エナメル質の電子スピン共鳴(ESR)スペクトロメトリを用いて、住民の放射線被ばく量を推定した。ESRシグナルの強さと、歯を提供した人のリンパ球の染色体異常の頻度に良い相関性が見られた。このデータから、サムシ村の住民の15%が90 cGy(90センチグレイ、900ミリグレイ、または900 mSv)以上の被ばくをしたのが示された。例外は、漁師のグループで、ESRによる推定被ばく量が高かった(80−210 cGy)が、染色体検査と細胞質分裂ブロック小核方法はどちらも推定被ばく量が低め(8–52 cGy)だった。1961年から1969年の間に生まれた人達の間で、染色体損傷の大きな増加が見られた。この期間中、シベリア化学工場でいくつかの大きな事故が起こり、付近に放射能汚染を引き起こしていたことが分かった。1980年以降からサムシ村に住み始めた住民では、染色体異常を持つ細胞の数が顕著に少なかった。住民では、カロテン摂取と二核白血球内の小核 (r = 0.68, P < 0.01) と染色分体異常 (r= 0.61, P < 0.01)の頻度の減少に良い相関性が見られた。また、サムシの住民で、オピストルキス(肝吸虫)感染の有無を調べた所、30%が陽性だった。オピストルキス属に感染しているサムシ住民では、二核白血球内の小核と染色分体異常のレベルの増加が、コントロール群に比べて顕著なのがわかった。


はじめに

1993年4月6日に、シベリア化学工場で事故があった。(図1) その結果、シベリア化学工場の北の250 km2に渡る区域が様々な放射性核種によって汚染された。最も重篤な汚染は、シベリア化学工場の核施設から12kmの地点の、トミ川の傍にあるサムシ村で起こった。工場の外の最大放射能レベルは、0.4 μSv/hに達した。プルトニウム239のフォールアウトは特に危険だったが、セシウム137とストロンチウム90も微量に含まれていた。シベリア化学工場がトミ川に放射性廃棄物を捨てていたことが証明されたので、住民の体内への放射性物質の吸収は、土壌と大気からのみならず、水と魚にも見受けられた。1995年に制定されたロシア連邦の法律により、50 mSv以上の被ばくをした人々は、ある程度の特典と補償を受ける事ができるようになった。トムスク地方生態学委員会は、シベリア化学工場事故のせいでサムシ村の住民が受けた被ばく量を推定しなければいけないという問題に直面した。環境に放出されたほとんどの放射性核種がその時点で崩壊してしまっており、バックグラウンド放射線レベルが自然放射線レベルとほとんど変わらなくなっていたために、この住民達の被ばく量を決める事ができないのは明らかだった。委員会は、ロシアと海外の独立した専門家に、 遡及的なバイオドシメトリ(生物学的線量測定)の方法で被ばく量を推定するように要請した。染色体異常の分析は、最も確証されており、パワーを持つ方法である。また、細胞質分裂ブロック小核方法と、歯エナメル質の電子スピン共鳴(ESR)スペクトロメトリも用いた。

この調査の目的は、シベリア化学工場から放出された放射性核種による環境汚染の結果生じた少量の放射線量に被ばくしていた、サムシ住民の被ばく量の生物学線量推定だった。

図1 調査エリアの地図と1993年4月6日のシベリア化学工場事故から2−3日後の放射線レベル

材料と方法

放射線被ばくした人達とコントロール群の人達

サムシ村の住民264人(男性150人と女性114人)が、(事故後3−5日の間に)検査を受けた。この中で、職業被ばくや医療被ばく歴がある人はいなかった。このグループには、造船所の職人や、季節労働者、漁師、農民、教師と中学生や専門学校の学生が含まれた。季節労働者はサムシ村の定住民ではなく、シベリアの別の非汚染地域から出稼ぎに来ていた。1−3歳の乳幼児のグループもまた検査を受けた。同時に、シベリア化学工場から南へ42kmに位置するロスクトヴォ村(図1)の86人の住民を、条件を合わせたコントロール群としてモニターした。
どちらの場合でも、住民は問診票の記入内容から、居住区域、誕生場所、性別、喫煙歴、誕生とし、病歴、家族内で障害を持つ子供の有無、死産、癌、レントゲン検査と村での居住期間によってグループに分けられた。

食生活とビタミン摂取
被験者はそれぞれ、問診票で食生活について説明をした。この研究では、ジオヴァヌッチその他の方法に基づいて、食事ひとつひとつの質的および量的評価が行なわれた。問診票内の90品目の食べ物や飲み物は、一般的に使われる単位や分量が指定され、被験者は、その前年に、平均的にどの位頻繁に、その品目を摂取したかを質問された。被験者は、「摂取なし」から、「一日に6回以上」までの9段階の解答から答えを選んだ。また、マルチビタミンや個々のビタミンサプリメントのブランド名と摂取期間と摂取頻度、そして良く使われる油の種類も質問の一部だった。問診票はまた、表に載っていない食品の書き込み欄も備えていた。

栄養素摂取量は、各単位の食品の摂取頻度を特定の分量の栄養素レベルで掛けることによって計算した。特定のブランドのシリアルとマルチビタミンが摂取量の計算に使用された。(ビタミンA含有量は、シリアルのブランドによって、RDAの0から100%と幅広い。)ビタミンAの抗変異原性は放射線由来の染色体異常を減少する可能性があるために、被験者のビタミンA摂取量を計算した。レチノール(既に形成されたビタミンA)の摂取量は、乳製品のビタミンA効力(単位はIU)ではその3分の2と、他の動物性食品のビタミンA効力ではその全体として計算した。また、α−カロテン、β−カロテン、ルテイン、リコピン、β−クリプトキサンチンなどの、食品に含まれる特定のカロテノイド含有量も栄養素データベースに加えた。これらの他のカロテノイド栄養素に関しては、各食品に含まれる特定のカロテノイドの量を推測し、各食品からの寄与を足してその特定のカロテノイドの摂取量を求めた。問診票には、果物、野菜と関連食品が24品目載っていた(書き込み可能の空白欄無しで)。また住民は、地元の常緑樹(シベリアマツ)の実とグミ科(Hippophae rhamnoides ヒッポファエ・ラムノイデス、またはシーバックソーン)の低木のベリーも摂取した。(訳者注1参照)特定のカロテノイドを主に含む食品は次のようであった。
β−カロテン:ニンジン、ジャガイモ、ミックス・ベジタブル、ヒッポファエ・ラムノイデスのベリー
α−カロテン:人参、ミックス・ベジタブル
ルテイン:ほうれん草、ヒッポファエ・ラムノイデスのベリー、シベリアマツの実、ケール、からし菜
リコピン:ヒッポファエ・ラムノイデスのベリー
β−クリプトキサンチン:オレンジ

地元の魚の消費と肝吸虫感染症の検査
1961年と1994年の間に、シベリア化学工場が放射性液体廃棄物をトミ川に放出した結果、地元の魚がストロンチウム90、セシウム137やプルトニウム239などの長期寿命放射性核種によってかなりの汚染を受けた。故に、地元の魚の消費は、住民の間での主な放射能汚染源かもしれない。被験者各々は、魚が取れた場所と魚の摂取量を問診票で示した。さらに、オビとトミ盆地は、オピストルキス属によって起こる蠕虫病が風土病である最大の地域である。ほとんどの地元のコイ科(中間宿主)の魚は、この吸虫に感染している。メタセルカリア、すなわち被包されたオピストルキスの幼虫は、魚の筋肉の中に存在する。人間は、吸虫を含む魚を生食として、もしくは加熱が不十分な状態で摂取する事によって、オピストルキスに感染する。固有宿主(人間か捕食性の哺乳類)では、オピストルキスは慢性胆道炎や胆嚢炎を引き起こし、胆道癌や肝臓癌を引き起こすこともある。この調査では、被験者における感染の有無を、検便で蠕虫の卵を検査することによって診断した。また、便における卵の数を数え、個人における感染虫体量を評価した。

細胞遺伝子学的方法
実効等価線量は、不安定な染色体異常、二核リンパ球の小核と歯エナメル質のESRスペクトロメトリから決められた。調査用の検体は、シベリア化学工場事故から2−3ヶ月後の、1993年6月6日から7月6日の間に採取された。医学的な理由から臼歯抜歯を受けた住民の場合、細胞遺伝子学的分析のために採血が行なわれた。抜歯された歯は、モスクワの宇宙船放射線安全研究所に送られた。その歯の持ち主である被験者の末梢血液から、フィトヘマグルチニン(Difco, USA)と15%ウシ胎児血清を含んだRPMI-1640培養液(Sigma, USA)を用いてリンパ球が培養された。52時間の培養の後、標準的な染色体検査用プレパレーションと、細胞質分裂ブロック小核方法の標本が準備された。標準的なギムザ染色液が用いられた。細胞質分裂ブロック小核方法の標本には、二核細胞の頻度とその中の小核のレベルを評価するために、最後の24時間の間にサイトカラシンBが加えられた。

放射線被曝量は、IAEAが推奨するとおりに、Tリンパ球内での二動原体染色体の頻度の分析によって決められた。二核リンパ球の小核分析を用いた実効等価線量の評価にあたって、フェネチとモーレイの提案を取り入れた。一般的に、染色体異常の評価には1人につき分裂中期染色体1000の、そして小核の評価には1人につき1000の二核リンパ球が検査された。我々の実験室で計算した標準校正カーブを用いて、小核と二動原体染色体検査に基づいた実効等価線量を決めた。データの統計学的分析には、スチューデントt検定と分散分析を用いた。結果の統計学的分析には、SAS統計学的パッケージの中の方法を用いた。

歯エナメル質のESRスペクトロメトリ
遡及的な線量再構築は、宇宙船放射線安全研究センター(ロシア)によって開発された、「歯エナメル質ESRスペクトロメトリを用いた個人被ばく線量推定」(Individual Radiation Dose Determination Using Tooth Enamel ESR Spectrometry )の中の推奨に従って実行された。

ESR分析は、放射線被ばくにより発生したラジカル(不対電子を持つ原子)を検知するが、歯エナメル質と骨は、この目的に非常に適している。しかし骨では常にリモデリングが起こっていて簡単にアクセスできないため、今までは主に歯がESR研究で使われて来た。
歯エナメル質は歯の表面を覆っており、主にヒドロキシアパタイト(リン酸カルシウムから成る結晶構造の化合物)で構成されていて、代謝活動が全くない。歯エナメル質は、独特の無機物である。ESRの実験研究は1960年代から発表されてきているが、過去10年の間に、ESRは新たに注目されている。日本では、現在(訳者注:1999年当時)、大阪大学に籍を置く池谷氏が、ESR研究を積極的に進めて来た。
エナメル質を分離するのに、ディスク形のダイアモンド・カッターが流水と共に使われた(訳者注2)。これは化学的処理を伴わない、完全に物理的な分離である。エナメル質は、めのう乳鉢で粒のサイズが均一化されるまで(直径0.5–1.4 mm)粉砕した。マイクロ波強度は5 mWで、交流磁場の変調は周波数100 kHzと幅0.32 mTを用い、時定数の0.1秒で、16分間で磁場を10 mTまで変えた。エナメル質検体と、内部にあるマンガンのマーカーを同時に測定した。
ESR測定は、Xバンド専用のESRスペクトロメータ、BRUKER-ER-420とRadiopan-SE/X-2544を用い、PCでESRスペクトル集積プログラムを実行した。調査検体の付加照射(訳者注3)は、Start γ線照射装置(137Cs)またはそれに似た装置で、一分間に30 radの線量で行なわれた。照射線量は、放射時間とγ線源と検体の距離の調整によって得られた。ESRスペクトロメータと照射装置は、ロシア連邦のGosstandardにより認定された。246の検体の測定は、コンピュータープログラムのSTATGRAPHICS v.2.6を用いた様々な統計学的方法によったシステム化とコンピューター処理を受けた。統計学的分析によると、確率的分布密度は、Weibulの法則によって説明される。

 
分布パラメータは、 α = 1.47、λ = 43, 最頻値 12 cGy, 中央値 38 cGy と、算術平均値 39 cGyだった。
カイ二乗テストによって、実験結果と選択された近似分布の相関性がテストされた。
サムシ村の住民の被ばく量評価には、この地域の自然放射線量である年間0.1 cGyを考慮した。


表1 サムシ村とロスクトヴォ村(コントロール群)の住民におけるバイオドシメトリと細胞遺伝子学的モニタリングの結果
 

結果と考察

表1の結果に基づいて、サムシ村の住民のほとんどがかなりの被ばく量を受けたことが結論づけられた。これは、二動原体染色体と環状染色体を持つ白血球の末梢血液内での異常に高い頻度と、歯エナメル質のESRスペクトロメトリの結果による結論だった。またこれは、末梢血液内の二核Tリンパ球における小核のレベルの上昇によって間接的に証明された。これらの方法によって記録された実効等価線量(EED)の指数の間の相関性は統計学的に有意であった(P < 0.01, r = 0.78–0.82)。コントロール群では、実効等価線量の値は、自然放射線由来のものと変わらなかった。表1のデータによると、検査を受けた264人のサムシ村の住民のうち222人が、生涯に渡って自然放射線(年間0.1 cGy)にだけ被ばくする人において予測される数値に比べて、実効等価線量に明らかな増加を見せた。1993年4月6日にサムシ村にいなかった季節労働者全員の実効等価線量は、コントロール群と似ていた。1990年から1992年の間に生まれた子供達のグループでは、染色体分析では線量が10−20 cGyであると推計できたが、ESRスペクトロメトリの結果と合致しなかった。恐らく、子供達の造血幹細胞への損傷が継続的に高レベルの染色体異常に繋がった反面、歯エナメル質の変化の蓄積にはもっと時間が必要なのだと思われる。ESRスペクトロメトリ法は、漁師において実効効果線量の最も大きな増加を記録したが、細胞遺伝子学的方法では同様の結果が示されなかった。

実効効果線量の数値と、サムシ村の住民の性別や国籍には、相関性は見られなかった。また、実効効果線量と、住民における喫煙習慣 (r = –0.17, P > 0.05)、脂肪の摂取 (r= 0.24, P > 0.05) 、あるいはカロテン摂取 (r = 0.33, P > 0.05)とも相関性が見られなかった。実効効果線量の数値が高い人達は、肥満度指数(BMI)と代謝当量が明らかに減少していたが、これは高線量被ばくをした人に典型的である。葉酸、ビタミンB12やカロテンの不足は、人間でゲノム不安定性を起こすことが知られている。コントロール群と被ばく者群では、これらのビタミンの摂取量はおおよそ同じだった。この調査では、両グループ共に、ビタミンB12のレベルか葉酸の摂取と、染色体損傷の頻度に相関性を示さなかった。また一方、カロテンの摂取量と、二核細胞内の小核 (r = 0.68, P < 0.01) の頻度と染色分体の異常 (r = 0.61,P < 0.01) の頻度に良い相関性が見られた。(訳者注:カロテン摂取量と、小核の頻度と染色分体の異常の頻度の『減少』に良い相関性が見られた、という意味にとれる。)
さらに、サムシ村の住民の中で、カロテン含有量が多いヒッポファエ・ラムノイデスのベリーを定期的に摂取した人達では、二核細胞内の小核と染色分体の異常のレベルが低かった。しかし、二動原体染色体と環状染色体の頻度とカロテン摂取 (P > 0.05) には相関性が見られなかった。タバコの喫煙習慣と二核細胞内の小核のレベルの増加には、良い相関性があった (r = 0.56, P < 0.05) (図2) 。

 
図2 サムシ村とロスクトヴォ村の住民における二核リンパ球内の小核の頻度と喫煙習慣の関係

表1のデータによると、地元の魚を定期的に摂取した人達、特に漁師において、実効等価線量の増加が見られた。染色体と小核の検査によると、実効等価線量のレベルは、漁師でない人達で最大14.2 ± 0.9 cGyで、漁師では最大24.9 ± 1.0 cGyだった(表3)。これと同時に歯エナメル質のESRスペクトロメトリによって再構築された線量は、136.0 ± 3.8 cGyだった。故に、サムシ村の住民が受けた被ばく量の大きな部分は、トミ川で釣られた魚の消費によるものだった。我々の以前のデータによると、トミ盆地の魚と軟体動物は、シベリア化学コンビナートから川に放出された放射性廃棄物によって、様々な放射性核種の汚染を受けている。リクヴァノフによると、地元の魚における主な放射性核種は、放射性リンである。 地元の魚の摂取は、歯エナメルの中で放射性リンの蓄積を起こし得ると推測される。その結果、歯エナメル質のERSスペクトロメトリは、漁師で実効等価線量の最大の増加を示した。

図3 サムシ村の漁師と漁師以外の住民において細胞質分裂ブロック小核方法、染色体検査と歯エナメル質ESRスペクトロメトリにより評価された実効等価線量平均
サムシ村とロスクトヴォ村の住民でオピストルキス感染症の検査をした結果、30%が陽性だった。オピストルキスに感染しているサムシ村の住民では、二核リンパ球内の小核や、染色分体の異常と二動原体染色体のレベルに顕著な増加が見られたが、ロスクトヴォ村の住民では、二核リンパ球内の小核やと染色分体の異常に、比較的わずかな増加しか見られなかった(図4)。
図4 サムシ村とロスクトヴォ村のオピストルキス感染症陽性と陰性の住民における遺伝子毒性効果[二核リンパ球の小核、二動原体染色体と染色分体異常の割合(%)]の頻度 
故に、バイオドシメトリの方法全てから導かれた結果によると、実効等価線量の最大の増加は、オピストルキスに感染しているサムシ住民で見つかった。このデータは、この村の住民による放射性核種で汚染された地元の魚の消費に関連しているかもしれないと推測される。放射性被ばくを受けた人々での免疫抑制は、寄生虫に体する免疫力の障害と、再感染への人間の抵抗力の減少に繋がる可能性がある。
表1によると、実効等価線量が最大 (>90 cGy)  だったサムシ村の住民では、家系内での癌の症例にかなりの増加が見られ、さらに、感染虫体量が最も多かった (38.3 ± 4.2%)。オピストルキスは胆道癌か肝臓癌を引き起こす可能性があるが、これらの癌の症例は、このような家族においての放射性核種で汚染された魚の定期的な消費と感染虫体量の多さと関連しているかもしれない。
染色体分析と歯エナメル質のESRスペクトロメトリは、実効等価線量の最大量が年齢が高い住民で記録されており、明らかな勾配を示した。年齢が低くなるにつれて、実効効果線量も低かった。シベリア化学工場での最初の放射能事故は、1961年と1963年に起こった。これと関連して、放射線の蓄積は1961年に始まった。細胞遺伝子学的なテクニックとESRスペクトロメトリの結果によると、1961年前に生まれた人達の実効等価線量は、実質、1961年と1963年の間に生まれた人達と同じだった。この結果から、胎内か生後間もなくの時期の被ばくでは、高レベルの小核を持つリンパ球が、被ばく後大変長期間、持続する可能性があると言える。このデータは、また単に、年齢が高い人達は、もっと最近の1993年に起こった被ばくへの感受性がもっと高いと解釈することもできる。
染色体異常のレベルの分析により、二動原体染色体が必ずしも断片を伴わないことが示された。これは原則として、被ばく後にかなりの年月が過ぎてしまった時に起きる。サムシ村の住民の被ばく量には、2つの要因が主に貢献していると示唆できるが、これは1961年と1963年のシベリア化学工場での事故および、住民による魚の摂取である。1993年の事故の遺伝子毒性の重要性は低かったが、それでも1990年から1992年の間に生まれた子供達の染色体と小核の検査によって発見された。乳児において再構築可能な線量を細胞遺伝子学的な方法を用いて再構築した結果、1993年の事故は、住民に約10–20 cGyの線量を貢献したと言える。
培養された末梢リンパ球での染色体異常の推定は、0.5 Gy以上の均一な被ばくをした場合に利用される、一般的に認識されている生物的線量測定法である。しかしながら、低線量や慢性被ばくの場合は、細胞遺伝子学的検査を用いても、生物学線量測定とはまた違う、不十分なデータしか得られない。線量が0.5 Gy以下の場合にどのようにして染色体異常が誘発されるのかは、一般的に同意がかわされていない。最初の見解は、(電離放射線による染色体異常の発生の一般的な直線・二次曲線関係の一部とした)閾値なし直線の関係に起因する。他の見解によると、線量反応関係は低線量の色んな範囲で異なり、結果として、低線量における真の反応値は、高線量反応からの推定によって決められないと言う。それにもかかわらず、染色体検査による被ばく線量再構築は、最後の大気での爆発が30年以上前にあったセミパラチンクス核実験場の近くの集団においてうまく適応された。再構築された線量の相関性は、中村らによって、50年前に原爆の爆発からによる被爆者において同時に行なわれた染色体検査とESRスペクトロメトリによって示された。
集団の線量モデルによって得られた結果と歯エナメル質ESRスペクトロメトリで直接得られた測定値との食い違いの主な原因は、予期される汚染濃度と集団被ばく線量の計算モデルで使用された必要条件の限界のせいであるというのが、我々の見解である。今日のデータから過去の出来事を再構築するのは簡単な事ではない。再構築の問題点は、下記のベイズの定理によって数学的に表される。

 
この公式の左側は、徴候Aが観察される時に原因Hiが起こる確率である。 P(A/Hi) は、事象Hiと関連した徴候A が観察される確率であり、P(Hi) は原因Hiの事前確率である。
この定理のポイントは、今日見られる全ての観察にとって、P(A/Hi)は、原因P(Hi)の事前確率の値しか特定できないということである。この定理を使うと、再構築の多段階プロセスが調査されればされるほど、P(Hi/A)の事前確率の値のその存在自体への導入が増えると言える。相当の理由であるHi の数が増えると、P(Hi/A) の信頼度とその再現の正確さの両方が減少する。様々な方法での線量再構築の問題点に関しては、「放射能は1993年4月6日のシベリア化学工場での事故と関連している」(そして他に理由はない)という事前確率を共通に持つと言える。例えば、崩壊の娘核種の分析に基づいた線量再構築の方法は、フォールアウトの特徴、放射能雲の放射性物質の構成や崩壊系列などの導入が必要となり、いくつかの事前確率の導入が介入する。そのため、このような方法の信頼度が、直接的な線量測定と比べてかなり減少する。
ESRが化石の歯の年代測定に適応されることを考えると、歯エナメル質は非常に低線量で発せられた放射線量を蓄積するだろうと思われる。これは、人間の歯と言うのが、原爆の爆発のような急性被ばくだけでなく、放射線作業員や放射能汚染区域の住民のように繰り返された低線量や慢性的なγ線被ばくに対しての特徴のある自然の生物的線量計であると言えるかもしれない。歯のESRの不便さで重要なことは、歯が偶然抜けないと入手できないということである。反面、血液検体は誰からでも簡単に入手できるので、細胞遺伝子学的検査は個人の線量再構築にはもっと優れている。染色体異常のデータを慢性被ばくを受けている人達の線量再構築に用いることの欠点は、線量率係数についての情報が欠けていることである。理論上、直線・二次曲線モデルは、線量がとても低くなると二次曲線の部分が消えると予測している。故に、生体外で得られた染色体異常誘発の急性線量反応カーブの線形係数を使っても良い事になる。しかし、この論理を実証するためには、同じ被験者から、歯のESR測定値と染色体異常のデータを収集することが望ましい。また、このような問題もある。放射線被ばくから長い年月が経っても人体に残っている染色体異常は、安定型異常である。安定型染色体異常というのは、適切な検出にかなりの技術が必要なのが知られており、注意深くテクニックの標準化をしない限り検査機関同士での比較ができない。最近開発された、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH) テクニックは安定型染色体異常を検出するのに適しているが、この方法は高額である。最後に、普通の染色法(例えば標準的なギムザ染色法)は、FISH法に比べて70−80%の安定型染色体異常を検知できることを認識するべきである。しかし、普通の方法は、高額な試薬と蛍光顕微鏡を必要とせず、大規模調査には代用できる選択肢である。
様々な生体的線量測定法を同時に用いることにより、長期間に渡って人間において蓄積された微量の放射線の高精度な線量測定が、特に放射性核種が人体に取り込まれた場合に、可能になると提案する。

結論

このサムシ村の住民の実効等価線量の遡及的再構築は、不安定型染色体異常の測定、細胞質分裂ブロック小核法と歯エナメルのESRスペクトロメトリを用い、次のような結論を導き出すことができた。

*全ての調査結果によると、サムシ村の住民のほとんどが、自然放射線レベル以上の放射線量に被ばくした。
*最大の被ばく線量が見つかったのは漁師においてだったが、これは多分放射性核種で汚染された魚の消費によるものである。
*調査の結果得られたデータからは、1961年から1963年の間のシベリア化学工場での事故が、サムシ村の住民の被ばく量に大きく貢献していることが示唆される。
*オピストルキス感染症および喫煙習慣は、放射線被ばくをした住民としなかった住民両方のグループで、染色体損傷(小核を持つリンパ球と染色分体異常)を誘発し得る。
*カロテンを多く含む食品の定期的な摂取は、サムシ村の住民における染色体異常を減らしたかもしれない。

************
訳者注  

1 ヒッポファエ・ラムノイデス
 




3 歯髄を除去して有機物の信号を減らし、既知の放射線量を付加照射して信号強度の増大から被ばく線量を求める。http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-01-05-12


原子力施設からの放射能の放出による健康への影響:過去と現在からの教訓


スティーブ・ウィング: カルディコット財団ニューヨーク・シンポジウム講演書き起こ
し和訳


スティーブ・ウィング

ノースカロライナ大学 ギリングス・グローバル公衆衛生学部 疫学科 准教授
放射線影響研究所 被爆二世臨床調査科学倫理委員会委員 http://www.rerf.or.jp/news/pdf/3rdfcs.pdf


講演詳細
ヘレン・カルディコット財団主催 ニューヨーク・シンポジウム
福島原発事故の医学的・生態学的影響
2013年3月11日・12日
アーカイブ動画
http://www.totalwebcasting.com/view/?id=hcf
 
スティーブ・ウィング 講演動画
1 http://www.youtube.com/watch?v=JTUbtcanzJM
2 http://www.youtube.com/watch?v=m1P61cZEAQQ
3 http://www.youtube.com/watch?v=094qx-CfyrI




私の講演タイトルは、このシンポジウム全体のどのスピーカーにも当てはまるのではないかと思います。柔軟性のあるタイトルを選んでみましたが、少し的を絞って、原子力施設から放出される放射能の健康への影響をどのように推定するか、と言う事をお話したいと思います。

ご存知のように、一般的には2つのアプローチがあります。その2つを、論理的基盤を含めて認識し、比較したいと思います。一つは、リスク評価によるアプローチです。ある推定線量を使って、その推定線量を線量反応カーブで掛けることにより、結果として、特定の線量に対しての影響の数、事象の数や疾病症例の数を推定することができるというもの。もうひとつの方法は、疫学で、これは病気に対して何らかの調査をすると言うことです。そして、被曝した集団と被曝をしなかった集団での疾病率の違いを見ます。

まず、リスク推定または予測からお話したいと思いますが、これは既に明らかなことかもしれません。しかし、私達、誰もが知っている「様々な種類の電離放射線への被ばくの長期的な結果を見るための無作為人体実験は不可能である」と言うことを再確認することは、価値あることです。実験はできません。人体実験はできないのです。ですから、細胞研究か動物研究から推測するか、無作為化人体調査、すなわち、疫学調査をするしかありません。このどちらの方法にも、バイアスと選択という問題があります。測定エラーと選択です。もちろん実験にもバイアスはありますが、今日はその話には言及しません。

つい最近、この文書がWHO(世界保健機関)から発表されました。



 
これは既に、一番最近でイアン・フェアーリーにより、このシンポジウムでも紹介されています。これはリスク評価またはリスク推定です。去年、福島について作成された線量推定に基づいています。


また、原爆生存者の寿命調査に基づいてもいますが、寿命調査については、お聞きになったことがあるでしょうし、今からもう少しお話もします。この線量推定について、イアン・フェアーリーも言及したいくつかの点を強調したいと思いますが、線量の要素で無視されたものが多くあります。委員会は、福島第一原発から20キロ圏内での被ばく線量を評価しないことにしました。キセノンなどの放射性ガスを評価しないことにしました。胎児の被ばく量を評価しませんでした。それから、ヴェルテレッキー博士がすでに十分に紹介されたと思いますが、胎児の被ばく量は考慮しなくてはいけないと思います。

まず最初にお話したいのは、寿命調査のことです。1970年代の出版物に載っているために長い間で回っている情報を少しと、この90日間の間に放射線影響研究所とノースカロライナ大学の私達の研究チームから出たごく最近の情報をお見せします。



これらのグラフでは、広島と長崎での即死者数が、原爆の爆発の爆心地からの距離に関連して示されています。そして、私達が用いているリスク評価の基礎となっている研究は、原爆投下後、5年以上経過するまで開始されなかった、すなわち、多くの人々が研究対象として生存しなかった、ということを、特に指摘しておきたいと思います。仮に、原爆投下の影響による死亡率に、脆弱さと、その後の数年という年月のリスクが、もしも関与しているとしたならば、この集団からは、最も放射能感受性の強い人達は除外された、ということになります。そして、これらの都市の物理的インフラの崩壊、食料供給、水の供給、病院、広島が台風に見舞われたということ、健康な人達が生き延びた多くの要因があるということは、特に覚えておくべき重要な点です。

また、癌の発症率の調査は、このシンポジウムでも既に言及されましたが、1958年まで開始されませんでした。なので、放射線被ばく後の癌発症率の、寿命調査に基づいた推定のどれにも、被ばく後13年間に発症した全ての癌が含まれていません。そしてこれは、寿命調査からのリスク評価が福島県の集団と日本全体の集団を含むどの集団に適用されたとしても、除外されている、ということです。そして、短期の影響として特に大事なのは、胎内被ばくと、また、白血病や肺癌のような、潜伏期が短い癌です。

1970年代の書籍である「原子爆弾投下の物理的、医学的、社会的影響」からの情報を少しお見せします。これは、長崎の原子爆弾投下からの放射能の描写です。



震央または爆心地があり、ガンマ放射線と中性子放射線が爆発から発生し、数秒で全て消えました。しかし、爆発の下の地面から来ている矢印で示されているように、中性子放射化によって誘導されたγ線とβ線放射線などの他の放射線源があります。そしてここ、西山区では、特に放射能フォールアウトがありました。そして原爆調査に責任を持つ放影研は、誘導放射線かフォールアウトという2つの放射線源による残留放射線からの被ばく量を全く推定しないことに決めたのです。

フォールアウトはまた、広島でも問題でした。この地図では、広島のどこにフォールアウト、いわゆる黒い雨が降ったかが描写されています。


 
この両方の描写で、フォールアウトがあったのが主に爆心地ではないことに注意してください。それでは、誰がもっと影響を受けたことになるでしょうか?離れた距離に住む人達です。これは疫学調査では重要です。なぜかというと、ガンマ線と中性子の爆風からの直接の被爆量が最少の人達が、フォールアウトから不相当な影響を受けたからです。

爆発の後、何が起こったのでしょうか?誰がグラウンド・ゼロの近くに居たのでしょうか?

そこに行く前にまず、フォールアウト、すなわち黒い雨についての説明を終えましょう。実は12月に放影研からこういう報告が発表されました。

 

 
被爆生存者に黒い雨に遭ったかどうかを聞いたのです。そして、私達が使っているリスク評価の元となっている最初の分析では、86,671人の生存者のうち、大体12,000人が「遭った」と答えましたが、21,000人以上は遭ったかどうかが不明なのです。私が強調したいことは、データの欠損、データ欠如は、寿命調査の中の大問題であり、もっと調査されるべきなのに、半世紀の間無視されてきているのです。

放影研はまた、この12月に、左側の1950年から2003年の間の広島と長崎での死亡率と、右側の1962年から2003年の間の死亡率について発表しました。



 


そして、過剰相対リスクがゼロのグループは、フォールアウトに遭っていないグループであり、黒い雨に遭ったと報告しているグループは、広島と長崎両方で、どちらの期間であっても死亡率に違いがありません。しかし、黒い雨に遭ったかどうかが不明のグループでは、広島と長崎の両方で死亡率が過剰です。広島では27%で、長崎では46%です。そして、1950年から2003年の、(黒い雨に遭ったかグループと遭ったかどうかが不明なグループの間の)違いと比べると、1962年から2003年の間では違いがほとんどありません。これは、1950年から1962年の間に、黒い雨に遭ったかどうか不明な人達の間ので、非常に大きな過剰の死亡率があったと言うことです。そして、その時期は、後ほど説明しますが、大変重要な時期でもあります。


次に、早期入市者の話をしましょう。この人達は、爆心地の近くで誘導放射線に曝露された可能性がある人達です。この表は、放影研による、2日目と3日目に入市して12時間滞在した人達の被曝線量推定値です。1日目の被曝線量推定値はありませんが、誘導放射線が急激に減少したのは分かっています。



 
 
これは、ヨウスケ・ヤマハタによって長崎の爆撃の翌日に撮られた写真です。


 

注意して頂きたいのは、人々が実際にそこにいると言うことです。この人達は、爆心地で被爆した人達ではありません。他の場所から来た人達です。市内を歩いています。家族や親戚を捜している人もいます。私が長崎に行った時、被爆者の方と一緒に原爆記念館のツアーをする機会がありましたが、その人はこの写真の向かって右側の女性を知っていました。


 


その女性はまだ生存していると説明してくれました。5年程前の話です。この写真では、その女性は自分の母親を見つけた所でした。


でも、人々はそこに居たのです。そして、爆風に最も曝露された人達ではありませんでした。遠くから来た人達でした。それは、また、寿命検査で考慮されていないタイプの放射線への格差的な曝露なのです。


次にお見せするいくつかのスライドは、ノースカロライナ大学の私達のグループからのものです。広島と長崎での3つのグループの人達の、爆心地からの距離です。最初のパネルは近距離生存者、次のパネルは遠距離生存者、最後のパネルは被曝線量推定値が不明の人達です。ご覧になると分かるように、近距離生存者だけが被曝線量推定値が不明で有り得ます。



 
 
それはなぜかというと、放影研は、遠距離生存者には被曝線量推定値を決める詳細面接調査を強いらなかったからです。この人達は全員、被曝線量推定値の最低値を割り当てられました。これは、欠損した被曝線量と曝露の間に関連性を強いることになります。曝露されていないと、欠損被曝線量がないということです。長崎でも同じ事が起こりました。
 
 

では、これは、寿命調査に関してどのような意味を持つのでしょうか?この表は、1950年代には、全ての癌と白血病による死亡率が、被曝線量が分かっている被爆者よりも被爆線量が不明の被爆者での方が高かった事を示しています。ということは、ここで、高線量に被爆したグループから、死亡率が高い人達が除外されたことになります。もしも死亡率が高い人達を高線量被曝を受けたグループから除外したら、それは線量反応推定にどのような影響を与えるでしょうか?明らかだと思います。



それでは、次に進みましょう。でもその前に、この1950年から1960年代初期にかけての期間について、もうひとつだけお話しなければいけないことがあります。1950年10月1日に、被爆生存者全員が追跡調査に登録されました。しかし、その時に、生存者全員が十分な面接調査を終えておらず、被爆線量推定値を与えられていませんでした。被曝線量推定値の割り当てに必要な面接調査は、1965年まで続きました。しかし、放影研は、世界中の集団に適応されるリスク係数を推定する分析全てにおいて、1950年10月1日に登録されたけど実際には後日まで調査に加わらなかった人達も考慮しました。これは疫学研究者が言う所の、「イモータル・パーソン・タイム」です。これがどう影響するかというと、近距離生存者における発癌率の分母を過大にするのです。故にこれは、近距離生存者における発癌率の過小評価に繋がる現象のひとつです。バイアスの原因のひとつになります。これがどこかで発表されているかは分かりませんが、私達が米国疫学雑誌(American Journal of Epidemiology)で発表した論文内で言及されています。

さて、寿命調査に関しては、あといくつかお話することがあります。胎内被爆の発癌影響についての情報がありませんが、これは明らかに大変重要です。胎芽と胎児は、おそらく子供よりももっと、放射線の発癌影響に敏感です。しかし、寿命調査ではそれに関連する情報が全くありません。それなので、その影響は、普通出回っている被曝線量推定値に全く考慮されていません。

では次に、4つの疫学調査について簡潔にお話したいと思います。私のここでのメッセージは、原爆被爆者の寿命調査に基づいて何が予想されているか、そして疫学調査では何が見られたかということです。

これは、昨日講演をしたデイヴィッド・ブレナーのグラフですが、寿命調査の線量反応推定に基づいて癌の死亡率の増加を見つけるために生涯追跡調査をしなければいけない人数の推定です。ご覧になると分かるように、この推定では、50mSv以下の低線量だと、何十万人から何百万人の人が必要になります。




私が最初にこれを知ったのは、1998年に放射能関連の研究に携わり始めた時ですが、その時、放射線被曝量が個人線量計でずっと初期からモニターされていた、オークリッジ国立研究所の作業員の死亡率の研究を割り当てられました。この写真では、作業員が自分の線量計を該当の場所に戻しているのが分かります。

そして、この集団のサイズが小さ過ぎるのと被曝量が少ないために、何の影響も見つからないだろうと言われました。なので、この分野での優位な知識との私の最初の出会いというのは、ほんの20年あまりの潜伏期の後に、線量反応関係が見つかっていた時でした。線量計の数値が高くなるにつれ、作業員の発癌率が高かったのです。しかし、それは不可能であると、最初に言われていました。

チェルノブイリについては、多くのことが既に語られました。事故から5年後にIAEA(国際原子力機関)によって発表された、この1991年の文書からの文章に注目して下さい。



「プロジェクト・チームによって推定された被曝線量と現在受け入れられている放射線リスク推定に基づいて、癌や遺伝的影響の自然発生率を超す将来の増加は、大規模で良くデザインされた長期の疫学調査においてさえも、認識するのが困難であろう。」

そして、今日と昨日とで、多大な情報を学びましたが、これは実現しませんでした。このグラフは、あまり詳しくお話しませんが、甲状腺癌の調査からのもので、甲状腺エコー検査の情報を含んだ個人被曝線量推定値のグラフです。




発癌影響が有り得ないと言われた、また別の核事故は、1979年のスリーマイル島事故でした。1979年のスリーマイル付近の様子が分かるように、ボブ・デル・トレディチの著書、「スリーマイル島の人々」から、いくつか写真を紹介します。  

              
 
人々は、原発のかなり近くに住んでいました。多くの人々が、皮膚が赤くなったり、ペットや動物が死んだり、吐き気・嘔吐や脱毛ということを経験しましたが、これはストレスのせいだと言われました。

ストレスは大変重要であると思いますし、スリーマイル島の人達は大変なストレス下にあったと思います。しかし、医学文献を調べた所、住民の症状の報告は、ストレス誘発性の急性影響、いわゆる医学文献で言うところの集団ヒステリーのシナリオと符合しませんでした。だから、地元の病院から集めた、1975年から1985年の癌発症率のデータと調査員による被曝線量推定値を再分析しました。すると、見つかった事があります。ひとつ指摘したいのは、この調査は、良く知られている出来事では大きな懸念である問題の検出バイアスを避けるようにデザインされていました。人々は症状を早く報告し、診断検査も多く受けます。なので、このような出来事の後の疾病発症率には、検出バイアスの効果があると予期できます。この調査の対象者は全員、10マイル以内の住民でした。全員が、同じ検出バイアスに晒されました。このグラフに調査結果が示されています。



地域の放射能レベルは、緑がとても低い数値で、深い赤が高いレベルで表されています。棒は、事故から2〜7年後に起こった肺癌の相対率を示しています。何が大変明らかかというと、肺癌の発症率は、放出からのプルームが事故後最初の数日に向かうと予測されたプルームの方向に向かって劇的に増加しました。ここでも、リスク予想は、影響が見つからないだろうということでした。

次に、現在、国立科学アカデミーが現在興味を示しているトピックである、通常運転中の原子力発電所の調査のお話をしたいと思います。昨日講演をしたティム・ムソーは、そのパネルのメンバーです。これもまた、予想は通常運転中の原発の近くの人達で癌は見つからないだろうということでした。欧州での調査のような調査は、米国では行なわれた事がありません。例として、ドイツでの小児白血病の調査をお見せします。これは、16箇所の原発の周辺の調査地域です。



 
この表を見ると、0歳から5歳のグループで、0〜5km圏内でのレート比、相対リスク、またはオッズ比はここでは全部同じ意味ですが、それがこれらの地域を集合的に見ると、もっと遠い地域と比べて小児白血病発症率が2倍以上であると分かります。
 
 

どのケースでも、比較対照グループは別の場所からではありません。調査のケースもコントロール群もまた、同じ地域からです。著者達は、「ドイツの原子力発電所の近くでの放射線被曝は[医療被曝の年間平均値の]1,000分の1か100,000分の1なので、距離との関連の傾向が見られた理由は説明ができない。」という結論を出しました。

そして、私は、今朝ヴェルテレッキー博士からお聞きしたことを繰り返しているように思えますが、原爆被爆者の調査からの予測に適合しないために、これまでに行なわれた研究から何の結論も出す事ができません。昨日、ブレナー博士が、放射線リスクを、暴力による死や、福島の地震や津波による死と比較しました。そして、それは一理あると思います。しかし、私は敢えて質問します。放射線による死と、不慮の暴力、事故や災害による死との違いは何なのか。そして、エネルギー生産と医療被曝の違いは何なのか。エネルギー生産は、大変利益が高いです。そして、それは、多くの場合、核エネルギー産業を元々作った、核会社や核兵器請負業者と繋がりがある政治家による、公共の決断です。公衆の教育が議論されており、私は、はい、公衆の教育が必要であると議論します。放射能についてだけでなく、科学と市民生活についてもです。なぜなら、私達の科学というのは、政治システムに影響されているからです。福島では、疫学調査に関しては、今日ここで私がお話した他の疫学調査や、他の講演者に言及された調査と比較すると、さらにチャレンジがあるでしょう。これらのチャレンジのいくつかは、地震と津波があったという事実と関連しています。そして、生活の状況が多大に妨害されました。多くの避難移動がありました。人々は動き回っていました。疫学調査では重要で不可欠である個人の被曝線量推定は、もっと困難になります。イアン・フェアーリーがつい先ほど、乳児死亡率の傾向を見せましたが、他の経時動向を探すこともできます。放射能だけがこの出来事の後で異なっていた事象でないということを忘れないようにしましょう。人々は動き回っており、移住しており、食生活が影響され、医療サービスが影響され、亡くなった人もいました。何千人もの人達が亡くなりました。これが全て同時に発生しており、放射能の影響を他の影響から区別するのは困難になります。

私が大変重要であると思う事のひとつは、研究を行うこと自体にリスクがあるということです。研究は、影響がそこにあるにも関わらず、影響を検知することができないようにデザインをすることが可能です。これは、被曝した集団が理解するべきことです。なぜかと言うと、もしも科学から助けを得ようとするのなら、科学は完璧ではなく、完璧な状況で行なわれることもない、と言う事を理解しなければいけないからです。

また、昨日と今日、科学におけるバイアスと客観性についてのコメントがありました。私は、ここに、主な脅威は批判的思考の欠如である、という考えを残したいと思いますが、これには、自己批判的思考も含まれます。このシンポジウムの興味の対象である分野において問題となる主軸のひとつは、権威に疑問を持たないということです。その良い例は、法的状況、労働者補償や、福島事故による健康影響の推定までに始終、毎日のように適応されている、寿命調査です。権威というのは、仕事へのアクセスや、研究費、プロフェッショナルな会合や雑誌をコントロールするため、大変大きな問題です。ティム・ムソーが昨日、この事について話しました。私達がやろうとしていることは、大変難しいことです。簡単ではありません。

そして、福島の影響の情報をさらに得、集団への影響をもっと学ぶほどに、心に留めておいてほしいことがあります。それは、狭い視点から構築された研究仮説、すなわち、被曝した集団で何かの状況の過剰な発生があるだろうという仮説ですが、それを、私達の別の興味の対象である、全体的な分析と間違えないようにするということです。

「原子力は良い政策か?」というようなことは、また別の質問です。

もしも原子力が悪い政策であるならば、どの研究も過剰な発癌を見つけなければいけないと言うわけではありません。

それはまた別の質問です。

これをもって、私の講演を終わらせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。




*****

訳者よりの追記

ニューヨークでの講演を聴いた時に、講演の最後の部分に衝撃を受けた。

『福島の影響の情報をさらに得、集団への影響をもっと学ぶほどに、心に留めておいてほしいことがあります。それは、狭い視点から構築された研究仮説、すなわ ち、被曝した集団で何かの状況の過剰な発生があるだろうという仮説ですが、それを、私達の別の興味の対象である、全体的な分析と間違えないようにするとい うことです。

「原子力は良い政策か?」というようなことは、また別の質問です。

もしも原子力が悪い政策であるならば、どの研究も過剰な発癌を見つけなければいけないと言うわけではありません。

それはまた別の質問です。』

ウィング氏は、疫学研究者として様々な放射線被ばくの状況を調査した立場からの意見を述べているが、こういう見方もあるのかと、目から鱗が落ちた感じだった。

ウィング氏が述べているのはこういうことなのだと思う。

「もっとフラットにニュートラルに見るべきだ。被ばくしたから癌であると初めから色眼鏡を使って近視眼的にものを見てはいけない。同時に、逆説的にそれが原子力はいい政策かと飛躍させることは違う。もっと様々な角度から研究しろ。」

疫学研究者としてスリーマイル島の住民の健康被害の調査も行なったウィング氏は、放射線被ばくによる健康影響が「科学的に」証明しにくいのは、その「科学的証明」となるものが「発癌の増加」であり、その元となっている原爆被爆者の寿命調査自体に不明な部分が多いためであると指摘している。

放射線被ばくと健康影響の因果関係を証明するのが困難なのは、現時点では発癌のみが健康影響として考慮されているからであり、それすらも、研究デザインによっては証明できないようにすることが可能である。そのようにして、人々は、原子力の使用は安全であると思い込まされて来た。

原発事故が起こってしまった日本のみならず、世界中の人々の健康を人工放射性核種から守るためには、被ばくによる健康影響を認識、証明していかなければいけない。それにはまず、その健康影響自体が原子力を推進する諸機関や各国の政府から認識すらされていないことが一般認識にならなければいけない。

そういう意味で、ウィング氏の講演は非常に大切だと思う。

慢性被ばくの影響の病理メカニズム: 感染症、ホルモン機能障害、放射線白内障、脳におけるセシウム蓄積


 「電離性放射線の神経精神的影響」A.I. Nyagu and K.N. Loganovsky著
第6章 慢性被ばくの神経精神的影響 より抜粋和訳
http://www.physiciansofchernobyl.org.ua/eng/books/Niagu/pdfs/Chapter6Rev.pdf 
(下記はこの章の英語の解読後に、抜粋和訳をしたものである。)

1963年に、慢性被ばく症は疫病分類学的に別のカテゴリーとして認識するべきだと主張された。慢性被ばく症による損傷は、放射性物質の放射線の影響と化学的毒性の両方に特徴づけられると言われた。局所感染や全身感染の増加は、免疫力が弱まった体の抵抗力の低下による、慢性被ばく症の通常の合併症であると言われた。

電離性放射線が様々な器官や組織の器質細胞に直接的影響を与えた後に、硬化状態が起こる。直接的な線量依存性がみられ、線量の閾値は1Gyから5Gyである。

ホルモン機能障害は直接的な線量依存性を持たず、閾値は0.01−0.1と低い。内分泌系疾患は、間接的なメカニズムの結果として現れる。きっかけとなるのは、放射線によって誘発される生殖腺、甲状腺と副腎の構造と機能の最初の抑制と損傷である。これらの変化は全ての内分泌器官でみられる。放射線被ばくによる後期の影響は、記憶低下、疲れやすさ、めまい、大脳皮質の主要プロセスの不安定さと衰えや、神経痛である。

内部被ばくによる放射性白内障の発生の可能性についての研究は特に興味深い。ストロンチウム89、ストロンチウム90、やポロニウム210が体内に取り込まれた場合に白内障が増加すると言うデータがある。ストロンチウム白内障というのは、次のように発生する。ストロンチウムとカルシウムには化学的相似性があるため、器官や組織の中でカルシウムのように分布する。普通の水晶体のカルシウム濃度は10mg/dLである。虹彩のカルシウム濃度は39mg/dLと高く、脈絡膜では63mg/dLと特に高い。白内障発生において、水晶体内のカルシウム濃度が普通の5倍以上に上昇し、50mg/dLに達するかもしれない。ストロンチウムも同じような割合で存在し得る。ストロンチウムは、体内に取り込まれたあと、常に水晶体に堆積し、ますますたくさん、水晶体内にしっかりと固定される。水晶体の損傷は、β粒子が虹彩と毛様体をターゲットとすることによって起こる。ポロニウム白内障の特異性は、水晶体の前極の基本的な位置が変化することである。これは、α放出核種であるポロニウムが、主に毛様体の網内皮に堆積するためである。

強直性脊椎炎や結核の治療としてラジウム224の静脈内注射を受けた患者において、白内障発症の増加がみられた。白内障の確率は1から4.5%であり、ラジウム放射線治療後の7年から26年後の発症であった。ラジウムは、虹彩の色素細胞に濃縮し、α線が水晶体細胞の分裂を変える事によって白内障が発生すると思われる。白内障発生において、内部被ばくと外部被ばくによる違いはみられなかった。

ラジウムが、毛様体、脈絡膜や虹彩などの目の色素組織へ堆積することにより、水晶体上皮の、分裂可能な細胞がある胚ゾーンがα線に被ばくすることになる。これらの細胞は放射線感受性が強い。水晶体線維を作る。放射線被ばくはこれらの細胞を変性させ、水晶体の後極で白内障が発生する。これと同じ様な影響は、体内に取り込まれたプルトニウム同位体や、ラジウム224がラドン220に、そしてラジウム226がラドン222に崩壊する時に放出されるα線が水晶体上皮に浸透する事によっても起こる。50年間絶えず取り込んだ場合、目の色素細胞における線量はラジウム224で1.7-8.7Gy、ラジウム226で12-62Gyであり、プルトニウム239で0.1Gy以下である。中枢神経系による、骨に親和性を持つ放射性物質の慢性的な取り込みは、骨格系よりの放射線被ばくによって起こる。この場合、最大の被ばく線量を受けるのは脳下垂体である。脳下垂体腫瘍の、コントロールグループよりも多い発症は、ヨウ素131、 アスタチン211、ストロンチウム90、セリウム144、プロメチウム147、ルテニウム106、ニオブ95、アメリシウム241、カリホルニウム252、プルトニウム239とプルトニウム238のような放射性物質の取り込みの晩発影響でみられている。

脳内でのセシウム蓄積率はカリウムの2.5倍から3倍であると言うデータがある。この場合、カリウムとセシウムは体内で競い合っていない。すなわち、カリウム代謝はセシウム代謝と独立していると言う事である。一日に620Bqのセシウム137を3ヶ月間摂取したラットでは、同量を1ヶ月間摂取したラットよりもセシウム137の脳内蓄積量が25%多かった。研究によると、セシウム137の全身蓄積量合計の0.2%から0.5%がラットの脳に蓄積していた。一日に1,200Bqのストロンチウム85を摂取したラットの脳内蓄積量は高くなかったが、これはおそらく半減期(T1/2=64.8日)が短いためだと思われる。研究の結果、脳は放射性物質、特にセシウム137を蓄積する能力があるとわかった。

山下俊一氏は、なぜグラフを改ざんしたのか?


福島県の放射線リスクアドバイザーであり、福島県立医科大学副学長(当時)の山下俊一氏は、2013年3月11日にメリーランド州ベテスダで開催された米国放射線防護測定審議会議会の年次総集会で基調講演を行なった。

NCRPのサイト 

山下氏の基調講演の動画
山下氏の基調講演のパワーポイント講演資料PDF 

山下氏の基調講演の完全書き起こしおよび和訳

山下氏の講演パワーポイント資料では、カーディス氏他による2005年の研究論文「子ども時代のヨウ素131への被ばく後の甲状腺癌のリスク」内のグラフが使用されていた。山下氏はこの研究論文の共著者の1人であり、使用されたグラフは、729ページ目の「図2: 11の線量区分で推定された区分別オッズ比の最適なリスクモデルによって予測されるオッズ比(ORs)の比較」である。

 
カーディス論文の727ページ目には次のように述べられている。
「図2では、被ばく線量を関数としたオッズ比の変動が表されている。強い線量反応関係(P<.001)が観測された。オッズ比は、1.5~2グレイの線量までは直線的に増加するようであったが、それ以上の線量では横ばいになった。統計的に有意なリスクの増加は、0.2グレイ以上の被ばく量区分すべてで見られた。
 これらのデータを最適に表す統計モデルは、1グレイまでの過剰相対リスク線形モデル(注:カーブ③)、2グレイまでの過剰相対リスク線形モデル(注:カーブ②)、そして全線量域での過剰相対リスク線形-二次モデル(注:カーブ①)である。しかし、図2でみられるように、後者のモデル(注:カーブ①)は、2グレイ以下でのリスクを過小評価する傾向があった。」


これが、山下氏のパワーポイント講演資料スライド12「チェルノブイリ付近での小児甲状腺癌リスク」内のグラフである。


 

これがカーディス氏のグラフである。



 

山下氏は、最適のモデルのひとつだとみなされたカーブ①:全線量域での線形−二次線量反応モデル(過剰相対リスク線形-二次モデル)を除外した。このカーブが「2グレイ以下でのリスクを過小評価する傾向があった」からなのか?

山下氏の基調講演の動画では、このスライドに関しては次のように述べられていた。(山下氏の英語発言からの意訳)
「他のケース・コントロール共同研究によると、甲状腺癌が放射性ヨウ素の線量反応的に増加するのが明らかにわかります。このようなデータは、近年、米国・ベラルーシ、そして米国・ウクライナのコホート研究によって確認されています。甲状腺被ばく量の線量反応性を理解することは本当に大切です。」

このスライドは、甲状腺癌のリスクの線量反応を示すために使われたと思える。

チェルノブイリ事故後と福島事故後の出生率や死亡率のデータを分析してきたドイツの物理学者アルフレッド・ケルプラインは、山下氏のグラフのデータポイントを、元のカーディス氏のグラフのデータポイントと共に図示した。


 


山下氏がカーブ①を除外した理由は明らかではない。さらに、図自体を「改ざん」しているのに、スライド内で元論文を引用するのが適切なのかという疑問が残る

これは研究者として倫理的だと言えるだろうか?

海外の研究者達とのメール交換では、倫理的とは言えないということで意見が一致した。カーディス氏には、この件について何度もメールを送ったが、返答はなかった。

山下氏が独自のグラフを作成しながらもカーディス論文を引用したことについてどのように思ったかをケルプラインに尋ねた。返事は、「これは
ごまかし、もしくは詐欺、と呼べると思う。」だった。








浪江町の道路のダストの放射能分析


大西 淳氏が採取したダストサンプルが米国で分析されたので、その結果をここに公表する。

大西氏より:
この検体を採取した正確な場所は、経度緯度情報で「37.4752 140.9461」です。
住所はビデオの冒頭、電信柱の表記で確認できます。
 浪江町小野田字清水102-1 
 清水寺前(せいすいじ)前です。

 
2013.4.1より浪江町の警戒区域が再編され『避難指示解除準備区域』『居住制限区域』
『帰宅困難区域』に指定されています。

浪江町小野田地区は『居住制限区域』に指定されていて、許可等を受けなくても立ち入りが可能な場所です。検体採取地点の西にすすむと50mほどで通行止めのバリケードがあり、『帰宅困難区域』となります。

ビデオ (86.09μSv/h 浪江町小野田 路上ホコリの上1cmで 2013.4.6 )
 "2013.4.6 Namie street dust 86.09 μSv/h at 1 cm above ground"

チャンネル(Truth we must face)

大西 淳

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浪江町の道路のダストの放射能分析

2013年5月31日



マルコ・カルトーフェン
ボストン・ケミカル・データ・コーポレーション

米国マサチューセッツ州ワーチェスター市
ワーチェスター・ポリテクニック研究所
土木工学・環境工学部

メールアドレス: Kaltofen@wpi.edu


アブストラクト

福島第一原発事故現場から約10kmに位置する道路のダストのサンプルを受け取った。この道路は、福島県双葉郡浪江町にある。ここは『居住制限区域』内であり、『帰宅困難区域』のすぐ傍である。ダストのサンプルは、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析(SEM/EDS)、そしてNaI(ヨウ化ナトリウム)ガンマ線スペクトルメーターを用いて分析された。ブルーセンシティブなX線フィルムを用いたオートラジオグラフも用意された。サンプルからは、Cs-134とCs-137が合計で1,500 Bq/g、そしてCo-60が0.3 Bq/g検出された。オートラジオグラフィーによると、このサンプルの放射性は均一していた。走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析によると、ミネラル物質の大きめの凝集体の合間に、核分裂生成物と思われる粒子が広範囲に渡って分布しているのが分かった。

紹介と方法

浮遊ダストは高濃度の放射性同位体を含む単離した個々の粒子として放射性物質を運ぶことができる。ダストのサンプル内での個々の粒子の比放射能は、周囲の粒子よりもかなり高い場合がある。この比放射能が高い粒子はホットパーティクルと呼ばれ、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析 (SEM/EDS)を用いて単離した上で分析できる。

浪江町のダストサンプルの一部は、導電性テープを用いてガラスのスライドの上に固定され、炭素でコーティングされて、LEO/BrucherのSEM / EDSシステムを用いて走査された。電子顕微鏡分析は、リチウムドリフト型シリコン半導体検出器を用いて行なわれた。SEM/EDS分析はすべて、マサチューセッツ州チェルムズフォード市のMicrovision Labsで行なわれた。電子ビームの電流は0.60 nAmperesで、0.5以下から60 keVの電圧で加速された。後方散乱した電子が検出され、相互作用する原子核の原子番号によってコントラスト画像が決まる。電子ビームとの相互作用により励起状態になったイオンから特定X線が放射される。この特定X線は、リチウムドリフト型のシリコン検出器で検出される。

SEM/EDS では、元素の原子核が安定しているか不安定(放射性)であるかの区別がつない。粒子に放射性物質が含まれているかどうかを決めるには、さらに情報が必要である。ウラン、トリウムやプルトニウムなどの元素では、放射性同位体しか知られていない。鉛、イットリウムと多くのレアアースのような元素は放射性と安定同位体両方が知られている。安定同位体と放射性同位体の両方を持つ元素では、ガンマ線スペクトロメトリによって大量の粒子状サンプル内での放射性同位体の存在を確認できる。この分析では、最初のガンマ線スペクトロメトリ解析は、10〜2060 keVの測定範囲と銅と鉛の多重遮断を持つ、AmptekのCdTe(テルル化カドミウム)ガンマ線検出器とマルチ・チャンネル・アナライザーを用いて行なわれた。実験室での詳細なガンマ線スペクトロメトリ解析は、Ortechの2インチのNaI(ヨウ化ナトリウム)ガンマ線検出器と鉛遮断を用いて行なわれた。

結果と考察

この分析では、損傷を受けた核燃料から放出される核分裂生成物に焦点を当てた。福島県で放射能汚染されたダストで最もよく見つかる核分裂生成物にはセシウム134とセシウム137が含まれる。原子炉から生じる副産物には、重い元素(原子量125〜155)と軽い元素(原子量80〜110)がある。これらの中には、軽い放射性同位体である元素のイットリウムや銀、そして重い同位体であるスズ、アンチモン、セシウム、セリウム、ネオジム、ランタンなどがある。SEM/EDSにより、これらすべての放射性同位体が10μmほどの微粒子として、このダストサンプルから検出された。この少量(100 mg)のダストサンプルからSEM/EDSで検出された粒子は、例えば、トリウムを含むレアアースの粒子、チタン酸鉛とイットリウム・ランタノイドの粒子などであった。これらは、2μm〜10μmのサイズだった。

道路のダストはまた、ヨウ化カリウムガンマ線スペクトロメトリでも分析された(図1参照)。サンプルからは、オートラジオグラフが用意された(図2参照)。ガンマ線スペクトロメトリでは、100 mgのサンプルで、放射性セシウム(セシウム134とセシウム137)とウラン娘核種がが合計153 Bq検出された。これは1グラムにつき1530 Bq、すなわち、1.5 MBq/kgということになる。コバルト60は0.3 Bq/gだった。ガンマ線スペクトロスコピーによって検出されたウラン娘核種で最も多かったのは、ラジウム226だった。(図1参照)

ダストサンプルには、鉛、イットリウムと様々なレアアースとトリウムを含む粒子が大量に含まれていた。これらの鉛とレアアースの粒子の中には、1〜2μmという吸入可能なサイズ範囲のものがあった。(図3、4、5の例を参照)

このダストは、福島第一原発周辺の「帰宅困難区域」から50mほどの場所で採取された。たまに、風に飛ばされた黒い堆積物で、放射性セシウムや他の放射性同位体の濃度が普通よりも高いものが少量見つかったとの報告がある。今回は初めて、周囲の土壌やダストと明らかに異なって放射能レベルが高いサンプルを検査することができた。このサンプルからは、我々の実験室がこれまでに分析した200あまりのダストと土壌のサンプルの中で、最大のラジウム226が検出された。

検体が単独(そして微量)のダストサンプルであるために、この分析には限度がある。このサンプルが浪江町全体を代表するというわけではない。このデータが示しているのは、道路のダストで単離されたものが、周囲の一般的な状況よりもはるかに高い放射能レベルに達することができるということである。

単独のサンプルからは、なぜ少量の道路のダストサンプルの放射能汚染が周囲の物質と比べてひどかったのかを説明できるデータを十分に得られない。明らかに、何らかの環境的メカニズムによって、この放射能汚染度が強いダストが、土壌に分散したり雨で流されたりせずに分離されたままの状態にある。この放射性ダストが分散しにくいと言うことを考慮すると、この分析からは、小さくて局部的な放射能ホットスポットが、東日本大震災とその後の放射能漏れから何ヶ月も何年も経ってからでも持続し得るということが示唆される。

著者開示告知

著者は、経済的利益相反が存在しないことを宣言する。著者はこの分析で使用されたサンプルの提供者である大西淳氏の努力に対して深謝を述べる。


図1:浪江町の道路のダストのヨウ化ナトリウムガンマ線スペクトラム



図2:浪江町ダストサンプルのX線フィルムのオートラジオグラフ(右)とスケール化された天然色スキャン(左)  




 
図3:大きな塊の中に埋め込まれている鉛の粒子の、ロビンソン検出器を用いた走査型電子顕微鏡写真と、粒子の元素構成比率のグラフ






図4:大きな塊の中に埋め込まれているトリウムを含んだ粒子の、ロビンソン検出器を用いた走査型電子顕微鏡写真と、粒子の元素構成比率のグラフ



図5:大きな塊の中に埋め込まれているイットリウム・ランタノイドの粒子の、ロビンソン検出器を用いた走査型電子顕微鏡写真と、粒子の元素構成比率のグラフ




カルトーフェン報告書和訳 平沼百合
PDF https://docs.google.com/file/d/0B3fFCVXEJlbvYURON25Bamp3akE/edit
カルトーフェン報告書英語PDF https://docs.google.com/file/d/0B3fFCVXEJlbvbTFUdWFoekRhaDQ/edit
英語記事 http://fukushimavoice-eng2.blogspot.com/2013/06/radiological-analysis-of-namie-street.html


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