(この記事は、2013年1月27日にFukushimaVoiceオリジナルバージョンに掲載されました。)
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衆議院チェルノブイリ原子力発電所事故等調査議員団報告書
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チェルノブイリの長い影〜チェルノブイリ核事故の健康被害〜
(研究結果の要約:2006年最新版)
ウクライナ国立軍事医学研究協会 シニア・フェロー Dr. Olha V. Horishna著
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「チェルノブイリの長い影」の77ページからの「妊娠女性ー胎児ー子供間の関係」の部分の和訳がちょっと分かりにくいので、分かりやすくまとめてツイートしたものをここにまとめました。
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低線量放射能が、妊娠女性とその胎児や子供、胎児の子宮内での発達過程、先天性出生異常の頻度および原因に及ぼす作用は、チェルノブイリ事故後の重要問題のひとつである。
ウクライナの小児科・産科・婦人科学会研究所(POG)の研究チームは、低線量放射能汚染区域に居住する妊娠女性を対象に、大規模な臨床スクリーニングを実施した。ブリストル大学との共同研究により、事故後の妊娠女性の胎盤の放射性核種濃度を明らかにした。
胎盤の放射性核種濃度を詳細に解析したことにより、胎盤の隔膜の変化、栄養障害過程の存在、ならびにアポトーシス(細胞壊死)の兆候がある細胞の数の増大を明らかにすることができた。これらの因子はいずれも、妊娠中の様々な周産期異常の発現をもたらす可能性がある。
妊娠女性の胎盤内と胎児の臓器内の放射性核種濃度:母体内のCs137が0.74ー1.27Bq/kg。胎盤内Cs137=3.48Bq/kg、α=0.9Bq/kg。胎児の肝臓、脾臓、胸腺にCs。歯にα核種。 pic.twitter.com/jn9JDwSX
ウクライナの比較的汚染の低い区域に居住する妊婦は、産科的病変・周産期的病変の発症リスクが高いグループとみなされ、流産、鉄欠乏性貧血、子宮出血、貧血、子宮内の胎児の低酸素症、妊娠中毒症などの合併症の可能性大。33.6%で子宮内の胎児の発育停止。
ベラルーシの研究(バンダジェフスキー)では、胎盤が胎児よりはるかに大量の放射性物質を濃縮したと判明。中枢神経系の異常は、先天性出生異常の最も大きな割合を占め、他の先天性出生時出生異常の場合よりも胎盤の放射性物質濃度が極めて多かった。
幼少期に甲状腺被ばくを受けた女性の方が、特に胎児が女児の場合に妊娠中の合併症を多く発症した。比較的汚染の少ない区域の居住者より、胎児の発育遅延頻度が高かった。男児は出生時に肥満の割合が多かった。妊娠中のカルシウム欠乏が増え、1/3が母乳不足だった。
女性の生殖器の放射能感受性は、幼少期と青年期の被ばくに対して極めて高い。高齢になってから生殖器系の病気を発症する頻度は、幼少期に受けた放射線負荷線量による。幼少時に被ばくした女性が生理的に妊娠する可能性はわずか25.8%だった。
高放射線量区域の居住者は、比較的汚染の少ない区域の居住者に比べて、新生児の出生時の体重が桁外れに高体重か低体重だったが、これは子宮内での発育中にホルモンのバランスが崩れていたからであった。出生時の体の発育速度が速いと、後の発育過程が減速する。
ウクライナの妊婦の胎盤と胎児の臓器(管状骨、歯胚など)には、アルファ粒子が含まれていた。高線量放射線管理区域での死産の子供の骨組織のアルファ放射性核種の含有量が最近になって増大しつつある事が特に問題である。
死産した胎児の骨の形態学的研究:特に椎骨、そして頻度は少ないが肋骨や管状骨の骨組織の血液供給に大きな変化。動脈血管壁の栄養障害的変化。骨芽細胞減少。骨基質と類骨組織の減少。骨芽細胞と破骨細胞の不均一分布が骨組織の異形成過程の特徴を示す。
骨芽細胞と破骨細胞の明らかな平衡異常が、形成・成長過程の骨の破壊的病変の発生機序を誘発する。故に、チェルノブイリ事故後に生まれた子供の骨組織の構造的・機能的変化が、子宮内の発育期から生じ始めていると仮定できる。pic.twitter.com/IjLufD4M
特に問題なのは、胎児の視床下部ー下垂体軸(視床下部、下垂体、甲状腺、副腎、および生殖腺)における構造的・機能的変化と形成異常である。子宮内での発育中にホルモンの相互作用が崩壊して制御されなくなり、胎児の身体的発達に変化が生じ、内分泌腺の疲労に繋がる。
幼少期や青年期に放射能被ばくした女性の子供の世代では、出生時の生理学的発育不全が多く、生後1年の間に病気にかかる事が多い。生後2年からは虫歯ができ始め、生後5年から甲状腺の過形成が現れる。高リスクグループの子供には、健康と考えられる子供が存在していない。
放射能汚染地域での様々な臓器の先天性出生異常の発症頻度は、比較的汚染の少ない地域の新生児の2倍であると思われる。(1994年のサトウら日本人による研究での発表は注目されなかったが、1998年にペトロヴァによって発表された論文などにより明らかになっている。)
チェルノブイリの乳幼児における致命的な心欠陥や僧帽弁逸脱の発症頻度が高くなった。この頻度が高くなるということは、結合組織の形成異常または奇形の兆候であると考えられており、これはキエフのアモソフ国立心臓外科研究所の外科医によっても裏付けられた。
ハルキウ医療センターでの研究調査では、チェルノブイリの事故処理作業員から生まれた子供の、臓器異常を伴った発育障害(SADと呼ばれる小さな発育異常)の発症頻度が高くなっている事が明らかになっている。
SADの「マーカー」には、脊柱側彎、胸部奇形、歯の異常(状態・位置)、早期の複数に及ぶ虫歯、歯のエナメル質の形成不全、皮膚の異常(乾燥肌・肌荒れ)、発毛異常、薄毛または斑状育毛などが挙げられる。
化学療法を受けている子供以外のチェルノブイリの子供に見られる育毛不良については、豊富なデータや写真があり、起こり得るさらに重大な健康問題の指標となっているのに関わらず、西欧の放射線保健衛生機関と提携している機関の研究者らによる関心は低かった。
病気発症リスクが最も高いグループは、被ばくした両親から生まれ、7カ所以上のSAD異常のマーカーが見られる子供である。このような子供は心臓や腎臓等の生命維持に重要な臓器における最も危険な病変を検知するために、直ちに超音波スクリーニングを実施する必要がある。
ウクライナのほとんどの産科小児科病院では、効果的な妊婦検診や、高解像度の超音波スクリーニングが実施されていないため、毎年2000人を超える新生児が、未診断または治療不可能な心異常・胸部異常によって死亡し、心疾患を来たした新生児が数千人以上にも及んだ。
キエフのアモソフ心臓外科研究所によると、心欠陥をもつ新生児の明白な増大が、診断環境の改善のためか、集団において先天性心欠陥が実際に増大したためなのかは不明。少なくとも、このような異常には、極めて綿密な研究と、さらに徹底したスクリーニングの実施が必要。
ウクライナ新生児センターでは、多発性出生異常や珍しい異常の発症頻度が、チェルノブイリ事故前よりも有意に高くなっている。この異常には特に、多指症、臓器奇形、四肢の欠損または変形、発育不全、および間接拘縮症などが含まれる。
数千人の女性が放射能汚染区域に居住し続けていると言う事は、授乳する母親に長期間の内部被ばくが起こるため、授乳育児の再検討を必要とする。汚染区域に居住して母乳で育てられた子供は、粉ミルクで育てられた子供よりも、体内の放射性セシウム濃度がはるかに高い。
母乳からのセシウム移行のリスクは、チェルノブイリの主なフォールアウト地域からずっと離れた所に居住している乳幼児にも該当する。イタリアでの母乳のセシウム137濃度の研究によると、濃度は比較的低かったが、事故から10年以上経過してもなお上昇していた。
アイルランドの保健機関は、1998年にようやく日常の制限を解除した。フランスの機関は、1998年になってようやく、チェルノブイリによって蓄積した放射性セシウムのリスクが増大していることについて、ピレネーの羊飼いに注意を呼びかけた。
公衆衛生の観点からみると、この問題には、きわめて広範囲に及ぶ研究と、各代替手段のリスクおよび便益とのバランスを慎重に取る事が必要である。
科学的・臨床的研究で蓄積したデータは、生殖系と妊婦の健康状態に関して総合的に解析することが必要である。これは、「母親ー胎児ー子供」という、最も基本的なライフサイクルと密接に関わっている患者や、放射性物質の破壊的影響に特に損傷を受けやすい患者の防護・スクリーニング・治療およびリハビリテーションに対する適切な措置を開発するためである。
時宜を得たスクリーニングや、綿密で積極的なモニタリングによる十分な予防措置を行えば、医師は子供のさまざまな病変の発生率を大幅に抑える事ができる事を示唆している証拠があるため、データの解析はきわめて重要である。
(January 5, 2013 by @YuriHiranuma)