ワシントン州海産会社の魚介類の放射能測定結果:放射性ストロンチウムと放射性セシウム


ワシントン州の海産会社であるヴァイタル・チョイス・ワイルド・シーフード・アンド・オーガニックス社は、2012年以来、太平洋で捕獲される魚介類の放射能検査を行って来た。今回、キングサーモン、ソックアイサーモン(紅鮭)とビンチョウマグロのストロンチウム検査結果が公表されたので、許可の下、ここに公表する。

ストロンチウム不検出
2014年1月9日付けの記事 
結果PDF 
「去年の夏、ストロンチウム90という長命核種が福島第一原発から漏れていることを示唆する報告が出始めた。安全性を確認するために、2013年秋に、何種類かの魚をストロンチウム90の検査に出した。」

(注:ストロンチウム検査は、ペース・アナリティカル・サービス社によって行われ、SGSノースアメリカ社によって検証された。)

検体受け取り日 2013年10月30日
検査実施日 2013年11月12日

ソックアイサーモン(紅鮭) -0.00130 ± 0.0210 pCi/g (検出下限値 0.0513 pCi/g)、または -0.0481 ± 0.777 Bq/kg   (検出下限値 1.8981 Bq/kg)
キングサーモン                       0.0228 ± 0.0292 pCi/g (検出下限値 0.0635 pCi/g)、または 0.8436 ± 1.0804 Bq/kg (検出下限値 2.3495 Bq/kg)
ビンチョウマグロ                  -0.0151 ± 0.0167 pCi/g (検出下限値 0.0456 pCi/g)、または -0.5587 ± 0.6179 Bq/kg (検出下限値 1.6872 Bq/kg)

※ 測定結果は、「放射能濃度 ± 不確定さ」として報告されている。また、測定結果が pCi/g だったので、わかりやすいように Bq/kg に換算して併記した。
※ 結果には記されていないが、ヴァイタル・チョイス社にメールで問い合わせた所、検体は、皮と骨を含む魚全体だった。ストロンチウムは骨に蓄積するので、骨が含まれているのは重要。
※ 検出下限値は、MDC(minimum detectable concentration)または、MDA(minimum detectable activity)と呼ばれる。(注1)


なお、ヴァイタル・チョイス社の魚介類捕獲区域はこのページに記載されている。(下記に該当部分を引用)

「鮭、オヒョウ、タラ、車海老、エビ、ダンジネスクラブ、 ムラサキイガイ、ハマグリなどの太平洋の魚介類すべては、福島第一原発から東に4,000ー5,000マイル(6,400ー8,000km)離れた、アラスカ州、ワシントン州、オレゴン州とブリティッシュ・コロンビア州の沖合で捕獲または漁獲される。」
「唯一の例外は、ビンチョウマグロとキングクラブで、ビンチョウマグロはミッドウェイ島沖、キングクラブはベーリング海で捕獲される。両方とも、福島第一原発からおおよそ2,500マイル(4,000km)東に位置する。」

  
また、ヴァイタル・チョイス社は、これまでにヨウ素131とセシウム134とセシウム137の測定を3度行っている。

テスト1:2012年3月29日公表
「ユーロフィン・ラボラトリー社が、15種の魚介類でセシウム134、セシウム137、ヨウ素131の検査を行い、何も検出されなかった。」

セシウム134: 不検出〜微量(検出下限値 1.0 Bq/kg)
    ほとんどの魚介類  <1.0 Bq/kg
    ビンチョウマグロ 1.4 Bq/kg
    オヒョウ 1.3 Bq/kg

ビンチョウマグロとオヒョウから検出された微量のセシウム134は、魚に平時に見つかるセシウム137と134の合算値最大値の10Bq/kgの15%以下である。(注2)
そして、この微量の数値は、セシウム137と134合算のFDA基準値のDIL(懸念レベル)である1,200 Bq/kgのわずか0.1%だった。(注3)

セシウム137: 不検出 (検出下限値 1.0 Bq/kg)
ヨウ素131: 不検出 (検出下限値 2.0 Bq/kg)
これは、分析された魚介類すべてが、ヨウ素131のFDA基準値のDILである170 Bq/kgの1.2%以下ということになる。ヨウ素131は、発生後2週間で安全な形状に崩壊する。(注3)

テスト22012年9月公表
「ユーロフィン・ラボラトリー社は、当社の太平洋産ビンチョウマグロとアラスカ産オヒョウ、紅鮭とタラを検査した。セシウム134とヨウ素131は検出されず、検出できるかできないかの、ごく微量で明らかに安全な量のセシウム137がタラから検出された。」

セシウム134: 不検出 (検出下限値 1.0 Bq/kg)
セシウム137: タラ 1.2 Bq/kg (検出下限値 1.0 Bq/kg)
ヨウ素131: 不検出 (検出下限値 2.0 Bq/kg).

テスト32013年9月公表
「ユーロフィン・ラボラトリー社が、当社の鮭(ピンク、キング、紅鮭、銀鮭)、マグロ、タラ、オヒョウとギンダラでセシウム134、セシウム137とヨウ素131の検査を行ったが、不検出だった。」

セシウム134: 不検出 (検出下限値 1.0 Bq/kg)
セシウム137: 不検出 (検出下限値 1.0 Bq/kg)
ヨウ素131: 不検出 (検出下限値 2.0 Bq/kg)

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さらに、ワシントン州シアトル市のロキ・フィッシュ社が、独自の放射能検査結果を公表した。ファミリービジネスであるロキ・フィッシュ社は、アラスカ南東部とピュージェット湾(シアトルの西)から野生の鮭とオヒョウを漁獲する漁業会社である。

ロキ・フィッシュ社の2014年1月7日の記事
「北太平洋の鮭の検体では放射能の上昇値は検出されなかった」

検査結果 

記事からの引用
「アラスカ南東部からのピンクサーモン、ケタサーモン(白鮭)、コーホーサーモン(銀鮭)、ソックアイサーモン(紅鮭)とキングサーモン、そしてピュージェット湾からのピンクサーモンとケタサーモンが検査された。」

ユーロフィン・ラボラトリー社による測定(注3)

セシウム134: アラスカ産ピンクサーモン 1.2 Bq/kg (検出下限値 1.0 Bq/kg)
セシウム137: アラスカ産ケタサーモン 1.4 Bq/kg (検出下限値 1.0 Bq/kg)
ヨウ素131: 不検出 (検出下限値 2.0 Bq/kg)

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注1)参考のために、水産庁の放射能測定結果では、ストロンチウム検出下限値は、0.01−0.04 Bq/kgだった。

注2)この平時のセシウム最大値がセシウム134とセシウム137合算で10 Bq/kgというのは本当なのか?そもそも、魚からセシウム134が「平時に」検出されるべきか?この情報の出所をヴァイタル・チョイス社に問い合わせた所、ユーロフィン社だということだった。しかし、この2012年に公表されたクロマグロの研究論文によると、2008年の太平洋産クロマグロでは、セシウム134は不検出、セシウム137は1.4 Bq/kgだった。

注3)米国の基準値DILによると、どの食品でも、ストロンチウム90の基準値は160 Bq/kg、ヨウ素131は 170 Bq/kgで、セシウム134と137は合算で1,200 Bq/kgである。日本のセシウム基準値は、魚介類が適用される一般食品では100 Bq/kg(乳児用食品と牛乳では50 Bq/kg)であり、これにはストロンチウムやプルトニウムも含まれている。これらの基準値は、内部被ばく線量による健康影響が同等の外部被ばく線量よりも大きいと主張する人達にとっては過剰とみなされている。フードウォッチとドイツIPPNW(国際核戦争防止医師会議)の報告書では、EU(欧州連合)の一般食品のセシウム基準値の600 Bq/kgを16 Bq/kgに、乳幼児食品と乳製品の基準値の370 Bq/kgを8 Bq/kgに下げることが推奨されている。

さらに、ヴァイタル・チョイス社の情報ページには、「放射線専門家によると、心配する理由はない。」というセクションがあり、「福島原発事故による海洋生物相と人間の魚介類消費者への放射線被ばく量および関連したリスクの評価」という研究論文が言及されている。

アブストラクトより抜粋和訳:
「米国において、フクシマ由来放射性物質によって汚染された太平洋産クロマグロを消費する人間に加算される被ばく量は、平均的な消費者には0.9マイクロシーベルト、生活の糧とする漁師では4.7マイクロシーベルトとなると推計された。このような被ばく線量は、すべての人間が日常的に晒されている、多くの食物に含まれる自然発生の放射性物質や、医学的治療、航空機での旅行や、その他のバックグラウンド放射線源からの被ばく線量と同等であるか、あるいはそれより少ない。低線量の電離性放射線への被ばくによる人間への発癌リスクの評価には不確定さはあるが、太平洋産クロマグロを生活の糧としている漁師による消費における被ばく線量からは、1000万人の同様に被ばくした集団での癌死が2人増えると推定される。」

まず最初に、放射線感受性は年齢や性別によって異なるのに、内部被ばく量をマイクロシーベルトで表現し、一般集団に適用するのは適切だろうか。また、放射性セシウムのような人工核反応生成物を、バナナに含まれている放射性カリウムのような自然放射線核種と比較することは、核反応生成物の環境での存在を黙認そして肯定するようであり、誤解を招く。「そもそも放射性セシウムがそこにあるべきか?」と問うべきである。また、医療診断・治療用の放射線(内部照射および外部照射)は、厳密にはバックグラウンド放射線ではないし、この 研究論文で言及されているように、無害というわけでもない。航空機での旅行は外部被ばくであるので、セシウム摂取による内部被ばくとは比較できない。

放射能汚染された食物を消費するかどうかについて知的な判断を下すためには、このような、しばしば都合良く曖昧にされてしまっている問題点を理解する必要がある。安全な量の放射線というものは存在しないということを心に留めつつ、最終的には、リスクを引き受けるかどうかは個人の選択である。しかし、赤ちゃん、幼児、子ども、妊婦や妊娠する可能性がある女性などの、放射線感受性が高い特定の集団のことを考慮するべきである。

注4)ヴァイタル・チョイス社とロキ・フィッシュ社の測定どちらもで、魚によってはセシウム137が不検出なのにセシウム134が検出されたケースがあった。大気圏内核実験由来のセシウムはセシウム137のみであり、セシウム134がセシウム137と共存するのがフクシマ事故のシグネチャーとみなされているはずなので、セシウム134のみの検出というのは、不思議である。ヴァイタル・チョイス社にこの件で問い合わせたが、返事は、「当社では分かりません。ユーロフィン・ラボラトリー社は放射性物質検査の専門家です。」だった。

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