慢性被ばくの影響の病理メカニズム: 感染症、ホルモン機能障害、放射線白内障、脳におけるセシウム蓄積
「電離性放射線の神経精神的影響」A.I. Nyagu and K.N. Loganovsky著
第6章 慢性被ばくの神経精神的影響 より抜粋和訳
http://www.physiciansofchernobyl.org.ua/eng/books/Niagu/pdfs/Chapter6Rev.pdf
(下記はこの章の英語の解読後に、抜粋和訳をしたものである。)
1963年に、慢性被ばく症は疫病分類学的に別のカテゴリーとして認識するべきだと主張された。慢性被ばく症による損傷は、放射性物質の放射線の影響と化学的毒性の両方に特徴づけられると言われた。局所感染や全身感染の増加は、免疫力が弱まった体の抵抗力の低下による、慢性被ばく症の通常の合併症であると言われた。
電離性放射線が様々な器官や組織の器質細胞に直接的影響を与えた後に、硬化状態が起こる。直接的な線量依存性がみられ、線量の閾値は1Gyから5Gyである。
ホルモン機能障害は直接的な線量依存性を持たず、閾値は0.01−0.1と低い。内分泌系疾患は、間接的なメカニズムの結果として現れる。きっかけとなるのは、放射線によって誘発される生殖腺、甲状腺と副腎の構造と機能の最初の抑制と損傷である。これらの変化は全ての内分泌器官でみられる。放射線被ばくによる後期の影響は、記憶低下、疲れやすさ、めまい、大脳皮質の主要プロセスの不安定さと衰えや、神経痛である。
内部被ばくによる放射性白内障の発生の可能性についての研究は特に興味深い。ストロンチウム89、ストロンチウム90、やポロニウム210が体内に取り込まれた場合に白内障が増加すると言うデータがある。ストロンチウム白内障というのは、次のように発生する。ストロンチウムとカルシウムには化学的相似性があるため、器官や組織の中でカルシウムのように分布する。普通の水晶体のカルシウム濃度は10mg/dLである。虹彩のカルシウム濃度は39mg/dLと高く、脈絡膜では63mg/dLと特に高い。白内障発生において、水晶体内のカルシウム濃度が普通の5倍以上に上昇し、50mg/dLに達するかもしれない。ストロンチウムも同じような割合で存在し得る。ストロンチウムは、体内に取り込まれたあと、常に水晶体に堆積し、ますますたくさん、水晶体内にしっかりと固定される。水晶体の損傷は、β粒子が虹彩と毛様体をターゲットとすることによって起こる。ポロニウム白内障の特異性は、水晶体の前極の基本的な位置が変化することである。これは、α放出核種であるポロニウムが、主に毛様体の網内皮に堆積するためである。
強直性脊椎炎や結核の治療としてラジウム224の静脈内注射を受けた患者において、白内障発症の増加がみられた。白内障の確率は1から4.5%であり、ラジウム放射線治療後の7年から26年後の発症であった。ラジウムは、虹彩の色素細胞に濃縮し、α線が水晶体細胞の分裂を変える事によって白内障が発生すると思われる。白内障発生において、内部被ばくと外部被ばくによる違いはみられなかった。
ラジウムが、毛様体、脈絡膜や虹彩などの目の色素組織へ堆積することにより、水晶体上皮の、分裂可能な細胞がある胚ゾーンがα線に被ばくすることになる。これらの細胞は放射線感受性が強い。水晶体線維を作る。放射線被ばくはこれらの細胞を変性させ、水晶体の後極で白内障が発生する。これと同じ様な影響は、体内に取り込まれたプルトニウム同位体や、ラジウム224がラドン220に、そしてラジウム226がラドン222に崩壊する時に放出されるα線が水晶体上皮に浸透する事によっても起こる。50年間絶えず取り込んだ場合、目の色素細胞における線量はラジウム224で1.7-8.7Gy、ラジウム226で12-62Gyであり、プルトニウム239で0.1Gy以下である。中枢神経系による、骨に親和性を持つ放射性物質の慢性的な取り込みは、骨格系よりの放射線被ばくによって起こる。この場合、最大の被ばく線量を受けるのは脳下垂体である。脳下垂体腫瘍の、コントロールグループよりも多い発症は、ヨウ素131、 アスタチン211、ストロンチウム90、セリウム144、プロメチウム147、ルテニウム106、ニオブ95、アメリシウム241、カリホルニウム252、プルトニウム239とプルトニウム238のような放射性物質の取り込みの晩発影響でみられている。
脳内でのセシウム蓄積率はカリウムの2.5倍から3倍であると言うデータがある。この場合、カリウムとセシウムは体内で競い合っていない。すなわち、カリウム代謝はセシウム代謝と独立していると言う事である。一日に620Bqのセシウム137を3ヶ月間摂取したラットでは、同量を1ヶ月間摂取したラットよりもセシウム137の脳内蓄積量が25%多かった。研究によると、セシウム137の全身蓄積量合計の0.2%から0.5%がラットの脳に蓄積していた。一日に1,200Bqのストロンチウム85を摂取したラットの脳内蓄積量は高くなかったが、これはおそらく半減期(T1/2=64.8日)が短いためだと思われる。研究の結果、脳は放射性物質、特にセシウム137を蓄積する能力があるとわかった。
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