掲載拒否されたエディターへの手紙:マンガノ、シャーマン&バズビー共著のフクシマ事故後のカリフォルニア州での先天性甲状腺機能低下症論文について


この英語記事内で言及されている筆者からエディターへの手紙の和訳を掲載する。Open Journal of Pediatrics (OJPed)のエディターは、手紙は掲載できないし、一旦掲載された論文を下げることもしない、と述べた。過去にも著者らの関連論文に対しての手紙の掲載を拒否された例があったので想定内ではあった。理由を尋ねると、手紙は掲載しないが、ケース・スタディーなどを投稿するなら掲載する、と言う答えが返って来た。その後のやり取りから、無料では何も掲載しない、という意図が明らかになった。

著者らの承前の関連論文を批評したスティーブ・ウィング氏によると、「『Open Journal of Pediatrics』は、実は、営利目的を持つPredatory journal、すなわち、『(研究者を)食い物にする雑誌』として知られており、真剣な科学的ピアレビューの過程を持たないようである。」

コロラド州の司書であるジェフリー・ビオール氏は、そのような『研究者を食い物にする雑誌』の調査を随時行っており、この手紙掲載拒否の件も記事にしている。

また、手紙の内容および、著者らのフクシマ事故後に米国での死亡率が上昇したという論文に関してのイアン・ゴッダード氏のビデオはこちら(英語)である。



なお、共著者の1人で統計担当らしいクリストファー・バズビー氏は、論文に記された所属機関であるJacobs Universityに実際に所属していないことが分かっている。

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2014年4月14日

オープン・ジャーナル・オブ・ピディアトリックス(オープン小児科ジャーナル)のエディターへの手紙

「フクシマ核メルトダウン由来の環境フォールアウトの相関関係としての、カリフォルニアでの先天性甲状腺機能低下症の確定およびボーダーライン症例数の変化」という論文で、マンガノ、シャーマンとバズビーは、調査集団における先天性甲状腺機能低下症の確定診断数を、間違っている上に選択的なデータ解釈に基づいて結論づけている。

著者らは、カリフォルニア州公衆衛生局(CDPH)の先天性甲状腺機能低下症の新生児スクリーニングデータを入手した。これには、2009年から2012年の診断確定数およびスクリーニングを受けた新生児の人数が含まれており、新生児の人数は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって分類されていた。著者らの結果を再現する試みのため、同じデータをカリフォルニア州公衆衛生局に要請した。

カリフォルニア州では、先天性甲状腺機能低下症のスクリーニングのTSH値のカットオフ値は29 mIU/Lであり、これは、2013年9月11日付けの「新生児スクリーニングのカットオフおよび基準値範囲」に記載されている。

しかし、著者らは、「このプログラムでは、29 μIU/ml以上のTSH値だけに基づいて先天性甲状腺機能低下症の診断を確定する。この基準を超えた子どもには全員、普通の身体的・精神的発達を促すために、甲状腺ホルモンが処方される。2011年1月1日に、カリフォルニア州は、TSHを算出する分析方法を変えた。ほとんどの新生児で数値が上がったため、先天性甲状腺機能低下症の症例数も増加した。」と誤った供述をしている。(注:μIU/mLは、mIU/Lと同等である。)

著者らはこの論文で、前述の供述を筆頭に、いくつかの間違いをした。

まず最初に、新生児スクリーニングプログラムによって検出されるのは、TSH全血値の上昇であり、これにより先天性甲状腺機能低下症が診断されるわけではない。先天性甲状腺機能低下症の診断には、さらに臨床的検査が行われる。29μIU/ml以上のTSH値は、スクリーニングが「陽性」という意味しかない。故に、この基準を超えた子ども全員がホルモン補充療法を受けるのではない。

カリフォルニア州公衆衛生局の遺伝的疾患スクリーニングプログラム内の、「プログラムと対策部門」のチーフ代理であるRobert J. Currier氏とのメールのやり取りの中で、Currier氏は次のように述べた。

「(先天性甲状腺機能低下症)陽性だと推定される乳児は、血清TSH検査および、主治医により任意に選択される、遊離T4(遊離チロキシン)のような他の検査を受ける。乳児はまた、州が認定する内分泌科クリニックに紹介され、内分泌専門医に受診する。必要に応じてフォローアップを繰り返す。乳児で先天性甲状腺機能低下症の診断が確定されたら、毎年、内分泌科クリニックで再診することになる。」

この供述から分かるように、著者らの「先天性甲状腺機能低下症の診断確定症例」の定義は間違っている。それにも関わらず、著者らは、スクリーニング「陽性」を診断確定数として間違って数えている。

2番目に、2011年1月1日に始まった新分析法の結果増加したのは、著者らの主張の「先天性甲状腺機能低下症の診断数」ではなく、TSHのカットオフ値である。Currier氏は続いて次のように述べた。

「2011年以前は、先天性甲状腺機能低下症の陽性推定のカットオフ値は25 μIU/mlだった。我々のラボでは、2011年初めに新しいTSH検査法を取り入れた。その結果、人口ベースでTSH値が変わったため、2011年4月にカットオフ値を29 μIU/mlに調整した。すなわち、2011年4月以前には、スクリーニングのTSH値が25 μIU/ml以上であれば先天性甲状腺機能低下症陽性であると認識された。この(新検査法の)情報も、ジョー・マンガノに提供された。」

3番目に、著者らはさらに、「注意深く選んだ範囲である19.0−28.9 μIU/ml」を「ボーダーライン症例」と定義しており、その「ボーダーライン症例」を先天性甲状腺機能低下症全体の推定に加えている。しかしながら、そもそも先天性甲状腺機能低下症の診断は、フォローアップ時の臨床的観察および追加検査の後にしか確定されないので、この定義は無意味である。

実際、Currier氏は次のように述べている。

「『ボーダーライン症例』の定義というものは、皆無である。TSH検査は単にスクリーニング法であり、臨床的に診断された先天性甲状腺機能低下症の症例のみが、『先天性甲状腺機能低下症』とみなされている。」そしてCurrier氏は、「滅多にないことだが、確定症例のTSHがカットオフ値以下であり、後日臨床的に診断されたという可能性もある。」と付け加えた。

著者らが、カリフォルニア州では「この疾患の定義に一貫性がある」と宣言しながらも、「ボーダーライン」という間違った定義のカテゴリーを生み出し、単なるスクリーニング「陽性」症例と合わせたということは、バイアスを実にひどい形で導入したことになる。

これにより、2011−2012年の先天性甲状腺機能低下症全症例が、658症例から4670症例に増え、統計的分析でのp値が誇張されたようである。(「確定症例数とボーダーライン症例数の合計」のp値 < 0.00000001) 「ディスカッション」のセクションで、著者らは、「ボーダーライン症例を恣意的に定義しなければいけなかったにも関わらず(中略)カリフォルニア州では、ボーダーライン症例数(TSH値が19.0−28.9 μIU/ml)を確定症例数(TSH値が29.0 μIU/ml 以上)に加えると、症例数が7倍以上になる。」と考察している。この供述は、データ選択にバイアスがあり、著者らが「ボーダーライン」とスクリーニング「陽性」が先天性甲状腺機能低下症の「確定症例」であるとみなしていることの確証になる。

Currier氏は、また、著者らが受け取ったのと同じ2セットのデータ(表1と表2を参照のこと)および、先天性甲状腺機能低下症スクリーニングプログラムの追加詳細情報を提供してくれた。

Currier氏は、確定症例数の表のデータは、著者らが受け取ってからアップデートされたと述べた。それは、「滅多にないことだが、診断ミス、もしくは診断にある程度の不確実さがあった赤ちゃんが、後日、本登録から削除される可能性がある。」からだと言う。しかしながら、Currier氏は、それでも著者らが当初受け取ったデータにとても近いはずだと請け合った。Currier氏は、また、「マンガノ氏は記事内でこの表(注:表2)のデータを使わなかった。」と言及した。

表1:カリフォルニア州の最初の新生児スクリーニングのTSH値分類表、2009年−2012年



表2:カリフォルニア州の一次性先天性甲状腺機能低下症の診断確定症例数、2009年−2012年




ドイツの元物理学者で、独立した疫学コンサルタントであるアルフレッド・ケルプライン氏が、先天性甲状腺機能低下症の10万人あたりの「確定」症例数をグラフ化した。(図1)この図から、2011年3月17日から12月31日の期間の確定症例数増加には、他の時期と同様の変動が見られるのが分かる。

図1:先天性甲状腺機能低下症の確定症例数の発生率、2009−2012年




4番目に、著者らは、「結果」のセクションの最後で、「単なる確定症例数よりもっと大きなサンプルサイズがあれば、真の変化をもっと良く理解することが可能になる。」と述べている。この論文の著者らがより大きなサンプルサイズを欲していること自体が、著者らがカリフォルニア州での先天性甲状腺機能低下症スクリーニングプログラムを良く理解していないことを示唆する。

結論として、マンガノ氏、シャーマン氏とバズビー氏による研究には重大な欠点がある。

1)スクリーニング陽性(29 μIU/ml以上のTSH値)の生データを先天性甲状腺機能低下症の確定症例数として誤用し、カリフォルニア州公衆衛生省から送付された、先天性甲状腺機能低下症の実際の確定症例数の正しい数字を無視している。 
2)スクリーニングプログラムにも医療現場にも根拠のない、「ボーダーライン」症例という無意味な診断カテゴリーを定義している。
3)自分達が作り出したニセの発症率(スクリーニング陽性の結果プラス「ボーダーライン」スクリーニング結果)が、正当なものであると主張している。
4)2011年の(著者らの定義による)先天性甲状腺機能低下症の増加が統計的に有意であると主張しているが、実際に臨床的に確定された2009−2012年の症例数のグラフ化では有意な増加がみられていない。

誠意を込めて、

ユリ・ヒラヌマ、 D.O.
社会的責任を果たすための医師団、放射線と健康委員会委員

UNSCEAR 2013 報告書:付録E セクションII.C. 公衆の健康影響についての委員会のコメント内の甲状腺癌関連パラグラフ和訳

原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の2013年報告書(フクシマ報告書)が、2014年4月2日に公表された。日本国民の関心度の高さのためか、過去のUNSCEAR報告書とは異なり、今回のフクシマ報告書の公式日本語版は2014年4月末に公表予定だと記者会見時にアナウンスされた。

ここでは、付録E「作業員と公衆への健康影響」内の、「公衆の健康影響についての委員会のコメント」の中から、甲状腺癌に関連したいくつかのパラグラフを和訳した。

ちなみに、付録C「公衆被ばくの評価」は、study2007氏によって仮訳されている。また、2013年10月に国連に提出されたサマリー報告書の部分和訳はこちら、PSRとIPPNWによる注釈付き論評の和訳はこちらである。

UNSCEAR 2013 Report: "Sources, effects and risks of ionizing radiation"
Volume I
Scientific Annex A: 
Levels and effects of radiation exposure to the nuclear accident after the 2011 great east-Japan earthquake and tsunami

APPENDIX E. HEALTH IMPLICATIONS FOR THE PUBLIC AND WORKERS
II. HEALTH IMPLICATIONS OF RADIATION EXPOSURE OF THE PUBLIC RESULTING FROM THE FDNPS ACCIDENT
     C. The Committee’s commentary on health implications for the public 
          1. Population of Japan and of Fukushima Prefecture

UNSCEAR 2013 報告書「電離放射線の線源、影響とリスク」
第1巻 
科学的付属書A:東日本大震災と津波の後の原子力事故による放射線被ばくの程度と影響

付録E:公衆と作業員における健康影響
II. 福島第一原発事故の結果の放射線被ばくによる公衆における健康影響
     C. 公衆の健康影響についての委員会のコメント
          1. 日本の住民と福島県の住民

p.253(253ページ)

E29. Thyroid cancer. During the first year, incorporated radioiodine from the accident led to higher absorbed doses to the thyroid than to other organs and tissues. For adults in areas that were not evacuated, the district-average absorbed doses to the thyroid were less than 20 mGy in the first year after the accident (table C10). Available evidence indicates that the thyroid is not particularly sensitive to such doses during adulthood. 

パラグラフE29
甲状腺癌。1年目には、事故により取り込まれた放射性ヨウ素が、他の臓器や組織によりも、甲状腺により高い吸収線量をもたらした。非避難区域の成人における事故後1年目の地域平均の甲状腺吸収線量は、20mGy以下だった。(表 C10)入手できる証拠によると、成人期の甲状腺は、そのくらいの線量には特に感受性が強くないことが示されている。


(注:表C10の和訳版は、study2007氏による付録Cの和訳より転載)

E30. In contrast, for 1-year-old infants who were evacuated after the accident, the Committee estimated settlement-average absorbed doses to the thyroid to be up to about 80 mGy (table C12). In the areas that were not evacuated, district-average doses to the thyroid were up to about 50 mGy (table C10). For example, the Committee estimated that about 35,000 children in the age range of 0−5 years lived in districts where the average absorbed dose to the thyroid was between 45 and 55 mGy.

パラグラフE30
その反面、事故後に避難した1歳児においては、委員会は、市町村平均の甲状腺吸収線量は最大で80 mGyであると推計した。(表 C12)非避難区域では、地域平均の甲状腺吸収線量は最大で50 mGyだった。(表 C10)例えば、委員会は、0−5歳の子ども約35,000人が、甲状腺の平均吸収線量が45−55 mGyである地域に居住していたと推計した。


(注:表C12の和訳版は、study2007氏による付録Cの和訳より転載)

E31. The Committee previously evaluated the risk of thyroid cancer from an absorbed dose to the thyroid of 200 mGy at age of ten years [U14]: the lifetime risk of thyroid cancer was estimated to be approximately doubled by the exposure. However, even for a hypothetical exposure of 10,000 children with such a dose to the thyroid, the uncertainty of the risk estimate is large, ranging from a relative risk of about 1.15 to about 4.0. The WHO estimates of the risk of thyroid cancer due to radiation exposure [W12] were consistent with those of the Committee, if the risk dependence on dose to the thyroid were assumed to be linear from several hundred milligrays down to the levels of dose received after the accident. 

パラグラフE31
委員会は、過去に、年齢が10歳での甲状腺吸収線量が200 mGyの場合の甲状腺癌リスクを評価した。甲状腺癌の生涯リスクは、被ばくにより大体2倍になったと推定された。しかし、仮に10,000人の子どもがそのような甲状腺線量に被ばくをしたとしても、リスク推定の不確かさは大きく、相対リスクは1.15から4.0の幅を持つ。WHOの放射線被ばくによる甲状腺癌のリスク推定は、もしもリスクの甲状腺被ばく線量への依存性が数百mGyからそれ以下の事故後の被ばく線量まで直線的であると仮定されるのであれば、委員会のものと一致していた。


E32. From an estimate of absorbed dose of 50 mGy to the thyroid of infants, and assuming that the risk of thyroid cancer could be extrapolated down to these dose ranges using a linear dose–response function, a relative lifetime risk of thyroid cancer due to the exposure over the baseline risk could be inferred to be about 1.3. Such an increase in principle ought to be discernible if the effect of increased detection rate due to sensitive screening and other factors could be isolated, although most of the increased incidence would be expected to appear several decades after the exposure. Furthermore, direct measurements of radioiodine content in the thyroid have suggested that actual doses to the thyroid for some individuals might be lower than the average doses estimated by the Committee using environmental measurements and modelling, although there are some questions about how representative the thyroid measurements generally were. A detailed re-evaluation of the absorbed doses to the thyroid taking into account all available information relevant to thyroid exposure including the thyroid measurements, their quality assurance and information on individual protective measures is highly desirable. 

パラグラフE32
乳児の甲状腺吸収線量推計値の50 mGyから、甲状腺癌のリスクが直線線量反応関数を用いてその線量域まで推定可能であると仮定し、被ばくによる甲状腺癌の生涯相対リスクがベースラインリスクの約1.3倍であると推測できる。そのような増加は、原則としては、増加のほとんどが被ばくから数十年後まで現れないと予期されるにしても、感受性の高いスクリーニングによる検出率の増加や他の要因の影響を分離することができるのであれば識別可能であるべきである。さらに、甲状腺内の放射性ヨウ素の実測値は、その甲状腺測定値が一般的にどれほど代表的と言えるのかについての疑問がいくつかあるにしても、個人の甲状腺の実際の被ばく線量が、委員会が環境測定値とモデリングを用いて推計した平均被ばく線量よりも低い場合があるかもしれないことを示唆している。甲状腺実測値およびその精度保証と、個人の防護対策についての情報を含む、甲状腺被ばくに関して入手できる情報をすべて考慮した上での甲状腺吸収線量の詳細な再評価が非常に望ましい。


E33. The Committee estimated that the doses to the thyroid varied considerably among individuals, indicatively from about 2 to 3 times higher or lower than the average for a district. It considered that fewer than a thousand children might have received absorbed doses to the thyroid that exceeded 100 mGy and ranged up to about 150 mGy. The risk of thyroid cancer for this group could be expected to be increased. However, it would be difficult, if not impossible, to identify precisely those individuals with the highest exposure, and risks at these low doses have not been convincingly demonstrated; moreover, as noted above, the lower dose values suggested by direct thyroid measurements on some populations should be reviewed, as well as their associated uncertainties. Information on dose distribution and uncertainties was not sufficient for the Committee to draw firm conclusions as to whether any potential increased incidence of thyroid cancer would be discernible among those exposed to higher thyroid doses during infancy and childhood. 

パラグラフE33 
委員会は、甲状腺被ばく量が、直接法で地域平均よりも2−3倍高いか低いかと、個人によってかなり異なったと推定した。委員会は、1000人弱の子どもたちが、100 mGyを超え、約150 mGyまでの甲状腺吸収線量を被ばくしたかもしれないと認識した。このグループでの甲状腺癌のリスクは増えると予測できる。しかし、被ばく量が最大である個人を正確に同定することは、不可能でないにしても困難であり、これらの低線量でのリスクは、説得力を持って証明されていない。さらに、承前のように、甲状腺の実測値測定で示唆される、より低い線量の値が、それと関連した不確定さと共に再検討されるべきである。線量分布と不確定さは、乳児期と小児期の間により高い甲状腺被ばく量を受けた人たちの間で起こり得る甲状腺癌発生率増加が識別可能であるかについて、委員会が確実な結論を導くには不十分だった。

マルコ・カルトーフェン「日本のハウスダストの中の高放射能粒子」ポスタープレゼンテーションの和訳


ウースター・ポリテクニック研究所 原子力科学・工学部のマルコ・カルトーフェン氏の博士論文 ”High Radioactivity Particles in Japanese House Dusts”「日本のハウスダストの中の高放射能粒子」のポスタープレゼンテーション

英語オリジナルの画像




仮説
福島第一事故は、非常に高濃度で吸入可能で埃の粒子を放出し、この粒子は長距離を移動した。

はじめに
2011年の日本北東部での地震とその後の津波は、福島第一原子力発電所の原子炉6基のうち4基の損傷を引き起こした。放射性物質は、原発の原子炉から汚染されたガス、エアロゾルと粒子の大気プルームとして、そして汚染廃棄水として放出された。

大気ダストは、高濃度の放射性同位体を含む、単離した個々の粒子として、放射性物質を輸送することができる。核反応廃棄物や撒き散らされた核燃料粒子と関連したアルファおよびベータ放出体は、吸入または経口摂取すると危険である。放射性物質で汚染された環境ダストは、室内空間で蓄積可能であり、吸入、皮膚とのコンタクト、そして経口摂取により、かなりの放射線被ばくを起こす可能性がある。これらの不均一に分布されたホットパーティクルは、検出して測定するのが困難な可能性があり、汚染地域の住民の被ばく量を計算するのも困難である。

方法
福島関連の核反応生成物で汚染されたダストの検体が、ガンマ線スペクトロメトリを用いて同定された。高濃度のホットパーティクルがオートラジオグラフィーとエアフィルター媒体で同定されたホットスポットの物理的分離により、ハウスダストから単離された。単離後に、ホットパーティクルは、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析 (SEM/EDS)により分析された。

東京の車のエアフィルター(左)とそのオートラジオグラフィー(右)


結果
日本のハウスダスト84検体の放射能量の中央値は2.5k Bq/kgで、平均値は71.6 kBq/kg(σ=339 kBq/kg)だった。検出された放射能のほとんどは、セシウム134、セシウム137、コバルト60、ラジウム226によるものだった。短命核種のヨウ素131は、ガンマ線スペクトル測定後に、ホットパーティクルの分析が完了する前に崩壊した。セシウム同位体の濃度比は、フクシマ放出を確定するものだった。

平均値と中央値の大きな違いは、放射能濃度が1.0 MBq/kg以上の2検体(訳者注:そのうちの1検体はこの記事で言及)および、1.0 PBq/kg以上のミクロンレベルの粒子ひとつの寄与によるものだった。この粒子は、福島原発事故現場から460 km離れた、日本の名古屋の家屋から採取されたものだった。ガンマ線スペクトロメトリで測定された放射能は310 Bqだった。ベータ放射能は285 Bqだった。核反応生成物とウラン238の崩壊物質の両方がパーセントレベルで含まれていた。X線微量分析では、最大48.0%の様々な濃度のテルル、セシウムが最大15.6%、ルビジウムが最大1.22%、ポロニウムが最大1.19%、ジスプロシウムが最大0.18%と、微量のスズ、鉛、ニッケル、鉄とクロムが見られた。この高濃度のホットパーティクルの容積は、最大で0.0012 mm3だと計算される。走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析 (SEM/EDS)により測定された構成に基づくと、密度は約3.6 g/cm3である。

名古屋ホットパーティクルの走査電子顕微鏡画像

名古屋ホットパーティクルのスペクトル分析


NaIガンマ線スペクトロメトリとエネルギー分散型X線分析(EDS)によると、ホットパーティクルから最もよく検出されたγ線放出核種は、ラジウム226、セシウム134、セシウム137、アメリシウム241とトリウム230だった。オートラジオグラフィーによるγ線スペクトル分析と、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析 (SEM/EDS)の結果によると、ダストの検体25%に、質的に似通った粒子が含まれていた。この25%の検体には原子炉事故に特有の放射性汚染物質であるセシウム134も含まれており、また、オートラジオグラフィーによってホットパーティクルも検出された。走査型電子顕微鏡の分析によると、これらのホットパーティクルのほとんどのサイズは10μmかそれ以下なので、吸入可能であるということになる。

結論
吸入可能なサイズの放射性ホットパーティクルは、日常的に検出されており、ひとつは放出場所から460kmも離れた所でも検出された。
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研究サポート:Safecast、D.C. Medich, Ph.D.、C.H.P.、Microvision Labsと、日本の茨城県の大西淳氏(訳者注:浪江町の道路ダストの検体提供者。原文には「浪江町」と間違って掲載。)
このポスタープレゼンテーションは、ウースター・ポリテクニック研究所で2014年3月19日に発表、ルイジアナ州ニューオーリンズ市の米国公衆衛生学会の2014年定例学会での講演に招聘。(カルトーフェン氏のメールによると、米国公衆衛生学会誌にアクセプトされたとのこと)

おしどりマコ氏のドイツ国際会議での記者会見書き起こし


日本が東日本大震災と津波、そしてその後の福島原発事故から3年目を迎える直前の2014年3月4−7日に、ドイツのフランクフルト市から車で25分の山の中で国際会議が開催された。この会議「原子力災害の自然環境と人体の健康への影響」は、国際核戦争防止会議(IPPNW)ドイツ支部と、ヘッセン=ナッサウ・プロテスタント教会の共催だった。(ドイツ語のプログラムPDFはこちら

コメディアンでフリーランスのジャーナリストであるおしどりマコ氏が、2014年3月6日に、その国際会議での記者会見に参加した。日本語音声の動画はこちら。おしどりマコ氏の記者会見は、5分20秒頃に始まる。記者会見には複数のドイツメディアが参加し、このドイツ語記事では、おしどりマコ氏の記者会見内容が主に取り上げられた。


おしどりマコ氏は、コメディアンになる前に、新たな時代の医学の発展に貢献すべく生命現象における基礎的な真理の探求を行うとともに最先端医療を支える技術創生を推進する教育・研究を行う”鳥取大学医学部生命科学科で3年間、医学研究について学んだ。(筆者注:研究で放射性物質が使用されることがあるので、医師よりも研究者の方が放射能に関しての知識があるかもしれない。)東電記者会見では、鋭く粘り強い質問で定評がある。東電側の「マコちゃんは適当にカットしてください」というメモの存在は、おしどりマコ氏本人により発覚した。


以下、書き起こし

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My name is Mako Oshidori.  I am sorry I speak in Japanese. (私の名前はおしどりマコです。すみませんが、日本語で話させていただきます。)

このような機会を与えていただいて、IPPNWとプロテスタント教会とドイツのみなさんにとても感謝しております。なぜなら、現在、日本国内では原発事故の現状を大きく報道する機会が与えられていないからです。ですので、今回ヨーロッパに来て大変驚いたことは、ヨーロッパのみなさんが日本を民主主義の自由な国だと思われていることです。

私は東京電力の記者会見に実は最も(多く)参加している記者です。まだ若いですがベテラン記者になっています。そうしますと、メディアで報道するときに色々な圧力がかかってくるんです。私が原発事故の記事を書くマガジンに私の記事を1回載せるなら、電力会社の団体から原発推進の記事を3回載せろという圧力がかかり、私の記事が載らなくなったこともありました。そして、テレビで私が東京電力の原発事故についてしゃべるときに、スポンサーから圧力がかかり、私にテレビで原発事故と東京電力という単語を一切使わせるなと、そういう圧力がかかり、出演できなくなったこともありました。

そして、まあ、日本の電力会社は原子力を使いたがるのですが、去年の秋から日本政府が原子力を使っていくと再稼動を決めたときから、政府の監視が私につきました。これは私の友人の研究者やそして政府の関係者から聞いたことです。どのような監視がついたかといいますと、ちょっと私が隠し撮りに成功しましたのでお見せします。




このような形で私が誰かと話していると、この後ろの方が政府の公安調査庁の監視者なのですが、誰とどんな会話をしているのか聞こうとしてぴったりとつきます。話している方は、彼らは私のマネージャーなんですかと聞くんですけど、全然知らない人なのでただの追っかけだと思います、と答えます。このように自由に報道する機会は与えられておらず、私のように原発事故についてシビアな報道をする記者も大手メディアの中にいるのですが、彼らにも圧力がかかっていて、日本国内ですら原発事故の現状は日本国民はきちんと知っていないと思います。

次に2012年に原発事故のあと福島第一原発で看護士をしている方に取材をしましたので、少しその話しをしたいと思います。



皆さんに原発作業員の現状を聞いていただきたいと思います。彼は2012年に福島第一原発で看護士をしていました。2013年に東京電力の社員をやめたのですが、その時にインタビューをしました。



現在、原発の作業員は何人も亡くなっているのですが、それは仕事中に作業中に亡くなった作業員だけ発表があります。仕事をしていないとき、たとえば週末や夜寝ているときに、急に亡くなったりする作業員もいるのですが、それは一切発表されません。そして、数えられてもいません。たとえば、たくさん被ばくをして、50ミリシーベルトや60ミリシーベルトや70ミリシーベルトや、それだけ被ばくをして作業員を辞め、一ヵ月後に亡くなる方もいますが、それも発表されませんし、数えられてもいません。これが原発作業員の現状です。彼らを調査をして私がこの記事を書こうとすると、やはり色々な圧力がかかりますので、この情報を知っている日本国民も少ないのではないかと思います。

次に簡単に、福島県の母親の方々を取材したときの話しをしたいと思います。



彼女たちの子どもたちが学校給食で福島県のものを食べさせないでほしいというアピールをして、署名活動をしています。現在、福島県の生産物は残念ながら、みなさん汚染をこわがって購入する人が少ないため、まず子どもたちに福島県のものを食べさせて安全性をアピールしていこうという政策がとられています。福島県はもともと7割の(学校で)福島県のものが学校給食に使われています。もともと事故前に福島県のものを食べていなかった地域でも、原発事故のあと安全性をアピールするために子どもたちに食べさせようという動きになっています。彼女たちはそれに反対して、なんとか汚染されていない地域のものを食べさせてほしいという主張をしています。それについてはいろんな議論があるのですが、きちんと検査をするとか。しかし、そうではなく子どもたちに安全性のアピールをさせるということ自体が間違っているのではないかと彼女たちは主張しています。

これは2012年にベラルーシの研究者、ベルラド研究所のアレクセイ・ネステレンコという所長がいるのですが、彼と一緒に福島県を取材したときのものです。



彼が一番おどろいていた場所がこの小学校なのですが、福島県の伊達市というところの小学校で、プールの横のフェンスのすぐわきの部分がみえますでしょうか、27.6μSv/hという地点です。



彼にこの小学校の子供達は避難しているのかと聞かれたのですが、私は今授業を受けているところと答えました。彼は非常に驚いて、ベラルーシではこれは子供たちがすぐに強制避難させられているレベルの数量だと。日本は豊かな国だと思っていたが、なぜ子供たちはここで普通に授業を受けているのだといわれました。これは本当に特別に線量が高い地域でもあるのですが、このようなポイントも福島にはあるということです。

続いて健康調査について、福島県ではどのようになっているのかの話しをしたいと思います。これは2012年の12月に福島県とIAEA、平和的ですが原子力の推進機関であるIAEAが原発事故の健康調査やさまざまな情報に関して協力していこうという覚書を交わしたときのものです。





この健康調査や汚染地域の除染に関することで協力していこうというものなのですが、このときの説明会で福島県の住民の方々は原子力の推進機関であるIAEAに自分達の健康調査はまかせたくないと強く反対しました。そして、私はこの会見が終わったあと、直接福島県の知事に質問したのですが、住民の方々は半数以上がIAEAと福島県が協力しあっていくことに反対しているが、県知事としてどう評価するのかと聞きました。そうすると、県知事は住民の方々には理解してもらうほかないというふうに答えました。



IAEAと福島県の調査も問題なのですが、もうひとつの問題のある文書があります。これは2011年の5月に、厚生労働省と文部科学省から全国の大学と学会と研究機関に出されている文書です。日本語のみで本当に失礼します。



これは東日本大震災のあと、被災地や汚染地域で実施されている健康調査について、いろいろな調査研究についての文書なのですが、住民の方々に負担にならないようにという理由があるのですが、許可なく詳しい調査をすることのないようにという意味あいの文書です。実際にこの文書が出る前、2011年の5月に出ているのですが、3月、4月は福島県の飯館村やその他汚染が強い地域にいろいろな大学の研究者や研究機関が入っていたのですが、この文書が出たことによって調査をやめ、福島県からでていったチームがいくつもありました。現在、健康調査は日本では福島県立医科大学という国が指定した機関のみ、おおがかりにおこなわれています。その他の調査はみなほとんどがおこなわれていないという現状です。

続いて最後ですが、特定秘密保護法ということについてお話したいと思います。昨年の12月に特定秘密保護法というものが国会で決まったのですが、これは非常に問題のある法律なのです。というのは、この法律は特定秘密というテロに関するものが多いというふうに政府は説明していますが、政府が指定した特定秘密を漏らした官僚や国立の研究者に罰則が与えられる。そしてそれを教えてほしいとそそのかした人間にも、罰則が与えられるというような内容の法律になっています。どこが問題かといいますと、何が特定秘密になるのか、それをもらすとどういう罰則になるのかというのが、一切決まっていないことです。それを一年ぐらいかけてこれから決めていくというのですが、中身が何もきまらないまま、秘密をもらした人間には罰則を与えるということだけが決まりました。このように、これは原発事故だけに関することではないんですが、これは特定秘密保護法のときに、日本国民が反対したときのデモです。



毎晩かなりの人間が、これ少しおもしろい写真だったので、ドイツの方々におみせするのはどうかと思ったのですが、今の政権はナチスに似ていると。実際去年の8月に、麻生という副総理がナチスのようにあまりみつからないように憲法をかえていこうと発言したのです。



それをもじって、今の政権は非常に問題があるのではないかというふうなデモがたくさんおこりました。



このように現在の日本では、民主主義が守られて、そして人権が尊重されているとはとても言えません。そして、それを報道すると圧力がかかってきてしまうというのが現状です。でも、今回このような機会をIPPNWに与えていただいて、そしてドイツのみなさんにお話しすることが出来て本当にありがたく思っております。
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書き起こし:Takashi Mizuno

キース・ベイヴァーストック氏のインタビューの書き起こし和訳


2014年3月4日−7日に開催された、ドイツのフランクフルト郊外での国際会議で、IWJヨーロッパ支部が、キース・ベイヴァーストック氏インタビューしました。

通訳がちゃんとできなかったので、書き起こし和訳をしました。

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質問:昨日はIAEAとWHOについてご説明されましたが、IAEAとWHOは、フクシマの事故のことをこれからどのようにして行きたいと考えていると思われますか?

”Well, actually, my opinion about what is happening in Fukushima is that neither of those organizations is doing their job. Not so much the relationship between them as the fact both of them failed to do the job we expected them to do. And the first part of that job was really to activate emergency response system to deal with public health issues. Well, that’s more or less the point I want to make. They failed to perform duties which, in my view, the national governments assigned them in the event such as the Fukushima accident.”

「そうですね、実は、フクシマで何が起こっているかについての私の意見は、IAEAもWHOも自分達の仕事をちゃんとしていないということです。IAEAとWHOの関係というよりも、どちらもやるべき仕事をやるのを怠りました。そして、その仕事の初めの部分は、公衆衛生の問題と対応するための緊急対策システムを起動することでした。まあ、それが私が言いたいことです。どちらの機関も、私からすると、フクシマ事故のような事が起きた時のために諸国の政府から命じられていた義務を果たさなかったのです。」

質問:IAEAとWHOは、日本に原発を続けてほしいと思っていると思いますか?

”I don’t think WHO particularly has an opinion on that, but IAEA certainly does because it promotes and it is the voice of the international industry. And of course they would not like to think Japan left the nuclear club.”

「WHOが特にそれについて意見を持っているとは思いませんが、IAEAは、原子力を推進し、国際的原子力産業の声であるから、確かにそうです。そしてもちろん、IAEAは、日本が原子力クラブを辞めたとは思いたくないでしょう。」

質問:日本政府の現在までの対応について何かコメントはありますか?

”I think that the Japanese government had clear responsibility to provide the information on exactly what was happening and on the levels of releases and consequences we have for public. I understand that the IAEA have said the government of Japan failed its duties to provide information. But I still don’t think that provides an reason or an excuse for IAEA not having acted, as it should have done, to implement the emergency response scheme.”

「日本政府は、正確に何が起こっていたかということや、放出のレベルと公衆への影響についての情報を提供するという明確な責任があったと思います。IAEAが、日本政府が情報を提供する義務を果たさなかったと言っていると理解しています。しかし、それでもIAEAがしかるべく緊急対応計画を実施しなかった理由や言い訳にはならないと思います。」

質問:甲状腺のスクリーニング効果についてご意見をお聞かせください。

”It’s much too early to know. The screening that’s being done is done primarily to reassure the public, I think. In that sense, before the screening can be effective, it needs to have screened the same population twice with an interval of, say, two years between screenings. ”

「まだ何か分かるには早過ぎます。今実施されているスクリーニングは、主に、一般市民を安心させるためのものだと思います。そういう意味では、スクリーニングが効果的になるためには、同じ集団を、スクリーニングとスクリーニングの間を2年ほどあけて、2回スクリーニングする必要があります。」

(ここで通訳者が混乱したので、もう一度言い直してくれました。)
”Screening I am sure has been implemented not as a research measure but as a means to reassure the public that there are no harmful effects. The technique being used is extremely sensitive and may be picking up disease which would not normally be picked up at such screening exercise. Therefore it is necessary to do two rounds of screening with each person, with an interval of around two years between them. When the second round is complete, we will be able to interpret those results. This particular screening was not, I assume, designed to be research, and it is not effective as research. So it is purely a humanitarian measure. So, at the moment, we can learn nothing from it. We need to wait for the results of the second round. In any case, from what we understand from the Chernobyl accident, we don’t expect first cancers to appear until after next year, on the fourth year after the accident.”

「スクリーニングは、研究手段というよりは、一般市民に、有害な影響がないと安心させるために実施されていると思います。使用されている技術は非常に感度が高く、そのようなスクリーニングで従来検出されないような疾患を検出しているかもしれません。なので、1人1人を、2年間あけて、2度スクリーニングすることが必要です。2巡目のスクリーニングが完了したら、その結果を解釈することが可能になるでしょう。このスクリーニングは、研究としてデザインされていないと推測していますが、実際、研究としての効果はありません。なので、純粋に、人道的対策です。今の所は、それから何も学ぶことができません。2巡目の結果が出るのを待たなければいけません。どちらにしろ、チェルノブイリ事故から分かっていることに基づくと、来年以降、すなわち、事故から4年経った後までは、最初の癌が出て来るとは思えません。」

質問:もしも既に結節があったら、放射線被ばくによって癌化しますか?

”We don’t really know the answers to that question. Most nodules are benign. And we think that thyroid cancer is initiated at the time of the exposure and not dependent upon the existing nodules.”

「それは分かりません。ほとんどの結節は良性です。そして、甲状腺癌は、被ばくによってイニシエートされ、既存の結節に依存しないと考えられています。」

質問:腫瘍の成長スピードによって、放射線誘発性だったかどうか分かりますか?

”Yes, radiation-induced tumors develop quite fast in some people and possibly the fastest in the young people. But it’s very much dependent upon the individual. So we can’t make statement. I mean, thyroid cancer will go on appearing, as a result of radiation, for 60 years after initiation.”

「はい、放射線誘発性の腫瘍は,人によってはかなり早く発達し、若い人たちで一番早く発達するかもしれません。しかし、非常に個人差があります。なので、どちらとも言えません。放射線被ばくの結果として、甲状腺癌は、イニシエーション後の60年の間、出現し続けるでしょう。」

山下俊一氏企画の「放射線と甲状腺癌に関する国際ワークショップ」の記者会見一部書き起こし


2014年2月21日−23日に品川で開催された「放射線と甲状腺癌に関する国際ワークショップ」の主催は、環境省、福島県立医科大学と経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)であり、組織委員会の委員長は、山下俊一氏だった。最後のワークショップの結果の要約の締めとして登場した山下氏は、「チェルノブイリとは違う、ということを明確にして頂いた。また、スクリーニング効果があるというのを共通の認識とした。また、ハーベストエフェクトという、最初に何もない所から刈り取った状態であることも認識できた。こういう話を世界の専門家が来て、日本でして頂いたというのは、日本の現状をしっかりと理解して頂いたと思うので、これからもフクシマへの支援をして頂けると思う。福島県立医科大学、福島県、そして環境省の方々も、同じ日本を愛する方々です。フクシマの復興なしに日本の復興はない。」という主旨の発言をした。

ここでは、ワークショップ最終日の記者会見の一部を書き起こした。記者会見は、山下俊一氏、環境省の桐生氏、福島県立医科大学の丹羽大貫氏と鈴木眞一氏が行ったが、質問は山下氏に集中した。記者会見の編集動画はこちら。また、記者会見で配布されたという議長サマリーの最後のまとめの部分も和訳した。



記者会見の部分書き起こし
(前略)
記者;チェルノブイリで事故による甲状腺癌が急増したとする4年目、5年目のペースに入るわけですけれども、今、3年目のこういうタイミングというのをを山下先生はどうとらえられますか?今、どういう時期ですか?
山下氏:これは甲状腺癌について、でいいんでしょうか?今、スクリーニングでこれだけの患者さんが27万人近くで見つかりましたので、この数は今日のご発表でもお分かりになったように、ほぼスクリーニング効果であろう、と。ということは、今後、この翌年、翌々年と言う本格調査が26年4月から始まります。これは決して、あの、強制で皆様方に受けて頂くものではなくて、ボランティアであります。甲状腺の調査は、事故のあった後、福島県の子どもたちを見守るという大きな目的でスタートしたものですから、その一環がこの甲状腺の超音波の検査である、と言うことで、今後これを継続することがより重要で、先程からも申しますように、被ばく線量がほとんどない所では、明らかな甲状腺癌が増えるとは考えていません。ですから、本格的な調査が3年目から始まる、と。この3年間は、先行調査、あるいは予備調査ということで、ベースラインの甲状腺の頻度を明らかにしたということに留まるので、これからが本格的な長期的な子どもたちを見守る体制作りが重要になってくるいう風に考えています。
木野龍逸氏:山下先生が、最後のまとめの所で、今後甲状腺が増えるという予測はしていないというお話がありましたけれど、その意味は、現在の74人より一切増えないという意味なのか、その根拠となるしきい値みたいなものがあるのかどうか、もう少し詳しくお願いできますか?
山下氏;頻度の問題、だろうと思います。色々、Prevalence(有病率)について、今日、ことばの色々説明がありましたけれども、現在27万人で疑いを含めて75例ですよね。おそらく、検査をすれば出て来ると思います。で、その出方が、どういう頻度なのか、ベースラインのスクリーニングに対して増えて来るかどうか、ということが極めて重要だと思いますが、これは簡単にいかないというのは、先程お話したハーベスト効果で、突然こういう検査をしましたから、根こそぎみんな最初に見つけられるだろうと、そうすると第2ラウンドに行くと少し減るんじゃないか、という見方もありますし、それから当然、ある一定の数は出続けるわけです。この頻度がどれくらいかというのは、実はチェルノブイリにしか比較するデータはありません。というのは、現在でもチェルノブイリでは、超音波の甲状腺エコー検査をしています。このデータを、大体概略でいうと一万人に数名、今でも事故後25年経って甲状腺癌が見つかりますから、そのくらいの頻度では、おそらく小児で見つかるのでなかろうか、そういうふうな、わたくしたちは、考えを持っています。
木野氏:私がお伺いしたかったのは、現状で数を比較すると、おそらく100万人に300とか、従来考えていたよりも数百倍という数字になるわけですけども、この数字というのをスクリーニング効果と言う以上は、数としてしきい値がなければいけないのでは?何万人に何人という数が説明される以上は、その数字にしきい値みたいなのがないと、どこまで増えると予想の範囲を超えるのかよく分からなくなると思うんですけれども。
山下氏:ちょっとわたくし、質問が分からないんですが、たとえば、甲状腺癌は年齢と共に増えます。韓国でこれだけが多く見つかったということは、40代や50代では100人に1人となるんですね。
木野氏:いえ、ごめんなさい、あの、言いたいことはそうではなくて、小児甲状腺癌に関して、県民健康管理調査の中で、これから、じゃあ、どれくらまで数が増えるかという予測としては、数としてはないということでしょうか?
山下氏:年齢がシフトして行きますから、同じ頻度で見つかるだろうと思います。一万人に数名単位。
木野氏:じゃあ、そうすると、今の100万人に300と、そういう数字ではなくなるということですかね。それはしばらく続くということですかね。
山下氏;はい。それは、そういう予想です。
記者:ウクライナでは1992年以降、ベラルーシでは1990年まで、子どもの甲状腺癌というものが見られなかったというお話だったんですが、ウクライナの1992年以前、ベラルーシの1991年以前は、どのような健康調査を、特に甲状腺癌に対して、どのような甲状腺癌の検査が行われていたのか、今の日本のような超音波検査が行われていたのか。この会合の出席者について、どなたがどのような理由で選考されたのか。
山下氏:わたくし達が入った1991年までは、超音波を使ったスクリーニングがなされていませんでした。1991年12月までは、ソ連全体の地域の癌登録でなされたデータがそのまま使われています。1991年12月に国が崩潰した後、色んな団体が入り、それぞれの国々で超音波を使いました。出席者の選考は??委員会で行われましたので、わたくしもそのメンバーの1人です。そして丹羽先生、OECD、環境省。今回は、福島の甲状腺癌についてがテーマでしたから、広島・長崎の経験、それからチェルノブイリの経験、これは大優先をしました。その上で、欧米のEpidemiologist、つまり疫学者、それから線量を評価できる人、そういう方を、従来の国連機関、いわゆる国際機関で活躍されている方々を呼ばせていただいた、ということになります。

質問:チェルノブイリではどのようにしてスクリーニング効果だとわかったのか?
山下氏:(前略)2つ目は当時はまだ線量評価が不十分で、これは日本と違って、すべてはミルク、食の汚染の連鎖で甲状腺の放射線線量を評価しますから、実はまったく持ってばらつきが大きくて、正確な値が出ませんでした。1,000mSvと言われたり、5,000mSvたり。そういう中で、3つの機関、国連機関もそうですけども、アメリカ、ヨーロッパ、それから旧ソ連も、それくらい評価をし、その検証した結果が出たのが、15年後、20年後となりました。長い歴史の下で、これは間違いなく、トレンド、タイムコースとして、順次、事故当時0歳から10歳の子どもたち、とりわけ、5歳未満に集中して、この子たちが年齢が上がって行くに従って、思春期癌、成人癌に罹って来るという、特定の母集団だけに、当時の、もう消えてなくなった放射性ヨウ素を初期にとったと言う方だけに増えてきたということで、スクリーニング効果じゃないだろうか、ということになりました。

木野氏:甲状腺検査を始める前からスクリーニング効果があるかもしれないということは想像されてたと思うが、そのような話は最初になかったと思う。だからこそ100万人に1人という数字がかなり広く知られたわけで、なぜそういうことを初めにちゃんと説明されなかったのか。
鈴木眞一氏:最初からスライドの中に、今まで小児の疫学調査はされてないと言った次に、この時点で超音波検査をやると、ゆっくり育つ、今まで発見されてなかった甲状腺癌が、容易に多く見つかるということを、ずっと説明してきています。それは、検査が始まる前からの説明でございます。それでは、どのくらいの数があるかということは、今日も昨日も議論になったように、やってみないとわからない。あの、これは、それを計算するものではございません。で、我々は、この制度でやって、やっとその具合がわかるようになってきた、というのがこの3年の経験だと思いますが、そういうことは最初から想定して、説明はさせてもらってます。
山下氏:わたくしの方からひとこと。これは内部でも十分議論しています。出すメッセージとしてわたくしたちが心配したのは、住民の方たちに対してでなく、まず、小児科の先生や甲状腺学科の先生たちが初めてこういうのを見ますから、それが、極めて誤解を招いたらいけない、ということでメッセージを出させていただきました。こういう、福島で検診が始まりましたので、微小癌が見つかります、と。先生たち、きちんと説明してください。とこれ、まさにスクリーニング効果そのものであります。スクリーニングすることによって、それまで無症状で、まったく◯◯(注:聞き取れず)なものがたくさん見つかります。そういうメッセージを、まず協力をしていくということから始めてますし、住民に対しても、今まさに鈴木先生がおっしゃったような形で、説明が始まっています。


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議長サマリーのまとめの部分の和訳

県民健康管理調査 検討委員会によると、甲状腺癌の増加が原発事故による放射線被ばくであると同定できる証拠はない。次の特徴がこれを支持する。
1.これまでの検査結果によると、福島第一原発付近の子どもの甲状腺被ばく線量は、チェルノブイリ事故の際に子ども達が被ばくした線量よりもかなり少ない。
2.国際的な観察によると、甲状腺癌の潜伏期間は最短で4−5年とみなされている。近年行われたスクリーニングの結果見つかった癌は、原発事故後間もなく、検査を受けた子どもたちに発現した。甲状腺癌の発達がゆっくりでおとなしいという医学的理解の下では、これらの癌が2011年3月の原発事故による放射性ヨウ素131への被ばくによって起こされたとは考えにくい。
3.甲状腺癌が確定された子どもたちは、事故当時に幼児ではなくティーンエイジャーだった。幼児は放射線誘発性甲状腺癌への感受性が強いということは知られている。今回の甲状腺癌でみられた年齢分布は、小児における自然発生の甲状腺癌の理解と一致するものである。

なお、OurPlanet-TVの白石草氏によると、この議長サマリーの著者は、経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)のTed Lazo氏であるということだ。

サンフランシスコ・ベイエリアでのフクシマ・フォールアウトの放射能測定


下記の論文が興味深かったので、妙訳した。

Measurements of Fission Products from the Fukushima Daiichi Incident in San Francisco
Bay Area Air Filters, Automobile Filters, Rainwater, and Food


「サンフランシスコ・ベイエリアのエアフィルター、車のフィルター、雨水と食品における、福島第一事故由来の核反応生成物の測定」


アブストラクト

カリフォルニア州バークレー市のローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)の低バックグラウンド施設(LBF)では、様々な環境用媒体において、福島原発事故由来のフォールアウト放射性核種が分析された。大気と雨水のモニタリングは、2011年3月の津波が起こってすぐに始まったが、ここでは2012年末までの結果が報告されている。観察されたフォールアウト核種には、ヨウ素131、ヨウ素132、テルル132、セシウム134、セシウム136とセシウム137が含まれていた。環境エアフィルター、車のフィルター、そして雨水における放射性核種が測定された。さらに、雨水でストロンチウム90の分析もされたので、それもここで発表した。最後に、魚のセシウム134とセシウム137に関するメディアの懸念が継続しているために行われた、2013年9月の一連の食品測定が含まれている。LBNLでのチェルノブイリ事故由来のフォールアウトの同様の測定は過去に公表されていないが、ここで、フクシマ事故との比較のために発表されている。発表された測定すべては、比較のベースとして、環境内の自然放射線核種も含んでいる。

概要

ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)の低バックグラウンド施設(LBF)では、1980年初期以来、大気サンプルフィルターからベリリウム7や鉛210などの自然放射性核種のようなガンマ線放出核種の検出を行って来ている。フクシマ事故後、LBFの近辺支局の環境大気フィルターおよびオロヴィル市の雨水からのフォールアウト核種の検出のための詳細な調査が始められた。また、LBFで既にモニタリングが続けられていた車のエアフィルターでの、フォールアウト核種モニタリングのパイロットプログラムが発足した。2011年春にサンフランシスコ・ベイエリアで採取された雨水の分析でストロンチウム90を探す試みもなされた。共著者の2人は、1986年のチェルノブイリ事故後にカリフォルニアで同様の測定を行っており、その結果は過去には公式発表されていないが、フクシマ事故との比較としてここで発表されている。最後に、2013年にフクシマで海に放出された汚染水の報告やこの近辺での懸念のため、ベイエリアの諸店舗から購入された魚や他の食品の測定が2013年に行われた。

1.大気サンプリング

2011年3月14日に、LBNL LBFの外に、0.3 μmのエアロゾル粒子を捕獲できる直径10.16 cmのHEPAフィルター付きエアサンプラーが設置され、稼働された。このエアサンプラーは現在も引き続き稼働されている。この論文には2012年末までの結果が要約されている。フィルター交換後1時間以内にラドン娘核種の定量化のために短時間の測定が何度か行われ、その後、核反応生成物の最初の到着から予期される大変小さなピークを検出する可能性を高めるために、終夜測定が続けられた。フィルターは最初は24時間ごとに交換され、その後、2日から一週間、そして一ヶ月ごとと、徐々に交換のタイミングが延長された。

3月15−16日に収集されたフィルターの終夜の測定は、ヨウ素131から放出されるガンマ線で最も強力である 364 keVにおいてとても小さなピークを検出したが、他の核反応生成物を伴っていなかったので、プルームの到着を公式にする証拠になり得なかった。3月16−17日のフィルターからは、テルル132とヨウ素131の両方が検出された。3月17−18日のフィルターからはヨウ素131(14.3 ± 0.1 mBq/m3)とテルル132(20.9 ± 0.1 mBq/m3)の最大値が検出された。3月23−24日のフィルターから検出されたヨウ素131(12.5 ± 0.1 mBq/m3)とテルル132(1.44 ± 0.03 mBq/m3)は二番目の最大値だった。(図1) 




図2:長期大気サンプリングの結果(2011年3月11日ー2012年末)



2.車のエアフィルター

2002年から、LBFは、国土安全保障への適用も視野に入れた放射性核種検出のパイロットプログラムとして、地元のバークレー警察署のパトカーのエアフィルターの分析を定期的に行ってきた。車のエアフィルターは、HEPAフィルターの3分の1の効率しか持たないが、それでも信頼性のある大気測定ができる。しかし、車のフィルターの使用は、もっと重要である定性分析を可能にする。決まったパトロール経路を走る公用車を使うことにより、実質すべての市のスクリーニングができる、低コストかつ既に配置済みのフィルター・ネットワークが存在することになる。

LBFでは、バークレー警察署から車のフィルターを2−3週間ごとに得ている。定期メンテナンス時にエアフィルターが交換され、オドメターの数値が記録される。LBFのパイロットプログラムでは、まず、車のメンテナンスショップで、ヨウ化ナトリウム検知器を用いたスクリーニングが行われ、グロスカウントが記録される。バックグラウンド以上のグロスカウントが検知されたフィルターは優先的に分析される。この調査では、フクシマ由来の放射性核種を含むフィルターでさえ、バックグラウンド以上の測定値が見られなかった。LBFに到着後のフィルターは、高純度ゲルマニウム検出器で核種分析される。LBNL LBFのオロヴィル支局での同様のプログラムと共に、1,500以上の車のエアフィルターが分析された。フクシマ事故前には、フィルターから検出された唯一の人工放射性核種は非常に微量のセシウム137であり、これは、20世紀半ばの大気圏内核実験の名残であるセシウム137が、地表の土壌粒子の再浮遊により捕獲されたものだった。

サンフランシスコ・ベイエリアでのフォールアウトは、大気中の他の自然放射性核種と同等であるが、図3(2011年4月7日測定の車のエアフィルターのガンマ線スペクトラム)で分かるように、いくつかのガンマ線のピークは、車のフィルターで非常に簡単に同定できた。



表A.3:図1と図3で表示されている放射性核種のガンマ線エネルギー、ソース、半減期



図4には、2011年3月の最初の放射能放出から2012年12月までのセシウム134、セシウム137、ヨウ素131とテルル132のカウント数が示されており、自然放射性核種の同時期のカウント数は図A.9に示されている。

図4

図A.9


車のフィルターのカウント数は実際の放射能の大気濃度に換算できるが、すべてのフィルターについての走行距離の情報が得られなかったので、ここでは定性分析を示す程度の意図で公表されている。図2のHEPAフィルターのデータと比較することにより、感度の目安が分かる。2011年3月11日から100日目頃に、図2でのHEPAフィルターのセシウム134とセシウム137の濃度は10 μBq/m3まで下がったが、図4で分かるように、車のフィルターでのセシウム134とセシウム137は、バックグラウンド以上の測定可能なカウント数を示した。また、図4では、2012年9月初めに分析されたフィルターにヨウ素131が再現するが、これはおそらく地元での医療行為の結果と思われる。このパイロットプログラムでは、ごく微量の放射線を検知できることが示された。市の中心部の高い建物に固定されたモニタリングポストだと、線源からの距離と希釈のため、そこまで微量な放出を検知しないかもしれない。しかし、この場合には、パトカーが、医療行為の一部として使われていたヨウ素131が放出されている病院の近くを走ったと思われる。ただ、ヨウ素131を含む短命核種は、定期メンテナンスの前に崩潰してしまうかもしれないので、車のフィルターでは検出が困難かもしれないということを心に留めておかなければいけない。

3.雨水測定

カリフォルニア州オロヴィル市でフクシマ事故後に雨水が採取された。図5にはベイエリア(イーストベイ)と、そこから120マイル(192 km)離れたオロヴィルでの雨水測定の結果が示されている。これによると、この2ヶ所での雨水の放射能濃度は驚くほど似ている。これは、北カリフォルニアでの数時間の間の降水には、放射能が均一して含まれていたことを示唆する。

図5:イーストベイ(中が空白の印)とオロヴィル(中が塗りつぶされている印)での雨水検体の放射性核種の比較。赤の下向き三角はセシウム134、緑の上向き三角はセシウム137、黒い丸はヨウ素131で、青い四角はテルル132。


4.ストロンチウム90

サンフランシスコ湾東部で2011年3月16−26日に採取された雨水の検体には、人工放射性核種のヨウ素131、ヨウ素132、テルル132、セシウム134、セシウム136とセシウム137が含まれていた。最大の放射能濃度は、3月24日採取のサンプル内の、16 Bq/Lのヨウ素131だった。この雨水の検体が、2012年夏にストロンチウム90検知のために再分析されたが、ストロンチウム90は検出されなかった。(注:原文には方法が詳しく説明してある。)

5.土と砂の検体

表A.4には、二組の敷地内の土壌検体の検査結果が示されている。最初の一組は1998年の検体で、建物90と建物72の傍の、1940年半ばに大気圏内核実験が始まる前から手が付けられていない地表から採取されたもので、二組目は、建物90の傍の、同じく手を付けられてない地表と、建物72の駐車場の脇の、1970年代後半に改装が行われた時に露出した地表の検体である。

表A.4

1998年の検体からセシウム134が検出されないことから、セシウム137は20世紀半ばの大気圏内核実験由来だと分かる。この調査で発表した大気モニタリングの結果から、この検体採取地にはほぼ同量のセシウム134とセシウム137が沈着したことが示されるので、2011年4月の検体から検出されたセシウム134によって、フクシマ事故由来のセシウム137を推計することができる。

敷地内のアスファルト道路の傍には、普段から年に2回、道路表面から剥がれた粒子が堆積する場所から検体が採取されるが、表A.5にはここから採取された堆積物の測定結果が示されている。雨水が道路から流れて来る場所なのでここの堆積物の放射能濃度はしばしば上昇することがある。採取された1−2kgの堆積物は、空気乾燥後にふるいにかけられ、16分の1インチのメッシュスクリーンを通ったものだけが検体として分析される。このように最終的に分析されるのは、大体、採取された分量の8割である。

表A.5


6.2013年10月の食品測定

2013年の間も福島原発から放射能が漏れているため、様々な食品検体の分析が行われた。メディア報道の多くが海への汚染水放出が継続されていることに関連していたため、特に魚に重点が置かれた。

2013年9月に、サンフランシスコ・ベイエリア付近の色んな店舗から、太平洋で獲れた魚やその他の食品が購入された。魚やヨーグルトのように水分がかなり多い食品は、最初に焼いて全体的な重量を減らし、扱いやすいようにしたが、水分を含んだ重量が記録され、分析で使用された。結果は表A.6に示されている。

表A.6

太平洋の魚のほとんどにセシウム137が含まれており、最大値はフィリピン産マグロの0.24Bq/kgだった。フクシマ由来核種の存在を示すセシウム134が検出された検体はなかった。ゆえに、検出されたセシウム137は、核実験などの過去の活動に由来する。また、すべての検体に、もっと高いレベルの自然放射性核種のK40が含まれていることに注目するべきである。セシウムとKが周期表で同列であり、色んな体組織や鉱物への親和性が似ているため、セシウム137とK40の比較は役に立つ。例えば、フィリピン産マグロには、セシウム137の放射能の400倍以上である、105 Bq/kgのK40が含まれていた。このような比較は、セシウム137の公衆への危険性の比較を評価する際に、バックグラウンド放射線量と直接比較できるので便利である。表A.6の最後の項目は、2011年4月に採取された、フクシマフォールアウト由来のセシウム134とセシウム137を吸収した雑草である。この雑草は、放射能が草の内部まで入り込んでいるのか、それとも表面汚染なのかを決めるために、加熱され、念入りに洗浄された。その結果、放射能は雑草の中に吸収されているのが分かった。この雑草は、2013年10月に、比較対象である表A.6の他の食品と一緒に再分析された。そして、2013年11月には、図6に示されているように、フィリピン産まぐろと共に低バックグラウンド法を用いて再分析された。結果は表2に示されている。

図6

表2

この雑草は、フクシマフォールアウトのプロキシとして使われ、セシウム134/セシウム137の比率が、我々の食品検体から検出されたセシウム137と比較された。その結果、もしもセシウム137が実際にフクシマ由来であったなら、検出下限値以上のセシウム134も簡単に検出されたであろうと確認された。ゆえに、今回検出されたのは、フクシマ以前の過去のセシウム137のみだと分かった。米国食品医薬品局(FDA)の食品での派生介入レベル(Derived Intervention Level, DIL)は、現在、セシウム134とセシウム137合算で1,200 Bq/kgである。測定された食品全部におけるセシウムはその千分の一以上少なかったので公衆への懸念はない。そして、自然ガンマ線核種、特にK40よりずっと少なかった。他にフクシマ由来核種を魚から検出した研究(これこれ)ではさらに、マグロに含まれているセシウム134とセシウム137の最大値を摂取することによる被ばく線量が、ポロニウム210からの被ばく線量と比べて絶対的にわずかであることを示した

7.チェルノブイリとの比較
7.1 チェルノブイリの大気モニタリング

1986年のチェルノブイリ事故後に、LBFでは同様の大気モニタリングが行われた。その結果は図7に示されている。フクシマ由来核種に加え、ルテニウム103(半減期39.26日)の放出が長期にわたって起こった。このモニタリング結果によると、ベイエリアでの最大値は、1986年5月5日に起こり、テルル132が16.6 ± 0.1 mBq/m3、ヨウ素131が95.6 ± 0.5 mBq/m3、セシウム134が23.4 ± 0.3 mBq/m3、セシウム137が41.8 ± 0.4 mBq/m3、ルテニウム103が25.3 ± 0.5 mBq/m3だった。 

図7

チェルノブイリ事故とフクシマ事故由来のフォールアウト核種の最大値を比較すると、カリフォルニア州サンフランシスコ市のベイエリアで測定されたチェルノブイリのフォールアウトがフクシマフォールアウトの10倍以上だというのが簡単に分かる。

7.2 チェルノブイリの食品モニタリング

1980年代後半には様々な輸入食品と国産の食品の測定が行われた。この研究は過去に公表されていないが、ここで要約する。チェルノブイリのフォールアウト核種が食品から検出されているという報告が続いたので、サンフランシスコ市ベイエリアで入手できる輸入食品が約50品目測定された。21の欧州諸国からの検体と、米国からの4検体が含まれていた。結果は表A.7に示されている。




多くの食品ではバックグラウンド以上の放射能は検出されなかったが、検出された場合、セシウム134とセシウム137が唯一の残存核反応生成物だった。この2核種の由来を検証するために、セシウム137/セシウム134比率によって放出時期が推定された。1987年10月の段階で、セシウムが検出された食品のうち、1品目を除いたすべての食品でセシウム137/セシウム134比率は2.95 ± 0.30だった。チェルノブイリ事故当日の1986年4月25日に補正したら、この比率は1.88 ± 0.19となり、図7の事故直後のフォールアウトの比率の1.90±0.08と整合した。食品から検出されたセシウムは、75 pCi/g(2,800 Bq/kg)から軽減されたその当時の最大許容限度である10 pCi/g (370 Bq/kg)より少なかった。これらの測定値の食品を1日2 kg摂取した場合の被ばく線量が推定されたが、両核種の生物学的半減期が70日であることを考慮し、平衡状態でのセシウム134は0.5 μCi/g(20,000,000 Bq/kg)、セシウム137は1.5 μCi/g(56,000,000 Bq/kg)となり、当時の非原子力作業員の基準であった、2.0 μCi/g(74,000,000 Bq/kg)のセシウム134と3.0 μCi/g(110,000,000 Bq/kg)のセシウム137よりもずっと少なかった。

メモ:2024年2月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、およびアンケート調査について

  *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。  2024年2月22日に 第50回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会) が、 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。  ...