アレクセイ・ヤブロコフ博士よりビクトル・イワノフ教授への返答


前記事で、首相官邸災害対策ページ内の原子力災害専門家グループのコメントのひとつである、ロシアのビクトル・イワノフ教授からのメッセージ(仮訳:山下俊一)を紹介した。

以下、抜粋。

「2011年3月の地震と津波という災害から3年近くが経過し、大規模な甲状腺超音波スクリーニングが行なわれた結果、福島県では子ども達の間に甲状腺癌が発見されました。当然ですが、「発見された甲状腺癌症例は、福島事故による放射線被ばくと関連があるのでしょうか?」という疑問が起こります。
  この疑問に答える為に、権威ある科学雑誌に出版されているチェルノブイリ事故後の小児甲状腺癌の疫学調査研究の主要な見解を検証してみましょう。
  1. 放射線誘発小児甲状腺癌の潜伏期は5年以上である。
  2. 放射性ヨウ素 (I-131) による甲状腺被ばく線量が150~200mGy以下では小児甲状腺癌の有意な増加は検出できなかった。
  3. 大規模なスクリーニングを行なった場合、甲状腺癌の発見頻度はチェルノブイリ事故により汚染されたか否かに関係なく、いずれの地域でも6~8倍の増加がみられた。

  以上3つの(チェルノブイリでの)疫学研究の結果から、福島県で発見された小児甲状腺癌は福島での原発事故により誘発されたものではないと一般的に結論できます。同時に、被ばく線量の推計と福島県民の放射線発がんリスクの可能性についての評価を続ける必要はあります。」
***

ロシアのアレクセイ・ヤブロコフ博士とのメールのやりとりの中で、このメッセージ内の「チェルノブイリでの疫学研究の3つの結果」についての返答を、ご自分のブログにアップしていることをご教示頂いた。機械翻訳された英訳に手直しし、ヤブロコフ博士に確認を取った上で和訳したものを紹介する。

1.放射線誘発小児甲状腺癌の潜伏期は5年以上である。

ヤブロコフ博士「チェルノブイリ事故が放射性核種による汚染を引き起こした2年後に、異常に多数の甲状腺機能障害が見られた。甲状腺癌の顕著な増加が最初に報告された時、医学界の公式な代表者らは、イワノフ教授が福島県民に関して述べたのと同じことを言った。しかし、チェルノブイリ大惨事の4年後には、普通の医師らでさえ、増加し続ける甲状腺癌症例が放射線核種のせいであると認め始めた。」

2.放射性ヨウ素 (I-131) による甲状腺被ばく線量が150~200mGy以下では小児甲状腺癌の有意な増加は検出できなかった。

ヤブロコフ博士「放射線誘発性の癌がヨウ素131被ばく量が150 mGy以上でないと起こらないというのは間違いである。まず最初に、ヨウ素131の甲状腺吸収量の計算の正確さは低い。2番目に、甲状腺癌は、ヨウ素131による汚染以外に、ヨウ素132、ヨウ素135、テルル129m、テルル131mとテルル132によっても引き起こされる。物理的法則に基づくと、これらの短命核種はすべてフクシマからの放出に含まれていたに違いない。」

3.大規模なスクリーニングを行なった場合、甲状腺癌の発見頻度はチェルノブイリ事故により汚染されたか否かに関係なく、いずれの地域でも6~8倍の増加がみられた。

ヤブロコフ博士「これは半分だけしか本当でない。チェルノブイリ事故後、甲状腺癌発症率の増加は、『放射能汚染地域と非汚染地域の両方で』見つかった。(一過性であり無視されている短命核種による汚染を考慮すると、『非汚染地域』というのは、より正確には「低汚染地域」と呼ぶべきである。)実際には、ベラルーシとウクライナで、(日本でのように)長命核種によって汚染された地域では、事故後4年目の甲状腺癌の症例数は、汚染が比較的少ない地域より顕著に多く、その後20年間も引き続き多かった。(参考文献:『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』)

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どうやら、イワノフ教授は、鈴木眞一氏が彼の論文に言及している理由を十分にご存知だと思わざるを得ない。

鈴木眞一氏のロシア論文引用発言の疑問点への質問と回答・未回答


2014年2月7日に開催された、第14回福島県「県民健康管理調査」検討委員会の記者会見の動画がこちらで紹介されている。この記事で言及された、福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座教授 鈴木眞一氏が「最近実施された被曝影響の無いロシアの子どもの検査でも4千~5千人に1人がんが見つかっている」と引用したロシア研究論文について、医療ジャーナリストの藍原寛子氏が質問されている。(質問の一部はこの件には無関係ではあるが、重要なので書き起こしてある。)

部分書き起こし

15分15秒〜
藍原寛子氏「ジャパンパースペクティブニュースの藍原です。二点、鈴木先生にご質問したいと思います。今のお話は、前回、先生が記者会見でおっしゃった、被ばく影響のないロシアの子どもの検査でも、4000人から5000人に1人で癌が見つかっているというお話があって、その出典はIvanovさんという方のリサーチだと思うんですけど、それを今回の検討委員会に適応・対応した理由とか説明がないので、色々と数字が一人歩きして混乱していると思うので、後日でもいいのでその採用された研究と理由・背景をひとつご提供頂きたいというのが一点。

もう一点は、この検討委員会では、独自の何の利害関係もない倫理委員会というものを立ち上げるようなご検討はなされておるのでしょうか?というのは、過去の放射能の災害の健康被害では、検査すれども治療せず、という問題があって、今回は検査も治療もしているのだけども、十分な検査・治療がなされていない感じ。例えば、ビキニ被ばくでは、被ばくした人達を皆、アメリカ本国に連れて行って、特定の医療機関で治療していたというような問題があります。今回、私がお聞きしたい理由としては、つまり、検査と治療と研究が、同じ福島県立医科大学で行われているということで、今回、厚労省が、ヒトゲノムの遺伝子解析の倫理委員会の指針を改訂しましたけども、その中でもセカンド・オピニオンに関する部分が非常に手厚くなっています。検査からも調査からも治療からも自分達の機関を選定できるという自由な選択が必要なのですが、今回、検査と治療をやっているところで研究が入る事になると、それは自由な選択っていうものを狭めてしまうのではないか?つまり、もうあなたは癌でした、疑いでした、という段階で、非常に患者さんは身柄を捉えてられる所にあるわけで、手術を他の東北大などの別の色んな病院で選択できるということが可能になっていないのではないかというのがひとつ疑問にあるということと、また、今回その指針に沿っているということを、改めて確認させて下さい。」

星座長「あの、ちょっと今日の議論とかなりずれているので、その準備をしていないというのと、それから、質問の意味が十分に私にも理解できないんですけども、医大の中の研究については、医大の倫理委員会を通っているという説明が最初にありまして、我々はそういった理解でデータのエントリーをしていますし、検査のエントリーを見ています。従いまして、そのご質問にお答えするとしたら、また別の場面でということにせざるを得ないかと思いますので、次の質問をお願い致します。」

会場からブーイング。

男性の声:「県が主催として調査をやっていて、県立医大でなくて。検討委員会がそれを検討するわけですが、星座長の意見でいいから聞かせて下さい。」

星座長「独立した倫理委員会については、今、ご意見を頂いて、なるほどと言うことがあれば私も検討します。今は、詳細、つまり、どういうことが問題になっているかについて、私も理解する必要があります。(後略)」

(質問者なのか司会者なのか不明)「すいません、資料につきましては、その度に新しいものが、まとまったものが出たら出しているということでよろしいでしょうか?」

25分24秒〜
藍原氏「先程の、鈴木先生にお願いした、4000人から5000人についての資料なんかは、ご検討頂けますか?」

25分34秒〜
鈴木氏「あの、答えてよろしいでしょうか?あの、お出しできますし、あの、もう既に、(筆者注:左の方の誰かを見て、「かん」と小声で言われた)ある所に、ホームページにも、その人のコメントも載せてありますので、後ほど、それはお出します。もうペーパーにもなってますし講演でも話されてるし、同じようなこの超音波のシステムで同じような精度で大規模にスクリーニングを続けているということで、採用に値するというのは、そういうことでございます。古い論文ですと比較はできない。現在、放射線の影響もない所も含めて、同じようなスクリーニングを続けている人のデータで、ロシアはそういうことをずっと続けてますので、そういうことで、最新のデータで分かっていると言う事でございます。あと、先程の大学の件ですけど、それとこの県民調査とは関係ありませんし、我々は、この手術での話をしているのではありません。私どものが手術をする施設でありますので、そういう所で患者さんになった人に対してそういう研究をしているということで、この県民健康管理調査の人を大学で倫理委員会を通して検討するということを言ってることとはちょっと違います。ただ、私どもは甲状腺を専門にしているので、手術をした方がどこで手術をされたかというのは、一切、今公表してませんので、その話と、私どもの所で治療してるしていないはまた別の話で、私どもは、通常業務で甲状腺の診療をしていますので、その中に、今、関心が高まっている小児の方がいれば、そういう検討も今後学問としてして行くというのが、通常の大学の仕事としてのひとつ。その事と、この検討委員会でやってる仕事がストレートに続いていないので、ここで倫理委員会を通すとか通さないとかの話ではありませんし、それとは全く違って、大学に入院をされてきて治療をされた方に対しての検討ですので、これは別にお考え下さい。以上です。」

(部分書き起こし以上)
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鈴木氏が、「ホームページにその人のコメントが載せてある。」と発言されたので、福島県の県民健康管理課のホームページ、そしてふくしま国際医療科学センター・放射線医学県民健康管理センターのホームページおよびその研究者向け英語サイトをチェックしたが、それらしきコメントは見られなかった。

「福島 甲状腺癌 イワノフ」というキーワードで検索したら、一番最初に出て来たのが、下記の首相官邸災害対策ページ内の原子力災害専門家グループからのコメントのひとつだった。鈴木氏が小声で「かん」と言われたのは、「官邸ホームページ」のことだったのだろうか?下記に全文を転載する。

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福島県民の皆様へ(仮訳:山下俊一)

 ビクトル・イワノフ教授からメッセージが寄せられましたので、以下、ご紹介いたします。なお、原文は、当グループ英語版に掲載 (Dear residents of the Fukushima Prefecture (January 14, 2014))してあります。

ビクトル・イワノフ教授
ロシア医学アカデミー準会員
ロシア放射線防護科学委員会委員長
放射線疫学研究訓練に関する世界保健機関協力センター・センター長

  私、ビクトル・イワノフはロシアのオブニンスクにある保健省管轄の医学放射線研究センターの副所長で教授であり、公衆と原発作業者の放射線防護に関する専門家です。2014年の新年を迎えたこの特別な機会に、福島の現状を論理的に理解し、福島における小児甲状腺癌に関する放射線リスクについての誤解や根拠の無い偏見を避ける為に、私たちの経験とデータを日本国民の皆様方と共有できればと思います。

  私は、1986年4月チェルノブイリ原発事故の直後から、事故の影響の軽減と、一般住民とソ連全土からチェルノブイリ原発施設に動員された除染作業者らを含む関係者の全ソ連登録システムの構築に参画してきました。この登録制度は1986年夏には速やかに整備されました。1991年冬までの5年間、ソ連が崩壊した年までには、登録データベースには約65万9千人の個々人の医療と被ばく線量に関する情報が保存され、そのうち34万2千人が、周辺の汚染地域に居住する住民データでした。このデータベースの構築は、日本の専門家との密接な協力で可能となったものです。現在では、ロシア政府による放射線疫学登録制度として、チェルノブイリ事故の影響を受けた約70万人が追跡調査の対象となっています。

  私は、2011年から、海外専門家の一人として福島事故の健康影響の予測に携わっています。日本とウィーンで開催された福島での事故に関する国際会議にも参加しました。2011年9月には福島第一原発、福島県の被災地域などを訪問し、住民の方々とも直接接しました。チェルノブイリ事故により被災したロシアの人々を27年間追跡調査してきた私自身の知識と経験から、チェルノブイリのデータに基づいて、福島県の被災者と原発作業員への事故の健康影響が予測出来ると思います。

  2011年3月の地震と津波という災害から3年近くが経過し、大規模な甲状腺超音波スクリーニングが行なわれた結果、福島県では子ども達の間に甲状腺癌が発見されました。当然ですが、「発見された甲状腺癌症例は、福島事故による放射線被ばくと関連があるのでしょうか?」という疑問が起こります。

  この疑問に答える為に、権威ある科学雑誌に出版されているチェルノブイリ事故後の小児甲状腺癌の疫学調査研究の主要な見解を検証してみましょう。


  1. 放射線誘発小児甲状腺癌の潜伏期は5年以上である。
  2. 放射性ヨウ素 (I-131) による甲状腺被ばく線量が150~200mGy以下では小児甲状腺癌の有意な増加は検出できなかった。
  3. 大規模なスクリーニングを行なった場合、甲状腺癌の発見頻度はチェルノブイリ事故により汚染されたか否かに関係なく、いずれの地域でも6~8倍の増加がみられた。

  以上3つの(チェルノブイリでの)疫学研究の結果から、福島県で発見された小児甲状腺癌は福島での原発事故により誘発されたものではないと一般的に結論できます。同時に、被ばく線量の推計と福島県民の放射線発がんリスクの可能性についての評価を続ける必要はあります。

  以上のような科学的な根拠から大きな健康影響はないと予想されます。しかしながら、福島での事故は、他の放射線事故と同様に、重大な精神的・社会的な問題の原因となりえます。
  科学的事実に基づく私のコメントが、皆様の健康影響への不安を軽減し、ストレスによる疾病の予防に役立てばと期待しています。恐れではなく、自信をもって前向きに将来を目指して頂きたいと念願します。

山下 俊一
福島県立医科大学 副学長
長崎大学 理事・副学長(福島復興支援担当)
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これが鈴木氏が言及された「コメント」だろうか?それであるなら、該当論文内に「被ばく影響のないロシアの子どもの検査でも、4000人から5000人に1人で癌が見つかっている」と言及されていたか否かの情報は見られない。

「被ばく影響のないロシアの子どもの検査でも、4000人から5000人に1人で癌が見つかっている」という論文を採用した理由と背景の提示を求めた藍原氏の質問に対しては、鈴木氏は一応回答しているとは言える。しかし、その論文が「被ばく影響のないロシアの子どもの検査でも、4000人から5000人に1人で癌が見つかっている」という主旨の論文でないという問題が未解決である。Ivanov氏は、この論文がそのように言及されているのをご存知で、同意されているのだろうか?

鈴木眞一氏のロシア論文引用発言に関する疑問点は解決されるのか?


2014年2月7日(金)13時30分から、第14回福島県「県民健康管理調査」検討委員会が開催される。今回、2013年11月12日に開催された第13回福島県「県民健康管理調査」検討委員会の記者会見での福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座教授 鈴木眞一氏の発言のひとつについての疑問点が解決されることになるのだろうか?

ツイッター上でのまとめサイトの情報に基づいて、下記にその疑問点を説明する。

まず、第13回検討委員会の翌日、朝日新聞デジタル版に下記の記事が掲載された。(以下転載)

子の甲状腺がん、疑い含め59人 福島県は被曝影響否定
2013年11月13日06時33分

【野瀬輝彦、大岩ゆり】東京電力福島第一原発事故の発生当時に18歳以下だった子どもの甲状腺検査で、福島県は12日、検査を受けた約22・6万人のうち、計59人で甲状腺がんやその疑いありと診断されたと発表した。8月時点より、検査人数は約3・3万人、患者は疑いも含め15人増えた。これまでのがん統計より発生率は高いが、検査の性質が異なることなどから県は「被曝(ひばく)の影響とは考えられない」としている。


 県は来春から、住民の不安にこたえるため、事故当時、胎児だった約2万5千人の甲状腺検査も始める。


 新たに甲状腺がんと診断されたのは8人、疑いありとされたのは7人。累計では、がんは26人、疑いが33人。がんや疑いありとされた計58人(1人の良性腫瘍〈しゅよう〉除く)の事故当時の年齢は6~18歳で平均は16・8歳。


 甲状腺がんはこれまでで10万人あたり12人に見つかった計算になる。宮城県など4県のがん統計では2007年、15~19歳で甲状腺がんが見つかったのは10万人あたり1・7人で、それよりかなり多い。ただし、健康な子ども全員が対象の福島の検査の結果と、一般的に小児は目立つ症状がないと診断されないがんの統計では単純比較できない。


 ただ、チェルノブイリでは、原発事故から4~5年たって甲状腺がんが発生しており、複数の専門医は「被曝から3年以内に発生する可能性は低い」と分析している。県は被曝の影響とは考えにくい根拠として、患者の年齢分布が、乳幼児に多かったチェルノブイリと違って通常の小児甲状腺がんと同じで、最近実施された被曝影響の無いロシアの子どもの検査でも4千~5千人に1人がんが見つかっていることなどを挙げている。(転載終わり)


***
物議を醸し出しているのは下記の文章である

「県は被曝の影響とは考えにくい根拠として、(中略)最近実施された被曝影響の無いロシアの子どもの検査でも4千~5千人に1人がんが見つかっていることなどを挙げている。」

これは検討委員会後の記者会見での鈴木眞一氏の発言(26分10秒より)に基づいている。議事録には収録されていない。
“今あのチェルノブイリで、放射線の影響が無い子供たちの、超音波のスクリーニングをした中でも、だいたいあの、たしか4,5…ちょっと今数字正確には忘れましたけど、4,5千名に1名と大きな乖離は無いというような値を得ていますので、最近そういう発表が論文でありましたので、ロシアの方から” (みーゆさんの2013年11月17日のツイートより)




福島医大によると、「最近実施された被曝影響の無いロシアの子どもの検査」というのは、このIvanovらによる有料論文のようである。

”Radiation-epidemiological studies of thyroid cancer incidence in Russia after the Chernobyl accident (estimation of radiation risks, 1991–2008 follow-up period)”
「チェルノブイリ事故後のロシアにおける甲状腺がんの放射線疫学研究(放射線リスク推定、追跡期間1991−2008年)」







  • アブストラクト和訳:
    この研究は、チェルノブイリ事故の影響で最も汚染がひどかったブリャンスク、カルーガ、オリョールとトゥーラ州の住民における甲状腺がん罹患率の分析である。追跡期間は1991年から2008年で、コホートサイズは309,130人である。この追跡期間中、978人に甲状腺がんが見つかった。1グレイあたりの過剰相対リスク(ERR/Gy)は、事故当時の子どもとティーンエイジャー(0〜17歳)で統計的に有意であった(ERR/Gy=3.22; 95%信頼区間1.56、5.81)。男児におけるERR/Gyは6.54で、女児の’2.24よりも高かった。被ばく後の時間的経過に伴う、統計学的に有意なERR/Gyの減少は、10年につき0.37倍であり、コホート全体と男児でそれぞれ見られたが、女児では見られなかった。被ばく時に18歳以上だった人達では、甲状腺がんの放射線リスクは見られなかった。

    (この論文の引用和訳についてはこの記事の巻末を参照のこと)

    ***


    子の甲状腺がん、疑い含め59人 福島県は被曝影響否定◆朝日 http://t.co/cdpJawQ5Al  初めて見たけど、11月13日の記事とのこと。 この記事に出てくる数字がおかしい
    おかしいのは 「最近実施された被曝影響の無いロシアの子どもの検査でも4千~5千人に1人がんが見つかっている」 の部分。この記述の元ネタは2012年の Ivanov らの論文 https://t.co/HUHwPjguTf との噂。この論文には、こんなことは書いてない。
    この論文に書いてあるのは「子どもの検査」ではなく、「“チェルノブイリ事故時に” 0-17 歳の子どもだった人の検査」。調査期間は 1991-2008 年。2008 年というのは事故の 22 年後なので、0-17 歳の子どもだった人たちは既に 22-39 歳になっている。
    もう、すっかり大人である。「4千~5千人に1人」という大きい値が出ているのは、このため。

    確認のため、論文に示される数値から年間の罹患率を大雑把に求めてみる。

    論文の Table 2 より、最低線量区間 0-0.05 Gyでの両性の症例数は49、人年は 288218。これより、平均の年間罹患率は大雑把に 5900人に1人程度。同じことを Table 5 の女性の数値を使って行うと、平均の年間罹患率は 3700人に1人程度。 以上。”

    論文のTable 2(表2)の和訳はこのようである。

    表5の和訳はこれである。



    私は、この発言は間違いなんじゃないかと思ってる。 → 朝日新聞「子の甲状腺がん、疑い含め59人 福島県は被曝影響否定」の数値がおかしい http://t.co/uXmr3Gz07F

    これの件で鈴木眞一さんと朝日新聞にメールを送信 → “朝日新聞「子の甲状腺がん、疑い含め59人 福島県は被曝影響否定」の数値がおかしい” 

    ***

    しかし、みーゆさんの質問メールに対して、鈴木眞一氏からの答えはなかった。
    さらに、2013年12月21日に福島県白河市で開催された第3回「放射線の健康影響に関する専門家意見交換会 "甲状腺"を考える」においても、鈴木氏はこの論文に言及している。 (46分くらいより)



    鈴木氏には、ぜひ、このIvanov研究論文を引用する妥当性について説明して頂くか、もしくは別の論文を提示して頂きたい。

    ***

    Ivanovらによる「チェルノブイリ事故後のロシアにおける甲状腺がんの放射線疫学研究(放射線リスク推定、追跡期間1991−2008年)」引用和訳

    ロシア保健・社会開発省の国立医学放射線研究センターでの研究。 1991年から始まったチェルノブイリ登録のロシア部門はロシア国立医学・線量登録(RNMDR)で、RNMDRデータベースには、現在、689,000人の医学的および線量データが含まれる。このうち190,000人は緊急作業員で、433,000人は、ロシアで汚染された4州(ブリャンスク、カルーガ、オリョールとトゥーラ州)の住民である。

    この研究では、RNMDRコホートデータを使い、1991年1月1日から2008年12月31日の追跡期間中の甲状腺がん誘発の放射線リスクが推定された。 1991−2008年期間の309,130人のコホートで993人に甲状腺がんが見つかった。このうち247人は小児で、746人は成人だった。

    臨床的に診断されたのは、子どもとティーンエイジャーの8.5%と成人の10.5%のみだった。残りは細胞診断(小児の89%、成人の79%)、もしくはアイソトープ法、エコー検査か他の診断方法で見つかった。

    図1では、小児の甲状腺がん患者の分布関数に、線量が高い方へのシフトが見られ、放射線リスクが存在することを示している。図2の成人の分布関数はその反対で、おそらく成人では放射線リスクがないことを意味する。 



    RNMDRで登録された247人の小児甲状腺がんのうち、61人は男児で186人は女児だった。追跡期間全体での平均放射線リスクは、リスクモデル1と2(被ばく後の経過時間により平均されたリスクモデル)ではERR/Gy=3.22(95%信頼区間1.56; 5.81)

    リスクモデル4(被ばく後の経過時間を過剰相対リスクの交絡因子としたリスクモデル)の被ばく後15年目の中央推定値はERR/Gy=3.58(95%信頼区間1.61;5.57)だった。

    表1では、小児におけるERR/Gyの被ばく後経過時間への依存性が統計学的に有意(p=0.006)であるのが示されており、被ばく後5年後から15年後の間にERRが0.37倍に減少したことがわかる。 



    男児と女児が別々に分析された場合(表3)でも、ERRの被ばく後経過時間への依存性は統計学的に有意(p=0.04)であった。 


    図4と5では、男児と女児における甲状腺がんと、健康なコホートの累積分布関数が示されているが、健康なコホートと甲状腺がん患者の放射線被ばく量の差異は、男児のみで見つかった。

    表3から、甲状腺がんの男児の平均被ばく線量は250mGyで、健康なコホートの178mGyよりもかなり大きい事が分かる。女児での平均被ばく線量は、甲状腺がんの患者で218mGyと、健康なコホートの196mGyより高かった。

    表3によると、リスクモデル1と2では、ERR/Gyは男児6.54、女児2.24、リスクモデル4では、男児6.70、女児2.68と、どちらでも男児が女児の約3倍だった。また、リスクモデル3による相対リスクは、甲状腺被ばく線量が250mGy以上だと統計的に有意になった。

    甲状腺がん発症率のベースラインモデリング、特に時間依存性は、明らかに、幼少期の放射性ヨウ素被ばく後の放射線リスクの数量的推定において重要な役割を果たし得る。チェルノブイリ事故で汚染された地域でのエコー検査と症例数報告の増加は、スクリーニング効果と甲状腺がんの初期診断に繋がった。

    ウクライナとベラルーシの高線量汚染地域の子どもとティーンエイジャーにおける甲状腺がんのベースライン発症率は、汚染がひどくない地域の4倍近くになった。

    この研究では、ロシアの一般統計と比べるとさらに高いベースライン発症率が見られ、成人では約4倍、小児では約8倍だった(表1のSIR、標準化罹患比)。ロシアにおける甲状腺がんのベースライン発症率は将来の疫学研究でさらに調査されるべきである。 

    引用和訳で言及されなかった図表 
    表2 チェルノブイリ事故当時の小児(0−17歳)の甲状腺がん相対リスクの推定、リスクモデル(3)

    表4 チェルノブイリ事故当時に0−17歳だった男性の甲状腺がん相対リスクの推定、リスクモデル(3) 

    表5 チェルノブイリ事故当時に0−17歳だった女性の甲状腺がん相対リスクの推定、リスクモデル(3)

    図6&7 線量区分による甲状腺がん発症率相対リスク、図6が男児、図7が女児 


    ワシントン州海産会社の魚介類の放射能測定結果:放射性ストロンチウムと放射性セシウム


    ワシントン州の海産会社であるヴァイタル・チョイス・ワイルド・シーフード・アンド・オーガニックス社は、2012年以来、太平洋で捕獲される魚介類の放射能検査を行って来た。今回、キングサーモン、ソックアイサーモン(紅鮭)とビンチョウマグロのストロンチウム検査結果が公表されたので、許可の下、ここに公表する。

    ストロンチウム不検出
    2014年1月9日付けの記事 
    結果PDF 
    「去年の夏、ストロンチウム90という長命核種が福島第一原発から漏れていることを示唆する報告が出始めた。安全性を確認するために、2013年秋に、何種類かの魚をストロンチウム90の検査に出した。」

    (注:ストロンチウム検査は、ペース・アナリティカル・サービス社によって行われ、SGSノースアメリカ社によって検証された。)

    検体受け取り日 2013年10月30日
    検査実施日 2013年11月12日

    ソックアイサーモン(紅鮭) -0.00130 ± 0.0210 pCi/g (検出下限値 0.0513 pCi/g)、または -0.0481 ± 0.777 Bq/kg   (検出下限値 1.8981 Bq/kg)
    キングサーモン                       0.0228 ± 0.0292 pCi/g (検出下限値 0.0635 pCi/g)、または 0.8436 ± 1.0804 Bq/kg (検出下限値 2.3495 Bq/kg)
    ビンチョウマグロ                  -0.0151 ± 0.0167 pCi/g (検出下限値 0.0456 pCi/g)、または -0.5587 ± 0.6179 Bq/kg (検出下限値 1.6872 Bq/kg)

    ※ 測定結果は、「放射能濃度 ± 不確定さ」として報告されている。また、測定結果が pCi/g だったので、わかりやすいように Bq/kg に換算して併記した。
    ※ 結果には記されていないが、ヴァイタル・チョイス社にメールで問い合わせた所、検体は、皮と骨を含む魚全体だった。ストロンチウムは骨に蓄積するので、骨が含まれているのは重要。
    ※ 検出下限値は、MDC(minimum detectable concentration)または、MDA(minimum detectable activity)と呼ばれる。(注1)


    なお、ヴァイタル・チョイス社の魚介類捕獲区域はこのページに記載されている。(下記に該当部分を引用)

    「鮭、オヒョウ、タラ、車海老、エビ、ダンジネスクラブ、 ムラサキイガイ、ハマグリなどの太平洋の魚介類すべては、福島第一原発から東に4,000ー5,000マイル(6,400ー8,000km)離れた、アラスカ州、ワシントン州、オレゴン州とブリティッシュ・コロンビア州の沖合で捕獲または漁獲される。」
    「唯一の例外は、ビンチョウマグロとキングクラブで、ビンチョウマグロはミッドウェイ島沖、キングクラブはベーリング海で捕獲される。両方とも、福島第一原発からおおよそ2,500マイル(4,000km)東に位置する。」

      
    また、ヴァイタル・チョイス社は、これまでにヨウ素131とセシウム134とセシウム137の測定を3度行っている。

    テスト1:2012年3月29日公表
    「ユーロフィン・ラボラトリー社が、15種の魚介類でセシウム134、セシウム137、ヨウ素131の検査を行い、何も検出されなかった。」

    セシウム134: 不検出〜微量(検出下限値 1.0 Bq/kg)
        ほとんどの魚介類  <1.0 Bq/kg
        ビンチョウマグロ 1.4 Bq/kg
        オヒョウ 1.3 Bq/kg

    ビンチョウマグロとオヒョウから検出された微量のセシウム134は、魚に平時に見つかるセシウム137と134の合算値最大値の10Bq/kgの15%以下である。(注2)
    そして、この微量の数値は、セシウム137と134合算のFDA基準値のDIL(懸念レベル)である1,200 Bq/kgのわずか0.1%だった。(注3)

    セシウム137: 不検出 (検出下限値 1.0 Bq/kg)
    ヨウ素131: 不検出 (検出下限値 2.0 Bq/kg)
    これは、分析された魚介類すべてが、ヨウ素131のFDA基準値のDILである170 Bq/kgの1.2%以下ということになる。ヨウ素131は、発生後2週間で安全な形状に崩壊する。(注3)

    テスト22012年9月公表
    「ユーロフィン・ラボラトリー社は、当社の太平洋産ビンチョウマグロとアラスカ産オヒョウ、紅鮭とタラを検査した。セシウム134とヨウ素131は検出されず、検出できるかできないかの、ごく微量で明らかに安全な量のセシウム137がタラから検出された。」

    セシウム134: 不検出 (検出下限値 1.0 Bq/kg)
    セシウム137: タラ 1.2 Bq/kg (検出下限値 1.0 Bq/kg)
    ヨウ素131: 不検出 (検出下限値 2.0 Bq/kg).

    テスト32013年9月公表
    「ユーロフィン・ラボラトリー社が、当社の鮭(ピンク、キング、紅鮭、銀鮭)、マグロ、タラ、オヒョウとギンダラでセシウム134、セシウム137とヨウ素131の検査を行ったが、不検出だった。」

    セシウム134: 不検出 (検出下限値 1.0 Bq/kg)
    セシウム137: 不検出 (検出下限値 1.0 Bq/kg)
    ヨウ素131: 不検出 (検出下限値 2.0 Bq/kg)

    *****

    さらに、ワシントン州シアトル市のロキ・フィッシュ社が、独自の放射能検査結果を公表した。ファミリービジネスであるロキ・フィッシュ社は、アラスカ南東部とピュージェット湾(シアトルの西)から野生の鮭とオヒョウを漁獲する漁業会社である。

    ロキ・フィッシュ社の2014年1月7日の記事
    「北太平洋の鮭の検体では放射能の上昇値は検出されなかった」

    検査結果 

    記事からの引用
    「アラスカ南東部からのピンクサーモン、ケタサーモン(白鮭)、コーホーサーモン(銀鮭)、ソックアイサーモン(紅鮭)とキングサーモン、そしてピュージェット湾からのピンクサーモンとケタサーモンが検査された。」

    ユーロフィン・ラボラトリー社による測定(注3)

    セシウム134: アラスカ産ピンクサーモン 1.2 Bq/kg (検出下限値 1.0 Bq/kg)
    セシウム137: アラスカ産ケタサーモン 1.4 Bq/kg (検出下限値 1.0 Bq/kg)
    ヨウ素131: 不検出 (検出下限値 2.0 Bq/kg)

    *****
    注1)参考のために、水産庁の放射能測定結果では、ストロンチウム検出下限値は、0.01−0.04 Bq/kgだった。

    注2)この平時のセシウム最大値がセシウム134とセシウム137合算で10 Bq/kgというのは本当なのか?そもそも、魚からセシウム134が「平時に」検出されるべきか?この情報の出所をヴァイタル・チョイス社に問い合わせた所、ユーロフィン社だということだった。しかし、この2012年に公表されたクロマグロの研究論文によると、2008年の太平洋産クロマグロでは、セシウム134は不検出、セシウム137は1.4 Bq/kgだった。

    注3)米国の基準値DILによると、どの食品でも、ストロンチウム90の基準値は160 Bq/kg、ヨウ素131は 170 Bq/kgで、セシウム134と137は合算で1,200 Bq/kgである。日本のセシウム基準値は、魚介類が適用される一般食品では100 Bq/kg(乳児用食品と牛乳では50 Bq/kg)であり、これにはストロンチウムやプルトニウムも含まれている。これらの基準値は、内部被ばく線量による健康影響が同等の外部被ばく線量よりも大きいと主張する人達にとっては過剰とみなされている。フードウォッチとドイツIPPNW(国際核戦争防止医師会議)の報告書では、EU(欧州連合)の一般食品のセシウム基準値の600 Bq/kgを16 Bq/kgに、乳幼児食品と乳製品の基準値の370 Bq/kgを8 Bq/kgに下げることが推奨されている。

    さらに、ヴァイタル・チョイス社の情報ページには、「放射線専門家によると、心配する理由はない。」というセクションがあり、「福島原発事故による海洋生物相と人間の魚介類消費者への放射線被ばく量および関連したリスクの評価」という研究論文が言及されている。

    アブストラクトより抜粋和訳:
    「米国において、フクシマ由来放射性物質によって汚染された太平洋産クロマグロを消費する人間に加算される被ばく量は、平均的な消費者には0.9マイクロシーベルト、生活の糧とする漁師では4.7マイクロシーベルトとなると推計された。このような被ばく線量は、すべての人間が日常的に晒されている、多くの食物に含まれる自然発生の放射性物質や、医学的治療、航空機での旅行や、その他のバックグラウンド放射線源からの被ばく線量と同等であるか、あるいはそれより少ない。低線量の電離性放射線への被ばくによる人間への発癌リスクの評価には不確定さはあるが、太平洋産クロマグロを生活の糧としている漁師による消費における被ばく線量からは、1000万人の同様に被ばくした集団での癌死が2人増えると推定される。」

    まず最初に、放射線感受性は年齢や性別によって異なるのに、内部被ばく量をマイクロシーベルトで表現し、一般集団に適用するのは適切だろうか。また、放射性セシウムのような人工核反応生成物を、バナナに含まれている放射性カリウムのような自然放射線核種と比較することは、核反応生成物の環境での存在を黙認そして肯定するようであり、誤解を招く。「そもそも放射性セシウムがそこにあるべきか?」と問うべきである。また、医療診断・治療用の放射線(内部照射および外部照射)は、厳密にはバックグラウンド放射線ではないし、この 研究論文で言及されているように、無害というわけでもない。航空機での旅行は外部被ばくであるので、セシウム摂取による内部被ばくとは比較できない。

    放射能汚染された食物を消費するかどうかについて知的な判断を下すためには、このような、しばしば都合良く曖昧にされてしまっている問題点を理解する必要がある。安全な量の放射線というものは存在しないということを心に留めつつ、最終的には、リスクを引き受けるかどうかは個人の選択である。しかし、赤ちゃん、幼児、子ども、妊婦や妊娠する可能性がある女性などの、放射線感受性が高い特定の集団のことを考慮するべきである。

    注4)ヴァイタル・チョイス社とロキ・フィッシュ社の測定どちらもで、魚によってはセシウム137が不検出なのにセシウム134が検出されたケースがあった。大気圏内核実験由来のセシウムはセシウム137のみであり、セシウム134がセシウム137と共存するのがフクシマ事故のシグネチャーとみなされているはずなので、セシウム134のみの検出というのは、不思議である。ヴァイタル・チョイス社にこの件で問い合わせたが、返事は、「当社では分かりません。ユーロフィン・ラボラトリー社は放射性物質検査の専門家です。」だった。

    IPPNWの共同代表ティルマン・ラフ医師の講演内容書き起こし和訳


    131106 国連科学委員会(UNSCEAR)福島レポートをどう読むか~IPPNWの共同代表・ティルマン・ラフ博士を迎えて~
    イベント情報はこちら
    動画はこちら(00:44:18〜1:30:00)
    講演スライドのPDFはこちら


    ティルマン・ラフ氏は、オーストラリアの感染症・公衆衛生専門家の医師である。核戦争防止医師会議(International Physicians for the Prevention of Nuclear War、またはIPPNW)の共同代表であり、IPPNWオーストラリア支部である、戦争防止医師会Medical Association for Prevention of War、またはMAPW)オーストリア支部の国際顧問でもある。
    *****
    講演内容書き起こし和訳

    こんにちは。今日は、皆さんと午後を一緒に過ごし、現在も進行している、大変重要な問題についての国際公衆衛生からの視点をお話するためにお招きして頂いて大変ありがとうございます。



    フクシマの話をするにあたって私が最初に述べるべきだと思うのは、皆さんへのお詫びです。その理由は、非常に残念なことに、フクシマとそれ以外の地域を汚染しているフォールアウトはオーストラリアで採掘されたウランから来たものだからです。




    そして、そのウランは、ウラン鉱山がある土地の伝統的な管理者たちの強くて首尾一貫した反対に反して採掘されたものです。なので、それについて本当に申し訳なく思っています。


    そして、健康における技術的なトップ機関はWHOだとご存知だと思いますが、WHOの内部では、放射線と健康についての専門的知識はあまりありませんが、専門家の招集力は非常に大きいです。そして、WHOの健康リスク評価の報告書は、2011年9月までだけの推定被ばく量に基づいていますが、今年の2月に発表されました。もうご存知だと思いますが、特に、汚染が最もひどかった地域の子供たち、そして作業員において、固形癌と白血病のリスクがかなり増加すると推定されました。



    健康についての世界のトップの技術的機関として、WHOの言葉は本当に最終勧告であるべきです。正直、この時点では、私はUNSCEARなどなければいいのに、と思います。どうしてそう思うか分かりますか?

    最初に、WHO報告書にかなり保守的な傾向が見られるにしても、それは例えば、屋内退避を考慮していないというようなことですが、リスクがかなり過小評価されているという理由も、またあると思います。



    もちろん、この報告書は、2011年9月までのデータしか含んでいないので、続行中の放出は除外されています。それ以降の作業員はこれからも福島第一原発での作業に従事しなければいけないかもしれませんが、その方たち全員の被ばく量は除外されています。消防士、警察官や自衛隊員などの緊急対応要員が除外されています。皆さんの方がご存知だと思いますが、かなり遅くまで避難されなかった方達がいるにも関わらず、強制的避難区域である20キロ圏内の住民が除外されています。そして、とても重要なことですが、WHOが推計した近隣5県の被ばく線量推測値の幅が、福島県の汚染があまりひどくなかった地域と実質あまり差がないにも関わらず、これらの県の住民の被ばく量が除外されています。そして、日本の残りの地域の住民の被ばく量が除外されています。

    UNSCEARについて少しだけお話しますが、公表されている文書、すなわち、あの短いサマリーのみにコメントを留めます。理由は、実際の報告書(付属書)がまだ完成されていないと思われるからです。まず、UNSCEARとは何かについて、いくつかの側面を追加して強調する価値はあると思います。



    UNSCEARは、随分前に設立され、国連総会に直接報告します。そして、放射線の被ばく量と影響についてかなり広範囲の権限を持っています。しかし、政府が設立したものです。そして、すべての国の政府が含まれているわけではありません。核保有国のほとんどが含まれており、原子力発電所があったり、ウラン鉱山を通して核連鎖にかなり関与している国々への強いバイアスがあります。したがって、各国の代表が、核活動に大規模かつ多額の投資をしている政府から推薦されるために、概して独立した意見が欠けています。半ばクラブのような感じです。



    5月の会議に参加したカナダ代表団のメンバーの1人が、低線量放射線は体に良いという、過激としか言えないような見解の持ち主であり、その考えをオーストラリアで勧めるために、ウラン採掘会社によってオーストラリアに招聘されていたということに驚きました。

    なので、一般的に、国連機関や、他の機関がその意見に従う傾向の強いIAEAについては、必要以上に、政府と原子力産業の利害関係に対して、原子力推進目的のバイアスがあると思います。

    それでは、この国連総会への短い報告書の中のいくつかの点で、私が懸念を持つ、または整合性がないと思ったことを指摘させて下さい。



    最初の方で、非常に大量の放射性物質が放出されたと述べられていますが、どういうわけか、この非常に大量の放射性物質の公衆への影響は、低い、または非常に低い被ばく量です。そして、「識別し得る発症率の増加」というような表現に一番良く当てはまる言葉というのは、英語だとdisingenuous(不誠実)、というのだと思います。影響がないと言っているのではありません。恐らく影響を見つけることができないだろうと言っているのです。そして、もちろんそれは、どれくらい良く物事を見ることができるかによります。さらに、甲状腺癌のリスクの増加は予期されると述べられています。これはあまり整合性がありません。

    広島と長崎のデータに基づいた予測を見ると、何十ミリシーベルト(ここではミリグレイ)の範囲だと、健康影響を見るのには、何百万人という、非常に大人数のデータが必要となります。しかし、注意深く探せば、もっと小規模の研究でもかなりの影響を見る事ができます。



    米国のスリーマイル島事故では、1ミリシーベルトという比較的少量の放射線が周辺に放出されたと思われています。



    しかし、その地域での癌の発症の調べた注意深い研究では、肺癌の発症率と汚染の度合いに非常に明らかな相関性が見られました。それは、大変強い、そして統計学的に非常に有意である相関性でした。




    チェルノブイリに関しては、推定被ばく量に基づいて、どのような影響も識別するのが困難であると、(フクシマと)似たようなことが言われました。そしてもちろん、あまり計画的に行われなかった追跡調査をもってしても、小児甲状腺癌が劇的に増加したのが分かりました。


    また、最近の、廃炉作業員における白血病のリスクの増加についてのかなり説得力のあるデータを含む、様々な他の影響の証拠も増えています。


    原子力産業労働者において実施された最大規模の研究は、国際がん研究機関によって行なわれた15ヶ国研究です。40万人以上の労働者の研究で、そのほとんどにおいて、原子力施設での労働からの被ばく量は、推奨最大被ばく限度よりかなり少なく、平均年間被ばく量は19.4ミリシーベルトでした。しかし、推奨職業被ばく限度内のこれらの被ばく線量において、とても明らかで、かつ統計的に非常に有意な増加が、すべての癌と白血病で見られました。






    通常運転されている原子力発電所周辺の住民もまた、非常に低い線量の放射線に被ばくすると推定されている。しかし、実際には今ではかなりの量の証拠があり、その中で一番優秀な研究は、原子力発電所から5キロ以内に住む小児での白血病のリスクが倍であることを示した、このドイツの研究です。



    そして、もしも多くの人々が少しの線量に被ばくしたら、その影響は些細ではないかもしれない。日本の人口が大雑把に1億だとして、1ミリシーベルトにつき1万人に1人に癌が過剰発生するという非常に標準的で保守的なリスク推計を用いたら、日本全体で1万人に癌が過剰発生することになります。これを検出することはできないでしょうが、1万人が癌になるということは、些細な事ではありません。



    物事は、探そうとしなければ、見つからないものです。そして、これについては、皆さんの方が私より詳しいはずですが、最近発表された日本の専門家による権威のある報告書によって、癌登録の状況があきらかになりました。日本のほとんどの都道府県では癌登録がなく、福島県では2010年に設定されたばかりです。なのでこれは、長期的な癌の影響を見つけようとしているのなら、問題となる可能性があります。すなわち、長期的な発癌の影響をみつけることができるほど敏感なシステムが存在しないかもしれないということです。



    私が特に必要だと考えることのひとつは、国際がん研究機関が今でもチェルノブイリでも実施されるべきであると推奨しており、日本でも推奨を待たずに行うべきことですが、被ばくした住民の、推計被ばく量の適切な人口登録です。大まかな推計値でも構いません。そうすれば、どこに住んでいても、推計被ばく量の情報を癌や死亡や出生時の影響などの長期的な健康影響と結びつけることができます。

    私が懸念している次の問題は、UNSCEAR報告書内で、被災者を責めるような傾向が見られるということで、少し不穏に感じます。被ばく量が平均より多かった住民は、食べるのを止めるように言われた食べ物を食べたとか、避難区域に住み続けたというようなことが示唆されています。その人達が悪いのだと示唆しています。また、健康への悪影響の中には、放射線への根拠のない不安に関連しているものがあるとも示唆しています。とてもひどいことが起きたというより、ちゃんと理解していないからだということです。放射線が問題でないということを分かっていない、というのです。自分自身の問題だというのです。何かとてもひどいことが起こってしまったという事の理解が欠けているのです。崎山医師が委員を務められた国会事故調査委員会のとても優れた報告書が結論づけたように、事故への対応と管理においては、うまく行なわれなかったことがたくさんあります。そういうことは、UNSCEAR報告書では、少なくともサマリー版では、まったく認識されていません。



    次にお話したいのは、子供たちについてです。

    少し矛盾を感じます。サマリー版の同じページ内で、一方では、6年前に、小児の放射線の発癌影響への感受性は、一般大衆の2−3倍だと結論づけたと述べてあります。しかし同じページの後の部分では、小児期における放射線被ばくの影響を一般化しないようにと述べてあります。これらの供述はちょっと整合し難いと感じます。



    また、少なくともサマリー版では、住民の防護のための行動という、肝心なことに関しての勧告がありません。

    国会事故調査委員会の報告書でも使われていましたが、ここに、米国科学アカデミーからの大変有効な証拠があります。すべてのデータを合わせたら、長期的な発癌リスクは、小児においてよりずっと多く、また、男児よりも女児においてよりずっと多いということが明らかに示されています。



    さきほどCTスキャンの研究が言及されていましたが、私はちょっとこの研究を誇りに思っているのでお話したいと思います。この研究の研究者は、年を取っています。退職するべきような年齢です。なのに、この、まったくすばらしい研究を行ったのです。これは、これまで行なわれた小児におけるCTスキャンの研究、あるいは、実際のところ、小児における低線量被ばくでの最大規模の研究と言えるでしょう。69万人と言う、非常に大人数のCTスキャンを受けた小児を平均して9年間追跡調査しました。並外れた統計的正確さにより、CTスキャンを一度受けたあとの9年間での発癌リスクが24%増加したことが示されました。CTスキャンの回数が1回増える度に、発癌リスクが16%増加しました。注意深く推計された平均被ばく量は、福島県の多くの住民の推計被ばく量と大変近いのです。もちろん、この人達(福島県の住民?)の生涯リスクはその数倍となります。また興味深いことに、1ミリシーベルトごとの相対リスクは、広島と長崎の研究よりもほぼ10倍高く、統計的パワーもより大きかったのです。





    UNSCEAR報告書について私が非常に嬉しくない問題があるのですが、実質、とても無関心を示しているような感じがしたので、怒りを感じました。報告書は確かに短いのですが、動植物への影響について、とても無関心です。もちろん、そんなに多くの研究が行われていないので、証拠が多いわけではありません。しかし、研究でわかっていること自体は、非常に説得力があります。


    これは事故後、2011年の夏のものですが、赤で表示されているのは、植物の光合成活性の減少で、放射能汚染が多い区域とまったく整合しています。福島県の汚染区域の植物全部の活性が、あの夏には減少していたのです。




    また、ティム・ムソーという並外れた教授が、汚染が最もひどい地域のいくつかで、鳥と昆虫の調査をされました。



    そして、チェルノブイリとまったく同じような傾向が見られたのですが、このグラフでは変化があまり分からないかもしれませんが、対数グラフなので見た感じよりもずっと大きな影響を表しています。チェルノブイリ、そして同様に福島県で、汚染度が増すにつれて、鳥の数が明らかに減少するのが見つかりました。


    皆さんは良くご存知かもしれませんが、この、特定の種の蝶の研究では、広範囲に及ぶ異常が、複数の世代にわたる影響として見つかっています。



    昆虫の放射線感受性は人間よりずっと少ないのです。多くの様々な異常が、蝶の羽根や眼や色々な部位で見られました。



    もちろん、福島原発の現在の状況は安定しておらず、一般に、何かがニュースの話題になるたびに、状況が悪化しているように見えます。私は特に、作業員の方達の事が心配ですが、これは皆さんもご存知のことと思いますが、UNSCEARやWHOは、初期の推計被ばく量をが作業員の被ばく評価に用いたであろうと思われますが、2−3ヶ月前に、実は甲状腺被ばく量が100ミリシーベルトを超える作業員の数が、当初の10倍であると報告されました。


    IPPNWは、フクシマについて色んなステートメントを出しましたが、ここにその情報を入れてあります。そして、お手元には、国際支部の多くが賛同した論評の概要があると思います。今、それについて詳しくは説明しませんが、最後に、何が優先されるべきであるかという私のまとめの概要を紹介してこの講演を終わらせて頂きたいと思います。実際、このような報告書というのは、証拠をもってして何らかの結果をもたらすことを助長するべきなのですから。



    まず最初に申し上げたいのは、明らかに、原子力産業の擁護や賠償金額の低減、あるいは他の利害関係ではなく、公共衛生と安全および環境保護が第一義的事項であるということです。福島県だけのアプローチでなく、全国でのアプローチが必要です。先ほど登録制度についてお話しましたが、これは、影響を検出するためだけではなく、実際に、一番必要な人が医療を受けれるようにするためにも重要だと思います。多くの国々では、原子力労働者の放射線被ばくの生涯登録制度があります。どこで仕事をしても、被ばく量が登録システムに加算されるのです。それがなぜ日本で実施されていないのか理解できません。そして、皆さんの方が良くご存知だと思いますが、今、この「子ども・被災者支援法」の実施と予算確保について重要な問題があるようです。「子ども・被災者支援法」が全国規模で実施され、十分な予算を受けるように求めることを私達が推奨するのは、重要なことです。



    UNSCEAR報告書の中で我々に対して警告を鳴らしていることがひとつあると思うのですが、それは、子どもの推計被ばく量がずっと多いということです。そして、子ども達を守る事は、本当に不可欠な優先順位を持ち、まだまだやらなければいけないことがあります。

    2番目に、明らかに、損傷を受けた原発からの放射能漏えいおよび汚染の漏えいがひどくなるリスクをコントロールするために必要なことを実行するということです。そして、もちろん、他の原子力施設全部からのさらなる漏えいを防ぐことは、これらの原子力施設が停止したまま、そして廃炉にされるのであれば、とても効果的になります。

    では、最後に、簡単で現実的な提案をしたいと思います。

    国会事故調査委員会は大変すばらしい仕事をしたと思いますが、解散してしまったのは本当に残念です。このような委員会は、私から見ると、現状および何が必要であるかについて定期的なモニタリングとレビューを行なうという、非常に有益な役割を果たします。国連機関に調査を一度依頼するのでなく、再度モニタリングとレビューを行い、継続した注意を払い、フクシマ事故がまだ収束しておらず、安定していないと言う事実に焦点を当てることもまた重要です。フクシマ事故についての独立した研究結果を定期的に発表できる場所も大変役立つと思います。



    この2−3年間、かなり定期的に日本に来て、福島県を訪問し、これらの問題の話をしてきましたが、医師の多くが、この問題に関して、言わば静かにさせられ、また沈黙するように脅されているということにとても懸念を持っています。国会事故調査委員会は、非常に不穏なことに、原子力産業が日本のICRPメンバーの旅費を援助していたと述べていました。これは明らかに汚職であり、利益相反です。電事連が、放射線と健康について独立した勧告を出すことになっている立場の人達に資金援助していたのです。残念ながら、日本の原発ムラは、また、その影響を大学および医師や科学者にも及ぼしていると思います。そのようなことをもっと包括的に記録に残していくのはとても役立つと思います。

    そして、日本に決定したオリンピック誘致に対して、安倍首相が、フクシマの状況は安定しており、放射能汚染も限られていると述べたことが正直でなかったとしても、この際、オリンピックを利用するといいと思います。オリンピックのために、これから7年間、日本と安全とフクシマで何が起こっているかということについて国際的な注目を受け続けるわけであり、それは実際に安定化させる外圧となり得ると思うので、使わない手はありません。

    長く話し過ぎたので最初に続いて最後にもまた謝らなければいけませんが、遠方から話をしにきたので、どうぞお許しください。





    和訳:Yuri Hiranuma
    和訳校正:




    メモ:2024年2月2日に公表された甲状腺検査結果の数字の整理、およびアンケート調査について

      *末尾の「前回検査の結果」は、特にA2判定の内訳(結節、のう胞)が、まとめて公式発表されておらず探しにくいため、有用かと思われる。  2024年2月22日に 第50回「県民健康調査」検討委員会 (以下、検討委員会) が、 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催された。  ...